第335話 神の強化アイテム
俺達はトライトンに案内されて神殿の下層部にいた。
虹蛇はゴーレムを動かせる力があるとトライトンから言われた。しかしグレースにはその方法が分からず、トライトンに聞いてみたが彼も分からないそうだった。彼が言うにはとにかく虹蛇にしか出来ない事らしい。そう龍神から聞いたのだとか。
「最近、龍神様はこの部屋をお使いではありませんでしたから、もしよろしかったらゴーレムを持っていかれてはいかがですか?」
トライトンがグレースに言う。
「ゴーレムを持っていく?」
「はい。虹蛇様はどんな大きなものでも収納できると聞いていますが?」
「そりゃそうかもしれないですけど。」
「多分もういらないと思いますので。」
「龍神の許可なく勝手に決めていいのですか?」
「むしろ管理は全てワイがしてますので。」
「じゃあラウルさん…もらっていきますか?」
グレースが俺に聞いてくる。
「そうだな。何かの役に立つかもしれないしな。」
「わかりました。じゃあトライトンさんこの1体をもらいます。」
グレースが一番手前に置いてあるゴーレムを指さす。
「は?一体?すべて持って行ってください。というか皆さんと一緒に龍神様は旅立たれるんですよね?」
「そうですね。」
「ならワイもついていきますし、手数は一つでも多い方が良いんじゃないかと。」
「でも…この部屋のぜんぶ?」
俺達が部屋を見渡すとどこまでもゴーレムが置いてある。何体あるのかすら分からない。
「虹蛇様なら大丈夫では?」
「こんなに、しまい込んだことは無いですが。」
「やってみてください。」
グレースが1体1体ゴーレムを撫でるとシュッと消えて収納されていく。
「えっとまとめでは出来ませんか?」
トライトンが言う。
「すみません。まだ力を使い慣れていなくて。」
「そうでしたか。それではどんどん収納なさってください。」
「わ、わかりました。」
シュッシュッ
グレースがせっせとゴーレムを収納し始める。俺達はただそれを見つめているだけだった。すべてのゴーレムを収納するまで2時間くらいかかった。
「はあはあ。いったいここには何体あったんですかね?」
「丁度1000体のゴーレムがありました。」
「せ、千体も…とにかくしまいました。」
ゴーレムだらけだった部屋は更地になっていた。どんどん綺麗に片づけられていくのを見ているのは、なかなか楽しかったがグレースは少し疲れたみたいだった。
「グレースは動けるか?」
「もちろん。特に体に負担があるわけじゃないので、でもさすがに飽きちゃってました。」
「そっちか。」
「はい。」
「トライトンさん。他に私達に有益な部屋ってありますかね?」
「それなら‥‥。」
トライトンがそのまま部屋をでて階段を降りていく。更に下層の43階層に連れてこられた。
「せっかく精霊神様がいらっしゃいますので。」
「精霊にちなんだ部屋なのですか?」
エミルが聞く。
「まあそうですね。」
「何があるのですか?」
「龍神様が炎の修練をする際に使う部屋ですね。」
「炎の修練って危険じゃないのですか?」
「普通なら危険ですが、精霊神様がいらっしゃいますので大丈夫だと思います。」
「エミルはまだ完全に精霊神としての能力を掌握しきっていないよな?」
俺がエミルに聞く。
「ああ。そうだけど…トライトンさん、本当に大丈夫ですか?」
「あなた様が精霊神を受体なさっているのならば間違いなく。」
「わかりました。」
トライトンが扉を開けてエミルに先に入るように促す。
「トライトンさんが先に入るんじゃないんですか?」
「はぁ?ワイが先に入ったらまる焼けですよ。」
「そこに私が先に?」
「精霊神様なら大丈夫ですよ!」
「わかりました。」
エミルは先に開いた扉の間から中に入っていった。俺達が入ろうとするとスッと手をかざして止められる。
「ちょっとまってください。精霊神様が入ったばかりなので少し待ちましょう。火傷してはいけない。」
「えっ?エミルは大丈夫なんですか?」
「精霊神様に逆らう精霊などいないはずですから。」
すると中からエミルの声が聞こえて来た。
「おーい。」
「ほら。では中に入りましょう。」
俺達はトライトンについて部屋の中に入っていく。
部屋の中央には一人の人と2匹のトカゲみたいな動物がいた。ただその人とトカゲが普通ではなかった。
「燃えてる。」
「本当ですね。」
「だ、大丈夫なのですか?」
俺とグレースだけでなくカトリーヌも驚いている。カララやマキーナも初めて見るようで驚いた表情をしていた。
その人とトカゲは…なんと炎に包まれていたのだった。その炎の人と炎の2匹のトカゲはエミルに頭を垂れていた。
「精霊のイフリートとサラマンダーです。」
トライトンが言う。
「キター!イフリート!」
「サラマンダーが出ましたか!」
俺とグレースが喜んでいるのをカトリーヌが不思議そうに見ている。
「お二人はご存知でしたか?」
「名前だけは聞いたことがあります。」
「僕もです。昔きいた事があります。」
つい前世のゲームの知識で、知っていた名前が出てきたのでテンションが上がってしまった。
「そうでしたか。」
凄い…なんとイフリートとサラマンダーがエミルに頭を下げている。体のあちこちから火がぼっぼっと出ていた。
「エミル。どうなってる?」
「俺が部屋に入ってきたら中央にこの者たちがいて、俺が近づくと何もして無いのにこの状態になった。」
「凄いですね…使役しているという事ですかね?」
「使役なんてものじゃないですよ。」
トライトンが言う。
「精霊神様が生み出された精霊ですから、子供みたいなものです。」
「イフリートが…エミルの子供…。」
「サラマンダーも子供ですか?」
「はい。」
かなり距離が離れているのに熱い。この部屋の温度も相当上がっているようだった。カトリーヌにルフラをまとわせておいて良かった。
「では、この者たちも連れていってくださいますか?」
トライトンがエミルに言う。
「え?このままついてきたら危険じゃ?」
「では精霊神様のお体に宿せばよいではありませんか?」
「ウンディーネやシルフのように?」
「なるほど、すでに精霊をお戻しになったのですね。」
「もともと宿された感じですかね。」
「ならば要領は同じはずです。」
するとエミルが手を前にかざして言う。
「わが身へ戻るがいい。」
するとエミルの目の前にいたイフリートとサラマンダーがスッっと消えた。
「簡単でございましたな。」
「そうですね。」
どうやらエミルの体内にイフリートとサラマンダーが入り込んだらしい。
「これで連れて行けると思います。」
「なるほど。」
凄い!この神殿に来て二人はいきなりバージョンアップした。
「あのートライトンさん。」
「なんでしょう。」
「魔神にちなんだ部屋は無いんですか?」
「ワイが降りたことの有る、50階層までには無いですね。」
「ないんですか?」
「はい。」
《がっかりだ。俺もバージョンアップしたかった!それなのに何も無いだなんて。》
「龍神様なら何かをご存知かもしれませんが、すでに受体なさっていますので昔の記憶を辿れるようになるのはまだ少し先なはずです。」
「そうなんですか。」
「ワイもそれほど昔からここに居るわけではありませんので、よくわからない事が多いです。」
「最初からいたわけでは?」
「いいえ。私は海で気ままに生きておりましたので。」
「そうだったんですね。」
どうやらトライトンは途中からここに住み始めたらしい。
「ワイも地下50階層以下には降りたことが御座いません。龍神様は既に全階層回ったそうなのですが…。」
「全階層でどのくらいあるって言ってました?」
「それが…龍神様は大雑把な方なので掌握出来ていたのかどうか、ワイもそこまで詳しく聞いた事はありません。」
どうやらトライトンはこの神殿の全てを知っているわけではなさそうだ。管理しているというからすべて知っていると思ったのにちょっと残念。
「50階層以下に降りても?」
「いえ。ワイの力量では死んでしまいます。皆さんの安全もお約束できません。」
「龍神じゃないと降りれないと。」
「そうなりますかね。それか龍神様以上の力の持ち主がいれば降りられると思います。」
「わかりました。」
という事はルゼミアくらいしかこの先に進めそうな人はいないか。
俺達は精霊の部屋を出た。
「あの、その鎧。」
トライトンが聞いてくる。
「あ、はい。」
「似たものを見た事があります。」
「似たもの?」
「ただ…それよりかなり大きいのです。」
「それはどこで?」
「50階です。」
《なに!?もしかしたら俺もバージョンアップじゃね?》
「つ、連れて行ってください!」
「わかりました。」
そして俺達は更に下の階に向かっていく事になった。
「ここです。」
「はい。」
「ここは試練の部屋でもなんでもなくて、あなたのその鎧に似てるものが置いてあるだけなんです。」
「それで?」
「龍神様が何をしても動かす事も出来ませんでした。」
「そうなんですね。」
「では入ってみてください。危険はありません。」
トライトンが扉を開けて俺を中に入れてくれた。後ろについてトライトンも皆も入って来た。
すると中央には確かにこの鎧と似たものが置いてあった。
だけど。
この鎧に似てはいるがその大きさが違った。5メートルくらいはある。
「似てますね。」
「ですよね?」
「龍神はここで何を?」
「この鎧を動かそうと押したり引いたり、打撃をくりだしたり体当たりをしたりし続けました。」
「でも動かないと?」
「へこみもしないようです。」
「そうなんですね。じゃあ私が魔力をそそいでみても良いでしょうか?」
「ワイが思うにそれが一番合理的な答えかと思います。」
「わかりました。」
そして俺が部屋の中央に置いてある巨大な鎧に近づいて魔力を流してみる。
ガシャン!
いきなりその巨大鎧の後ろが開いた。
「ひ、開いた!」
びっくりしているのはトライトンだった。
「ワイ初めて見ましたよ!」
「そうなんですね。」
そして俺はその鎧の後ろに回ってみる。
どうやら…その鎧はただの鎧ではなさそうだ。
エミルとグレースも後ろに回って来た。
「なんか、ラウルが着てる鎧に窪みが似てないか?」
エミルが言う。
「本当ですね。恐らくサイズ的にもラウルさんが来ている鎧がすっぽり入りそうです。」
「ほんと?」
俺はその巨大鎧に向けて歩いて行く。
すると俺からその巨大な鎧に向けて俺の魔力の光が繋がっていく。
「おっ!」
グイ!
俺の体がいきなりその鎧に引っ張られる。
ガシャン
《あれ!?》
俺の目には前にいるカララやマキーナとカトリーヌが写っているが、何かモニターで見ているような感覚になる。
どうやら俺は瞬間的にその大きな鎧のような物に組み込まれてしまったらしかった。
「これは…。」
するとエミルとグレースが色めき立ってきた。
「ええ!まさかの!」
「ロボじゃないですか?これ!」
「そうだよ!」
エミルとグレースが喜んでいる。
「手を振ってみて。」
エミルが言うので俺は手を振る。
ブンブン
風圧でマキーナとカララの髪がなびく。
「これ凄いな。」
俺が言う。
「ラウル。ジャンプしてみてよ。」
俺が足をまげて体にパワーをため込んでジャンプする予備動作をする。
「よ!」
ズゴーン!
「えっ?」
俺はどうやら分厚い天井におもいきりめり込んでしまったらしい。視界が真っ黒になってしまった。
《物凄いスピードだ。》
手を天井部分に当てて体を引っこ抜くとそのまま自由落下で落ちていく。
ズッズゥゥンン
床にひび割れを作って俺は着地した。
「ご、ごめん!みんな怪我は無いか!?」
「だ、大丈夫だ!」
「カトリーヌ!」
「ルフラが飛んで逃げてくれてました!」
「グレース!」
「マキーナさんが僕を放り投げました!」
少し離れたところにグレースはひっくり返っていた。
「すまないグレース。大丈夫か?」
「ええ全然。」
「とにかくこれは危ないな。脱ぐよ。」
・・・・・・・
「えっとなんて言うんだっけな?」
俺は脱ぐときの言葉を忘れてしまった。
「鎧脱着解除でしたよ。たしか。」
「鎧脱着解除!」
ガチャンガシャガシャガシャン!
「おお脱げた!」
《なんか脱ぐときだけめっちゃダサいな。》
「とにかく凄いよ。」
「ああ、エミル俺も少しはバージョンアップできそうだ。」
「それなら僕が持っていきます。」
グレースが鎧を撫でてシュッと収納してくれた。
「グレースの収納って凄いよな。」
「まったく疲れないんですよね。」
「とにかく助かる。」
「この神殿は、いったい何なんだろうな?」
「ああ、龍神だけじゃなくそれぞれの強化も出来るなんてな。」
「まるで何かに備えていたようじゃないですかね?」
「確かにそうかもしれない。」
俺達が話しているとトライトンが言う。
「さてそろそろ龍神様も、お目覚めの頃ではないでしょうか?」
「わかりました。では戻るとしましょう。」
「ついてきてください。」
俺達はトライトンに従って部屋を出ることにした。
もしかしたらトライトンは俺達が必要なものを、あえて用意してくれたのかもしれない。
とにかく今はまだ50階層以下に行く必要はなさそうだった。
次話:第336話 龍神が残した物
いつもお読みいただきありがとうございます!
面白かった!と少しでも思っていただいた方は、ぜひブックマークをお願いします。
★★★★★評価いただけたらうれしいです!
引き続きこの作品をお楽しみ下さい。