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第333話 海底神殿の住人

長髪になって髭を生やしたオージェがふらりと戻って来た。そして出て行った時よりだいぶ痩せた感じがする。


…だがオージェがこの部屋を出たのは半日まえくらいだ。見た目が変わりすぎているのだが…。


オージェが言うには数年間も髭を剃っていないらしい。


「数年ひげ剃っていない?」


「そうだ。」


「数年もってどういうことだ?俺達は半日ここで待っただけだぞ。」


「半日?まあ…どうやらそのようだ。ラウルやカトリーヌさんの見た目が昔のままだ。」


「昔のままって…だって半日だもん。それよりオージェが変わりすぎなんだって。」


「俺の感覚では何年間も組手をやっていた気がするんだ。もしかしたらそう感じてるだけなのかもしれんがな。」


「いやいや実際少し年を取ったように見えるから勘違いじゃないと思う。」


「そうか。とにかく長い間龍神と戦ってたな。」


「その見た目の変化と痩せ方を見ればそんな感じだけど。何年間も食わなければ生きられないと思うんだが。」


「いやそれが滅茶苦茶食ってから組手を初めて、なかなか腹も減らなかったんだよ。」


「なんか分からんがそうなんだな。」


《それで飲まず食わずで数年間も戦えるものなのかは分からないが、オージェがそう言うんだからそうなんだろう。》


「とにかく果てしない組手の結果ようやくだ。ようやく…勝ったわけでもない、とにかくたった1度だけ龍神に膝をつかせたんだ。」


「それで?」


「その瞬間に龍神様があとかたもなく消えて、そして俺は部屋を出てここに戻って来た。」


オージェがただ悟ったような顔をしてそこに立っている。ただ立っているだけなのだがスキを感じさせない佇まいだ。ゆらりと動いて瞬殺されそうな雰囲気がある。


「だとオージェが龍神を受体したという事で間違いないかな?」


「たぶんそうだと思うが、まったく実感がない。とにかく時間だけがすぎた気がする。」


「どこで戦ってたんだ。」


「修練の間とかなんとか。よくわからん呼び方をしていたような気もするが、遠い昔なのでよく覚えてない。」


《なるほどオージェ以外の者を部屋に入れなかった理由がわかった。恐らくその部屋は俺達のいる場所と時間の進みが違うんだろう。浦島太郎の逆バージョンだな。》


「やはりグレースやエミルと同じか。」


「そうらしい。自分ではよくわからん…ただ…とにかく疲れた。」


ふわっと俺に向かってオージェが倒れ込んで来た。


「お、おい!」


「寝てえわ。」


「わかった。」


俺はオージェに肩を貸してメリュージュに言う。


「メリュージュさん!オージェ君は相当疲れているみたいです。」


「かわいそうに。オージェこっちへおいで。」


メリュージュがオージェを抱きかかえて胸元に寄せる。


「ぐがーぐぴー。」


「あらあら。」


オージェはいきなり眠り出した。


「寝ちゃった。」


「だな。」


俺達はオージェのあまりの出来事に少し呆然としていた。そのままオージェについてあれこれ話をしていたが本人が寝てしまったので、だんだんと話す事も無くなって来た。俺達は何をしたらいいのかわからず手持無沙汰になって来た。


「うるさくするわけにいかないから射撃訓練もだめだな。」


「ああ、疲れてるみたいだし起こしたら悪い。」


「じゃあする事も無いしこの龍城内を散策でもしてみるか?」


「いいですねー賛成です。」

「面白そうだな。」


俺の思いつきにグレースもエミルもノリノリで答えて来た。


「だってさ龍の城だぜ。ラスボスのダンジョンって感じだよな。」


「ダンジョン!ですよね!龍の海底神殿。こんなにワクワクする場所他にないですよ。」


「まさにファンタジーだな!」


「でもあまり浮かれすぎないようにしような。」


「そ、そうですね。」


「お、おう。」


「じゃあいっくぞぉー!」


「ラウルさんが一番ノリノリですよね。」


「まったくだ。」


そして俺は黒龍のメリュージュに向かって言う。


「あのメリュージュさん。この部屋でオージェ君を寝かせててくださいませんか?私たちはこの龍の神殿を見て回ろうと思います。」


「ええかまいませんよ。」


「あと二人の護衛の為にミリアがここに居てくれるか?」


「はいご主人様。」


まあこの黒龍に護衛が必要かどうかは疑問だが、オージェが寝ている以上は魔人の誰かを置いて行った方がより安全だと考えた。


「シャーミリア。何かあったら念話で伝えてくれ。」


「かしこまりました。」


俺達は寝ているオージェと抱きかかえるメリュージュ、シャーミリアをその場に残して城の中を探索する事にした。大きなドアはすべてファントムに開けさせる。


来た通路に出るが入ってきた時と変らず静かだった。


「ラウル様。この城は何らかの気配があるように思います。」


部屋を出たところでカララが何かに気が付いたようだ。


「ん?気配?」


「良くは分かりませんが、城内は安全とは言い難いかもしれません。」


《そうか…お宝が落ちてたらラッキーくらいに考えていたのにな。ならばそのまま無造作に歩いて行くのは危険だな。ある程度陣形を整えて行くとするか。》


「ルフラ。カトリーヌを頼む。」


「はい。」


ズズズズズズ


ルフラがスライムの形状になりカトリーヌを包み込んでいく。


「あふぅ…」


カトリーヌが小さく変な声を上げる。


《うんカトリーヌよ分かるぞ。なったことがある人にしかわからない感覚だよな。》


「カトリーヌは回復魔法をいつでも使えるようにしてくれるか?」


「わかりました。」


「ファントムはグレースの護衛に、マキーナはエミルの護衛に付いてくれ。」


「‥‥…。」

「はいかしこまりました。」


《ファントムよ。指示を出している時くらいこっち向けよ。》


くるりとファントムの顔がこっちを向いた。


「あ、やっぱ怖いからいいや。」


「ふふ。ラウル様も酷いですね。」


カララが笑いながら言う。


「だって怖いんだもん。」


俺達はこの神殿を探索するために陣形を整える必要があった。


「カララは俺につけ。」


「かしこまりました。」


「じゃあ俺とカララが先頭を歩く。グレースとエミルは左右を警戒しつつ、カトリーヌとルフラは後方からついてきてくれ。」


「ここは危険なのかね?」


エミルが聞いてくる。


「カララが何かを感じるって言うから一応警戒しているだけだ。とりあえず護身用の武器がいるな。」


俺は自分の分も含め、ベレッタM12 サブマシンガンを召喚しグレースとエミル、カトリーヌに渡した。マキーナとカララにはラインメタルMG3機関銃をを召喚して渡す。


「ベレッタM12にラインメタルMG3か…。」


「MG3かっこ良いですよね…。」


「どれも良いけどな。やっぱ銃はカッコイイよな。」


俺達は銃を眺めながらうっとりする。


「それじゃあみんな。何かが出てきたとしても敵とは限らない、相手に明確な攻撃の意志が確認できないうちは攻撃しないようにしよう。」


「了解。」

「了解です。」

「わかりました。」


「では行こう。」


そのまま神殿の廊下を(廊下と言うより洞窟っぽい)奥に歩いて行く。どこも壁が青白く光り輝いているので、歩くのには問題なさそうだ。


「この部屋に入ってみようぜ。」


「うわあ。宝箱とかあったらどうします?」


「でも所有者はオージェだよな。」


「確かに。」


「開けるだけならいいんじゃね?」


「ですよねー。」


ファントムが通路にあった扉の一つを俺達の前に進んで押し開く。


「じゃあいくぞ。」


「ラウル気をつけろよ。」


すると、


「待ってください。」


カララが俺達を止める。


「どうした?」


「念のため先に糸を流します。」


「わかった。」


カララが数本の糸をするりと出して室内に流し込んでいく。


「ここは大丈夫なようです。」


俺達が中に入ってみると特に何もないだたっぴろい部屋だった。ドアも何もないただの部屋だ。


「出よう。」


「そうだな。」


俺達は部屋を出た。


「まちがって修練の間だっけ?入らないようにしないと。」


エミルが言う。


「だな。俺もオージェみたいにいきなり年取りたくない。」


「そうですよ。特にカトリーヌさんはかわいそうだ。」


「それもそうだ。」


「でもどうやって修練の間だとわかる?」


「あ…。」


するとマキーナが言う。


「ご主人様。私は全く年を取りませんので先に入って確認します。」


「なるほど。それじゃあ…」


俺はスイス軍のキャンドルランタンを召喚した。


「このキャンドルの燃え方でわかるだろう。部屋に入るときに火をつければいい。」


「かしこましました。」


そしてまた俺達は通路の奥に向けて歩いて行く。その階層にはあと数部屋あったが、部屋は全てただっぴろくて何もなかった。念のため先にマキーナに中に入って確認してもらうが、時間の流れはどこも一緒だった。


「なんか拍子抜けだな。」


「修練の間とかも無さそうだぞ。」


「だな。」


すると奥に更に下にもぐる階段を見つけた。


「階段があった。」


「降りてみます?」


「もちろん。」


俺達一行は海底神殿の奥にあった階段を下に降りていく。階段を下りきると円形の小部屋にでた。


「扉が3つある。」


「どうします?」


「左から開けてみよう。」


ファントムが前に出て3つある扉のうち左の巨大な扉を開けた。すぐにカララが糸を内部に流して索敵してみる。


「います。」


カララの糸に何らかの反応があったようだった。


「なにがいるのかわかるか?」


「感触としては生き物ですが。魚?いや…」


「なんだ?」


「なんでしょう?」


わからないようだった。


「とりあえず入ってみるか。」


「はい。」


「カトリーヌとルフラはここで待て。ファントムもカトリーヌの護衛についてここに居ろ。」


「わかりました。」

「はい。」

「‥‥‥」


俺達が恐る恐る部屋に入ってみると確かに中になにかいた。そこにいる何かは俺達に気が付いたようだ。


「龍神様?」


《しゃべった!》


中にいる何かがいきなり声をかけて来た。


「いえ。龍神様は今おやすみになっておりまして、私たちが勝手に入って来ました。」


「ああそうですか。それならおやすみなさい。」


その中にいた者はゴロンと横になった。


「あ、おやすみなさい。」


俺が挨拶してそのまま外に出てきた。


中の人は間違いなくここで暮らしているようなそぶりだった。


「人住んでんじゃん!?」


「いやラウルさん!どう見ても人じゃなかったでしょあれ!」


「そうだよ!あれは魚人ってやつじゃないのか?」


「魚人?モンスターか?」


「でも喋りましたよ。」


俺とグレースとエミルがガヤガヤと色めきだっている。まるでボスモンスターに遭遇したような感じだ。


「あれがこの階層のボスじゃないですかね?」


グレースが言う。


「なにいってんだ。ここのボスは龍神だろう。そして階層のボスとかゲームじゃないんだから。」


「あ、そうでした。」


「てか龍神以外に住んでるなんてな。」


「ああ驚きだ。」


と俺達が話をしていると…


ドドドドドドド


と部屋の中から足音が聞こえてきて。


ゴリリと巨大な扉が開かれた。


「えっ?誰?なに?なんでここに居るの?」


その部屋の中にいた魚人のような男が顔をだして、びっくりしたように声をかけて来た。


「あ、すみません。龍の子と一緒にここにきて受体をして、その龍神が寝てしまったので暇になってぶらぶらしてました。」


「うっそ。」


よくよく見るとその生き物は顔は人間の顔だった。耳が魚のヒレのようになっていて腕と足にもヒレが付いている。片手には三又の槍を持っていて、布を巻いた服に金属のベルトや肩当てをしていた。


「本当です。」


「人を見たのは・・・数千年ぶりなんだけど。」


「そうなんですね。すみませんお休みの所、寝ていただいていいと思いますよ。」


「いやいやいやいやいや。ワテに知らせることなく受体とか信じられない!あの神何考えてんの!」


「あのすみません。私達にもよくわからなくて。」


「てかあんたらはいったい誰なんだ?」


「申し遅れました。私は魔神を受体した魔王の子ラウル、こちらは虹蛇を受体したグレース、そしてこちらが精霊神を受体したエミルです。」


次の瞬間目にもとまらぬ早業で、その魚人が土下座をして頭を伏せていた。


「こ、これは…魔神様に虹蛇様、精霊神様だとは知らずご無礼を。ほ、本当に虹蛇様と精霊神様のようですね…、でもあなたは人間ですか?魔人ですか?」


俺に向かって魚人が言う。


「一応魔人です。でも半分人間で、どうやらまだ覚醒していないらしいのです。」


「そう言う事でしたか。言葉遣いが悪くて申し訳ございませんでした。」


「いえいえ。私たちも神殿内を勝手に歩いてすみません。とにかく頭を上げてください。」


「は、はいぃぃぃぃ。」


「その…あなたは誰ですか?」


「申し遅れました。私龍神様の付き人をしております、トライトンと申します。」


「あのトライトンさん。龍神は受体したばかりで休息に入ってしまったのです。」


「あの神は本当に私に何の申し伝えも無く、なんでもやっちゃうんです。」


「そうなんですね。」


「ですが、こうしてはいられない!新しい龍神様にご挨拶を。」


「まだ寝たばかりです。起こさないようにしていただけます?」


「わかりました。では連れて行ってください。」


「分かりました。」


俺達はトライトンを連れて再びオージェたちが待つ部屋に戻るのだった。


並んで歩いてみるとその魚人はファントムと同じくらいの大きさのようだ。


さっきは腰が低すぎて分からなかったが、恐ろしく鍛え上げられた肉体を持っているのだった。

次話:第334話 龍のトレーニング神殿


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引き続きお楽しみ下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 冒頭 長髪になって髭を生やしたオージェがふらりと戻って来た。そして出て行った時よりだいぶ痩せた感じがする。 まさにトキ…だな…こうやって歴代竜神はトキ化して受体してるんだな…(違う…だろうな…
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