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第332話 兵器と魔人の最適化

龍神とオージェがこの部屋を出て半日が過ぎた。


射撃訓練でようやく腹もこなれてきたが、まだ何かを食べようという気にはなれなかった。


ズドン!


ガゴッ


「そうそう!命中率があがりましたね。」


グレースがバレットM82ライフルを構えたマキーナに言っている。


「ありがとうございます。」


岩壁の端に並べた巨大魚の骨をターゲットに、グレースがマキーナに狙撃を教えているのだった。


「さすがに魔人の方達は、銃の重さとか反動とか関係ないんですね。」


「これくらいなら重さは感じません。」


「バレットM82の重さを感じない…。」


「はい。」


《まあ彼女らは機関銃を片手で振り回すからな。》


「僕が教える必要なかったですかね?」


「いえ、虹蛇様に教えていただいたおかげで、空中からの射撃の精度が上がりそうです。」


「それならよかったですよ。」


「いつもはダダダダダダと連射の利く機関銃を使う事が多いですから。」


「それにも役立つと思いますよ!」


「ありがとうございます。」


グレースの指導のおかげでマキーナの技術はだいぶ向上しているらしい。


離れたところではエミルがルフラとカトリーヌに、銃の素早いマガジン装填を教えていた。


カシャン

カシャン


「カトリーヌさんも早くなりましたね。」


「そうですか!」


「ええ。」


「私はカトリーヌと一緒に動く事が多いですから、この動きはとても参考になります。」


「それはよかった。」


「私はルフラと体を同期させて動くので、二人で同じようなコツをつかんでおくのは大事だと思うのです。」


「その通りですね。それじゃあ次は早打ちをしてみましょうか?」


「おねがいします。」

「はい。」


ルフラとカトリーヌは腰につけたホルスターにSIG SAUER(シグサウエル) P320を収める。


「俺が手本を見せます。」


エミルが西部のガンマンさながらに素手で構える。腰には同じようにP320が収まっていた。


シュッ


エミルの手が消え次の瞬間


パンパンパンパン


バグバガバグバグ


数本立っている巨大魚の骨の表面がひとつひとつはじける。腰だめに構えるエミルの手には拳銃が握れらていた。


「見えませんでした。」

「全部当たってますね。」


「これなら武器を持っていない状態からでも、相手を瞬時に攻撃できます。」


早打ちについてエミルがひとつひとつの動作を細かく二人に教えていく。カトリーヌとルフラは真剣にやり方を聞いていた。


「では、カトリーヌさんやってみましょう。」


シュ


カラーン


カトリーヌは手を滑らせて銃を落としてしまった。


「慌てるとそうなります。」


「あ、すみません。」


「もう一度やってみましょう。慌てず急ぐことをせずにしっかりつかんでください。」


「はい。」


すっ


それほど早くないスピードでカトリーヌが銃を抜く。


パン パン パン パン


…  … ガッ …


弾丸は1発だけかすった。たぶんまぐれだろう。


「腰だめに撃つので狙いはさだめられません。こればっかりは何度も何度も練習するしかないのですが、近距離なら当たる確率は高いです。」


「わかりました。」


「ではルフラさん。」


「はい」


ルフラもガンマンのように素手で構える。


シュッ


パンパンパンパン


ガッ … ガッ ガッ


4発中3発が当たったらしい。


「凄いですね。すでに出来てます。」


「私は体全身で対象を捉えてますので顔の前で狙わなくても見えてます。そして絡めとった物を落とす事はありません。」


「さすがはスライムですね。粘着して銃が落ちないというわけですか。」


「そう言う事です。」


二人で真剣にエミルの言う事を聞いていた。


「じゃあしばらく早打ちの練習をしましょう。」


「はい」

「わかりました。」


《カトリーヌはルフラをまとって行動する事が多いから、二人同時に基礎的な訓練をつむのはとても良い事だな。》


そして俺はと言えば、シャーミリアとカララと共に、戦闘シミュレーションを何度も繰り返していた。


「シャーミリアに支えられて飛んでいる時はどうしても狙いがぶれる。」


「申し訳ございません。安定して飛ぶようには心掛けておるのですが。」


「シャーミリアのせいじゃないよ。飛べば回避もしなければならないし、その状態で射撃の精度をあげるのは俺の課題なんだよな。」


俺とシャーミリアがその課題をクリアしようと考えていると、カララが横からアイデアを入れてくれた。


「では密着している状態でも視界の共有をされては?」


「シャーミリアと?」


「そうです。その…いつもとは違う逆の共有です。」


「逆の共有?」


「シャーミリアがラウル様の視界を共有するのです。」


「え?ミリア?できる?」


「そのような不遜なことはできません。」


「なんで?」


「ご主人様の御目を私がお借りするなどできません。」


シャーミリアは俺に忖度して出来ないと言っているらしい。


「いや、やってみてくれよ。俺が狙っている物をミリアが感知して、軌道修正ができるかもしれないじゃないか。」


「私奴がご主人様の視界を…。」


「いいからやれって。」


「か、かしこまりました!」


シャーミリアが俺を抱いて飛ぶ。そして俺はイギリス製のスナイパーライフルAS50のスコープを覗き込んで、上空から魚のあばらを見下ろす。


「共有しろ。」


「はい!」


そして俺は構える。


「ミリア。適当に動き回って飛んでくれ。」


「かしこまりました。」


ズドン!


バグゥ


「お!当たったぞ!」


「おそれながら!ご主人様の筋肉の動きと血の流れ、及び視界の共有により修正をさせていただきました。」


「これ…ルフラをまとった時と似てる。」


「おそれならが、肉体の共有という意味では近いものがあるかと。」


俺とシャーミリアが地上に降りて来る。


「いかがでした?」


カララが聞く。


「うん。なんていうか俺が狙ったのに自動で補正がかかる感じ?これに俺の魔力で精度をあげれば飛んでいてもある程度は撃ち抜けるかもしれない。」


「それはよかったです。」


カララが自分の提案が上手く行った事に喜んでいる。


「俺はこんなに手間がかかるのに、マリアは一発で補正するんだもんな。」


「彼女はある意味特別なのではないでしょうか?」


「特別?」


「誰よりも長い間、ラウル様の魔力を浴び続けているのです。10年にも及ぶ年月を一緒に暮らした事で、ラウル様の魔力の恩恵と彼女の天賦の才も相まってなせる技なのかと思います。」


「そういうもんかね?」


「私たちも人との触れ合いなど、ないままに生きてきましたから推測の域を出ませんが。」


「いや。恐らくはそうだろう。ルゼミア母さんとガルドジン父さんも言っていた、魔人達と生きた母さんがその魔力に影響された可能性が大きいって。」


「そうおっしゃってましたね。」


「ああ。」


「そういえばカトリーヌも格段に力が向上していますよ。」


「カティもか?」


「回復魔法は同じでも、その回復速度が異常に早いのです。」


「異常に?」


「切れた!と思っても瞬時に治してしまい、切れてなかったことになると言いますか。」


「まるで瞬間再生だな。」


「まさにそれに近いかと。」


魔人といることで人間達の力が強くなっているのは間違いなさそうだ。魔人の魔力が放射線のように当たり続けているのかもしれない。ただ心配なのはそれは人体に対して影響がない物なのか。


さて。


「カララ。今度は俺との連携の練習をしよう。」


「かしこまりました。」


「前に一瞬で千丁の銃を出したろ。」


「はい。」


「あれに俺がシャーミリアの視界を共有して空中観測をしながら指示を出せば、遮蔽物の向こうにいる敵にも正確に当てられると思って。」


「なるほど。」


「俺とカララが後ろを向くから、ミリアは高所にいて俺達の後方を向いていてくれ。」


「はいご主人様。」


俺達が後ろを向いて銃を10丁用意する。用意したのはクーナン .357マグナムオートだ。


「おお!後ろ向きでも標的がはっきり見える。」


シャーミリアの空中からの視界が俺の目に移る。ドローンで標的を見ているようだった。


「しかしどうやって指示を?」


カララが聞いてくる。


「確かにそうだな。俺に糸が操作できるようになると良いんだが。」


「それでしたら…いや…。」


「なんだ?」


「糸を操るためにラウル様の神経と糸を直接つなぐ方法があるのですが、それにはそれ相応の痛みが伴います。」


「そんなことが出来るのか?」


「痛みは一瞬ですが。」


「かなり痛いんだ?」


「はい。」


「やれ。」


「それは…。」


「いいから。」


「はい。」


スッ


「ぐげげげげげぇぇぇ」


俺は痛いとも発音できなかった。それほどに全身に電気が走るように激痛が走る。カララが全身の神経に蜘蛛の糸を連結したらしいが、この世のものとは思えない痛みだ。


「大丈夫ですか?」


「大丈夫だ!抜くな!」


「はい…。」


「ふうふうふうふう。痛くなくなった…。」


《想像を絶する痛みに気を失うところだった。》


「では糸を操るイメージをしてみてください。魔力を糸に流すイメージで。」


俺は頭の中で体と糸が繋がっているイメージをして、その一本を動かしてみる。


スゥ


「う、動いた!」


「10本全て繋いでおります。私とも連結されておりますので長さも自由自在にございます。」


俺はカララの糸を操りながら銃を操作して、シャーミリアの視界で見えている標的に撃ってみる。


パン!


ガゴ


パン!


ガゴ


「至近距離からだから当たるな。」


「それは良かったです。」


「これでどのくらいの距離、糸を伸ばせる?」


「限界を知りません。私の魔力が切れるまでと答えたらよろしいでしょうか?」


俺はイメージを繋いだまま蜘蛛の糸を自在に伸ばしてみる。


「すごい。どこまでも伸びる。」


「お役に立ちそうですか?」


「めちゃくちゃ役に立つ。」


「それは良かったです!」


カララが大喜びしている。


《しかし…さっきの痛みを伴うとなると使うのはかなり勇気がいるぞ。》


《ふふ。ご主人様!私奴のような下僕がなんのためにいると思うのです?》


シャーミリアが俺に念話で伝えて来る。


《どういうことだミリア。》


《その痛みも共有すれば半分に済みます。》


《えっ?そうなの?》


《私が半分お引き受けいたしますわ。》


《それは助かるが、いいのか?》


《これ以上の幸せはございません。》


《わかった。使う時は頼む。》


《心得ました。》


「カララ!検証は大丈夫だ。糸を抜き取ってくれ。」


「心のご準備はいかがでしょう?」


「えっと、抜くときも痛いの?」


「はい。」


《ミリア!!》


《かしこまりましたご主人様。》


「抜いてくれ!」


シュッ


「ぐぎぎぎぎぎぎぎ」


痛ってえ。確かに刺した時の半分くらいの痛みではあるが、それでも痛い物は痛かった。


《うん。この技は使う時と場所をよく考えて使う事にしよう。さすがにこの痛みに常に耐えられるとは思えない。》


俺達がそれぞれに銃の訓練をして恐らく1日くらいは経ったころだった。


グイ


寝ているように首をたらしていたメリュージュの首がもたげられた。


「おかえりなさい。」


メリュージュが入り口の方を見て言う。


ガチャ


物凄く天井の高い部屋の大きな扉をスッと開けて誰かが入って来た。


白髪のロン毛に口周りの白髭。


龍神だった。


しかし龍神がひとりしかいない。あの世紀末の拳法家の次兄のような渋い男がひとりで入って来た。いったいオージェはどうしたのだろうか?


「またせた。」


「えっ?オージェはどうしたのですか!?」


俺が入って来た龍神に聞く。


「何言ってんだラウル?目の前にいるだろ。」


「えっと何をおっしゃって…。」


「何をふざけている。そんなドッキリには引っかからないぞ。」


龍神が言う。


《ん?ドッキリ?》


エミルとグレースが近づいてきた。


「龍神様ではないのですか?」


エミルが言う。


「エミルまで何を言っているんだ?俺だよ。」


すると俺達の後ろからメリュージュが話しかけて来る。


「オージェ。お帰りなさい、どうやら終わったようね。」


「ああママ。終わったよ。」


・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・


「「「「えーっ!!!!!!!」」」」


俺達は一瞬理解が出来なかったが、目の前にいる龍神風のいでたちの男がオージェらしかった。


「た、たしかによく見りゃ顔はオージェだ。」


「マジか。さっき出て行って、なんで髪も髭もそんなに伸びてんだよ!」


「オージェさんの髪の毛の色と髭の色が…。」


すっと自分の顎に手を持っていくオージェ。


「もう何年も剃ってないからかな。」


「何言ってんだよ。」


「何って?言葉の通りさ。」


何があったのか分からないが、出て言った時とは違うオージェになっていたのだった。

次話:第333話 海底神殿の住人


お読みいただきありがとうございます。


続きを読んでもいい。ちょっと気になる。

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★★★★★の評価がいただけましたらうれしいです!


引き続きこの作品をお楽しみ下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 冒頭 魔人達を指導するラウル君達…個人的にはカトリーヌとルフラの相手はラウル君…お前がしてやれよ…と言いたいところですが、ラウル君はラウル君でやりたい事、シャーミリアさんとの連携を高めたい……
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