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第330話 海底神殿へ

俺達は潜水艦の操舵室でとにかく外の状況を探っていた。探ると言っても全てはエミルの力であるウンディーネからの情報がすべてだ。


潜水艦はエンジンをつけているわけでもないのでシンと静まり返っている。


「凍らされても視界は通っているのか?」


俺が聞く。


「水の精霊は凍らない。ただなぜか潜水艦は凍らされてしまったようだ。」


エミルがウンディーネからの視界から外の情報を話す。


「メリュージュさんはどうしてるんだろう。」


「とにかく大きな龍と対峙して話してるようだ。何を話をしているのか詳しい事までは分からない。」


「こんな深海じゃあ沈められたらタダじゃすまない。」


「だな。」


俺達はただ静かに待っているしかなかった。


《どうするか。魔人達は潜水艦を破壊されても全員脱出できるだろう。カトリーヌはルフラを纏っておく必要があるな。オージェも何とかなりそうだが、エミルは精霊の力で何とかならないかな?グレースが虹蛇本体を呼び出せれば状況は変わってくるんだが。》


《では私がカトリーヌを包みましょう。》


俺の気持ちを読んで、ルフラが念話で返してくる。


《ああルフラ頼む。》


《はい。》


しばらくするとまた艦が動き出した。


ゴウン


「ん?動き出したな。」


「だな。」


艦が前方に傾いたようで、俺達はそのあたりを押さえて体を支えた。


「どんどん下に潜って言っているように感じる。」


「ラウル。ウンディーネの加護を受けていて正解だよ。」


「どういうことだ?」


「水深2000以上は潜っている、ウンディーネが船体を保護しているから、潰れずにすみそうだがまだまだ沈んでるぞ。水精霊でもさすがにどこまで持つのかは分からない。」


それからしばらく海底にめがけて潜っているようだが、時間からすると相当な深さまで潜っているはずだった。


「さすがに水精霊の力でも、もうもたなそうだが…なぜか潰れないな。」


「こんな深さで沈められたら、水圧で俺達は一巻の終わりだな。」


「そうなるな。」


俺もオージェも他の二人も緊張の面持ちで時が過ぎるのを待った。


「ご主人様。万が一のために鎧を着てはいかがでしょう?」


「そうだな。どのくらいの水圧に耐えられるかは分からないが着ておくか。」


「じゃあ僕が出します。」


するとグレースの前にガルドジンからもらったサイバーちっくな鎧が出現した。


俺が鎧に手を触れて魔力を流すと後ろが開く。そのまま歩を進めて体をすっぽり入れると鎧の後ろが締まった。


「いやあ…マジでカッコイイなあ。」


オージェがまじまじと見ている。


「な。絶対戦闘物の特撮系ヒーローに影響されてるよな。」


エミルが言う。


「エミル、この世界に特撮系ヒーローものは放映されてないよ。」


「まあテレビも無いしな。」


「とにかく沈まない事を祈りましょう」


冗談を交えた会話をしながらも、グレースがビビりながら言う。


みんながコクリと頷く。


「さすがにかなり時間が経ったよな?」


「ああ、何メートル潜ったか分からんぞ。」


そんな時だった。


ガガン!


振動が走り艦艇が水平になったようだった。潜るのも止まったらしい。


「海底についたのか?」


「底についた感覚ではあったな。」


「ああ。」


シーンとした潜水艦の中で俺達が緊張の面持ちで待っている。


「ラウル。水精霊の視界ではここは水中じゃないぞ。」


「えっ?」


「恐らく何らかの空間にいる。」


「もしかしたらここが海底神殿?」


「可能性はあるんじゃないか?」


「あ、メリュージュさんがおいでおいでしてる。」


エミルが言う。


「外に出て大丈夫なのかな?」


ガンガン


すると外側から何かかノックするような音が聞こえた。


「出てこいってことじゃない?」


「だよなあ。」


そして俺達が操舵室を出るとルフラを着たカトリーヌと、カララも心配そうな顔で操舵室の前に来ていた。


「どうやらついたようだ。」


「海底神殿ですか?」


「ああ、カティには念のためルフラを着せておいた。」


「はい。」


そして俺達はハッチに向かう。


「開けるぞ。」


「ああ。」


俺がハッチを開ける。


「・・・・」


そこには空気があった。


「空気がある。」


「だな。」


「出て大丈夫かな?」


俺達が出るのを躊躇していると、ハッチの上からメリュージュが覗き込んで来た。


「大丈夫ですよ。」


「あ、ああ。ありがとうございます。」


俺達はぞろぞろとハッチから外に出た。


そこは、物凄い天井が高い洞窟になっていたが灯りがあった。光のさしている方向を見てみると、そこには古代遺跡のような建造物がある。その建造物自体が発光しているのだった。


「あれがそうだろうな。」


「だな。」


潜水艦はメリュージュに引っ張り上げられたらしく陸地にあった。メリュージュが支えてくれているようで横たわることないようだ。俺達は全員がハッチから飛び降りる。グレースはマキーナが掴んで飛んでくれた。エミルはふわりと落ちて来る、おそらくシルフィとやらの精霊の力だろう。


「メリュージュさん。もう潜水艦を放してくれていいですよ。」


「では。」


メリュージュが潜水艦をゆっくりと地面に傾けておく。


「それでママ!大きな龍がいたようだけど。」


「ああそれなら消えたわ。」


「消えた?」


「分体だそうで。」


俺達がメリュージュの指さす方を見ると、そこには2mくらいの筋肉隆々の長髪の男が立っている。上半身は裸で下はボロ布のようなズボンを羽織っていた。軽く口の周りと顎に髭を蓄えていて髪の毛も髭も白かった。


《見た目だけで言うと、世紀末の拳法家の次兄あたりにでもいそうなタイプだ。》


それがゆっくりとこちらに歩いて来た。


「おまえ、久しいのう。」


いきなり男は俺に声をかけて来る。


「えっと、どこかでお会いしましたっけ?」


「分体でな。」


「もしかすると。」


「あの時は我が子孫がいたおかげで命拾いしたな。」


「レヴィアサン様ですか?」


「そりゃ地上で誰かが言った名前を気に入って使っているだけだ。」


「えっと、とすると?」


「そっちの男が我に用があるのだろう。」


男はオージェを指さす。


「あなたが龍神様でいらっしゃいますか?」


オージェが言う。


「そうだ。そうか…虹蛇も精霊神もいるのか…」


グレースとエミルを見て言う。


「はい。」

「実感はないのですが。」


「なりたて、というわけだな。」


「はい。」


「魔神とアトム神がいないようだが?」


するとみんなの視線が俺に向く。


「あ、ああ私が魔神を受体したようなのですが。」


「人間が?」


「はい。」


「いや…そうか。お前はまだ試練を超えていないのだな。」


「試練ですか?」


「まあいい。それは自ずから気が付く事だ。」


「自ずから。」


「そうだ。」


すると龍神がオージェを見て言う。


「受体の時か。」


龍神がつぶやく。


「我が息子にございます。」


メリュージュが言う


「そうか。人間の姿で生まれて驚いたであろうな。」


「はい。」


「我も遥か昔に生まれた時はそうだったらしい。」


「そうなのですね。」


「そうだ。」


どうやら龍神も龍から生まれたらしい。という事は彼も前龍神から引き継いだという事か。


「しかしあんな華奢な鉄の筒で潜ってくるなど。」


潜水艦の事だ。


「それほどの深さなのですか?」


「我が凍らせねば潰れておっただろう。」


「それは…助かりました。ありがとうございます。」


「うむ。しかし…あれは以前に見た鉄の筒と似ておる。お前たちと遭遇した後で口の中に入っておったやつよ。」


《ヤベエ。最後に苦し紛れに放った魚雷の事だ。》


「その筒は?」


俺が聞く。


「水中で吐き出したわ。」


《ほっ!それはよかった。もし爆発してたらこんなに穏便に再会出来なかったかもしれない。》


「とにかくついてこい。」


「全員ですか?」


「我が神殿はそこの黒龍も入れるぞ。」


「ありがとうございます。」


そして俺達は龍神の後をついて神殿に向かう。神殿の入り口には龍神の言う通りバカでかい扉があり、黒龍がそのまま通れるほどの大きさがあった。その扉を龍神は片手で開ける。


《神殿の作りはどこも大きくて、すべてが龍サイズのように感じる。龍神は人サイズだというのにこんなに大きくては不便そうだが…》


神殿の中の壁も全て光り輝いている。その光の原因が何かは分からないが、これなら生活するにも不便はないだろう。特に装飾があるわけではないが、このような巨大な建造物をどうやって作ったのかは謎だった。


巨大な廊下を進むと通路の脇にこれまた巨大な扉があった。


「ここだ。」


その巨大な扉もスッと開けてしまう龍神の力は途方もない。


「適当に座れ。」


そこは部屋なのか洞窟の一部なのか微妙な部屋だったが、部屋の中心あたりに火を焚いた跡があった。


「すこし待っておれ。」


「はい。」


オージェが答える。


龍神は部屋を出てどこかに消えた。


「えっと、龍神は虹蛇の逆パターンじゃないか?本体はあのおっさんの方で、巨大なリヴィアサンが分体とか言ってたぞ。」


「もしかしたらその概念もあいまいなものなのかもしれないな。」


エミルが言う。


それもそうだ。元より俺は自身で魔神の姿も見た事が無い。


「なんかすごい拳法家みたいな風格だったよな。」


「ご主人様。ルゼミア様と同格の力を感じました。」


シャーミリアが言う。


「そんなにか?」


「魔人全員でかかっても勝ち目はありません。」


「封印すら難しいでしょう。」


カララも同意する。


「そこまでか。」


「はい。」

「はい。」


「そりゃそうだよな。俺達が手も足も出なかったレヴィアサンの本体だ、それだけの強さがあって当然だろうな。」


会話をしていると龍神が部屋に戻ってくる。


「腹が減ったろう。」


龍神が物凄い数十メートルはあろうかと言う袋を引きずってきた。


「あの…。」


「まずは良いから食え。」


そしてその袋から出て来た物は、ジンベイザメほどの大きさのサンマだった。これをサンマと言っていいのかどうかは分からないがとにかくデカい。


ズボ!

ズボ!

ズボ!


部屋の壁に積んであった大木の串に一匹ずつ魚を差し込んでいく。更にその積んである大木を無造作に部屋の中心に積んだかと思ったら、龍神はなんと人間の姿のまま口から火を吐いた。


ボオオオオ


大きな炎が上がると積んである大木が燃え始めた。


その周りに串にささったジンベイザメほどのサンマを立てていく。


「あ!龍神様!」


「なんだ?」


「いい岩塩があるんですが!」


俺はグレースを見ると、グレースが30キロぐらいの岩塩を出してくれた。


「ほう。ならばこれをかけてみるか。」


「では待ってください。カララ。」


「はい。」


カララが糸で30キロの岩塩をあっというまに顆粒にしていく。


「器用なものだな。」


「ありがとうございます。」


そして龍神がその塩を手に持って、ピッチャーのように振り被ったと思ったら思いっきり巨大サンマに振りかけた。


ブワッ


《めっちゃ綺麗に塩が広がったぞ。まるで噴霧器で吹き付けたみたいにまんべんなく。》


巨大な魚から焼けた脂がしたたり落ちて来た。


「これは、まちがいなくサンマだな。」


「だな。」


「大根おろしが欲しい。」


「ゆずも。」


俺達が異世界の記憶でサンマを思い出している。


「美味いぞ。」


龍神が楽しそうだった。オージェもそうだが食う時にテンションが上がるタイプのようだ。


「しかし凄いな。」


「これで火が通るのかな。」


オージェが言うと龍神が言う。


「さっき取って来たばかりだから生でも食える。」


「そうなんですね。」


「焼けたところから少しずつ食ってくんだよ。」


俺達に木の串を配りながら龍神が言ってる。


「そろそろだな。」


すると龍神が一本の巨大な串の端を持って、ブンっと俺達の前に魚を差し出した。


「串で削って食え。」


めちゃくちゃ粗削りだ。


俺達はその巨大な魚に串を刺して肉を削ぎ取る。こんなに巨大なのにサンマのように簡単に身がほぐれた。


パク

パク

パク

パク


「うんまい!」


「さ、サンマだ。」


「サンマの塩焼きだ。」


「また岩塩が良い味だしてるなあ。」


異世界組はめっちゃ楽しそうに食べているのに対し、カトリーヌはちょっと遠慮しているようだった。無理もないこんなデカイ魚は見た事すらないだろうから、抵抗があるのは普通だ。


「カティ!美味いぞ。」


俺はカトリーヌにも串でえぐった魚の肉を渡す。


パクっ


「おいしい。」


カトリーヌが一口食べた。


「だろ。」


俺達が串に刺してパクパク食っている脇で、メリュージュが龍神にまるまる一本魚を渡されて食っていた。


《これ食いきれるかな?》


俺の心配をよそに、皆が美味そうにその魚を食べているのだった。


龍神を見ると…


焼いている一本を片手で持って、そのままかじりついていた。


《重くないんだろうか?》


とにかく桁外れのパワーだ。


そして龍と名のつくものは皆ものすごい食うのかもしれない。


龍神もオージェもメリュージュもガツガツ物凄いスピードで食うのだった。

次話:第331話 龍神の試練だと思った


いつもお読みいただきありがとうございます。

おかげ様でたくさんの方から読んでいただけるようになりました。

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引き続きお楽しみ下さい

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― 新着の感想 ―
[一言] せっかくの海の探索行にペンタが居なかったのは残念でした。 すっかり港湾警備員ですね
[一言] 冒頭 「こんな深海じゃあ沈められたらタダじゃすまない。」 …リヴァイアサン…まだ魚雷持ってるかもしれないしね…w 念の為に鎧の装着 深海の圧力にも耐えられるんですね いざとなったら、32…
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