第329話 異世界の海をさまよう。
異世界組とカトリーヌそして俺の配下達が岸壁で海を見ていた。
この海のどこかに海底神殿があるらしい。
「広いよね。」
「ああ。」
「オージェの勘的なものでなにか分かんないの?」
「分からない。」
すると見送りに来ていたルゼミアが言う。
「潜って探すしかないのだろうな。」
「そうなんでしょうけどね。さすがにこの海にみんなで潜って探すというのは無理があるかなと。」
「そうじゃな。」
俺達は途方に暮れて海を眺めていた。
「海底神殿っていう話になるのなら、セイラを連れて来るべきだった。」
「はいご主人様。その通りでございます。」
「私達では海底の探索はいささか時間がかかります。数日ならまだしも数年の月日がかかる可能性も。」
シャーミリアとカララが言う。
「メリュージュはどうにかならんのか?」
ルゼミアがメリュージュに尋ねる。
「はい陛下。もちろん探す事は可能です。私は水中でも活動できますので、ただ彼らを全て引き連れてとなるとどうすればいいのか?」
どうやらオージェのオカンは水中でも活動できるようだが、俺達ではそれは無理だった。
「さすがに俺達では潜水艦を操作できないもんなあ。」
俺がつぶやく。
「いや…ラウル。それありかも。」
「だって誰が操艦するんだよ。」
「ママに引いてもらう。」
「メリュージュさんに?」
「ああ、恐らくママなら容易い事かと思う。」
そしてオージェがメリュージュにどうするかを説明する。俺達が潜水艦に乗ってワイヤ―でメリュージュとつないで海に潜ってもらうのだ。黒龍に水中をけん引してもらう。
「オージェ。お安い御用よ。」
「というわけだ。」
オージェが俺達に言う。
「そう言う事なら早速潜水艦を召喚するが、着水する前にワイヤーを通したいな。」
俺が言う。
「あとはさすがにバラストタンクに海水を入れることぐらいはしないと。」
エミルの言うのももっともだ。そうじゃないと浮きをつけて水中にもぐるようなもんだ。
俺は配下達に説明をして、潜水艦をメリュージュに引っ張ってもらうように細工をする指示を出す。
「よし!俺が召喚するからカララが空中で固定してくれるか?」
「かしこまりました。」
俺はデータベースから潜水艦を探す。
《これにするか。》
俺は海上自衛隊の潜水艦そうりゅうを召喚する。龍にけん引してもらうんだから艦名も龍にちなんだものの方が良いよね。
「召喚する。」
俺が空中に潜水艦そうりゅうを召喚した。84mもの長さがある潜水艦にみんながどよめく。
「おいおい。こんなもん召喚してラウルの魔力は問題ないのか?」
「ああ。」
オージェが言う。が俺はこれくらいでは疲れもしない。
「僕も船舶免許持ってるんですが、さすがに潜水艦は操艦できないですね。」
グレースが言う
「それは仕方がないよ。まあもしかしたら何か近いものがあるかもしれないけど。」
「それじゃあグレースが操舵室で俺にいろいろ説明してみてくれ。知識があるわけじゃないが操作系の何かが分かるかもしれない。」
オージェがグレースに言う。
「わかりました。」
「あともしかしたらだけど…」
「なんだいエミル。」
「ウンディーネと言う水の精霊の加護を与えたら、何らかの恩恵がありそう。」
「おお!そんなこと出来るの?」
「たぶん。出来る。」
「そりゃ凄い。」
エミルが何やら潜水艦に向けて手を伸ばしている。すると潜水艦の周りに人間の女のような姿をした妖精のような物が飛び回る。耳が魚のヒレのようになっており羽衣のような物を着ていた。その姿はとても美しく絶世の美女と呼ぶにふさわしかった。
スッ
その水の精霊たちが潜水艦に吸い込まれるように消える。
「これでよし。」
「こんな簡単に加護とか与えられるんだ。」
「まあ加護と言うか付与と言うか、もちろん神殿を見つけて事が済んだら取り消すよ。」
「いろいろ便利なんだな。」
「勝手に精霊をこんな使い方していいのかは知らんが。」
「とにかく助かる。」
そしてカララが自分の糸を編みこみロープ状にして、船体の突起に通し始めた。
「カララの糸なら切れることはないだろうからな。」
おおかたの準備が出来たので、カララに潜水艦を海に降ろすように指示をする。
サバ―ン
「よしとりあえずこれでいいんじゃないか?」
「だな。」
「シャーミリア!マキーナ!」
「はい。」
「グレースとカトリーヌをハッチまで連れてきてくれ。」
「かしこまりました。」
俺達が海底神殿に向かう準備が出来たのでルゼミアに挨拶をする。
「では母さん。そろそろ…。」
「うむ。」
「父さんもお元気で。」
「頑張れ。」
「はい。」
俺達は潜水艦のハッチに飛び乗った。
ルゼミアとガルドジンに手を振って別れを告げる。二人も俺に手を振っていた。
「おお!なんか趣があるなあ。」
オージェが言う。
「なんか戦地に行くみたいな感じでちょっと…。」
「じゃあ行こうか、地球を救うための旅へ。」
《そんなこと言われると…》
俺はルゼミアとガルドジンに敬礼をする。すると俺の横でオージェもエミルもグレースも悪乗りして敬礼していた。
「なんじゃ?なんか勇ましいような感じがするのう。」
「本当だな。」
ルゼミアとガルドジンがそんなことを言いつつ、俺達を手を振って見送ってくれた。
《必ずここへ帰ってくる》
笑顔で答える(心で)
全員がハッチに入って閉める。
「で、バラストタンクに水を入れるんだっけか?」
「そうだ。」
俺達はとりあえず操舵室へと向かう事にする。
「魔人のみんなは適当にその辺にいてくれ。」
「かしこまりました。」
結局、俺達はバラストタンクに水を入れるまでかなり四苦八苦してしまった。あーでもねえこーでもねえ、とか言いながらいろんな場所に行き、ようやくバラストタンクに水を入れる事が出来た。
「沈んでるんじゃないかな。」
すると
ガグン
と船体が進み始める。
「えっとメリュージュさん引っ張ってくれてんのかな?」
「ああ、母が引いてくれているらしい。」
「ママ、じゃなくていいのか?」
「彼女に面と向かってないから大丈夫だ。」
「なるほど…。」
「オージェさん。龍って呼吸とか大丈夫なんでしょうか?」
「ああ、水中でも活動できるのは知っている。」
俺たちが乗る潜水艦が動いているのは分かるが、操作系がよくわからないのでどこをどう動いているのか分からなかった。
「えっと、どうやって外のメリュージュさんと会話しよう。」
「うーん。そこまで考えてなかったな。」
オージェが言う。
「えっとオージェさんも念話とかないんですか?ラウルさんみたいに。」
グレースが言う。
「ない。」
これは困った。
するとエミルが言い出す。
「水の精霊の言葉なら俺に届く。」
「ああ、そうか。じゃあエミルに説明してもらおう。」
「わかった。」
エミルを通して外の様子を説明してもらう。
「えっと、いろんな魚系の魔獣がいるようなんだけど、メリュージュさんを見かけてみんな逃げて行ってますね。」
「やっぱり怖いんだ。」
俺が言うと
「ああ、恐らく母さんは威圧といった感じの能力が使えるはずだ。」
「威圧…エルフの里の長老みたいなかな?」
「それは知らんが。」
オージェは見た事なかったな。
「長老のそれとは違うんじゃないかと思うけど。」
エミルが言う。
とにかく俺達の乗る潜水艦が、海の中をどこともなく彷徨っているらしかった。
結局潜水してから10時間ほど何の変化もないままだった。
俺達は暇だったのでとりあえず、戦闘糧食で飯を食ったり話をしたりしていた。魔人達も特に何もすることが無かったらしくそこいらに座って、何かが起こるのを待っているようだった。
「カトリーヌ。疲れたろ。」
「いえ、私は大丈夫です。」
「無理をするな。この中でカティだけが人間なんだ。休める時に休んでおけ。」
「わ、わかりました。」
「ルフラ、カララ!カトリーヌについていてやってくれ。」
「かしこまりました。」
「わかりました。」
カトリーヌとルフラとカララは潜水艦内にある寝室に向かった。
「メリュージュさんは、どのくらい潜水していられるのかな?」
「数日は大丈夫だと思うぞ。」
「数日もか。」
「ああ。」
「なら俺達も交代で眠る事にした方が良い。」
俺が言うとエミルとグレースが言う。
「俺達は眠らなくても問題ない。」
「ラウルさんとオージェさんが眠ってください。いざという時の為に魔力も温存していただいた方が良いと思います。」
「わかった。そうさせてもらおう。」
「じゃあ俺も休ませてもらうよ。」
「シャーミリアとファントムとマキーナはここに居てくれ。」
「はい。」
「なにかあったら念話で。」
「かしこまりました。」
俺もオージェもまだまだ問題なく活動できるが、どのぐらい潜水し続けるか分からないので休息をとる事にした。俺とオージェが潜水艦の居住区に向かっていく。
「それにしても潜水艦に乗る事ができるなんてなあ。」
俺が言う。
「俺は自衛官時代に乗った事がある。かろうじて記憶をたどってバラストタンクの調整を出来たのはよかったよ。」
「おかげでこうしていられるよ。」
「まさか、異世界でそうりゅうに乗るとはなあ。」
「まったくだ。」
「お前の魔法には舌を巻くよ。」
「大したことないよ…それより龍って言うのは凄いな。」
「それもそうだよな。俺がまるでか弱い子供扱いなんだぜ。」
「そりゃ仕方ないよ。」
「でもそれ以上に、その黒龍を簡単にねじ伏せるラウルの母さんはいったい…。」
「ああ、俺も母さんがああだって初めて見た。」
「ラウルもか。」
「母さんあんな強いんだなって。てかさ、あれがブチギレしたら確かに世界が滅びそうだ。」
「そう…じゃなくて滅ぶだろう。」
「彼女をキレさせないようにするためにも、何とか俺達だけでこの戦争を終わらせたい。」
「まったくだ。」
話をしながらも居住区につくとカララとルフラが立っていた。その傍らではすでにカトリーヌが眠りについていたようだ。
「だいぶ疲れたようでした。」
カララが言う。
「やっぱりな。俺達に気を使って眠らないでいたみたいだけど、ガルドジン父さんの治癒はかなりの魔力を消費したはずだからな。」
「カトリーヌはラウル様の為にかなり無理をしましたから。」
ルフラが言う。
「おかげで父さんの目が治った。カトリーヌには感謝してもしきれないよ。」
「それでは大事になさってあげてください。」
「お、おう。」
とりあえず俺はその話を切り上げてベットに入る。オージェも他のベッドに横になった。
《まあ疲れてもいないから眠れないが、潜水艦を召喚した分だけでも魔力を回復しとくか。》
俺達が眠りについて数時間が立った時だった。シャーミリアから念話が入る。
《ご主人様。お休みの所申し訳ございません。エミル様がお呼びです。》
《了解。》
俺はひとりで部屋を出て操舵室に行こうとすると、オージェがベッドから顔を出す。
「なにかあったか?」
「エミルに呼ばれた。」
「わかった。俺もいく。」
俺達は操舵室に向かった。
「エミル、どうした?」
「ああ、ウンディーネ(水精霊)たちが騒いでいる。」
「何かあったのかな?」
「もしかしたら神殿が近いか、他の要素があるかもしれん。」
「なるほど。だと、このあたりが怪しいとメリュージュさんに伝えられるか?」
「やってみよう。」
エミルが目を閉じるとすぐに返事があった。
「メリュージュさんがこの辺を回遊してくれるそうだ。」
「何かめぼしいものが見つかると良いんだけれど。」
《いよいよセイラを連れて来ればよかったと後悔する。彼女の歌で何か変化が起きるかもしれなかった。》
「ん?」
「どうしたエミル。」
エミルが声を上げるので俺達が注目する。
「いや、精霊たちが警戒しているようだ。」
「何をだ?」
「それは分からない。」
「という事は何かに近づいていると考えていいのではないだろうか?」
「かもしれない。」
潜水艦の中では俺達に出来る事はなにもなかった。とにかく周辺をメリュージュに回遊してもらうしかない。
そんなことを考えていた時だった。
ガガン!
なにかが船体にぶつかったようだ。
「うおっ」
「わぁ」
「なんだ!」
俺とグレースとオージェが声を上げる。
「なんか船体が止まって無いか?」
俺が言う。
「本当だ。」
「というか心なしか寒くないですかね?」
グレースが言う。
「寒いな。」
「どうやらこの艦が氷に包まれたようだ。メリュージュさんが何かに対峙している。」
エミルが言う。
「氷に?」
「ああオージェ。どうやら艦が氷に包まれた。」
《えっと氷の攻撃か…となると。》
「もしかしたらメリュージュさんより、さらにでっかい龍かな?ぶっとい髭が何本も生えてる感じの。」
「どうやらそのようだ。」
「ああ…ビンゴだよ。」
どうやら俺達の潜水艦は恐らく”あれ”に襲われたらしい。
そう、レヴィアサンに。
次話:第330話 海底神殿へ
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