第33話 ラウル出生の秘密
バルギウス兵の首がカーライルから首チョンパされそうになり、シークレストの命が先延ばしされてから7日がたっていた。
カール達のおかげでジークレスト隊の追撃を受けることはなくなったが、ラウルたちには知る由もなかった。
ラウルたちは次の小さな村についていた。
ここから先は山岳地帯だが、その前の小さな宿場町で宿屋が数件と食事場所が数店舗あるだけだった。
この村までの7日間は敵の追撃もなく特に何事もなかった。無事に森も抜け平地を北東にひた走ってきた。警戒しながら進んできたので疲れはピークだったが、宿で休めば疲れはとれるだろう。
そして俺はイオナから話さなければならない事があると言われていた。しかしイオナからは二人きりでないと話す事が出来ないと言われたので、宿屋につくのを待っていたのだ。
借りた宿屋の部屋はベットが4つの冒険者パーティー用の部屋だったが、マリアとミーシャとミゼッタは俺たち親子に気を使って少し外に出てくると言って出て行った。
いよいよイオナの秘密の話が始まるのだった・・
「ラウル・・心して聞いてね。」
イオナはおもむろに俺に話を始めた。
「はい・・」
「ショックを受けるかもしれないけど・・私はそれでもあなたのお母さん。」
どういう事だろう?お母さんなのは知ってるよ、今まできっちり育ててもらったじゃないか。
「ど・・どうぞ。」
俺は少し動揺していた。イオナがすごくあらたまったからだ。
「あのね・・ラウル。あなたはグラムと私の本当の子供じゃないのよ。」
本当の子供じゃないのよ・・子供じゃない・・のよ・・のよ・・のよ・・・
頭の中でイオナの言葉がエコーした。えーっと。なになに?俺はグラムと・・なになに・・イオナの、えっぇえっ??子供じゃ、え、何?子供じゃない!?こどもぢゃない!!!
「そ、それは・・ど、、どういう・・・」
俺の声が震えた。グラムとイオナの子供じゃないはずがない。だって・・でも・・
「落ち着いて聞いてね。いまから8年ほど前にグラムは戦に行ったの。そして戦から帰ってきた時にはあなたを連れてきたのよ。」
「僕はお母さんから生まれたんじゃないんですか?」
「いままで黙っててごめんなさい。でも・・そうよ。でも私もグラムも本当の子供だと思って育ててきたわ。」
「わかっています。」
どういうことだ?いや・・俺は転生してきたのだ、グラムとイオナの子供に生まれたのではなく、急にこの世界のどこかに生まれ出たとしてもおかしくはない。この美人の子供じゃない・・グラムの子供じゃないというのは少なからずショックだ。でもいったい誰の子だというんだ?
「グラムから聞いた事なんだけどそのまま伝えるわね。あの・・グラムの手紙にあった名前を憶えているかしら?」
「グラドラムのガルドジンですか?」
「ええ、そうよ。」
「誰なんですか?」
「あなたの本当のお父さんよ。」
お父さんよ、おとうさんよ・・うさんよ・・さんよ・・
まあいいか。そのくだりは。
「どういうことですか?」
「ええ、グラムから聞いた話なのだけど、あなたは魔人の子供だったらしいの。」
「魔人・・ですか?」
魔人?聞いたことない。魔獣とか魔物は今まであってきたし聞いて来た。だとしたら魔人というのもいるのか・・
「ええ、魔力の量が人間の比じゃないほど無尽蔵にあるらしいの、でも知力の問題と学びが無い為にほとんど魔法が使えるものはいないのよ。」
「魔力があるのに魔法が使えないんですか?」
魔力があるのに使えない・・それじゃあ持ち腐れじゃないか。どうして魔法が使えないんだろうか?
「ええ、その代わりその魔力がそのまま体の強さとして現れるのよ。そして身体的特徴もあるわ。」
「身体的特徴ですか?」
「ほとんどの魔人は灰色や赤っぽい肌、青い肌をしていて人間のそれとは似ても似つかないの。」
という事は・・鬼とかそういう感じかな?赤鬼とか青鬼とか前世の架空の話ではいたな・・。グレーの鬼はいたっけかな??
「でも僕は肌色です。」
「ええ、そこなの。魔人は魔力の影響でツノが生えたり羽が生えたり、下半身が毛むくじゃらだったりするらしいのよ。」
「僕にツノはないです。羽も生えていないようですが・・」
「そうね。私もグラムから聞いただけで魔人を見たことが無いの。でもあなたは人間そのもの。でもねそれが原因で命を狙われたらしいのよ。」
「命ですか?」
どういうことだ。魔人なのに魔人の特徴を持っていない俺が命を狙われる?なにがあったんだろう?
「グラムは冒険者時代にガルドジンの命を助けた事があるらしいの。」
「それが俺の命となんの関係があるんでしょう?」
話が見えてこなかった。俺は何で殺されそうにならなきゃいけなかったんだろう。
「ガルドジンとは魔人族の長に君臨する人物だったらしわ。それが勢力争いで魔人の中で弱くなってしまい、次期魔人族の長へと息子を作り成長させようとしたらしいのよ。そして生まれてきたのがあなた・・ラウルだったの。」
「魔人族の長候補が人間として生まれてしまったと・・」
「そうらしいの。人間のように弱いあなたが魔人の中では生きることが出来ないと思ったガルドジンは、かわいそうなあなたを逃がそうと思ったらしいのよ。」
「人間はなぜ魔人の中で生きれないんですか?」
俺は思った。
《見た目が人間でも魔人の子供だ。別に差別くらいはされるかもしれないけどなんで殺されるんだよ。》
「魔人は人間とは相容れないものよ。人間とみれば魔人に殺されてしまうわ。そういう摂理なの。」
「という事は殺される運命の僕は、ガルドジンお父さんが不憫に思って古い命の恩人であるグラムお父さんに託されたというわけですか・・?」
「そう。」
そう。ってそんな簡単に。
「そんな・・」
「ショックを受けるのも無理はないわね。」
「はい・・」
そうかあ・・俺、人間じゃないんだ。早く人間になりたい!って思わなくても人間に生まれたのに。人間じゃないんだ。どういうこと?
「あなたの足が速くなったり力が強くなったりするのはおそらくはそのせいよ。モーリス先生がいっていた賢者と魔族が同居している・・と言ったのは間違いなく魔族の血が流れているからだと思うの。」
「理解しました。納得はしてませんが説明がつきます。僕は魔法も使えるし8歳の身体能力じゃない。どちらの力も持っているという事は半分は人間、半分は魔人と言う事になりますよね。」
「ええそのとおりね。やっぱりあなたは呑み込みがはやいわ。」
それは俺の年齢が前世と合わせればだいたい40歳くらいだからで、魔人とか人間とか関係ないと思うけどね。
「母さんその話を聞いて分かった事があります。」
「なにかしら?」
「僕は生き物を殺すと・・特に人を殺すと強くなるんだと思います。人のなにかを糧にしているのかもしれません。」
「・・・・・・」
「おそらく母さんは俺をバケモノだと思うでしょう。」
「いいえ、おもわないわ。あなたは私の子ですもの。」
「そして人を殺した後・・みんなは真っ青になっていますが・・」
「なに?」
「僕は血がたぎるんです。」
「・・・・」
やっぱりイオナは絶句してしまった。そりゃそうだ・・8歳の我が子だと思っている子が、魔人のような事をいうのだから・・俺だって自分が魔人だとは思っていない。でも人を殺すたびに興奮して喜びを覚えるのだ・・もう間違いなく魔人の血でしょ。
「僕のことを軽蔑しますか?」
「いえ・・魔人や魔獣が人間を糧としている事は知ってるわ。でもあなたはそんなことはないわ私たちを守るために戦ってきたんだもの。ただ、やはりあなたが魔人の子供だということが真実なのだと気が付いて驚いているだけよ。今まではグラムから話を聞いていただけで実感がわかなかったの。でもこれで間違いないと確信したわ。」
「母さん・・僕はこれからも母さんの子でありたい。」
「ええ、ラウル。あなたは間違いなく私の子よ。誰にも違うとは言わせないわ。」
「ありがとうございます。」
それを聞いて俺はこれから本当の父親に会うのだという事が分かった。しかしその真の父親を頼って何ができるというのだろうか?魔人の中でも弱い立場にあると聞いた・・会いに行く必要があるのかどうか・・疑問だ。
「あの・・母さん。」
「なに?」
「僕はそのガルドジンに会う必要はあるのでしょうか?」
「わからないわ。私はグラムを信じているだけ。あの人が会えというのだからそれがやるべきことだと思うだけよ。あの人の意志だから。」
「皆の命をかけてでもですか?」
「そう。別に失った祖国のためなんて思っていないけど。ただ・・あなただけは何としても生きてほしいの、それが私のワガママだという事も分かっているわ。でも私はあなたを愛している私の息子を。」
気が付いたら俺は涙を流していたらしい。
この人は本当に俺の事を愛して生かそうとしてくれているんだ。自分は身重で危険が伴う旅など無理であることを承知で・・俺は何としてもグラムの思いに、そしてイオナの気持ちに報いたい。俺について来たマリアとミーシャ、ミゼッタを救いたい、そう思った。
イオナも泣いていた。イオナは泣きながら俺の頭を胸に手繰り寄せた。二人でそのまま涙を流し続けた・・
しばらくして俺たちは冷静に話をしていた。
これからどうすべきか?ついて来た彼女らをどうすべきか?しかしここまで来たら彼女らを突き放すわけにもいかない。ユークリットに帰ってもフォレスト家の人間として粛清されるかもしれない。使用人という立場をあの暴力的な人間たちが分かってくれるかどうか?わからなかった。
そしてその後、皆を呼んで今後の事を話す事にした。
まずはこの村で1日しっかり休暇をとり食料を仕入れて準備をする。服も従者のままでは差し支えあるのでもう少し丈夫なものを調達しようと思う。ニクルスから分けてもらった資金は十分すぎるほどあるので全部問題なく揃いそうだった。
そしてやっぱりいくら旅路とはいえ彼女らは女性だ、いつまでもやぼったい従者の服では嫌だろうと思い聞いてみた。しかし、みなそのままのボロボロの従者服でいいと言っていた。俺とイオナは身だしなみで相手の印象も変わる事を話し服を買う事となった。
もちろんこんな小さな村には服屋などあるわけがない。俺たちは村長のところに行き服を譲ってもらえないか聞いてみることにした。
「ありますよ。服。」
村長は答えた。
いままで冒険者が山で亡くなった時に遺品として集まった服があるという事だった。だれも取りに来ないので処分するか迷っているものが多いという。
ミーシャとマリアに話をしてみる。
「すみません・・また亡くなった人の服で申し訳ないのですが、女冒険者の服屋や鎧などもあるようです。そこから選ぶことになります・・グラドラムにつくまで怪しまれないようにするためにも何卒ご了承いただきたく・・」
と申し訳なさそうに俺がいっていると・・
「仕方がない事だと思います。この従者の服で3人でそろっているのは不自然ですし、私もミーシャも服をいただく事にします。」
町長が出してきた服は女性用の冒険者の服だった。
なんだろう・・
女性用の冒険者の服って皮パンにスカート付きだったり、マントだったり上もヒラヒラの服が多い。ブーツは丈夫そうな皮で出来たものだが歩きやすそうだ。基本的に急所がうまく隠れるようになっている。が・・ところどころ穴が開いていたり、着古されている感がハンパない。
しかし動きやすそうではある。
イオナには少しダブついた魔法使いのようなスカートの服をきてもらう。これでお腹は目立たない、スカートはひざ丈で足元は膝までの皮のブーツになった。
マリアは上下で皮のタイトな服装になったおかけで大きな胸元が強調される事となった。ショートパンツが健康的な足をさらけている、皮の膝当てと脛カバーが足を守ってくれるだろう。
ミーシャはノースリーブの上にマントを羽織る形になった、足元も皮のロングのスパッツかロングソックスのようなもので隠されるようになっている。
ミゼッタはそのままだ。
「よし!これで冒険者らしくなりましたね。どこからどう見ても貴族とメイドではありません。絶対に怪しまれることはないでしょうし、動きやすくなったんじゃないですか?」
「ええデザインも気に入ったわ。」
「可動部分が動きやすくていい感じです。」
「やっぱり・・・死んだ人の服なんですね・・・」
ミーシャだけ嫌そうだったが、それでも前の従者服に比べれば不自然さは消えた。
ミゼッタも「皆さん見るからに冒険者ですよ!」と喜んでいた。
これで見た目でばれることはあるまい。
俺はどちらかというと見た目が良くなったので満足していた・・・
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