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第327話 魔神の鎧

俺がルゼミアにもう一つ聞きたかったことは、二カルスの主から預かった本の事だった。


モーリス先生もデイジーもこの本については読めないようだったが、ルゼミアなら読めるかもしれないと思ったからだ。


俺はファントムを呼びつける。


「ファントム、預けた本を出してくれ。」


するとファントムの腹のあたりが盛り上がり、ズズズと魔導書が出てきた。いつ見ても気持ちが悪い。


「母さんか父さんが読めないかと。」


魔導書を差し出すとルゼミアが手に取る。


「これは何の本じゃ?」


「魔導書、だと思われるものです。」


ルゼミアが本を開いて中を見てみる。


「ほう。魔人語で書いてあるのか、じゃが読めん文字があるのう。」


《うわー!ルゼミアでもダメか。》


「読めませんか?」


「これは魔人語とそして…魔人語と似ておるが、全く違う異国の文字で書いてあるようだぞ。」


「え?下手な魔人語じゃなくて?」


「まったく違う文字だと思うな。」


「殴り書きのようだったので、ぐちゃぐちゃな魔人語だと思いました。」


「違うな。殴り書きであれば、魔人語であれば我もある程度は読めると思うが、これは恐らく文字が混合されておるようじゃ。」


「なるほど!」


俺が言うと異世界組も納得する。


そしてその横からガルドジンが覗き込む。


「ん?アルガルド、俺はこれと似たような文字を見た事がある。」


「え!本当ですか?」


「グレイスもこのような文字を書いていた気がする。」


「グレイス母さんが?」


「ああ、俺もほとんど読めないのだが、何文字か教えてもらったことがある。」


「ならガルドジン父さんはこの本を読めますか?」


「すまんが難しい。魔人語の所と前後を考えれば、ある程度は分かるやもしれんがな。ほとんど覚えてないに等しい。」


「そうなんですね!こんなことならモーリス先生を連れて来ればよかった。」


「モーリス?」


「人間の御師様です。」


「そうか。その者と一緒に読めばという事か。」


「はい。」


俺は本についてほんの少しの手がかりを手繰り寄せたようだ。ただ千年か万年も過ぎた本なので解読は困難を極めそうだが。


「大陸の言葉ではなさそうじゃがのう。」


「はい私達では読めませんでしたし、シン国の人も分からないようです。」


「南方の?」


「はい。そしてさらにユークリット、ファートリア、そして北方の人も読めませんでした。バルギウスでもないらしいです。」


「だとしたら考えられるのは、最南端のモエニタ国くらいかのう。」


「モエニタ?」


「ザンド砂漠の向こうにある国じゃ。」


「モエニタですか…。」


「じゃがモエニタの文字もこんなのではなかったはずじゃが…。」


「ならば昔の文字ですかね?」


「うーむ。」


糸口を見つけたと思ったが、いきなり途方もない感じになって来た。俺達は最南端のその国まで行って確認しないといけないのかもしれない。しかしモエニタとやらに行ったところで解読できるか定かではないという事だ。


すると俺の脇でその本を一緒に覗き込んでいたグレースがポツリと言う。


「違うかな?あの…これ…アラビア語じゃないですか?」


「!」

「!」

「!」


俺もエミルもオージェもハッとする。


「そうかも。象形文字的なニュアンスもないか?」


「確かに確かに!」


「英語かフランス語なら何とかなるんだが…アラビア語か。象形文字ならさらにお手上げだ。」


アラビア語はバイリンガルのオージェでも無理そうだった。しかしグレースの言うとおりかもしれない、アラビア語や昔の文字がこんな感じだったような気がする。


「考古学の先生なら少しは読めたかも。」


「とにかくここでは無理という事ですね。」


「すまんがそうなるのう。」


「いえ母さん、ありがとうございます!わずかながらも手掛かりがつかめました。」


「ふむ。」


ルゼミアは申し訳なさそうにしている。


「本当にありがとうございます。」


「わかった。」


「そして母さん。ようやく帰ってきておいて申し訳ないのですが、大陸の方では戦争真っただ中でして…もう行かねばなりません。」


「うむそれは分かっておるぞ。とにかく困ったときは我を頼れ!母親なのじゃからな。」


「もちろんです。」


《いやいや、万が一があったら困るのでルゼミアに頼るのは究極の最終手段という事で。》


「それで、次は海底神殿に行くというのじゃな?」


「そういうわけです。」


「丁度良い時にメリュージュが来てくれたものじゃな。」


「龍神の導きでしょう。」


「そうじゃな。」


ルゼミアが頷く。


ちょっと間を開けてガルドジンが俺を見る。


《ん?なに?》


「よし、アルガルド。お前が行くというなら俺の鎧を授けようか。」


ガルドジンが唐突に言う。


《鎧…うーん。ちょっと欲しい。》


「鎧ですか?」


「そうだ。希少な素材を使って作られた俺の鎧がこの城の地下にあるはずだ。」


するとルゼミアが言う。


「まあ見てくればよいじゃろ。」


ガルドジンが俺にクイっと首を傾けてついてこいと言う。


「じゃあみんなすまない。俺ちょっと鎧を見て来るよ。」


「おう、待ってる。」


オージェが言う。


俺はガルドジンの後ろについて部屋を出て、そのまま魔王城の廊下をすすんでいく。この廊下は俺が良く通った道だった。思った通り魔人軍の旧基地の地底洞窟についた。ここではゴブリンやオーガ達と訓練をくりかえした場所だ。


「この最下層にある。」


「ここ懐かしいです。」


「アルはここで魔人兵と訓練をしていたんだものな。すでに全ての魔人達は大陸に渡って、ここにはもう誰もいないがな。」


「すみません。皆を俺の目的のために魔人達を預けてくださって。」


「そりゃルゼがやった事だ。」


「それでも父さんにも感謝しかありませんよ。」


俺が言うとガルドジンは少し照れたようだった。


「さて一気に行くぞ!ついて来れるか?」


「分かりません。最善を尽くします。」


するとガルドジンが走り出したので俺も後をついて行く。


ビュォォォォ


《くっそはえぇぇぇ!》


俺は足や全身に魔力をめぐらせて身体強化する。いきなりのスピードに面食らった俺は少し出遅れてしまった。しかしギリ背中が見えている。俺は離されないように全速力で着いて行く。


《たしか最下層までは8階層あるぞ。このスピードで下まで行くのか?》


とにかく俺はふりきられないように走るので手いっぱいだった。ただしガルドジンのあの走りを見る限りでは完全に手を抜いて走っているようだ。


《苦しくなってきた。》


魔力を更に体にめぐらせて身体、肺、心臓を強化していく。今まで魔人相手に十分強化して来たのでなんとか出来ているようだ。


さらに地下基地は魔人がいた時と違って、灯りがともされておらずに真っ暗闇に近かった。


《み、見えなくなりそうだ。》


俺は目にも魔力を集中させてみる。すると暗視スコープとは見た目が違うが、ガルドジンが赤く浮かび上がるのでなんとか見失わずにすんでいた。


《こんな繊細な魔力の分配をしながら全力疾走…きっつっ!》


地下4階に差し掛かった時にガルドジンが足を止めた。


「ふうふうふうふう。」


「どうしたアル?息をきらしてるのか?」


「す、すみません。ついて来るのがやっとでした。」


「ふむ。まだまだ鍛え方が足りんようだな。召喚兵器に頼っているといざという時に対応できなくなるぞ。」


「確かに、その通りです。もっと精進します。」


「見ろ。」


ガルドジンが言うのでそちらの方向を見るとそこは真っ暗闇だった。


「こんなところありましたっけ。」


「ここは崖だ。不用意に一歩出るなよ。」


「え!」


不意に地下から風が吹き上げて来る。


ブワッ


「うわっ!」


「ここは最下層までの近道なんだよ。」


「近道?」


「そうだ。」


「どこに近道が。」


「飛び降りる。」


「とっ!」


シュ


《ええええええええええ》


ガルドジンがいきなり崖に飛び込んだ。


「ちょっと、えっ!待って!えっ!ちょっと。」


《まあいざとなったらパラシュートだ》


シュ


俺も飛び降りる。


ビュオオオオオオ


風切り音がなる。


《えっと待てよ。最下層まで深さどのくらいだ?》


俺は慌ててパラシュートを召喚し背負って開く。


バフッ


ピリピリと何か危険な感じが体を走り回る。とにかく全身に爆発的に魔力を流し強化した。


と、同時に。


ドンッ


俺の体が地面にたたきつけられた。真っ暗だったのでこの崖の高さの読みが外れたのだ。


「ぐふっ」


《いってぇぇぇぇぇぇぇ!》


俺の体は大きくバウンドしてパラシュートに絡まりながら転がる。


「はっぁ」


衝撃のせいで俺は呆然と地面に横たわっていた。


「はぁはぁはぁはぁ」


《どうやら怪我はしていないようだが、全身を強打したので息がうまくできない。》


すこし呼吸が落ち着いて来たので、パラシュートを外してそこに座り込む。


「アルガルドよ。暗闇での戦いは苦手か?」


「兵器を使わないと厳しいですね。」


「まあそれもアルの持ち味だが、すべてを封じられた時の事を考えておけ。」


「はい、ありがとうございます。」


俺はようやく立ち上がる事が出来た。


「いけます。」


「よしついてこい。落下の衝撃で走るのはつらいだろう。ここからは歩いて行く事にする。」


「すみません。」


ガルドジンの背中がめちゃくちゃ大きく見えた。やはり元魔王の風格なのだろう。


《俺に何かを伝えるためにこれをやっているように感じる。》


そして俺達は大きな石の扉の前にたどり着いた。


「灯りをつけても?」


「かまわん。」


俺は軍用のランタンを召喚して灯りをともす。俺の目の前にあるのは何かが彫り込まれた大きな石の扉だった。重厚そうな扉でルゼミアの謁見の間の扉の何倍もある。


「ここを開いて見せろ。」


「は、はい。」


ランタンを置き、軽く体に魔力を巡回させて力をこめる。


「ふっ!んー!んぎぎぎぎぎぎぎぎ」


《やっべえびくともしねえ》


俺は魔力を爆発させて体中に巡らせる。


「ふおおおおおおおおお!!」


ズッズッ


少し動いた。だが扉が少しずれただけだった。


「むぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ!!」


ズッズリッ


「んがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ようやく数センチの隙間が開く。


「ほれ!頑張れ!もう少しだ!」


ガルドジンが言う。


「んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!」


ズズズゥゥゥゥゥ


「開いた!」


大人がひとり通れるだけの隙間が開いた。


「よしよくやったな!」


「はぁはぁはぁはぁ。なんでこんなに重いんですかね。」


「これは扉じゃない、ただ岩がおいてあるだけだからだ。」


「えっ!巨大な岩が置いてあるだけなんですか?」


「そうだ。やはりアルの魔力は申し分ないようだな。」


そう言いながらガルドジンはその開いた隙間に入っていく。俺も若干ふらふらになりながらランタンを手に取って部屋の中に入っていく。


その部屋の中はどうやら洞窟内の泉になっているようで、床一面に水がはってあるのがみえる。その泉の上に人一人が通れる石橋が渡されていた。


そして俺はガルドジンの後ろについて橋を渡る。


「ここだ。」


「はい。」


カンテラで照らすと奥に小さい洞窟があるのが見える。


「入っていいぞ。」


俺はガルドジンに言われるままその洞窟に入っていく。


「どうだ?」


ガルドジンに言われて壁を照らすと、そこに鎧らしきものがぶら下がっていた。


「か・・かっこいい!!」


《マジでカッコよかった。これは人間の鎧とは違う。中世的なフルプレートなどとも違う。》


「そうかそうか!気に入ってくれたのならよかった。」


「これ父さんのですか?」


「今日からお前のだ。」


俺の目の前にぶら下がっているのは、まるで筋肉のような見た目のグレーの鎧だった、いや…鎧と言うよりも人用の外骨格のように見える。脇腹にも足にも全てに細工が施されており体にぴったりとフィットしそうだ。


「き、着てみても?」


「いいぞ。」


「着方は?」


「まず魔力をそそいでみろ。」


「はい。」


俺が魔力をそそぐと鎧が背中から、バカっと開いた。


「うぉ!」


「自分から中に入るんだ。」


「は、はい。」


そのまま前に進むように進む。


バグン!


中まで入りきると背中が閉じたようだった。


「動いてみろ。」


「はい。」


俺は壁からズボっと抜け出るように鎧を着たまま立つ。


「えっ?重さが無い。」


「すごいだろ?」


「凄いです!」


「お前の魔力が重さを無くしてるだけだ。」


「魔力を切ると?」


「物凄い重さだ。」


「もしかしてこれは魔道具と言うやつですか?」


「ほう!知っているのか?知識があるのだな。」


「それほどでもありませんが。」


するとガルドジンがシュルっと腰帯から短剣を外した。


「これを防いで見ろ。」


シュッ


ガルドジンが短剣を突き出してくるので、俺は咄嗟に腕の部分で短剣を防ぐ。


バキン


ヒュンヒュン


トスッ


折れた短剣が地面に突き刺さった。


「硬いだろ?」


「凄いです。」


「俺の為にバルムスが3年の月日をかけて作ったんだ。」


俺は鎧の手の甲をまじまじと見つめていた。


「じゃあ戻るか。」


「はい。」


最下層から地上に戻る為、鎧を着たままさっきパラシュートで降りてきたところまでガルドジンに連れてこられた。


「ここからは登れないんじゃ?」


「アルガルド。足に魔力を思いっきり蓄えて解放してみろ。」


「はい。」


俺は精神を集中させて足に魔力をどんどん蓄える。


「ほっ!」


一気に魔力を解放した。


バシュゥゥゥゥ


「えっ?」


次の瞬間、俺は先ほど飛び降りた崖の上まで飛びあがっていた。


スタッ


俺は上手く飛び降りた崖の上に着地していたのだった。


《たまたまうまく立ててよかった…》


「おーい。アルガルド―!」


崖の底からガルドジンの声が聞こえて来る。


「なんですかー父さん!」


「綱とか無いか?父さん壁をよじ登るのがめんどくさい。」


《この時俺はやっと確信した。この人は間違いなく俺の実の父親だと。》

次話:第328話 魔王と手合わせ


お読みいただきありがとうございました。


次も読んで見たいと言う方はぜひブックマークをお願いします。★★★★★の評価もお待ちしております。

次話もお楽しみ下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 字が汚いだけって言ったじゃないですかー。それも賢人が二人同じ見解で。 頼れるジジババのカブが下がった!面白いジジババになった!
[一言] 魔導書 例の魔導書の解読ですが…ルゼミア母さんでも読めなかった…ところで… ガルドジン父さん曰く 「グレイスもこのような文字を書いていた気がする。」 さらに… グレースさん曰く 「違う…
[良い点] 愛だな、愛。 [一言] 壮大なプロット(もしかして登場人物が拡げてる部分も!?)を描く 「なろう」連載、だけど、あったかさを感じるところが魅力の一つ。 今回はまた今更ながら、あったかかった…
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