第319話 グラドラムの海峡を飛ぶ
魔人国に向けての海上をMV-22オスプレイが飛翔していた。
オスプレイの中で俺達は話をしている。グラドラムを出発してから既に2時間ほどたつが、ポール王から聞いていたような魔獣に接触する事も無かった。
「しっかしラウルの魔力量は凄いよな。」
オージェが言う。
「ああ、あんなに大量の兵器を召喚してケロっとしてるんだもんな。」
エミルが相槌をうちながら答える。
「いまごろティファラ女王も冷房付きのLAVで快適に帰ってますよね。」
グレースが言う。
俺はラシュタル王国基地とその先にあるシュラーデン王国基地へ兵装の補充を行うために、60台のウラルタイフーンのトラックに兵器と兵士を乗せて送り出した。現在ルタン基地とラシュタル基地には隊長格がいない為、オークの長ガンプをルタンへ、オーガ長のザラムをラシュタルへと送り込んだ。その隊列に紛れてティファラの乗るLAV軽装甲車を走らせ、魔人にティファラ王女たちを護送させたのだった。
「まあルブレストという強い騎士が護衛に付いていればなにも問題は無いと思うけど、魔人が数百人と銃火器があればさらに安心だろうと思ってさ。」
「もちろん誰も襲わないだろうさ。あんなに大量の魔人と銃火器を相手に戦うやつなんてこの世界にいるものか。」
エミルが操縦席から答える。
「デモン以外はな。まあデモンならこちらに侵攻してくる前に、フラスリアかサナリアで魔人が察知するだろうけど。」
「とにかくラウルひとりで、前世の大国並の軍事力を持っちゃってるんだもんな。あんなに大量に見せられたら圧倒されるわ。」
「まあ30日ルールさえなければだよ。」
「その弱点もいずれドワーフがクリアしちゃいそうだがな。」
オージェが言う。
「ああ。」
「とにかくラウルさんには驚かされっぱなしですよ。」
「いやあグレース、グラドラムに戻ったら魔力が漲っちゃってさあ。魔人達も俺が帰った事で魔力が上昇してたみたいだし、これが系譜の力らしいんだよね。」
「ご主人様のお力の増加に伴って私奴どもの力も上がりました。」
シャーミリアが言う。
「ラウル様から魔力が私たちに流れ込むのが強くわかりますわ。」
カララも言った。
「やっぱりそうなんだ。」
「はい。」
「はい。」
シャーミリアとカララも俺から力の流入を感じたようだった。
「それとシャーミリア。お前たちのおかげでグラドラムに今足りないものがわかったよ。そのおかげでラシュタル基地とシュラーデン基地に不足している、おおよその予測ができたし。」
「いえ私奴達など、なんのお役にも立っておりません。」
「いやいや十分すぎるほどだ。魔人軍兵士達の兵器に対する練度もわかったし。」
「そうですね。古い兵は問題ないと思いますが、新参の兵士はまだまだでございました。」
シャーミリア達が魔人軍を調査した結果、新しく軍に入隊したものが半数以上いるらしかった。そいつらは体術などをある程度身につけているが、俺の兵器を使用しての訓練が足りないようで兵器の練度が低いらしい。
「まあそのためもあって、グラドラムには大量に武器を置いて来たからね。」
「はい、おそらくその点は心配ないかと思います。マリアもおりますしある程度までは引き上げられるかと。」
「そうだな。そこに将軍様やカーライルとオンジさんなんかも加わるらしいし興味津々だよ。」
するとオージェが言う。
「その中でも、将軍なんだろ?気になるのが。」
「まあ、その通りだな。」
今回俺達が5神の謎を探る行動中に、敵の侵攻があればどこの拠点でも対応できるように指示はしてあるが、グラドラムの半数は新兵なので急ピッチで兵士の戦闘力を上げなければいけない。そこで一番期待しているのがカゲヨシ将軍だった。彼は一国の将軍でいろんな戦術を知っているらしいので、魔人に稽古をつけてもらう代わりに戦術を伝授してもらう事になっていた。
そして俺はカララに聞く。
「カララ。グラドラム住民と魔人の関係はどんな感じだった?」
「はい。おおむね友好的かな、とは思います。」
「気になるところがあった?」
「はい。まだはっきりはしていませんが。」
「もしかして人間を魔人が虐げているとか?」
「そうではありません。むしろ人間の中に魔人を怖がっている者がいる、という感じでしょうか?」
「あー。」
「なるほどー。」
「そりゃあねー。」
「仕方ないっちゃ仕方ないですよね。」
カララの答えに俺達4人が納得する。だって魔人は見た目が怖いから。
「それに対して魔人は?」
「それが魔人の方は人間に対して、保護欲のようなものがあるのか大切にしています。」
「保護欲。」
「恐らくですが…。」
「恐らく?」
「ラウル様やイオナ様を思い起こさせるからではないでしょうか。」
「俺や母さん?」
「はい。」
どうやら俺やイオナを連想するから人間に優しくしているらしい。
《てか俺達を子猫のように見てるって事なのかな?》
「ラウル様…」
「なんだい?カララ」
「どうして人間は魔人を怖がるのでしょう?」
カララが首をかしげて言う。バイオレットの髪の毛が揺れて物凄く可愛らしい、この表情だけをみたらとてもこの子が魔人だとは思えない。
《そうだよね。それは魔人からすれば不思議な事だよね。》
「ああ簡単な事さ。」
「なんです?」
「見た目だよ。」
「見た目で?」
「そう、見た目で。」
「中身ではなくて?」
「そうなんだ、人間というのはそういうものなんだよ。だからシャーミリアやマキーナ、カララにもルフラにも人間は恐れを抱かないだろう?」
「それはいまの私達が人間に見えるからでしょうか?」
「そうだ、進化してそうなったからな。それとお前たちは美しいし可愛いから、人間はそういう存在に対しては好意を抱くんだよ。」
「そんな…美しいだなんて。」
カララが頬を染める。
「カララ、ご主人様は褒めているわけではないのよ。」
シャーミリアが言う。
「いやミリア、俺褒めてんだよ。お前なんかもめっちゃ可憐だし美人だ。ほとんどの人間はお前の事を好きだと思う。」
「ご主人様…ありがたいのですが、私奴は人間になど好かれたくございません。ご主人様さえ私奴を必要としてくださるのであれば、それだけで幸せにございます。」
「ん?必要だよ。一生俺のそばで仕えるんだろ?」
「ああ…。」
シャーミリアが火照った顔で熱っぽい吐息を吐く。
「シャーミリア、少し落ち着きなさいよ。フラスリアではそれが行き過ぎて、ご主人様が困る事をしたのよ。」
「そ、それは。申し訳ございませんでした!」
シャーミリアが俺に土下座している。
「もういいから。それはオージェが許したんだし。」
「ええシャーミリアさんラウルの言うとおりです。私は良い修業が出来たと思っておりますよ、そしてシャーミリアさんとマキーナさんとファントムさんと本気でやれて良かったと思っています。自分の未熟さも分かりましたしね。」
「その節はすみませんでした。」
「それよりも俺達が戦った事で、建設中の基地の一角が消えてしまいましたよね。魔人さん達が広範囲の工事を、やり直しになった事の方が申し訳なかったです。」
「ああ…おっしゃる通りです。」
シャーミリアの後ろでマキーナも小さくなっている。ファントムは座ってはいるが俺達の方を向いてもいない。デーンとそこにいる。
《おそらくはお前が一番危なかったんだがな。》
「まあまあミリア。もう十分反省したんだからいいんだよ。」
「ありがとうございます。ご主人様。」
とにかく話を戻そう。
「とにかく人間は外見に対して恐怖を感じる者が多いのさ。体が大きい、角が生えている、牙が生えている、羽が生えている、目が金色、なんてことだけで恐れたりするものなのさ。自分達と違うものを恐れて迫害したり避けたりするんだ。」
「はい。ラウル様がそれを無くしたいという気持ちが良く分かりました。」
カララが言う。
「こんな人間のような恰好をしたやつが言っても説得力ないけどな。」
「いえ。むしろ人間のような姿かたちをしている、ラウル様が言うから説得力があるのです。」
「そういうもんかね?」
「私はそう思います。」
あーやっぱりカララは美人だ。ヴァイオレットのセミロングヘア―が美貌をより際立たせている、そしてルフラは透き通るような青く長い髪の毛とブルーの目が美しい少女、この二人を見て恐ろしいなどと思う人は居るまい。
「ご主人様。人間の能力の問題ではないのでしょうか?」
「能力の問題?」
「ルブレストやオンジなどは私奴を見て恐れているように感じます。」
「ああ、彼らは特別さ。あとはモーリス先生やカーライルなんかも見た目では判断してないよ。勘なのかそう言う能力なのか知らないけどみんなの正体が分かるようだ。」
「ああ、カーライル。あ奴は私奴を恐れてはいないようですが、なんというか‥‥。」
「ウザい?」
「ご主人様の前で汚い言葉を使いたくはありませんが。」
「なんかシャーミリアが好きみたいだもんな。」
「あのような下等なものが、ご主人様の所有物である私奴に好意を抱くなど不届き千万です。」
「お前は俺の所有物じゃないよ。仲間だからな。」
「そんな…恐れ多いです。」
「そうなんだって。」
「光栄の至りにございます。」
シャーミリアがその美しく可憐な顔を赤らめて照れたように言う。そのしぐさはこの世のものとは思えないほど妖艶であり純粋であった。俺もついついそれを見て頬を赤らめてしまう。
「ラウルよ。」
オージェが俺に声をかける。
「なんだ?」
「えーっとなんていうかな、ちょっとだけだよちょっとだけお前をぶん殴りてえ。」
「あー羨ましいだろ!これ俺のだからな。」
「なに!これ?俺の?やっぱ所有物なのか?」
「あ、ちがうって。」
「ふふふ。」
俺とオージェがいちゃいちゃやっていると、グレースが変な目で見て来る。
「まーた仲良しぶりを見せつけちゃって。」
「はあ?違うぞ別にそんなんじゃないって。」
「おい!ラウル照れるな照れるな!俺の事まんざらでもないんだろう?」
俺の頭をヘッドロックしながらオージェが言う。
「ヤメロ…く、くるしい。」
「いやあ、相変わらず愛情表現がきついねえ。」
エミルも言う。
MV-22オスプレイの中がまるで趣味友の居酒屋トークになっていた。そんな俺とオージェの絡みを4人の美魔人達は嬉しそうに眺めている。カトリーヌだけが何か羨ましそうな顔をしている。
「ん?カティ?もしかしてヘッドロックしてほしいの?」
俺がふざけて言う。
「し、してほしくないです。ただラウル様と仲がいいのがうらやましくて。」
「ああ。これは何というか、ただじゃれ合ってるだけさ。」
「それがうらやましいと。」
「まあ俺はそっちの趣味は無いけどな。」
「そっちとは?」
「えっと、あの、ま、まあ。」
カトリーヌにいきなり聞かれて俺は困ってしまった。こんな清純な女の子に変な事を教えるわけにはいかない。するとその隣からルフラが言う。
「カトリーヌ。ラウル様はカトリーヌのような女の子が好きだって。」
「ブッ!」
俺はつい吹いてしまった。
「えっ!ラウル様!そうなのですか?」
「え、まあ。そりゃそうだよ!そうに決まってるじゃないか!」
すると何を勘違いしたのかカトリーヌが赤くなっている。
《あーこれ、俺が何か勘違いさせたみたいになってるな。》
「カトリーヌ様。ラウルは競争率が激しいみたいだから頑張らないといけませんよ。」
オージェがからかう。
「え、あ、競争率?そうなんですか?」
「オージェ!あんまりカトリーヌを困らせないでくれよ。」
「悪い悪い。」
「ルフラもルフラです。ご主人様が困ってますよ。」
シャーミリアが言う。
「はーい。」
そんなトークをしている時にエミルから言葉をかけられる。
「隊長。あれが魔人国かな?」
キャノピー越しに広大な魔人国の大地が遠くに見える。
「そうだ。あれが魔人国だ。」
「真っ白だな。」
「年中雪があるんだよ。」
「その先の山々も真っ白じゃないか。」
「本当だ。」
10キロほど先の魔人国の大地は相変わらず真っ白だった。
するとエミルが何かに気が付いて言う。
「おい。魔人国から何かが飛んで来てないか?」
「ん?本当だ!」
白い大地に黒い粒があると思った次の瞬間。
オスプレイのフロントガラスにバン!
とへばりついたものがあった。
「あ!母さん!」
「おや?アルガルドかい?なんだこれは乗り物なのかい?」
「はい。ただいま帰りました。」
「危なく破壊するところだったよ。」
「すみません。いきなり帰ってびっくりさせたみたいで。」
「というか待ちくたびれたよ。私もガルも待っていたんだよ。」
俺達のオスプレイにへばりついていたのは、黒い服を着た黒髪の小さい女の子だった。
ルゼミア王が直々に迎えに来てくれたのだった。