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第316話 狂気の発明品

超小型化に成功した氷手榴弾と炎手榴弾に胸をときめかせる俺達に、ミーシャとバルムスそしてデイジーが満足そうな笑みを浮かべている。


「なにやら怪しげな武器じゃのう。」


モーリス先生が訝し気な目をしていう。


「ふん!おぬしの言うようなガラクタは作っとりゃせん。」


「ならいいのじゃが。」


「先生もこの効果を見たら驚きますよ。」


「そんなに凄い物なのか?」


「ええ。魔力の無い人間でもかなりの殺傷能力が得られます。」


「魔法の代わり?」


「まあそんなところです。」


「ラウルの武器も似たようなもんじゃが。」


「私のそれよりも効果が魔法寄りなんですよ。」


「なるほどのう。」


するとミーシャがモーリス先生に言う。


「先生。あとで実験場にて試してみましょう。」


「ほうそうか!ならそれを楽しみにしようかの。」


「はい。」


「では次です。」


バルムスに言われ俺達は隣の棚に移る。


「これは、RPGの弾頭に似ているな。」


オージェが言う。


「その通りです。ラウル様の兵器を参考にして寸分違わずに作りました。」


バルムスが説明する。


「ほれ、先ほどわたしが外に飛ばされた膨張する液体があったじゃろ。」


デイジーが少量で飛ばされたあれだ。


「ええ。ありましたね。」


「あれをこの中に含めておる。着弾と同時にあの膨張する液体が数万倍に気化するのじゃ。」


《ん?それってサーモバリック弾みたいなもんかな?》


「ぜひラウル様の兵器にて実験していただきたく思います。」


「わかった。」


「あの少量カプセルであの効果だぞ。」


「ああわかってる。」


俺達の前にはそのロケランの弾頭がびっしりと保管されていた。きちんと固定されており爆発しないように設計された棚だった。


「とりあえずRPGの弾頭を召喚するから弾頭をとりつけてみよう。」


俺が手を出してRPGの砲弾を召喚する。


ゴトッ


「よし俺が交換する。」


オージェがRPGの弾頭を取り上げて外し、バルムス達が作ったRPGの弾頭をクルクルとハメる。


「ピッタリだ!凄い!」


「あとはきちんと機能するかだけだよな。」


俺が言う。


「ラウル様の兵器を分解して研究を重ねた結果、ある程度忠実に作られております。さらに火薬の代わりに炎魔鳥の魔石を粉にして作りました。燃焼効率は火薬の1.2倍ほどになるかと思います。」


「炎魔鳥ってなんか先生が成績をつけるための手帳みたいな名前だな。」


俺がふざけて言う。


「?」


「いいんだバルムス。続けてくれ。」


「はい。そしてこの外殻は二重構造になっており、外側は鉄で中にはアルテマという魔獣の甲殻が使われております。」


「アルテマ?」


なんか知らん魔獣の名前ばかり出てくるな。


「はい。自分が死ぬと分かると自爆する甲殻類系の魔獣です。その甲殻を使っているのですが、爆発と同時にかなりの距離飛び散ります。」


「その破片に当たると?」


「近距離なら竜人の外殻でも防げないかと。」


「近距離で爆発させちゃダメなやつね。」


「そうなります。」


異世界組4人はざわつく。この世界の魔獣とドワーフの技術力、そして二人のマッドサイエンティストが作り上げた究極の弾頭の威力に震えてさえくるのだった。


「使いどころに注意だな。」


「ああ。」


オージェとエミルがとんでもない物を見る目で言う。


「この棚はだいたいわかった。あと二つの棚の物も教えてくれ。」


「はい。」


俺達が次の棚に移る。


「これは?」


俺達の目の前には7.62mm、5.56㎜、9㎜弾がびっしりと置いてあった。


「ラウル様の兵器で使用する弾丸というものです。これにも炎魔鳥の魔石が使われております。」


「ホローポイント弾ぽいな。」


オージェが言う。


「バルムス。こういう形状にしたのは理由があるのかい?」


「はい。実はこの中には高濃度のサキュバスの霧毒が含まれております。」


「サキュバスの毒?」


「デイジーとサーシャが抽出に成功したサキュバスの霧毒を液体にして、それを中に注入してあるんです。」


「それでどういう効果を?」


《それにどんな意味があるのか分からないが、なにか凶悪な臭いがするのは確かだった。》


するとミーシャが答える。


「シャーミリアがやる屍人の使役の即効性を見ていて思いついたんです。」


「シャーミリアの使役?」


「はい。シャーミリアの使役は死体でなければできませんが、この弾丸とサキュバスの能力で生きた人間を即効で使役します。」


「しかしサキュバスの霧毒は即効性がないし、痛みで目が覚めてしまうんじゃないか?」


「それは大丈夫です。超高濃度に圧縮する事で数秒で生きたものを使役する事が出来ます。もちろん武器の使用者はサキュバスが行わなければなりませんが。レッドベアーでも成功したので問題ないと思います。」


《れ、レッドベアーでも!!》


「痛くて動けないんじゃ?」


「いえ。通常なら痛みを感じているでしょうが、サキュバスの毒のおかげで天にも昇る気持ちで動き回ると思います。」


《ふう…。ミーシャよ、お前は俺達家族の中では一番良心的だと思っていたんだがなあ。俺でも震えが来るような事を考えるなんて、魔人やデイジーとの研究でこんなになっちゃったんだなあ。》


バルムス、ミーシャ、デイジーはニコニコしながら俺達に説明している。しかしその場にいる、それ以外の人間が引き攣っていた。いつもはポーカーフェイスのカーライルやオンジですら、額から縦線をひいてドン引きしているようだ。


「ここの弾丸は全部?」


「はい。この棚の上の段から下の段迄全ての弾丸にそれが注入してあります。」


「そ、そうなんだね。凄い物を作っちゃったもんだな。」


「はい体に当てさえすればすぐにこちらの戦力になるはずです。」


「わ、わかった。」


俺達はその弾丸が並んだ棚をじっと見ながら、体に穴を空けて気持ちよさそうな顔で戦う兵士たちを想像するのだった。


「では最後の棚にどうぞ。」


「あ、ああ。」


バルムスに言われて俺達は最後の棚に移る。そこに置いてあったのは何やら筒のような物だった。


「これは?」


「これはエリクサーの注射器です。」


「治療具か?」


「そうです。エリクサーは振りかけても効きますが、即死してしまった場合はどうしようも無いのです。」


ミーシャが言う。


「そうなんじゃ。エリクサーで即死にはどうする事も出来ん。」


デイジーが補足する。


「それを使えば頭以外の場所で即死してしまった場合は、この筒から6本の針を出していただいて後頭部の下に刺します。」


「するとどうなるんだい?」


「蘇生します。」


「生き返るの?」


「はい。」


「そうやって生き返っても元のまま?」


「そのようです。」


《ちょっとまってまって。という事は実験した事あるって事?》


俺達は複雑な表情になった。だって誰か死者をよみがえらせたことがあるって事だ。そんな俺達の表情に気が付いてデイジーが言う。


「グラドラムの人間が土木工事中に体をおしつぶされて即死したんじゃ。そこでかねてから実験をしていたこの針を首の後ろに打ち込んだ。するとたちまち体が蘇生して前と変わりないように生き返ったのじゃ。」


「その位置に打ち込むのはどうして?」


「おぬしに預けた本を読めばわかる。魂が口から抜けていくのをそこで止めるんじゃよ。」


《やっぱ魂って口から抜けるんだ。》


「はあ…。」


「何をポカンとしておるのじゃ?もちろん生き返った者は元気に生きて子作りもしとるぞ。」


「凄い。」


俺以外、誰も口を開こうとしない。恐らく禁断の扉を開けていると思われるからだ。しかしミーシャもデイジーもドワーフも、その禁忌に触れている事に何の呵責も無いようだった。


「確かにこれはグラドラムじゃないと研究できんのう。」


「そうじゃな…大陸内部でやったら異端認定でおそらく死罪じゃろうの。」


モーリス先生とサイナス枢機卿が言う。


「ふーはっはっはっはっ!魔人にはそんな法律は制定されておらぬわ。」


デイジーが豪語する。


「ポール王の許可も得ています。」


ミーシャが言う。


「いや、いいんだ。俺だっておそらくは人間界にいれば死罪にあってもおかしくないほどの罪を犯しているからな。」


俺はフォローになるかならないか分からないが、フォローの言葉をかけておく事にする。


「この筒と針の製造は?」


「我です。」


バルムスが得意げに言うのだった。


その棚にはそのほかにいろんな色の液体が入ったカプセルが置いてあった。液体の色はなんとなく見覚えがある。


「この箱に入った薬のような物は?」


「ええ、瓶では携帯するのに適さない為、このまま飲めるようにしたのです。」


ミーシャが言う。


「え?これって飲めるの?」


「身体に入れば溶けて中身を吸収する事が出来ます。」


「殻は何の素材で出来てるの?」


「食用も可能なスライムを素材として使用しました。」


「スライムって食べれるの?」


「海洋生物のスライムのような魔獣で、厳密にはスライムではないかもしれませんが。」


そんな魔獣からこんなカプセルが作れるなんて、ミーシャは本当に何者なんだろう?


「中身は何だい?」


「はい。銀が竜化薬で赤がハイポーション、青いのがエリクサー、透明なのが鏡面薬です。」


「ずいぶん小さいようだけど効果は?」


「デイジーさんと共同でさらに濃縮して、効き目は瓶と同じくらいに調整してます。」


「この箱に全部入ってるの?」


「はい。」


棚の上段から下段までびっしりと箱がつまれているが、中にはそれがいっぱい入っているらしい。


《携帯するのに凄く良いぞ。これなら戦闘に参加する者全員に持たせれば、生存率はかなり跳ね上がる。》


「凄い。」


「ああラウルよ。凄いとしか言いようがないのう。」


モーリス先生もポカンとしている。


「さらに、竜化薬を応用して作ったものがあるんです。」


「応用して作ったもの?」


「これです。」


黄色いカプセルが目の前に出てきた。


「これは?」


「狼化薬です。」


「狼化薬?」


「飲めばゴーグのような大狼になります。」


「えっ!」


「ライカンの血や肉から研究して出来上がったものです。」


「そんな…。」


するとバルムスが言う。


「ラウル様の乗り物では行動しずらい場所もあるかと思います。その時にこれを使えば移動できますぞ。」


「なるほどね。」


「ただし弊害がございまして。」


「なんだ?」


「服が破れ戻ると裸になります。さらに四つ足の時にラウル様の兵器を使用する事が出来ません。」


「そうか。手分けして使う必要があるという事か。」


「そうなります。」


「使いどころを考えれば有効だな。」


「ありがとうございます。」


「ラウル様。デイジー様とバルムスさんと私の研究の成果はこんなところです。」


ミーシャが控えめに言う。


「ミーシャ。よくやったな、デイジーさんもミーシャをここまで導いてくださってありがとうございます。」


「なんもなんの。ミーシャは素晴らしい子だよ。呑み込みは早いしそして天性の勘がある。これから楽しみな子さ。」


《いやいや。この段階で物凄い子だと思う。楽しみというより恐怖を感じるよ。》


「それでは次はこちらへ。」


棚を全て説明し終わった後で、バルムスは広い場所に置いてある機械のような場所に移る。広場に置いてあったのは明らかに機械なのだが見た事の無いような物だった。


「こちらはある部品なのです。」


バルムスが指さすのを見ると1メートル弱の大きさの複雑な機械だった。こんな機械を手作業で作る事が出来るドワーフとはいったいどれほど器用なんだろう。


「なんの部品だ。」


「ラウル様が召喚してくださったトラックというものの、機関部分を元に魔石で作った機械です。」


「え、エンジン?」


「えんじんというのですか?」


「そうだ。」


「ラウル様のえんじんは燃料と呼ばれる液体が無くなると動かなくなってしまいます。そこで我らドワーフが総力で作ったのがこれなのです。」


鉄の足組の上に乗ったそれをエンジンだという。


《よく見りゃそうだ。どうやらエンジンに似た形をしている。》


「だれか魔力をそそいではいただけませんか?」


「わしでいいかの?」


「けっこうです。」


そしてモーリス先生がエンジンの側面に手を当てて魔力をそそぐ。すると心臓部分に設置してある魔石が光り出した。


「こんなものかな?」


「十分です。」


そしてバルムスはある部分にあるスイッチのようなボタンを押す。


ブシューーーン


エンジンがかかる音とは少し違うが、ピストンが上下に回り出し動力が発生した。


「凄い。」


目の前で回るエンジンに異世界組が唖然とする。むしろこの世界の人たちはもう驚く事すらしていなかった。むしろこの人たちならやるだろうみたいな顔をしている。


「ラウル。このエンジン、ガソリンや軽油を使用していないという事は、金属疲労もすくないんじゃないか?そして音が静かだ。」


オージェが言う。


確かにオージェの言うとおりだった。グルグル回っているエンジンはまるで電気モータ―のように音がしない。


「ラウル様が魔力をそそいでみてください。」


「俺が?」


「はい。」


俺が魔力をそそぐとさらに高回転で回り始める。


フォォォォォォォ


「強い魔力をそそげばさらに力を増します。」


「これは…。これは使えるぞ!バルムス凄い発明だ!」


「そ、それは良かったです!」


「このエンジン物凄いよ!」


「それほどの事は…。」


「だってさ。こんな発明できるなんて俺からすればもう神の領域だよ。」


そして回っているエンジンのスイッチのようなところをバルムスが押すと、ゆっくりと魔法エンジンの回転数が落ちていく。


「ラウルこれをヘリの機関部分に使う事が出来れば、究極の静音ヘリが出来上がるぞ。」


「ああ、そうだな。まだ俺の召喚した兵器との融合が出来てないから、もしかしたらヘリを1から作らないといけないかもしれない。」


「なんか、時間の問題のような気がする。」


「だな。」


そしてバルムスは次にその隣にある機械に移る。


「そして最後はこれです。」


「これは何?」


そのエンジンの隣に置いてあるのも何かの装置のようだった。もうすでになにか想像がつかなかった。


「これにも魔力をそそいでいただきたく思います。出来るだけそっと。」


バルムスが言うので俺は先生に頼む。


「私では魔力の調整がうまくいきません。先生がお願いします。」


「わかった。」


モーリス先生の手先から薄っすらと魔力が流れ込んだ。


すると先ほどのエンジンと同じように光り出す。しかしピストンなどは無く魔石のまわりの鉄のような部分が地球ゴマのように複雑に回り出す。


ヒュンヒュンヒュン


すると次の瞬間。


機械の上についている二本アンテナの間にある物が発生した。


それは小さな雷だった。


「これは…。」


「はい。魔力により雷を発生させる装置です。ラウル様からいただいた発電機を分解し研究した結果で来た機械です。」


「発電機というより雷発生装置だな。」


「無指向性で一方方向に向けて照射する事は出来ませんが、この電力を使えばラウル様の無線機などにも使えるかもしれません。」


「これは…。」


「ラウル。これはこの世界初の魔力の発電機じゃないのか?」


「ああ、これを都市の心臓にして電気の供給が出来るかもしれないな。」


するとモーリス先生が言う。


「ラウルよ、おぬしがこの世界に持ち込んだものは…なにやら想像もつかん結果となりそうじゃぞ。」


「はい。使い方を誤らぬようにしたいです。」


「うむ。そしてサイナスよ、ぬしは他国の人間じゃ。この機密は魔人国の物じゃ、絶対に他言無用じゃぞ。」


「もちろんじゃよ。喋れば命がいくらあっても足りんじゃろう。それよりもファートリア神聖国を奪還した暁には、ファートリア郊外に魔人国の駐屯地を作ってもろうた方がより賢い方法じゃろうて。」


「その際はぜひお任せください。」


「うむ。」


ファートリア神聖国に基地の設置の約束を取り付けたのだった。


俺の目論見もおおむね成功だな。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔力エンジン搭載機を一から作り上げて、それをリストアップした場合、召喚は可能なんだろうか?
[一言] 膨張する液体を使ったRPG 前回、使いどころがどうとか言っていたけど、何気に兵器利用されてる…実際に使用できるかは次回以降…あらゆる意味で不安なんですけど… ちなみに閻魔鳥は…そういえば、…
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