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第315話 魔導書の解読と研究成果

テーブルの上にはティーカップが並び湯気を立てている。


ずずずず


「ほう!美味いお茶じゃのう。」


「ああ、こりゃフラスリアの物じゃ。炒って乾燥したもので煎れたお茶じゃよ。」


「美味いのう。」


いわゆるほうじ茶のような味だった。モーリス先生とデイジー、サイナス枢機卿がお年寄りトークをしている。


「それでラウルからお願いがあるんじゃよな?」


モーリス先生が俺に話をふる。


「はい。実はある本を見てほしいのです。」


「本?」


デイジーが首をかしげる。


「デイジーに見てみてほしい本があるのじゃ。おそらく魔導書じゃと思うんじゃがはっきりと読めんのじゃよ。」


「モーリスがか?」


「知らん文字というわけではない。」


「とりあえず出しますね。」


俺はファントムをみんなの見えない方向にふり向かせる。


《本を出せ。》


するとファントムの腹から”ズズズ”と例の魔導書が出現した。


《やっぱファントムは俺のアイテムボックスだな。出現の仕方が気持ち悪いだけで…》


「デイジーさん、これです。」


俺がデイジーに本を差し出す。


「ほう。」


「もしかしたらデイジーさんなら読めるかもしれないと思ったんです。」


「じゃあ見さしてもらうよ。」


デイジーは魔導書をテーブルに乗せて表紙から開いて行く。


「ふむ!ほう!作りはずいぶんと古い本だけど傷んでいないようだねえ。」


「トレントが持ってたんです。」


「トレントが?まるで時が止まったように綺麗な本じゃ。」


そしてデイジーは中身をまじまじと眺めてページをめくっていく。ゆっくりと確かめるように読んでいるようだ。


《お!どうやら読めてるのか?》


「デイジーよ、なにか分かるかの?」


「まあ、まてモーリス。」


俺達は期待してじっと待っている。


「あー、ふむふむ。ほほぉー。」


どうやら読めているようなので皆が息を呑んで待っている。すると一通り本に目を通したデイジーが俺達を見て言う。


「確かに魔導書じゃな。」


「それは分かっとるんじゃ!」

「なんじゃ!もったいぶりおって!」


モーリスとサイナスがデイジーにツッコミを入れる。


「モーリスの言う通りじゃな。知らん文字ではないが字が汚すぎて読めんわ。」


「やはりそうか。」


「しかし、わたしが読んだ魔導書と似ている。」


「やはりこれは特殊な魔法なのであろうか?」


「もちろんそうじゃろうな。確かめたいのなら魔法陣を書いて流してみるしかないが…」


「じゃがそれはあまりにも危険じゃろ。」


「そうじゃのう。」


やはり時間をかけて解読するしかなさそうだな。この人達でわからないんじゃあどうしようもない。モーリス先生もデイジーも眉間にしわを寄せて本とにらめっこしている。


「もし危険だというのなら、荒野などに管理施設を作ってそこで発動させてみるというのはどうでしょうかね?」


「いやラウルよ。通常の魔法ならばそれでもよかろう、じゃが古代の何者かが巨大トレントに託した物じゃ。普通の人間に渡る事を想定しておらんじゃろうよ。そうだとすれば手に負えるかどうか分からんぞ、簡単に試験できるものではないよ。」


「といいますと、例えば天災級の破壊力があるとか?」


「その可能性もある。そうとも限らんじゃろうが、とにかく危険を冒してまで試すより解読したほうがいいじゃろ。」


皆がその本の内容を確認できなかったことに落胆する。するとデイジーが俺達に向かって言う。


「ちょっと待っておれ。」


デイジーが部屋を出て研究所の方に出て行った。


「先生。デイジーさんでも読めませんでしたか。」


「そのようじゃの。いったい誰が何の為にかいた魔導書なのか、なんとなく高度な事が書かれているのは間違いないのじゃがな。」


「そうなんですね。とにかくどうしたらいいものでしょう。」


「うーむ。」


するとデイジーが研究所から何かを持って戻って来た。


「これはわたしが持っている本じゃよ。」


「おお!デイジーも魔導書を持っておったか。」


「これでエリクサーや鏡面薬を作り、魔法の真理のような物に少しだけ近づけたからのう。」


「そうじゃったな。」


「この本と内容が似ておる。書き方がだいぶ違うが、どことなく構成が似ておるような気がせんか?」


「わしが見ても良いのか?」


「モーリス遠慮するな。」


モーリスがデイジーが出して来た魔導書に目を通してみる。


「ふむふむ。なるほどこれは綺麗な字で書いておる。しかも人の言葉で書いておるようじゃな。」


「謎の魔導書とこのわたしの魔導書を照らし合わせて、文章の前後を考えて行けばモーリスなら何が記されておるのか解読できるのではないか?」


「その可能性はあるじゃろな。」


「ならこの非常事態じゃ、わたしはもうこの本は必要ないし持って行っておくれ。」


「よいのか?」


「この本の事は全てやってしまったしの、これが役に立つのなら持っていくと良い。」


デイジーは自分が大切に保管していた魔導書を俺達に渡してくれたのだった。


「すみません。デイジーさん大事にします。」


「なにラウルよ。おぬしにはこれくらいでは返せぬほど良くしてもらっておるでのう、当然と言うものじゃよ。」


「すみません。」


「そうじゃな。あとは少しでもミーシャを可愛がっておくれ。」


「か、可愛がる?」


「簡単な事じゃ、目に留めておいてくれるだけで良いのじゃ。」


「それは当然です。これからもそうします。」


デイジーはミーシャをみてニッコリと笑う。まるで孫のために婆さんが頑張れと言っているかのように。


そしてそれからしばらくは、これまでの出来事を話すお茶会となった。モーリス先生が俺達と巡り会ってからの冒険や各国の様子、そしてデイジーの方からはこのグラドラムの発展と情勢を話した。そして俺はフラスリアから砂漠に飛ばされて、その後シン国の将軍を連れて戻り友達が虹蛇と精霊神になった事を話す。


「なんと!このお嬢さんが虹蛇様じゃと!」


《これ、お嬢さんでもないんだけど。見た目がお嬢さんだからしかたないな…。》


「はは、僕自身はその自覚がまるでないんですけどね。」


「伝説の存在なのに自覚が無いとな?」


「ええ。」


するとエミルも重ねて言う。


「デイジーさん。私だってそうですよ、ただのエルフなのにいきなり精霊神を受体したとか言われても自覚はありません。ただ能力はかなり向上しましたけど。」


「能力が?」


「はい、数種類の精霊術が使えるようになったようです。あとは精霊術の精度が格段に上がったみたいです。」


「それは凄いものじゃな。」


「そうなんですが、精霊神になったという自覚は無いんですよ。」


「ふむ。」


デイジーはうなずくだけだった。特にそれについての情報を知る事はなさそうだ。


「私が思うに。」


オージェが話を続ける。


「彼らは覚醒していないんじゃないかと思います。」


「ふむなるほどの。」


「その考えが正しい気がするのう。」


モーリスとデイジーが答えた。


「何らかの覚醒する条件や出来事などがあるのかもしれません。」


「覚醒か。」


エミルが言う。


「虹蛇も僕に受体させるんなら、その覚醒条件を伝えてくれればよかったのに。」


グレースが不満そうだ。


「それだど覚醒しないんじゃない?」


俺が言う。


「まだ何らかの試練があるという事かのう?」


モーリスが言う。


「試練ですか。そんな面倒そうなのはいらないなあ。」

「俺もだ。」


グレースもエミルも面倒そうに言う。


「いや、何事も意味があってそうなっているんじゃないのか?」


「虹蛇風に言えば必然でしたっけ?」


「そうらしいよね。」


いくらここでそれを考えても答えは出そうになかったので、この話は終わった。


「ところでデイジーよ。ミーシャとドワーフと共にここで何を研究しとったんじゃ?なにか見つけたのか?」


「おお見つけた見つけた。見つけたなんてもんじゃない宝の山じゃよここは。」


するとミーシャが言う。


「デイジーさんが来てくれたおかげで私もいろんな発見がありましたし、デイジーさんの理論立てた話とドワーフの技術力によって、出来上がった物もいっぱいあるんですよ。」


「わたしもミーシャの発想力とドワーフのおかげでさらに成長したわい。まさかわたしに伸びしろがあるとおもわなんだよ。」


「婆さんでも成長するもんなのじゃろか?」


「モーリスよ、おまえも実験材料にしてやろうか?」


《デイジーが悪魔教祖組のボーカルみたいなことを言うとは…。》


そしてお茶の時間を終えたころデイジーが言う。


「それじゃあわたしらが日夜、世界の平和のためにやっている努力を見てもらうとするかのう。」


「世界平和の為とな?趣味の為の間違いじゃなかろうか?」


「あいかわらず、ひと言多い爺じゃのう。」


「おぬしが正直に言わんからじゃ。」


この人達…昔からこうだったのか。二人にとってはこれが自然な会話なのだろう。


「まったくおぬしたちはずっとこの調子じゃな、少しは大人になったらどうじゃ?まあ年を取りすぎて耄碌もうろくしないだけましかの。」


サイナスが言う。


「おぬしに言われとうないわ!」

「爺は黙っとれ!」


モーリスとデイジーにつっこまれサイナスが笑っている。


「あのう、デイジーさんそろそろいきましょう。」


ミーシャが話しかけづらそうに言う。


「うんそろそろバルムスも来るころじゃな。ミーシャよ、わたしらの努力の結晶をラウルにみてもらうんじゃもんな。」


デイジーが目を細めてミーシャに言う。


《まるで孫だな。》


そして俺達はミーシャについて研究所に戻る。研究所は広いがそこにはとにかくいろんなものが置いてあった。いったい何を開発したというのか興味津々だった。


「ここにあるのはまだ開発中の物じゃよ。」


《なんだ、これは完成品じゃなかったのか?》


「お、来たようじゃな。」


デイジーが入り口の方を向いて言う。


ガチャ


「ラウル様!ご健勝のようで何よりでございます!」


入って来たのはドワーフのバルムスだった。


「バルムスも元気そうだね。」


「我らは酒さえあれば元気ですわい。」


「ははは。あいかわらずだ。」



「それじゃあ皆こっちへ。」


デイジーがみんなに声をかける。


異世界組とモーリス、サイナス枢機卿一行、ケイナとオンジがぞろぞろとデイジーについて行く。部屋の壁にいくつもあるドアの前に止まった。


「ここじゃ。」


デイジーはポケットから鍵を取り出した。鍵は二つありドアの上と下に二つついていた。


ガシャン


ガシャン


厳重な鍵を空けてみんなで中に入る。


その奥の部屋は俺達が想像するより広かった。棚が何列にもならび奥には何やら見た事の無い機械のような物も置いてある。


「凄いですね。」


「そうじゃろ。」


デイジーが得意そうに言う。


「ではまずこちらへ。」


ミーシャが一つの棚に案内すると見覚えがある物があった。だがそれはだいぶ小型化に成功したようだった。


「改良を重ねた、氷手榴弾と炎手榴弾です。」


俺達の前に並べられているのは以前見せてもらった武器だった。しかし前に見せてもらった時は1個がランプくらいの大きさだったのに対して、目の前に並んだ赤の液体が入った物と青の液体が入ったものは、手のひらにすっぽりと収まる100円ライターくらいの大きさだったのだ。


「小さくなったね。」


「はい。ですが効果は同じです。」


するとエミルが言う。


「あのナパーム手榴弾がこんなに小さく?」


「はい。」


「ミーシャが戦闘時に大きすぎるのは問題だと言っておったのでな、小型化するためにこの容器の素材を海の魔獣の素材と薬剤を混ぜて強化したのじゃ。その結果小型化に成功したというわけよ。」


「もちろんラウル様の兵器も分析させていただいた結果ですがな。」


デイジーとバルムスがその結果に満足そうに言う。


「これはいい!これならポケットにも入るし…だが暴発しない?」


「それは大丈夫です。ラウル様の兵器にある安全装置の概念を取り入れました。」


「それは?」


「この突起を押して栓を抜き内部を活性化させないと作動しません。指を離してから7秒後に破裂します。」


「そりゃ凄い。」


ドワーフというのは手作業でこんな精密な機械を作れる種族なのか。


「しかもデイジーとミーシャが開発した素材は丈夫ですからな、安全装置をはずして内部を活性化させない限り漏れたりもしません。」


「あとで試験させてもらえるか?」


「もちろんです。」


俺達は目の前に並ぶ青と赤の液体の入った容器をまじまじと見る。


「ラウルよ。こんな兵器ないよな。」


「ああオージェ。現代兵器では見た事ないね。」


「ラウルさん、ドワーフってひょっとして物凄い技術があるんじゃ?」


「何というか究極の職人をさらに発展させた感じ?」


「凄いです。」


この数ある棚と広い場所に置いてある機械のような物。


俺達の胸はときめくのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔導書の解読 …この展開…『読めん!!』…とかのオチが来るかと予感したりしたのですが… 「しかし、わたしが読んだ魔導書と似ている。」 …との事… なんとなく共通点が見いだせた事から、デイジー…
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