第311話 栄光の祝賀パーティー
控室には俺とイオナそしてモーリス先生と前世組が座っていた。モーリス先生も新しいローブに着替えてイオナと共に会場入りする。ケイナとオンジはそれぞれ精霊神と虹蛇の付き人として立っている。マリアとミーシャのメイド二人は俺達のお世話係としてここに来た。
全員がドレスアップし、二人のメイドは俺と客人の世話をすることになっている。それぞれの後ろの壁にそれぞれの付き人が立つことになるが、オージェだけは付き人がいない為ひとりで座る事になる。
《ケイナは美しさゆえ精霊神のお付きっぽいし、オンジはいぶし銀の威厳というか風格があって虹蛇のお付きの人って感じだ。でも俺の付き人だけ…ファントム…化物がタキシードを着ている。ああ…シャーミリアにすればよかったな。なんでそうしなかったんだろう?いやいや彼女には重要な仕事を振ってあるから仕方がない。》
こうやって並んでみるとファントムの異様な姿が目に付く。
コンコン
「それでは会場にお入りください。」
ポール王の家のメイドが俺達を迎えに来た。
「あ、はい。」
俺が立ち上がると皆が立ってメイドについて部屋を出る。廊下を歩いていくと二人の衛兵風のお兄さんが立っていて、部屋のドアを開けてくれた。
《グラドラムも人間の衛兵が置けるようになったんだなあ。だいぶ復興が進んでいるようで少し安心する。》
「ラウル様ご一行が参られました!」
「お通しください。」
パチパチパチパチ
《えっ?拍手?》
中に入ると舞踏会場のようなところに、数十人も座れる長テーブルが3つ並べられており、まるで結婚式のように先に人が入っていて俺達を出迎えてくれた。ただ皆は座っておらずスタンディングで拍手をしている。
拍手をする人たちの一番前にはポール王がにこやかに立っていた。
ポール王に会釈をしながら少し緊張気味に入っていくと、メイドたちが俺達の周りに来て座る場所を指定してくれた。どうやら座る場所が決まっているらしい。
《いやー想像していたのとちゃう。》
「それでは来賓を招き入れますのでそのままお立ちになっていてください。」
メイドに言われる。
「あ、はい。」
俺がエミルやグレースとオージェを見ると皆が緊張していた。前世でもこんなのは結婚式くらいしか経験した事が無い、これからの事を考えると皆の緊張が俺にも伝わって来た。
するとドアの方から声が聞こえた。
「前ファートリア神聖国、サイナス・ケルジュ枢機卿様ご一行がご入室されます。」
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また拍手がされたので俺達も拍手をして一緒に出迎える。
《こんな大袈裟な会食なのか?》
俺はイオナを見ると毅然と立っている。イオナはこれよりもかなり大きなパーティーなども経験しているため、当然と言ったような顔でそこにいる。
《母さんすげえ。》
サイナス一行が席に立つと、カーライルがその後ろに立った。サイナス枢機卿も聖女リシェルも当然のような顔をして立っている。ケイシー神父は少し緊張気味だが堂々としていた。その後ろのカーライルも表情の無い顔で毅然と立っていた。
さらにサイナス達はここに来た時の格好ではなく、どうやらポール王が用意した正装を着ているようだった。サイナス枢機卿は純白の祭服に金が施された豪華なものを着ていた。また聖女リシェルはこれまた純白に金をあしらったドレスを着ていてまるで新婦だった。カーライルまで騎士の制服のような物を着せられている。もちろん腰には剣を携えていた。
《やっぱ彼らはこういうの慣れてんだな。俺は初めてだからさっぱり分からない。》
俺の隣のモーリス先生を見ると、どことなく苦痛の表情が伺える。先生はこういうのが嫌いと言っていた通りに苦手らしい。
「シン国 カゲヨシ将軍様が入室されます。」
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カゲヨシ将軍が入って来た。
《えっ!意外!》
なんとカゲヨシ将軍は、きちんとシン国風の豪華な着物を来て出てきたのだ。
《ポール王恐るべし。彼はてっきりシン国の事なんか知らないと思っていたが、どうやらすでに魔人から前情報が入っていたようで想定していたらしい。》
俺はつくづくポール王という人の凄さを実感するばかりだった。失礼ながら、こんな式典が出来るような人だと思わなかったので驚いている。
カゲヨシ将軍が席に立つと影衆が後ろに立った。
《さていよいよ始まるのかな?》
「そして最後に!」
《えっ…まだ誰かいたっけ?》
「ラシュタル王国、女王陛下ティファラ様がご入室されます。」
「え!」
「うそ。」
俺とカトリーヌがつい声を上げてしまった。
するとドアが開いて入って来たのは確かに、ティファラとクルス神父その後ろにルブレストキスクがいた。
俺はつい鳥肌が立ってしまった。
《凄いサプライズだ…。》
カトリーヌの目を見るとうるうると来ている。その気持ちは俺にも分かる。
ティファラ王女は堂々たる風格でクルス神父とルブレストを従えて入ってくる。ティファラが俺とカトリーヌを見つけてニッコリと微笑んだ。ルブレストの口角も上がっている。
テーブルにティファラが立ちその隣にクルス神父が立った。ルブレストはその後ろに立ち、みんなが静かになる。
すると全席の後ろにメイドが付いた、俺とイオナだけマリアとミーシャが後ろにつく。
「それでは皆様!お座りください。」
ザッ
メイドたちが一斉にみんなの椅子を差し入れて腰かけさせてくれた。
《マリアはさておきミーシャはキッチンメイドだぞ?うん…どうやらイオナに仕込まれているようだな。》
皆が座るとポール王が前に出てきて挨拶をする。
「本日は遠い所、足をお運びいただきましてありがとうございます。」
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盛大に拍手が起こり静かになる。
「お集りの皆様に朗報が御座います!」
《お!なんだなんだ!ポール王がさらに何かを用意してくれたのかな?楽しみだな。》
「ラウル殿下率いる魔王軍が友好国のラシュタルをお救いになり、ユークリット公国を奪還された事は既に周知されている事と思います。」
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《ああそれはもうみんな知っているよね。》
「ラウル殿下はさらに兵を進め、バルギウス帝国を制圧しシュラーデン王国をお救いになられました。この神の如きお力をお讃えさせていただく為、皆様にはここに集まっていただきました。この度は友好国となるであろうシン国の将軍様をお連れになっての凱旋、また恐れ多くも虹蛇様及び精霊神様との友好を結ばれこの地に戻られたのです!神話でも聞き及んだ事のなき偉業です。ここグラドラム国にて魔人国ラウル殿下の偉業を祝福できることは大変光栄な事と思います!」
《ん!まってまって!俺の話?主役はカゲヨシ将軍でしょ?》
チラリとカゲヨシ将軍に目をやると物凄い尊敬のまなざしで俺を見ている。
冷や汗がダラダラと出てきた。
《こんなの聞いていないぞ、俺はとにかく会食をしてファートリア神聖国奪還の話をしたかったんだが。》
ワ―――――――
ワ―――――――
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割れんばかりの歓声が沸いた。
《やべえ。先生!》
俺がモーリス先生をチラリとみると、モーリス先生はそっと目を伏せた。
《マジ!?》
「さあ!その神の如き偉業を成し遂げた我らの英雄を皆で讃えよう!我々の世界を取り戻してくれた英雄に盃を!」
すると後ろからポール王のメイドが俺に声をかけて来る。
「殿下!それでは壇上へ。」
《うっそだろ!そんなの勘弁してくれ!》
しかしみんなの視線が痛いほど俺に突き刺さっていた。これはもう壇上に上がるしかなかった。
俺は壇上に上がり皆の方を向く。
「それでは殿下!英雄の凱旋です!私たちにひと言を!」
《ええええええええええええ》
頭が真っ白になった。どうしよう俺は一人一人の顔を見た。イオナはさすがは我が息子よ!みたいな顔をしているし、モーリス先生は目をそらしている。マリアとミーシャはキラキラした顔で俺を見ているが、オージェとエミル、グレースは…今にも吹き出しそうな顔をしていた。
《くっそ!》
「えー。皆様、本日はお日柄も良くお忙しい所お集りいただき誠にありがとうございます。」
俺は結婚式のような挨拶をしてしまった。
皆が…
えっ?
みたいな顔で俺を見ている。
《えっ何?間違い?英雄の言葉って何?》
「私のような若輩者に、このような場を設けていただきまして感謝のしようもございません。」
皆が…さらに
えっ?
みたいな顔をしている。
《うっそ!これも違うの?どうするよ!俺!どうするよ!》
するとシャーミリアから念話が入る。
《ご主人様!いかがなさいました!心拍数が恐ろしいほど上昇おられるようです!》
《だ…大丈夫だ。シャーミリア俺はピンチではあるが命に別状はない。ただ英雄としての挨拶を求められているだけだ。大勢の前でな。》
《それは良かった。戦闘状態に突入されたのかと思いました。》
《ある意味戦闘状態なんだが、頭が真っ白でな、お前に声をかけてもらって少し落ち着いた。》
《ご主人様の前に立たれているのは誰ですか?》
《ああ。人間達だよ母さんや顔見知り意外にも、偉い人はみんな顔見知りだし友達もいる。あとは知らない人間がいっぱいとポール王かな。》
《それでしたら、いつもご主人様が思っている事をそのままお話になればいいのです。》
《いつも思っている事?》
《はい。私たちが絆で感じているすべての、ご主人様のお心をそのまま。》
《そんなんでいいのかな?》
《全く問題を感じません。》
《わ、わかったよ。》
《マキーナ、カララ、ルフラも応援しておりますよ。》
《力強いな。》
そして俺はみんなの顔をまた眺めている。すると今まで苦労を共にしてきたメンバーの顔が並んでいた。俺が念話している間に会場が少しシーンとしてしまったようだった。
「皆さん!私は確かに今ポール王が言った事をしました。それは紛れもない事実です。」
するとみんなが聞き入り始めた。
「しかしそれは私一人の力では到底できなかった。魔人の力があっての事です。そしてシュラーデンではティファラ陛下がご協力してくださいました。ティファラ陛下と私を強く結び付けてくれたのが剣士のルブレスト・キスクでした!シュラーデンの復興は彼らの尽力無くしてはなされなかったと思います。」
一度息を切る。
「私が敵の罠に嵌り南に飛ばされたときはシン国の人々にたすけられ、その後カゲヨシ将軍との縁を持つことが出来ました。そして私の師匠であるモーリス先生と、そのお仲間であったサイナス枢機卿ご一行の教えもありここまで来れたのです。」
《シャーミリア!俺はただただ思う事を話しているけど良いんか?》
《ええご主人様。私奴はそれでよろしいと思います。》
《ラウル様の言いたいことをおっしゃって良いと思います。》
カララも念話で伝えてきた。
「さらに友達にも恵まれました。虹蛇様のグレース、精霊神様となられたエミル、そして龍国よりの友人であるオージェの力なくしてこれは達成できなかったと思います。彼らの偉大な力はこれからの世界に絶対に必要になると思います。」
皆は俺の言葉に聞き入っているのか静かなままだった。
「そして私は!サナリアで襲われた幼少の私をつれて、グラドラムまで命を賭けて連れてきてくれた母のイオナと、メイドのマリアそしてミーシャに感謝しています。彼女たちがいなければ私は既に幼少の頃に死んでいたでしょう。」
《こんな話で良いのだろうか?》
「そしてポール王。私はグラドラムの多くの民を救う事が出来ませんでした。私はそれが悔しかった!しかしあなたはその苦境に負けることなくグラドラムをここまで繁栄させてくださった。その胆力には感服しています!」
シーン
《えっ?シラケてる?どうしよう…まっいっか。》
「これからファートリアを奪還した際にはサイナス枢機卿と共に、ファートリア神聖国を再興しなければならなくなるでしょう。ファートリアにはまだ敵が居座っています。私はそれらを蹴散らし必ずファートリアを奪還しようと思っています。」
みんな固まってるな…
「これからファートリア神聖国に居座る真の敵と戦うために、そして世界を取り戻すためには、まだまだ皆さんのお力添えが必要です。今後も私と共に戦ってくださると信じています!」
《ま、言いたいことは言ったかな。》
「それでは盃を!」
サッ
皆が盃を持った。
「我々の未来に乾杯!」
「かんぱい!!!!!!!!!」
皆が盃を持ち上げ口に運ぶ。
ワァァァァァァァァァ!
パチパチパチパチパチパチパチ
盛大な歓声と拍手が巻き起こった。
《あれ?みんな泣いてる?あ、モーリス先生とオージェそしてエミルとグレースは泣いてないか?でも良く言ったみたいな顔してるな。》
「ラウル殿下!素晴らしきお言葉をありがとうございました。光栄にございます!」
ポール王が涙を流して言う。
俺は一礼をして壇上を降りてイオナの隣に行く。
「それでは皆様!お座りください!私の国のささやかな料理でございます!ぜひお楽しみください!」
パンパン!
ポール王が手を叩くと、ドアというドアからメイドが料理を運んできた。
すると俺の隣の隣にいるオージェが言う。
「ラウル。長えよ。」
「うっごめんごめん!」
「でも良かったぜ。」
「はは。そうか?」
「ふぉふぉふぉ。いっぱしの王子じゃな。」
モーリス先生が言う。
「ありがとうございます。」
「ラウル。いつの間にかこんなに立派になって。」
イオナが美しい顔で涙を流していた。泣いても美しい…
「ふふ。いつまでも優しいラウルでいてね。」
「もちろん。」
俺はとにもかくにもいきなり訪れた窮地を脱した。
いきなりは本当にやめて。
心の底からそう思うのだった。