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第309話 僕の友達を母に紹介する

イオナの家に着くとイオナがセルマ熊に向かって言う。


「ごめんなさい。あなたは大きすぎて扉をくぐれないわ。」


くるぅぅ


「ラウルどうしたら良いかしら。」


イオナが困った顔で聞いてくる。困った顔も美しい。


「ああ母さん。それなら心配いらないよ、セルマはいつも外にいるから問題ない。」


「せっかく来たのに可愛そうだわ。」


「本当に大丈夫だって。」


筆頭メイドだった頃と同じに考えているのか、セルマを家に入れたがっている。


「せめて屋根のあるところに。」


《食うものだってだいぶ野生的になったし前とは違うのだが。》


「イオナよ、セルマの中身は人間じゃが行動はだいぶ野生的になっておる。もとのメイドのようにはいかんぞ。それよりもなんぞ食わしてやってはくれぬか?」


モーリス先生がイオナを諭すように言う。


「わかりました。」


「ふむ。」


「じゃあセルマ!あなたが家に入れるようにドワーフに改築を願い入れるわ。」


「ふぉふぉふぉ!相変わらずじゃのうイオナよ。」


《目的のためにわがままを通す。やっぱり俺の母さんだな、まったく変わっていない。》


「ラウル!セルマは置いて行ってくれるのよね?」


「セルマが良ければ。」


くるる!


「あらそう!よかったわ!」


「ここに居たいってさ…えっと、母さんはセルマの言った事わかるの?」


イオナは俺より早く返事したよな?


「当たり前じゃない。セルマとは長ーい付き合いなのよ。」


「おみそれしました。」


「他の魔獣がいるところで悪いんだけど、セルマこっちよ。」


俺たちが飼育小屋に入る。


ドドドド


いきなり白熊魔獣のシロと、グリフォンのイチローニローからゴローまでが俺の元に駆け寄ってくる。


《てかみんなずいぶんデカくなってるんだが、飼育小屋も牛が100頭くらい飼えるくらいの広さがあるし。》


「おおーお前たち!元気にしてたか!」


「ぐ、グリフォンじゃと!」


モーリス先生が目をひん剥いて驚いている。


「母さんのペットです。」


「グリフォンが人に懐くなど聞いたこともないわい。」


「敵が使役していたのを奪いました。」


「なんという…ラウルよ、敵には恐ろしい能力のテイマーがいるとみて間違いないぞ。」


「それほどですか?」


「グリフォンであれば、グレートボアや飛竜などを使役するのとは比較にならんじゃろな。そもそもが魔獣を使役する者などそうおるものではない。」


「そうなんですね。」


俺はシロにモフモフされグリフォンに頭を甘噛みされてベロベロ舐められながら答える。


「しかもその使役を奪い返したと。」


「なんかそうみたいです。」


「わーはっはっは!そりゃ痛快よのう!してこやつらは、なぜラウルが離れてもおとなしく従っているのじゃろ?」


「それは母さんが優しいからでしょうか?」


するとモーリスがイオナに向かう。


「それだけではならんぞ。ちょっと見せてごらん。」


モーリス先生がイオナの手を握り目をみつめる。


「魔力をながして。」


「はい。」


イオナとモーリスが光に包まれた。


「ふむわかった。」


「何がです。」


俺が聞く。


「魔力がかなり増えとるよ。普通は大人になれば増えないんじゃがの。」


「へー!そうなんですね!母さん凄いや。」


「先生そうなのですか?」


「ああイオナよ間違いない。しかも水属性だけではなく、わしの知らん属性も身につけておる。」


「それはなんでしょう?」


「わからんが、おぬしに魔獣が従っとる理由がそれかもしれんな。」


「そうですか。」


「幼少の頃から動物や草花が好きじゃったからのう。それが影響してるのやも。」


するとマリアが言う。


「確かに、奥様は昔から動物に好かれておりました。」


「ふむ。」


そしてモーリスはマリアとミーシャに向かって言う。


「おぬしらも自分の変化に気づかんのか?」


「変化ですか?」


「ふむ。まあ良い、じっくり調べねばわしもわからんしの。」


「はい。」


「はい。」


「セルマ!この子達は良い子よ!一緒にご飯食べてね。」


イオナが言う。


ガウガウ


セルマ熊がめっちゃ喜んでいる。セルマもかなりデカいがシロもその半分の10メートルくらいある。イチローニローたちもシロくらいありそうだ。ずいぶん成長したらしい。


そしてイオナが壁際にある綱のようなものを引っ張る。


グイ


ドサドサドサドサ


天井が開いて大量に干し肉や野菜が降ってきた。


「それはなんです!?」


「ええ。私が楽になるようにドワーフさん達が、貯蔵庫から簡単にエサを流すようにしてくれたのよ。」


「凄い。」


「そしてエサも加工から補充まで魔人さんたちがやってくれてるわ。私はこれをぐいって引くだけよ。」


「便利!」


「でしょ。それでこの子たちきちんと便器に用をたすのよ!綺麗好きなの。」


「偉い!」


俺はただただ驚くばかりだった。なぜみなイオナのわがままを聞くんだろう?この世界の七不思議のひとつなのかもしれない。


「じゃあセルマ?またね。」


ばふっ


イオナがセルマに抱きついて、セルマが優しく包み込んだ。


俺たちがそこを離れると、セルマは他の魔獣達に誘われるようにエサのところに行くのだった。


玄関をくぐり長い廊下の奥へと進む。


「立派な家じゃのう。」


「はい、私達にはもったいないくらいですわ。」


「フォレスト邸の倍いや3倍はあるのう。」


「ええ先生、ここに私達4人で住んでるんです。」


「持てあましそうじゃな。」


「でもお掃除などは魔人さん達がしてくださるんですよ。」


「至れり尽くせりじゃのう。」


「本当にありがたいですわ。ラウルや配下のみんなが戻ったときに一緒に暮らせるようにと、グラドラムの王がおっしゃってこうなりましたの。」


「なるほどなるほどそういうことか。」


《どうやら俺たちのための家らしい。》


「えっ?ラウル様、我もここに一緒に住むのでございますか?」


「どうやらそのようだぞ。ギル。」


「光栄にはございますが、我には過分なお気遣いにございます。」


「あら?ギレザムあなたがお嫁さんをもらうまでは、ラウルのそばにいてもらうわよ。」


「ですがラウル様イオナ様と一緒に住むなど我には。」


「嫌なの?」


「けっしてそう言うことではなく!」


「ギル諦めろ。母さんがそう言ったらそうだ。」


「は!ラウル様の命とあらば。」


「無理にはいわねえよ。」


「いえお供させてください。」


「はい、決まりね。」


そして俺たちは長い廊下を抜けて部屋に入る。


俺たちが来たのは食堂だった。なんというか調度品がおしゃれで落ち着く部屋だった。


イオナは使用人にお茶の用意を頼みに行く。


ガチャ


「ら、ラウルよ!」


途中でトイレに立ち寄ったオージェがドアから慌てて入って来た。


「どうした?」


「と、トイレが…。」


「どうかしたか?」


「水洗だ。」


「どうせあれだろ、地下に川を流して直接するタイプだろ?」


「違うぞ!クイ!ジャーだ!」


「マジか!」


俺は早速トイレを見に行った。トイレのドアを開けるとそこには大理石で出来た、りっぱな洋式トイレがあった。


「ぶ、文明…。」


俺はついつい座って用を足してみる。


「ふう。」


クイ


ジャー


「マジか。」


部屋に戻るとオージェが俺の顔をみる。俺は大きく頷いた。


「え、凄いじゃないか。」


「近代的ですね。」


エミルとグレースが言う。


「お前らは神格化したか知らんが、もう用たししないんだろ?」


オージェが聞いた。


「ああ、いくら食べても出ないんだ。」


エミルが言う。


「僕なんかなんの穴もないっすから。」


グレースが言う。


するとそれを聞いていた、マリアやミーシャが気まずそうな顔をする。


「グレース。レディの前だぞ!」


オージェが窘める。


「すみません。」


「水洗とは?」


「ああギル、凄く便利で綺麗な機能だよ。お前も後で使ってみるといい。」


ギレザムが興味津々に聞いてくる。将来自分も一緒に暮らす事になるかもしれないのだ、だんだんその気になって来たのかもしれない。


「ラウルさん。なんかビジネスの匂いがプンプンしますよ。」


「そうかな?」


「自動エサやりに水洗トイレですよ?その周りには雇用も生まれます。」


「なるほどそう言うことね。」


「今ごろカゲヨシ将軍やサイナス枢機卿も驚いてるかもしれませんよ。」


「あ…ワクワクしてきた。」


「でしょ。」


そういえばこの世界には養殖の文化がない。せいぜい野放しに飼っている鳥の卵ぐらいだ。確かにいけるかもしれない。


「ラウル達の考えてる事がなんとなくわかるが、魔獣を飼い慣らすなど到底できんぞ。」


モーリス先生が言う。


《そう言われてみればそうだ。》


「そうでした。」


「いや、なにも養殖だけに使える技術じゃありません。例えば湯屋とかでも使えます。」


「ほう!虹蛇様はおもしろい事を考えられますな!」


「先生敬語はやめてください。そして僕はグレースです。」


「わかったわかった。」


コンコン。


ガチャ


イオナが部屋に入ってきた。


「皆さんお寛ぎになっておりますか?」


「ええ。これは良い椅子ですね。」


グレースが調度品を褒める。


「ドワーフさんの自慢の逸品ですのよ。」


「素晴らしい技術だ。」


「ええ。さてラウル。皆さんをご紹介してくださる?エミルさんはもう存じ上げてますわね。」


「はい。お、お母様、お元気そうで何よりです。」


エミルが顔を赤くして照れながら返事をする。するとケイナがエミルをジロリと睨む。 


「こちらの方はエミルさんの良い人かしら?」


「お初にお目にかかります。エルフのケイナと申します。」


イオナな高貴なオーラに緊張しながらもケイナがあいさつをする。


「こんなに素敵なお嬢様を、お射止めになるなんてエミルさんはお幸せですわね。」


「射止めるとかそう言う事では。」


さらにケイナの視線が突き刺さる。


「恥ずかしがらなくてもよろしいのよ。ケイナさんも困っていらっしゃるようです。」


「は、はあ。」


《エミルもとっととハッキリさせればいいのに。》


「えっとそしてこっちが友達のグレース。そして付き人のオンジさん。正式な名前はえーっと。」


《ずっとオンジさんと言っていたので名前忘れた。》


「イオナ様。アルム・バナースと申します。虹蛇様の守護者として付き従っております。」


「まあ、素晴らしい。虹蛇様の守護者なんて…虹蛇様?」


「ああ母さん、このグレースが虹蛇だ。」


「えっと友達のグレースちゃんが虹蛇様?」


「そう言う事。でもグレースで良いよ。」


「とにかくラウルのお友達でいてくれてありがとう。」


「いえいえ。僕の方が楽しませてもらっています。」


そしてイオナがオージェに目を向ける。


「こいつはオージェ。友達だ。」


「お母さん。ラウルとは親しくさせていただいております。」


「あら身のこなしがキレイ。もしかしたら軍人さんかしら?」


「いえ、私は龍人という種族の物です。」


「龍?人よね?」


「まあ私はそうですね。そう生まれました。」


「もしかしたらラウルと似た境遇なのかしら?」


「はい、まあそんなところです。」


「うちの子も普通じゃないけど、ぜひ仲良くしてくださいね。」


「ラウルには本当に楽しませてもらっています。」


「それは良かったわ。」


皆川はきびきびとあいさつしている。


挨拶を済ませて全員が席に座るとお茶が運ばれて来た。運んできたのはサキュバスのメイドだった。まさかここにも魔人のメイドがいるとは思わなかった。


「メイド服の後ろから羽が出てますね。」


グレースが言う。


「本当だ。」


「萌えますねー。」


そうだった。林田はラノベやアニメが大好き青年だったんだ。


《そういえば二カルス大森林でもなんかテンション上がってたな。》


「皆さん!これからもラウルと仲良くしてあげてくださいね。」


13才の息子が連れて来た友達に対してはこの挨拶は正しい。


しかしなんとなくみんな違和感があった。


おそらくみんな中身がおっさんだからだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] >エミルもとっととハッキリさせればいいのに。 そういう君は周りの矢印が自分に向いてるのを自覚する段階なんだよなぁ
[一言] セルマ熊の対応 イオナよ…あんたはそんなにセルマ熊を家の中に入れたいのか?(ドワーフに改築を依頼するほどに) イオナの秘密の一端 モーリス先生曰く 「ああイオナよ間違いない。しかも水属性…
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