第308話 ラウルが実家に友達を連れて来た。
俺達が乗ったヘリはまもなくグラドラムに到着する。
「ご搭乗の皆様、当機はまもなくグラドラム首都に到着いたします。お降りの際はお忘れ物をなさいませんようお確かめ下さい。本日はグラドラムエアーラインをご利用いただきまして誠にありがとうございました。皆様の次のご搭乗をお待ちしております。」
俺が練習がてら言ってみた。
「お前何言ってんだ?」
オージェからツッコミが入る。
「ラウルさんやっぱりそこは女性が言った方が良いですよ。」
グレースが言う。
「エミル。パイロットアナウンスも考えておいてくれよ。」
「そんなもんいるのか?」
「将来的にな。」
「ラウル。金とろうとしてんな?」
「金持ちからな。」
俺がいうとグレースが言う。
「これが無料なわけないですもんね。この世界じゃあいいビジネスモデルになりますよ。召喚した機体をペイントして無骨な軍色を無くせば尚いいですよね。ラウルさんの配下の方達なら綺麗だし、いざという時に安全性を確保できるし、無敵CAもたくさんいそうです。」
「値決めとかグレースが相談に乗ってくれよ。」
「もちろんです。」
俺達が将来のビジネスの話をしていると、モーリスとサイナスそしてカゲヨシ将軍が起き出した。
「おお、どうやらついたようじゃな。」
「はい上空からグラドラムを見てほしいと思いまして。」
「そうかそうか。」
「それは楽しみじゃわい。」
《今日は天気もいいし、特にカゲヨシ将軍には良さを十分に堪能してもらわないと。》
「見えてきました。」
エミルが言う。
「皆さん。ぜひ機体の前方にお集まりください。グラドラム全体が見えますよ。」
《さすがエミルは呑み込みが早い。パイロットのサービスって感じのアナウンスだ。》
モーリス先生とサイナス枢機卿、カゲヨシ将軍が操縦席の後ろまで行く。
「こちらの通路は狭いですのでお一人づつのぞいてください。」
「それでは将軍様から。」
「おおすまんのう。」
カゲヨシ将軍が窓からグラドラムを眺める。
「なんと!これは…。」
言葉を無くしてしまったらしい。しばらく眺めていたが呆けてしまったような顔で俺達をみる。
「この世のものとは思えん。」
《うん。そうでしょうそうでしょう。》
カゲヨシ将軍に代わりモーリス先生とサイナス枢機卿が頭を寄せるように覗き込む。
「おお…。」
「何という…。」
二人も絶句していた。
《えっ?そんなに?俺も久しぶりでどうなったのか見てない。》
「ラウルもみてみろよ。えらい事になってんぞ。」
「そんなか?」
俺も久々にグラドラムの街を見る。
目の前に広がったのは。
「えっ…」
俺も絶句した。
ベネチアあたりのカラフルな街並みが、東京都くらいの密集度で広大に広がっていた。さらに第一防壁から10層にもなる防壁の間にも建物があり、ある程度の色分けがされて美しいグラデーションとなっていた。さらに地表のみならずグラドラム墓地や高地にも何らかの建物が立っていた。
「ぜひ聖女リシェルもカーライルさんもどうぞ。」
「いえ、私は。」
高所恐怖症のリシェルが断ってくる。
「聖女リシェル大丈夫ですよ。エミルの操縦に万が一はありませんから。」
「わかりました。」
「カーライルさんが支えて下さい。」
「はい。」
カーライルがリシェルを支えて二人がその光景を見た時。やはり絶句していた。
「何という…美しいわ。」
「すばらしい。」
聖女リシェルは高くにいる事も忘れてうっとりしているようだ。
俺達がグラドラムの美しさに呆けているとさらに驚くことが起きた。
ヒュー
音が聞こえてきたのだ。
「なんだ?」
パ―ン!
なんと花火が打ちあがったのだ。日中なのでその色はあまり見えないが、どうやら花火には色がついているようだった。
《はは。花火って。》
「あれはなんじゃ?魔法か?」
モーリス先生が言う。
「あれは花火という見せるための火です。」
「なんと…」
「グラドラムとはいったいどういう場所なのだ。」
カゲヨシ将軍がグラドラムの威容に呆然としている。
「素晴らしい。」
サイナス枢機卿もただただ感激していた。
《実際俺もびっくりした。まさかしばらく見ないうちにこんな事になっていようとは。》
十分上空からのグラドラム観光を堪能し、ヘリはグラドラムに降下していく。
「ラウル。新しいヘリポートがあるぞ。」
「ああ俺がある程度指示していったからな。」
地表のあたりにHに〇が書かれた模様が刻んである。そのヘリポートの周りにはすでに俺の気配を察知した魔人達が大挙して押しかけているようだった。
《タピ。お客さんだが準備は出来ているか?》
俺はグラドラムに残留させていた進化ゴブリンのタピに念話を繋げた。
《はい。すでに準備は出来ております。》
《南から来た将軍様や枢機卿がいるからな。指示通りに出迎えをたのむ。そしてポール王はいるか?》
《はい。出迎えの準備を済ませて待機しております。》
《よくやった。》
《ありがとうございます。》
ヒュンヒュンヒュン
周りにブワッと風が起きるが魔人達は物ともせずに喝采していた。
ワーワー
ラウル様―
そんな声が聞こえてくる。
エミルが超正確にヘリポートに着陸させるが振動も無かった。さすが精霊神になっただけあって、すっかりシルフの力も制御しているらしい。
「エミル。後部ハッチを開けてくれ。」
「了解。」
グーン
と後部ハッチが開いて魔人達がたくさんいるのが見えて来る。
「これは俺が最初に降りないといけない雰囲気だよね?」
「そうだろうな。」
オージェが頷く。
「ほれみんなに元気な顔を見せればよかろう。」
モーリス先生に背を押されて俺は外に出ていく。
ワァァァァァ!
割れんばかりの歓声が上がった。そして俺の後に続いてセルマ熊が出てきて、その後からシャーミリアとファントムがついて来た。
俺がヘリを降りるとそこにタピがいた。
「おおタピ元気そうだな。」
「はい。」
搭乗員が全員降りて来る。
「こちらがシン国の将軍様で、こちらが元ファートリア神聖国の枢機卿だ。」
「はい。」
「ポール王のところまでご案内差し上げて。」
「かしこまりました。それではこちらへ。」
カゲヨシ将軍と影衆5人、サイナス枢機卿と聖女リシェルそしてカーライルとケイシー神父がタピのところに行く。
「それでは将軍様と枢機卿。私は後で向かいますので先に迎賓館へ。」
「わかった。しかし…このような盛大な向かえがあるとは思わなんだ。このような格好では…。」
「わしなぞ現敵国の元枢機卿じゃぞ。しかも冒険者風のいでたちでは。」
「起きになさらず。すでに準備が出来ております。」
「それでは将軍様。枢機卿はこちらへ。」
タピとハルピュイア達が軽やかに一行を連れて行く。モーゼの十戒の海のように魔人達が割れて道が出来、将軍と枢機卿一行はそこを歩いて行った。
「ではタピ頼んだよ。」
「はい。」
俺はモーリス先生にふりかえる。
「ではモーリス先生はこちらへ。」
「よかった。わしは堅苦しいのは嫌いじゃ。」
「だと思いました。」
「ふぉふぉふぉ!」
「ギレザムとゴーグそしてファントムも俺と来い。」
「はいわかりました。」
「はい。」
「・・・・・・」
「カララとルフラは魔人たちの町への貢献度や人間との関係性、一般の魔人達の様子などを見てきてくれ。他から流入している人間などもいればその調査を頼む。貧富の差や軋轢になるような問題が無いかを調べろ。」
「かしこまりました。」
カララとルフラが消えた。
「シャーミリアとマキーナはこの広大な都市に不足している物や、俺が召喚しなくちゃいけないものの洗い出しを頼む。軍隊の仕上がり具合の調査と、重大な欠陥やほころびなどがないか調査してまとめて報告してくれ。」
「御意。」
シャーミリアとマキーナが消えた。
「すっかり王子が板についておるではないか。」
モーリス先生が言う
「いえ先生。私などまだまだ真似事ですよ。そしてここは私の国ではありませんし。」
「それにしては完璧に仕切っとるようにみえるがの。」
「そんなことは無いです。」
「ラウルらしいというかなんというか。相変わらず頼もしいな。」
オージェが言う。
「お前だってバルギウスの軍隊を完璧に仕上げてたじゃないか。」
「うーん。言ってみれば俺は軍曹でお前は指揮官だからな。まあそれぞれの持ち分ってところか。」
「オージェにはうちの軍隊をみてもらいたいよ。」
「ああそれは任せてくれ。ただで飯を食うのも心苦しいからな。」
「シャーミリアのマキーナが調べた調査内容を報告をさせるからその時は頼むよ。」
「了解。隊長。」
そんな話をしていると向こうから数人の人と一匹が歩いて来た。なんだかそこだけきらびやかな感じになっている。
「先生!先生!!」
ドレスの裾をたくし上げて小走りに走ってくる美女がいた。美しい金髪に抜けるような青い目と通った鼻筋。
「おお!イオナよ!イオナよ!」
モーリス先生が感動している。
「先生!よくぞ生きていてくださいました。」
「わしはそう簡単にくたばる爺ではないぞ。」
「そうです。そうでした。」
「イオナも息災なようで何よりじゃよ。」
「あの!これが私の娘です。」
「おじいちゃんこんにちは。」
「おっ!名前は何という。」
「アウロラ!」
「おお良い名じゃの。グラムによう似とる。」
「はい。あの人の忘れ形見です。」
「おお、おお。」
イオナとモーリス先生は泣いていた。イオナを幼少のころから知っており、イオナはモーリス先生を師と仰いでいた。死んだかと思った二人がこうして再開したのは奇跡だった。
すると俺の脇をすり抜けて大きな影がイオナの所に踊り出た。
くるぅぅぅぅ
セルマ熊がイオナに抱きつこうとしている。
「セルマ驚かすな…」
言い切る前にモフっとイオナに抱きついてしまった。しかしイオナは避けもせずにその抱かれるままにしていた。
「ラウル。今…なんて?」
イオナが聞いてくる。
「えっと、これがセルマです。」
「セルマ!セルマなのね!わかる!わかるわ!」
イオナがセルマにしがみつく。
うぉぉぉぉん!
セルマ熊が慟哭した。
するとイオナの後ろにいた一人がタタッと走ってセルマにボフっと抱きついた。
「セルマ!セルマ!」
もふっ
セルマはその女の子を抱いた。その女の子はメイド仲間だったミーシャだ。
うぉぉぉん!
あのサナリアから逃亡する時に死んでしまったセルマに、ミーシャがこうやって会う事が出来たのもまた奇跡だった。
そして俺の後ろではまた別の感動の再会があった。
「ゴーグ!」
「お、おう。」
ミゼッタがゴーグの前に立っている。
「大丈夫?ラウル様に迷惑かけてない?ちゃんとできた?」
「ちゃんと働いてたよ。」
「そう、ゴーグならやれると思った。」
「お前は俺のかあちゃんか。」
「ちがうけど。」
そんな会話が聞こえてくる。俺がゴーグを連れてきたのはミゼッタの為だった。
「ゴーグ!ミゼッタに今のグラドラムを案内してもらえよ!」
「え、ラウル様と一緒にいなくていいんですか?」
「俺の為に美味い店でも探しといてくれ。」
「わかりました!」
ゴーグとミゼッタが二人で街の方に歩いて行った。
アウロラが俺を見ている。
「アウロラおいで。」
トテトテトテトテ
「おい!なんじゃこの可愛さは!」
オージェが言う。
「本当だ。めちゃくちゃかわいい。」
エミルが言う。
「リアル天使。」
グレースが言う。
「いいだろう。俺の妹だ。」
「ら、ラウルの妹がこんなに可愛いわけがない。」
「なんでだよ。」
「にいちゃん!」
「おーし!アウロラ!兄ちゃんを覚えていたか?」
「うん。だっこ!」
「おーよしよし!」
俺がアウロラを抱き上げると、首に手を回してギュッとしてきた。
「おかえり。」
「うん。アウロラただいま。いい子にしてたみたいだね。」
「うん!」
俺は思わず目じりを下げて頬ずりしてしまうのだった。
「先生。抱いてあげてください。」
俺はモーリス先生にアウロラを渡す。
「ほほう。何という可愛い子じゃろう。」
「髭。」
「おおう。触って良いぞ!」
アウロラがギューギューと先生の髭を触っている。
「すみません先生。」
イオナが言うがモーリス先生は、ただただ目を細めてアウロラにされるがままになっているのだった。
完全におじいちゃんんと孫の図だ。
アウロラはモーリスの髭が気に入ったようだった。