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第307話 快適な空の旅をお楽しみください。

ロシア製のヘイロー巨大ヘリがフラスリアに到着した。トラメルが無事に帰った事で宰相や文官達は涙を流して喜んでいる。


それもそのはずで彼女らはファートリアバルギウス連合から蹂躙された後、命をかけて共に潜伏し守り守られてきたのだ。領主の娘と配下という立場以上に絆は深い。


「ではトラメル辺境伯、私達はこれにて。」


俺が深々と礼をするとトラメルが言う。


「いつか戦争が終わったら、私をその艶やかなグラドラムの町にご招待くださらない?」


「喜んで。その時は街をあげておもてなしさせていただきます。」


「楽しみだわ。」


「早くこんな戦争終わらせましょう。」


「そうですわね。」


「しばしの別れになりますが、またすぐにまいりますよ。」


「はい。」


実はトラメルもグラドラムについてきたそうにしていたのだが、内政の仕事が溜まりに溜まっているらしいのと、宰相達の大反対を受けて留まる事にしたのだった。


俺がトラメル辺境伯に手を差し出す。そして固い握手を交わした。


「では。」


「あ…はい。」


トラメルが名残惜しそうな顔で言う。


「じゃあカティ行くよ。」


俺はフラスリアで領民の治療などに従事していたカトリーヌに声をかける。


「はい。」


カトリーヌと俺はヘリに乗り込んだ。


ヒュンヒュンヒュンヒュン


ローターが回りヘリが空中に飛びあがる。


「ほれラウル。手を振っておるぞ。」


モーリス先生に言われ窓から外を見るとトラメルがまだ手を振っていた。俺もそれに対し手を振り返した。そのまま飛び去りフラスリアの街を離れ、トラメル達がどんどん小さくなっていく。


《領のそばにある魔人軍基地がやたらデカくて近代的だな。》


俺が基地を眺めそんなことを思っていると


「なんか彼女は来たそうにしてましたよね。」


グレースが言う。


「きっとグラドラムの街が見てみたいんだろ。」


「本当にそれだけの理由かねぇ?」


オージェが言う。


「そうだろ。俺がさんざんグラドラムの街並みの事を話したからな。」


「なんかラウルを見つめる瞳が、それ以上だったような気がするけどな。」


操縦しながらエミルが言う。


「ん?お前たちはいったい何が言いたいんだ?」


するとケイシー神父が空気を読まずに言うのだった。


「ずっと一緒に旅をしてきましたけど、トラメル辺境伯はきっとラウルさんが好きなんだと思いますよ。」


「ぶっ!そんなわけないでしょう!」


「そうかなあ。もちろん言葉には出してませんけどね。」


するとモーリス先生が言う。


「ええ子じゃと思うが、ラウルはどう思うとるんじゃ?」


「どうって、どうとも思ってません。」


俺が言うとカゲヨシ将軍がポツリ。


「ラウル殿。わしの目から見ても伯の気持ちは明白な気がするがの。」


真顔で言っているので、ふざけていないのは分かる。


「将軍様。お戯れを。」


すると、


「そうですよ。皆さんラウル様にその気はございません!」


カトリーヌが強く言う。


「ん?ラウル殿にはその気はないのかね?」


「ないですよね?ラウル様。」


「まあそうだね。特に何もないよ。」


「という事でございます。」


カトリーヌが勝ち誇ったように言う。


「どう思うオージェ。古い付き合いのお前から見て。」


「いやエミル。そんなもん言わなくてもわかるだろう。」


《いやいや。こいつらはいったい何を言っとるんだ。》


「オージェ様。エミル様。私は幼少のころからラウル様を見ておりますが、嘘を言ってはいませんよ。」


マリアがさらりといった。


「ふーんそうなんですかねえ。」


ケイシー神父がまだ言っている。


すると俺の隣から物凄く圧がかかって来た。


「神父よ!ご主人様は嘘などついておらぬわ。」


シャーミリアが少し不機嫌に言うとケイシーがビビった。


しかしまた他の方向から声がする。


「シャーミリア様がおっしゃるのであればその通りだと思われます。お美しいシャーミリア様が嘘をつくわけはございませんので。」


カーライルが話に乗って来た。


「お前は黙れ。八つ裂きにするぞ。」


ピキピキピキ


「シャーミリア!」


「は!」


「八つ裂きはやりすぎだ。」


俺が言う。


「では…なんというかご主人様風に言えばボコボコに。」


シャーミリアが言うとケイナが聞いてくる。


「あの、魔人様は綺麗だと言われるとボコボコになさるのですか?」


少し天然のツッコミが来た。


「ケイナさん。そういうわけではないです。とにかくシャーミリア何もするなよ。」


「もちろんでございますご主人様。心配は御無用です。」


「なんだか不思議なご関係という事なのですね。」


ケイナが納得したらしい。


「ほらモーリス。おぬしが変な事を言うからラウル殿が困る事になるのだぞ。」


「何がじゃ。わしは彼女が手を振っておると言っただけじゃぞ。」


「枢機卿も司令も茶化してはなりません。」


「わしは援護をしとるのじゃが。」


サイナスがいうが、聖女リシェルがくぎを刺すとサイナス枢機卿が黙る。どうやらサイナスはリシェルに弱いようだ。


高所恐怖症だった聖女リシェルも度々ヘリに乗って慣れたようだが、まだ青い顔をしている。それでも枢機卿にツッコミを入れるぐらいの余裕はできたみたいだった。


「聖女リシェルは高いところ慣れました?」


「以前より揺れなくなり、外を見なければ地上と変わりませんわ。」


「エミルがさらに上手くなったんですよ。」


「ありがたいですわ。」


「よかったです。」


「おいおい、ラウルは話をそらそうとしてないか?」


オージェがいう。


《せっかく逃げようと思ったのに!》


「とにかく俺はトラメルをなんとも思ってない。」


俺が言う。


「私たちはラウル様のやりたいことだけを考える従者ですから。ラウル様がおやりになりたいことを全力で擁護するだけです。誰をお選びになろうがその時は従うまでなのです。」


カララが言った。


「ふぉっふぉっふぉ!わしの教え子はずいぶん見ないあいだに、たいそうな色男になってしまったようじゃ。さすがは騎士グラムの息子と言ったところかの。」


モーリス先生が言う。


「え?先生、父はどんな感じだったのですか?」


「ぬしとおんなじ堅物じゃったが、気持ちを寄せる女は多かったぞい。」


「そうなんですね。」


「ユークリットの女神を射止めてからは、グラムにいいよる女はおらぬようになったがな。」


「母さんはそれを?」


「知らんがな。少なくともわしは言っておらぬぞ。」


「じゃあ私も黙っときます。」


すると操縦席のエミルが笑い出す。


「ぷっくっくっくっく。」


それにつられるようにオージェとグレースが笑い始めた。


「あっははははは。」


「うははは。」


「お前らなんで笑ってんだよ。」


3人が笑う理由が分からないが、たぶん俺の前世と照らし合わせてでもいるんだろう。


「カトリーヌ?彼らは何故笑っているの?」


ルフラが不思議そうな顔でカトリーヌに聞いていた。


「なんでしょう?私にもわからないわ。」


カトリーヌがポカンとしていた。


そんな会話をしている時に俺はカララに言う。


「カララ!そろそろ弁当をふるまってもいいんじゃないか?」


「はい!」


カララとマリアが作ってくれたという弁当を、機内で食う約束をしていたのだ。


何が出て来るのか凄く楽しみにしていると、大きな木箱がフワリと浮いて俺達の前に置かれる。もちろんカララが糸で木箱を持ち上げてソフトに置いたのだ。


「では開けます。」


ガチャ


「おおおお!」


「すごい!」


「なんと!」


木箱の中にはたくさんのパンと肉のフライ、ワインとジュース、フルーツが入っていた。


するとマリアが言う。


「このパンを焼いたのはカララ、そしてフライを揚げたのもカララです。」


「そうか!そういえばカララは料理を覚えたいって言ってたもんな。」


「はい。マリアに教わってラウル様の好きな味に仕上げたつもりです。」


「うれしいな。」


「全員分ございますので、ぜひ食べていただけたら嬉しいです。」


マリアが言う。


マリアがパンにフライをはさんでみんなに手渡し、カララが木で出来たコップをみんなに配り、ワインやジュースをお酌していくのだった。


「こりゃ凄いのう!」


「本当じゃ!」


モーリス先生とサイナス枢機卿が驚いていた。


「まるで旅客機ですね。」


「まったくだ。」


オージェとグレースが言う。


「りょかっき?」


ケイシー神父が疑問に思ったらしいが、二人は軽くスルーした。


「では皆さん!ぜひ食べてください。」


カララが言う


パク


これは!


すると操縦しながらケイナに食べさせてもらっているエミルが言う。


「これってチキンフィレサンド!でも…」


「本当だ!」


「懐かしいなあ。」


グレースとオージェも言う。


「そのような名前の料理ではございませんよ?」


マリアが言う。


「ああ、これは何の肉なんだい?」


「二カルスで獲れた鳥です。名は分かりませんでした。」


「えっ?どんな姿の鳥でした?」


ケイナが聞く。


「はい、トサカが綺麗な青で尻尾が緑の長ーい鳥でした。」


カララが言う。


「それを獲ったのですか?」


「はい。」


「そうですか…。」


どういう事なんだろう。ケイナがなぜ驚いているのかよくわからない。


「カララさん!それは珍しい鳥なんですよ。」


エミルが言う。


「珍しい鳥?」


「はい。この味は間違いなく霊鳥です。」


《なんか…食べちゃいけないような鳥の名前だ。》


「これはエルフの儀式などに使われる貴重な鳥なんです。エルフでも狩猟の名人が何日も何日もかけて獲る鳥なんですよ。」


「あ…そうなんですね?どこにでもいる鳥なのかと思っていました。」


「どこにでも…」


「はい、私が網をはったらつかまったのでそれを使いました。」


「そうですか…。」


なんか貴重な鳥を食っているようだったが急にありがたみが出てきた。


「なんか貴重な鳥のようじゃな。ありがたくいただくとしよう。」


「ふむ。きっととても滋養があるのじゃろうて。」


モーリス先生もサイナス枢機卿もよく味わって食べ始める。


確かに十分うまい料理だったが、それを聞いて一気にうまさが倍増して来た。前世で言うところの烏骨鶏なんかよりもっと貴重な鳥なんだろう。


「うん。美味い!」


「オージェさん、もうなくなったのですか?」


数口で食べ終わってしまったオージェにマリアが言う。


「ええマリアさん!ごちそうさまでした。美味しかったですよ!」


「それでは、まだまだあるのでどうぞ。」


マリアが霊鳥のフライサンドをオージェに渡す。


「うわ!すみません。いただきます!」


オージェがもりもりと食いだす。


「美味いものですな。わが国にはこの料理は無い。」


カゲヨシ将軍が言う。


「カララ良かったな!」


「はい。喜んで頂けて光栄です。」


カララが凄く嬉しそうな笑顔を見せた。


「このパンも凄いふっくらしている。時間たってるのにやわらかいよ。」


「はい。マリアがラウル様とよくピクニックに行った時に、このパンを持っていったと。」


「それだ!懐かしいなあ。父さんと母さんとマリアと行ったっけ。」


「それに近づけたと思うとうれしく思います。」


「カララの気持ちが伝わったよ。」


魔人の料理はどことなく素朴な料理が多く、大雑把な味付けだったり固かったりするものが多かったが、カララの作った料理は繊細で美味かった。


進化がこんなところにも出て来るとは驚きだ。


ご飯を食べ終わり飲み物を飲みながら歓談していたが、モーリス先生やサイナス枢機卿とカゲヨシ将軍がウトウトしてきたようだ。


「将軍!先生もどうぞ気兼ねなくお眠りください。」


「すまんのう。」


「申し訳ござらん。どうやら酒が回ってきたようだ。」


「わしも年じゃな。」


「いえ。皆さんが目が覚めたころにはグラドラムに到着していると思います。」


そして3人はそのまま席にもたれ掛かって眠り始めた。


まあ軍用の機体なのでゆったりは出来ないが、エミルの神業的操縦のおかげで振動も無くぐっすり眠れるだろう。


《将来のフラスリア発グラドラム行きの旅客機サービスはこんな風になるのかな?》


俺は戦争が終わった後の商売に夢が膨らむのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] トラメルさんとの別れ 名残惜しそうにしている・来たそうにしていた…という事に対してのラウル君の感想 「きっとグラドラムの街が見てみたいんだろ。」 …鈍感ここに極まれり… ケイシー神父・モー…
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