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第299話 西カルブ山脈上空で

グレースがレインニードルを食材として回収している間、セルマ熊がむしゃむしゃと他の死骸を食っていた。


北海道のヒグマの6倍くらいありそうな巨体で、ちっさい魚のような魔獣を食っている。


「うまく頭だけ避けて食ってるんですね。」


「そのようじゃのう。」


「レインニードルは頭が危なそうですからね。まるでナイフですし。」


「触るだけで切れそうじゃな。」


ガリッポリッ


「たまにガリガリいっているので、少しは食べてるのかもしれないです。」


「こんな剣のような部分を食うなんてのう。」


「普通のレッドベアーじゃないですしね。」


「レッドベアーの亜種と言ったところじゃの。メイドじゃし。」


「元ですけどね。でも器用なもので鉄で案山子とか作るんですよ。」


「ほう。案山子とな。」


「はい。人形と言うか、子供の頃に私の為に人形作ってくれてましたからね。」


「ああ!そうじゃったそうじゃった。セルマは器用じゃったからのう。」


「セルマが焼いてくれたパイも思い出します。」


「ああ…なつかしいのう。」


セルマ熊がバリバリとレインニードルを食っている間、俺とモーリス先生はしみじみとセルマの人間時代を思い出していた。俺達がじっと見ているとセルマ熊が気が付いたようでこっちを振り向いた。


もきゅぅ


「か、かわいい。」


「かわええのう。」


「元はセルマですよ。」


「そうじゃったそうじゃった。」


最初は見た目恐ろしいレッドベアーだったのに、だんだんとティディベアのように愛くるしくなってきた。


ガリポリッ


《ん?さっきからガリポリ言ってんのって、ショットガンの散弾かも。》


「先生。セルマがガリガリ言っているのは、私が3人に渡した武器の弾です。」


「ああーそうかそうか!そうじゃろうな、あんな鋭利な部分を食ったら怪我しそうじゃ。」


「いや私の武器の弾を食べて大丈夫かなって不安もあります。」


「そういえば、ラウルの武器は魔力が含まれて魂を吸うんじゃったか?」


「はい。それを平気で食べちゃってますけど。」


「人間なら鉄は食わんからのう。」


パクパク


ガリポリッ


ジャリジャリ


「なんか砂食ってるみたいな音がしますね。」


「まあ野生の魔獣なら気にならんだろうがのう。」


モーリス先生とセルマ熊ウォッチングをしていたが、グレースから声をかけられた。


「ラウルさん。傷の浅いヤツはまあまあ集めましたよ。」


「ありがとうグレース。」


「自分に特殊スキルがあってうれしいです。」


「それはよかったよ。」


グレースが回収を終えたのでみんなに出発の声をかける。


「それじゃあエミル!雨もあがった事だし山脈に向かって飛ぶかね。」


「了解。」


俺は再びCH-53K キングスタリオンを召喚する。


「では搭乗しましょう。」


皆でまた乗り込んだ。セルマは後部ハッチを開けてのそりのそりと入ってくる。


「エミルにばかり負担かけてすまない。」


「いや。全く問題ないよ。」


「とにかくここから先の山脈に、着陸できるところがあるか分からん。降りる時はおそらく不時着のような形になるだろう。」


「うっ。あれか…」


エミルはグラドラムにオスプレイで飛んだ時に、空中で放り出された記憶がよみがえったようだ。


「シャーミリア。着陸の時は一人ずつ空中で下ろすかもしれない。」


「かしこまりました。」


「では出発しよう。」


モーリス先生もグレースもオンジもケイナもその着陸の仕方を知らない。


《てかあれは着陸じゃないか、緊急脱出不時着って感じだもんな。》


雨は上がり晴れているわけではなかったが、風もなく飛ぶのは問題なさそうだった。


「先生、他にはどんな魔獣がいるのでしょうか?」


「すまんが西カルブ山脈に足を踏み入れたことは無いのじゃ。未知の魔獣が潜んでいる可能性もあるぞ。」


「わかりました。」


それを聞いて俺は機体後方に行く。


「セルマごめんよ。よっと。」


セルマ熊が体を少し避けて俺を通してくれる。


「よいしょ。」


後部ハッチにブローニングM3重機関銃を召喚して取り付ける。がっちり固定して動かないようにした。


「おっけ。」


そしてまた前の方に行く。


「セルマまた通してね。」


ぐるう


またひょいっとどけてくれた。


前方にある窓部分に行って窓開け放つ。


そしてまたブローニングM3重機関銃を召喚して固定する。


「オージェ。こっちの機銃をお願いできるか?」


「了解した。」


更に反対の機体右側に行って窓を開け放つ。


再びブローニングM3重機関銃を召喚して取り付けた。


「グレースはこっちをお願いできるか?あとはこれも置いておくから状況によって遠方の魔獣を頼む。」


グレースの前に召喚した武器はMk13 Mod.7スナイパーライフルだ。.300ウィンチェスター・マグナム弾を使用し有効射程1300m、グレースの腕前なら十分に成果を出せるはずだ。3箱の弾丸を積み上げておいて行く。


「おお!Mk13 Mod.7エアコッキングスナイパーライフルじゃないですか!こんな最新の武器も召喚できるなんて、ラウルさんおっとこまえー。かっこいいー!素敵―!」


「喜んでくれてうれしいよ。敵襲があったらよろしく頼む。」


「了解ですー。」


すると俺がそれを仲間に渡しているのを、ものっすごく羨ましそうに見ている人がいた。


「先生も何か欲しいですか!?」


「う、うむ。まあなんじゃ!よくわからんが、ラウルが良いなと思った物を預けてくれんか?」


「もちろんです。」


俺はM249軽機関銃を召喚した。


「じゃあ、先生は私と一緒に機体後部へ。」


そして後部の側面の小窓を空ける。


「ここから銃身をだして固定します。」


「ほうほう。」


固定器具も召喚して窓に取り付けた。


「そして相手をよく狙ってこのレバーを引きます。」


「ほうほう。」


「じゃあやってみてください。」


「いいのかの?」


「ええ。」


バララララララララ


「おお!出た!」


「はい!もし魔獣などが襲ってきたらここから攻撃します。」


「ふむふむ。」


モーリス先生がめっちゃ嬉しそうだった。


「じゃあセルマ!先生が反動で怪我とかしないようにお前が支えておくれ。」


ぐるるん!


「頼む。」


「おお!セルマよすまんの!楽ちんじゃ。」


モーリス先生がセルマ熊の柔らかいソファーに座って機銃を構え外を眺めていた。


「じゃあオンジさんはグレースのそばで外の警戒をお願いします。」


「わかりました。」


俺はまた後部ハッチに戻った。


「ファントム!来い。」


ファントムがセルマの後ろをぎりぎり通って後部まで来た。


「お前はいざという時ここで戦う事になる。」


そして俺は安全装置を召喚する。


ファントムの腰にがっちりとベルトを巻き、機内にフックを繋げてファントムにかける。


「これで後部ハッチを開けても落ちる事は無いだろう。」


「・・・・・・」


ファントムから返事は無いが、こいつは俺と連動しているため問題は無い。


そして俺はセルマの脇をすり抜けてシャーミリアの所に戻る。


「ミリア。周辺におかしな気配はあるか?」


「いえございません。」


「引き続き警戒してくれ。危険を察知したら外に出て機体の警護に移ってもらう。」


「かしこまりました。」


「兵器は敵の種類や形状で決めるから逐一報告を。」


「かしこまりました。」


俺はシャーミリアの肩に手を置いて笑う。


「お前が一番の頼りだからな。」


「はぁぃぃ。」


シャーミリアの腰が抜けた。


ハァハァ言ってる。


「コホン!」


「失礼しましたご主人様。必ずご期待に応えてごらんにいれます。」


「うん。よろしく。」


そして操縦席に行く。


「エミル。何か見えてきたかな?」


「いや…どこまで行っても山脈が続いているように見える。」


「本当だな。」


「そもそもどこまで行けばいいんだろう?」


「実はここに居る誰もがよくわかっていない。」


「だろうね。」


「グレースに何らかの反応があるか、もしくは本命のエミルに宿るシルフに反応がするか。まあ精霊神の指示だからなにかあるだろう。」


「それとまた魔獣が出ないとも限らんしな。」


「ああ、今全員で警戒態勢に入っている。」


「とにかく飛ぶしかないか。」


「そうなるな。」


俺達は前方に広がる山脈を見つめた。


「ケイナさんは大丈夫ですか?」


「ええ、疲れてもいません。」


「引き続きエミルをよろしく頼みます。」


「はい。」


「おい!何でラウルがそんなこと頼むんだよ。」


「いや、なんとなく。」


「そうよ。エミルいいじゃない!友達思いの人が側にいて幸せじゃないの。」


「まあ、そりゃそうだけど。」


《エミルが照れている。まあケイナはエルフだけあって美人だしなあ、イケメンのエミルとはめっちゃお似合いだ。》


「そんなことを言うなら、ラウルはどうなんだよ?」


「どうって何が?」


「お前に気に入っている相手がいないかって事だよ。」


「えっ……」


《唐突に言われてみればそんなこと考えたことも無かった。友達ならではの質問だが、いままで周りに魅力的な女性が多すぎて特定の人が好きなんてなかった。》


「あんなに美人に囲まれて誰も気になってないなんて言わないだろう?」


「すまん…特に考えてなかった。」


「マジか‥‥」


「えっ!なに?なにか考えた方がいいの?」


「いやいや考えた方がいいとかの問題じゃないよ。そもそも恋愛なんて考えてするもんじゃないと思うし。」


「そうなんだ。」


「そうなんだ、じゃないよ。」


するとケイナが言う。


「うーんエミル。ラウルさんはまだ心に決めている人がいないんじゃない?それもそんなに急かすものじゃないと思うけどな。」


「まあ急かしてるわけじゃないけど。びっくりしただけだよ。」


「まあ確かにね。あんなにたくさんの絶世の美女に囲まれて、何も思わない方が不思議ではあるわね。」


「えっ?ケイナさんもそう思うんですか?」


「あくまでも私の個人的な意見だから。気にしないでください。」


ケイナが俺にニッコリと微笑む。


《やばい、ヤバいぞ!俺はおかしいのか?でもそんなこと考えた事も無いぞ!》


《いいえご主人様!別におかしくなどございませんよ!ご主人様は御自分の思うがままにお選びになって良いと思います!》


《ミリア!そう?いいの?》


《ええもちろんでございます。特定の存在に決める必要などもございませんし、ご主人様はルゼミア王のご子息にございます。すべてを自由にしていただいてよろしいかと。》


《すっ!すべてを自由に?》


《はい。》


俺はパニくっていた。すべてを自由にとか言われても何が何やらさっぱりわからない。


《よくよく考えたら戦いばかりに夢中になっていて、そんなこと思ってもみなかった。》


《それは魔人達もマリアもカトリーヌもみな分かっております。》


《そうなのか?》


《はい。》


もしかしたらそう言う事を意識していないのって俺だけだったのかもしれない。


危険な西カリブ山脈の上空で、いきなり異性の事を考えさせられると思っていなかった。


「ラウル。」


「なんだエミル?」


「にやけてるぞ。」


「ぶっ!」


「嘘だよ。」


「お、お前…」


フロントから見える空はだんだんと夕方に近づいていた。そんな平和な会話をしている時んケイナが叫んだ。


「ラウルさん!見てください何か飛んでます!」


俺達が見る西カリブ山脈のはるか前方の上空に、何かが飛んでいるのが分かる。


「魔獣かな?遠すぎて何なのかわからない。」


「どうだろう。シャーミリア!何かが飛んでいるようだ!偵察に飛んでくれるか?」


「かしこまりました。」


オージェが開けてくれたドアからシャーミリアが外へ飛び出した。


ドシュウウウ!


背中に黒い羽を生やしヘリの前方を音速で飛んでいくのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] レインニードルの死骸をボリボリと喰らうセルマ熊 …っていうか、死骸に残った弾ごと喰らってるのか? …ちなみに…レインニードルって雨が降ってないときはどこにいて、雨が降ったらどんな風に襲って…
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