第30話 暗殺戦闘作戦
サナリアを出てからやっと1日だけゆっくり休むことが出来た。
2日もお風呂に入ったせいで・・我ら逃亡チーム全員水入らずで過ごせた。
本当に幸せな2日間だった。
みんなの疲れが少しは軽減され体も思うように動くようになった。
俺たちはグラムの遺言になってしまった手紙に従いグラドラムに向かう。敵がいつ現れるか分からないしな・・最後の日にイオナとマリアが身支度をしている間に、俺とミーシャ、ミゼッタの3人で薬師のデイジーさんのところに挨拶に出かけた。
街を歩いていると人だかりができていて揉めているようだった。
「この町に貴族の女が来ていないかと聞いているんだ!」
「と、もうされましてもこれだけたくさんの人が来ています。貴族がいるかどうかなんてわかりませんよ。」
どうやら騎士と町人が揉めているようだ。
ん・・?敵の兵士が追い付いたか・・ヤバいな。一応近くを歩いている女の人に尋ねてみる。
「あれは・・何を揉めているんですか?」
「なにやら、貴族の女とその一行を探しているらしいんだよ。逃亡者らしくてねぇこの周辺に現れたとかなんとか・・、貴族ったっていっぱいいるだろうし該当者なんてごまんといるしねえ・・それで町長ともめているのさ。」
「そうなんですか。ありがとうございます。」
たぶん間違いなく追手が来た。なぜこんなところまで!?どうしてそんなに俺たちに執着するんだろう。敵は南門から入ってきたのか?南側にも十数人の騎士の姿が見える。
「ミーシャ、ミゼッタ。宿に戻りすぐに出発しましょう。」
「そうですね。」
「お父さんを殺したやつら?」
「かもしれませんが・・触らない方がいいと思います。」
俺たち3人はゆっくりと歩くようにその場を立ち去った。急いで出発しなければならない。部屋に戻りそのことをイオナに伝えた。
「母さん・・追手です。どういう訳か既に町まで来たようですね。」
「まずいわね。それではすぐに出発しましょう。」
「やつらはちょうど南門から入ってきたようでした。東門から出ましょう。」
「わかったわ。」
ニケに部屋を出る旨を伝えた。すると犬の獣人のニケは耳をぴょん!と立てて言った。
「ありがとうございました。またぜひこの宿をご利用くださいね。」
普段より丁寧な言葉遣いをして俺たちを送ってくれた。そういう話し方もできるんだニケちゃん。
この宿は町の奥の方にある。そのわきの東門へ通じる道からであれば市場も広場も通らなくて済む。
「とにかく怪しまれないようにゆっくり進みましょう。慌てて逃げるように見せるのはまずいです。」
「わかっているわ。何かあった時の敵との話は私がするわ。マリアとミーシャは分かっているわね。」
「はいイオナ様、隣町で作業している大工への差し入れや工具を運ぶ仕事という事で良いですね。」
「打ち合わせ通りに。」
なんとなく無理やりな設定だが大工の奥様達という設定になっているらしい。口車を合わせる為の打ち合わせがすんで馬車を進めようとしたとき、俺は皆にやってもらう事があり出発を止めた。
「皆さん銃を出してください。」
イオナ、マリア、ミーシャ、が手前に銃を差し出す。
P320 ベレッタ92 VP9が三丁並ぶ。そのわきにM16も置いた。
「銃に、これをつけてください。」
俺の前に出てきたのは各銃に合わせたサイレンサーだ。
「この先端部分にこうやって付けます。」
皆、俺のマネをして銃の先端にサイレンサーをつけていく。
「これは射出音を消すもので静かに弾が出せます。射撃の音を出して町内にいる仲間に知られるとまずいので、万が一の時は音を立てずに殺ります。ホルスターに収めず握っていてください。では・・いきましょう。」
俺たちは怪しまれないように急がずに東門へ向かった。
馬が蹄でパカパカと音をたてながら荷馬車をひいていくが、蹄の音ですらビクビクしてしまう。後方には12.7㎜ M2 重機関銃が光っている。そして東門の方向に進んでいくと建物がまばらになっていき、人も少なくなってきた。
「マリア・・俺とマリアはここで馬車を降ります。」
俺が言うとマリアは素直にうなずくがイオナが聞いてくる。
「ラウル、私たちはどうすればいいのかしら?」
「ミーシャが手綱を引き母さんが隣に座ってください。念のためフードをかぶっていてくださいね。もし・・東門に敵兵が検問していたら、一瞬でいいので話をして気をひきつけてもらえますか?」
「ええ、それで?」
「母さんは敵のプレートメイルに刻まれた紋章で、どこの国の兵士かわかりますよね?」
「わかるわ。」
「俺とマリアが敵の後ろから忍び寄りますので、紋章がどこの国か確認が終わったら、俺に目で素早く瞬きをして合図をしてください。敵なら1回、味方の属国ラシュタルやシュラーデン、ユークリット公国の兵なら2回です。」
「わかったわ。」
「では、マリア俺は左方向から行きます。マリアは右後方から忍び寄ってください。東門付近の建物は確認していませんので、門までどのくらいの距離があるか分かりませんが、極力足音を立てずに走り込めますか?」
「ええ、森でファングラビット相手に散々やりましたから大丈夫です。」
「俺が撃つのを視認したらすぐ撃ってください。」
「はい。」
マリアは返事をした。
「それだと遅れちゃうわね・・」
イオナが作戦の穴を指摘した。
「私がマリア側の手で指を1本たてたら敵、2本なら味方という事で行きましょう。」
「母さんさすがです。ではさりげなくお願いします。ミーシャは母さんが合図をしたらすぐ馬車内に入り込んで、このサイレンサーをつけたM16を構えていてください。これがパターンAです。」
「パターン??」
イオナが聞いた事のない言葉にはてなを浮かべた。
「パターンとはなんですか?エイとは?」
マリアもちんぷんかんぷんの顔をした・・
あ、そうかパターンとかABCDとかこの世界の言葉になかった・・
「えっと、ではこれが決まりごとの1です。」
「あ、ああわかったわ。」
「わかりました。」
「そしてこれから言うのは決まり事2です。」
「ええ決まり事2ね。」
「はい、もし視認できる距離で明らかに兵隊の数が6人以上だったら、馬車を少し離れたところに止めていてください。僕が一人で彼らに近づいて聞いてきます。」
「えっ?」
「・・・・ラウル様・・」
「ラウル。それはダメよあなたが危険すぎるわ。」
「いえ、どのみち危険なのです。子供だと思って油断するはずですから、とにかく相手がどこの軍人さんか聞いて敵と分かれば手を上げますので、馬車を急発進させて逃げます。敵が追ってきたら母さんは馬車の中にある12.7㎜M2機関銃を構えて待っていてください。俺が横にそれたら一斉掃射してください。まあこれは敵にもばれますし作戦などとは言えませんが・・それしかありません。」
「賭けになるわね。」
「はい、掃射の後でマリアと僕が急襲します。マリアいいですね?」
「わかりました。」
皆、息をのんだ。もし処理しきれないほど敵の数が多ければ場合、俺たちは捕まるか間違いなく死ぬだろう。のるかそるかの勝負になるが切り抜けるにはそれしかない。
「これだと街中の敵にも気が付かれます。一気に馬車を走らせて逃げましょう。」
皆ゴクリと喉をならした。
「では。ミーシャ馬車を進めてください。」
馬車が進んだのを確認して俺とマリアは散開した。両サイドの建物の脇をすり抜けて裏側に回り込み馬車に追いつくように走る。
「やっぱり・・」
俺の速力は間違いなく上がっている。戦うようになってからなぜか身体能力があがっている。だが今はそれの解明をしている場合ではない。とにかく走る。
「あれが東門か・・」
馬車よりずいぶん先についてしまったようだ。
建物の脇から覗き見るように東門をみるが、やはり兵隊が立っていた。
しかし数は少ないように見えるな・・1、2、3、4・・4人だ。町の中にも兵隊はいたが全員でもそれほど数はいなそうだ。やはりこんな辺境に差し向ける兵はこの程度だろうな・・東門の脇には見張り小屋が申し訳程度にあり他に人はいない、門も木で作った柵程度のものだ。
マリアの回った側には俺の場所より近くに建物がある・・あの陰にいるんだとすれば距離的にはマリアのほうが敵までの到達が早いだろう。
と考えているとようやくうちの馬車が来た。
馬車をはさんで両サイドに兵隊が立った。馬車の上からイオナが話し始めたので、集中力を極限に高めて走り出す。イオナはこちら側の兵士と話をしているようだ。俺側に顔を向けるためだな・・
ビュン!!えっ??
なんか俺すっごく早いんだけど!マリアより早く到着しそうだ!俺はレオナの目線だけを集中してみた。距離があるのに瞬きがはっきり見える。
1回
パスパス
サイレンサーの銃が静かに火をふいた。俺側の兵士の後頭部に穴が開いて倒れかけている。馬の陰になって向こう側が見えない!大丈夫なのか!?死体を飛び越え馬の下をスライディングで滑り込むと、ちょうどマリアの足音を聞いて二人の兵士がマリアを振り向きざまに剣を抜いた。
俺は下から兵士二人を見上げる姿勢で銃を構え打ち込んだ。
パスパス
パスパス
俺とマリアの銃の射出音が同時だった。
俺の弾はふたりの首と後頭部の付け根から正確に上に抜けた。俺がスライディングを終えてマリアの股をくぐり反対側へ抜けた。振り向いた時にようやく地面に兵士が倒れ込んだところだった。
ドサ!ドサ!ドサ!ドサ!
死体は見事に眉間にも穴があいていた。マリアの射撃も正確だったようだ。
俺は素早くフランスF1テントを4枚呼び出して遺体を隠すようににかけた。周りの家も見渡すが誰も出てくることはなかったようだった。静かに4人の兵隊を殺す事ができたようだ。
「さて・・それでは急いでテントで遺体をくるみ馬車に乗せましょう。母さんは水魔法ですこし飛び散った血を洗い流してください。」
「ええ。」
俺とマリアとミーシャとミゼッタの4人で手早くナイロンで遺体を包み、荷馬車に積み込んだ。
「終わりました。母さん馬車を出してください。」
直ぐに馬車を出発させる。もう何事もなかったように。
「母さんそれで、どこの兵隊だったんですか?」
「バルギウス帝国よ。」
「もうこんなところまで・・」
「早すぎますわね。何らかの移動手段があると考えた方が良さそうね。」
「馬ですか?」
「いえ、馬よりもっと速いものでしょう。」
「あいつらは魔獣を使っていましたからね・・」
森で出会ったグレートボアに乗った兵士の事を言う。
「魔獣・・そうね。何か魔獣を使っていると推察するのが正しいかもしれないわね。」
「魔獣ですか・・」
俺たちはとにかく馬車を北東に進ませた。東門の兵士がいなくなったことにそのうち気が付くだろう。そうすればこちらに追手が来るかもしれない。しかし痕跡がない以上しばらくは兵士を探すはずだ。時間稼ぎが出来る今のうちに距離を稼いでおいた方がいいだろう。
「それにしてもラウル様の動きが早くて私は目で追えませんでした。」
マリアが俺の動きについて話す。
「はい・・なんでしょう?よくわからないのですが、先ほどの戦闘の後も何だが力がみなぎるというか変な感じなんですよ。」
「グラム様の動きにも似たような気がしますが、それとも違うどこか獣のような鋭さがありました。」
俺とマリアはそれが何なのか分からないので、そこで話が止まってしまった。
「あの・・それについては私から後で話があるわ。」
イオナから声をかけられる。もしかしたらイオナは何かを知っているのかもしれない。何だろう??魔法に関する秘密とかあるのかな?早く聞きたい。
しばらく馬車を走らせているとイオナが口を開く。
「後ろのバルギウスの兵士の死体を午後には処分しましょう。」
「はい。燃やしてしまうと煙が立って追手が来る可能性がありますので、埋めるか捨てるかしたいですね。」
俺がそう答えいるとイオナが言う。
「屍人やスケルトンになる可能性がありますがやむをえません。」
俺とイオナが話していると馬車の中で震えていたミゼッタが声をかけてきた。
「あの・・死体を私の結界で覆ってその中で焼けば煙は上に上がりません。」
「え?そんなことできるの?」
俺はそんな便利な事があるとは思っていなかった。ミゼッタすげえ。
「はい。」
「それならば午後といわず早めにやってしまいましょう。」
しばらく馬車を走らせて森に入っていく。さらに馬車を進めたところで・・
「それではこのあたりで。」
イオナが馬車を止めた。
俺たちは4体の死体を引きずりおろして森の中に運んだ。おれはM9火炎放射器をひっぱりだし背負った。ミゼッタが手を前に突き出して死体のほうに光をあてた。するとガラスのような光のようなもので遺体が包まれた。
「外から物をいれられます。空気も通っていますから。」
ミゼッタが俺に合図をくれるので、俺は結界にM9火炎放射器の先端を結界の中に突っ込んで火炎をはきだした。するとピラミッド型の結界の中が炎に包まれた。しかし外部には炎は出てこない。
すげええええ。
臨時の火葬場はあっというまに4人の死体を焼き尽くした。結界を解くと多少残っていた煙は四散した。のこった熱々のフルプレートメイルにイオナから水をかけてもらって冷ました。ヨロイはすべて土に埋める。
4人の兵士には家族はいたんだろうか?なにも知らないまま誰にも気が付かれずにこの世から消えた。
俺たちは馬車に戻り何事もなかったように北東に馬車を進めるのだった。
ミゼッタの結界・・いろんな使い方がありそうだ。
俺は戦術のバリエーションを考え出すのであった・・
次話:第31話 バルギウス兵士 ~ジークレスト視点~