第298話 爆弾豪雨の殺人魚
西カルブ山脈の麓に到着したのだが物凄い雨が降ってきたため、そのままキングスタリオンの中でやり過ごす事にする。
ドッザァー
バケツをひっくり返したような雨で、視界が悪くヘリでの移動が危険と判断したのだ。
「豪雨か。もしかしたら魔獣の攻撃にあうかもしれんのう。」
「魔獣の?」
「そうじゃ。雨に隠れて襲って来る魔獣もおるんじゃよ。」
「雨に隠れてですか?わかりました一応警戒しておきましょう。」
「どうするのじゃ?」
俺は手を伸ばして武器を召喚する。出てきたのはShAK-12突撃銃2丁。12.7×55mmの大きい弾丸を装填した銃だ。俺はファントムの両手に1丁ずつ持たせた。
「ファントム。外に出てこの機体を護衛しろ。」
俺がヘリの側面ハッチを開ける。
モーリス先生からの忠告に従って、ファントムを外に出す事にしたのだった。
シュッ
ファントムは豪雨の中に消えていった。
「それにしても、この豪雨で動ける魔獣がいるんですかね?」
グレースが言う。
「ふむ。もちろんおるぞ、豪雨だからこそ動く奴がおる。」
《そりゃ危険だ。》
「シャーミリアも念のため周囲の警戒を怠らないように。」
「かしこまりました。」
「しかし魔人は凄いのう。人間のパーティーであれば安全な場所まで引き返すしか方法は無かろうて。あとはこのヘリじゃな、鉄の防護壁がある分かなり安全じゃ。」
「そんなおかしな魔獣がいるのなら危なくて仕方が無いですね。」
「そうじゃな。」
《なんの警戒も無く外に出て行ったら危なかった。モーリス先生を連れてきてよかったな。》
「それにしても凄い雨です。」
エミルが言う。
「山に入る前で良かったと思うがの。」
「確かにそうですね。」
するとシャーミリアがピクリと反応する。それと同時にオージェも何かに気が付く。
「ご主人様。」
「なんだ?」
「ファントムが戦っております。」
「そうなのか?」
俺が言うとオージェがそれを肯定するように言う。
「ラウル。かなりの数を相手しているぞ。加勢したほうがいいんじゃないのか?」
《どうやら強烈な雨音に紛れて銃の発砲音が聞こえるな。》
「そうしたほうがいいな。」
するとモーリス先生が言う。
「しかしじゃな。恐らく今戦っている魔獣は雨の中では姿が見えんぞ。」
「えっ?」
「雨が降ると姿を消してしまうのじゃ。」
「それじゃあ、どこから攻撃されるか分からないという感じですか?」
「そうじゃ。わしは気配感知が出来るしオンジさんも出来るじゃろう。オージェもシャーミリア嬢も似たような事ができるじゃろうが、わしら人間はその魔獣の気配を感知したところですぐに殺されてしまうわい。オンジさんでもどのくらい持つかといったところじゃ。戦えるのはオージェとシャーミリア嬢とマキーナ嬢だけじゃろうよ。」
「他の4人は?」
「どこから攻撃されとるのかも分からんうちにあの世行きかもしれん。」
「そんな魔獣がいるんですか。」
「じゃから西カルブ山脈は人間が立ち寄る事ができんのじゃ。」
ガン!
ガゴン!
ゴン!
どうやらヘリの装甲に何かがぶつかってきているようだ。
「何かぶつかってますね。」
「おそらくその魔獣の仕業じゃな。念のためわしが結界を張ろうかのう。」
次の瞬間だった。
ガシュゥ
いきなり機体の装甲を突き破って中に何かが入って来た。
「えっ?」
びちびちびち
機体の上から落ちてきたのは槍のような魚?つらら?透明感ある何かだった。それが床でびちびちと飛び跳ねているのだ。
「レインニードルじゃ!危険じゃぞ!」
シュッ
いきなりそれがこっちの方に飛んできた。
スパッ!
レインニードルと言う魔獣は俺達の目の前で輪切りになった。魚の輪切りのように目の前に落ちた。
シャーミリアが爪で切り裂いたらしい。
「ご主人様!大丈夫ですか!」
「ああ、問題ない。」
するとグレースが言う。
「えっえっ!これいま装甲を貫いてきましたよ!」
「だから危険なんじゃ!」
ガン!
ガゴン!
ガッ!
あいかわらずレインニードルが機体にぶつかってきているらしい。いつまた装甲が破られるか分からない。
するとオージェが言う。
「私が外に出ます!」
《なんか危なそうだけど大丈夫かね?》
「ふむ。オージェなら大丈夫じゃろう。」
《モーリス先生が言うなら大丈夫なんだろう。》
「ならば、シャーミリアお前も行ってくれ。」
「はいご主人様。」
「とにかく俺が兵器を出すから何とか対処してほしい。」
「了解だ。」
「かしこまりました。」
ドン
ロシアPKM機関銃とベルト給弾バックパックを二つ召喚する。
「オージェ、シャーミリア!弾丸が無くなったらすぐに合図をおくってくれ。マキーナはここでみんなを守れ!」
「わかった!」
「かしこまりました。」
「わかりました。」
「わしが念のため結界を張る!しかし何度も攻撃を受ければ当然もたんぞ。」
「二人が出たら結界をお願いします!」
ガラガラ
俺が横のハッチを開けると二人は外に踊り出て行った。
「気を付けて。」
ガラガラ。バン!
ハッチを閉めた。
ガガガガガ
雨音に紛れて機関銃の音が鳴り響いている。二人が戦いに参戦してくれたおかげで、機体にぶつかる音がしなくなったようだ。
《ファントム一度戻れ!兵装を変える。》
ゴンゴン
ファントムが機体側面に来たようだった。
「先生!ここだけ結界を解く事は?」
「簡単じゃ!」
「入れ!」
ガラガラガラ
ファントムが中に入って来た。
びちびち
びちびち
「なんか2匹刺さってますけど!」
グレースが叫ぶ。ファントムの胴体に2匹のレインニードルが刺さっていた。
「ファントム吸収しろ。」
シュウシュウ
レインニードルはファントムの体内に吸収されていった。
「よし兵装を変えるぞ!」
俺はブルパップ式のセミオートショットガンIWI Tavor TS12を2丁召喚した。敵が細かすぎて機関銃では当たりにくいと考えたからだ。これならショットガン16発をセミオートで撃つことができる。
ファントムが両手にセミオートショットガンIWI Tavor TS12を装備して構える。
「よし!行け!」
ガラガラガラ
「先生結界を!」
「わかった!」
結界の穴からファントムが消えていった。
バッスゥ
バッスゥ
ファントムの武器の射出音が雨音の中から聞こえてくる。
《シャーミリア!兵装を変える!来い!》
《かしこまりました!》
コンコン
「先生!」
「わかった!」
そして結界を解いた穴からシャーミリアが入って来た。
「この兵器を使え!」
ファントムと同じく、セミオートショットガンIWI Tavor TS12を2丁召喚してシャーミリアに渡す。
「ありがとうございます。」
「オージェにも伝えてくれ!」
「かしこまりました。」
ガラガラガラ
またハッチを開けて結界を一部解除しシャーミリアが外へと出て行った。
ゴンゴン
オージェが戻って来た。
「なんだ?」
オージェが聞いてくる。
「兵装を変える!」
「わかった!」
「先生!」
「よし!」
ガラガラガラ
モーリス先生が結界を解く。
「これを使ってくれ!」
「セミオートショットガンか!助かる!細かくて当てずらいんだ!」
「よかった。」
そして俺はまたセミオートショットガンIWI Tavor TS12を2丁オージェに渡した。
「出してくれ!」
そしてオージェはまた外へと出て行った。
「この兵装の交換方法はかなり危険じゃのう。」
「ですが弾丸が切れてしまうのです。」
「うむ致し方あるまいな。」
「開けた時にレインニードルに飛び込んでこられると危険ですね…」
するとオンジが言う。
「1匹2匹なら私が斬捨てます。」
「わかりました。」
《待てよ…そういえばファントムをアイテムボックス代わりに使えないかな?》
そろそろファントムの弾丸が切れそうになるので俺はまた念話で呼ぶ。
《ファントム!来い!》
ゴンゴン
「先生。」
「ふむ。」
オンジが剣を構えてハッチの方を向く。
「開けます!」
ガラガラ
シュ
「やはり!ここが開くのを覚えよった!」
俺がハッチを開けたところをめがけて、4匹のレインニードルが飛び込んで来た。
《やば!俺串刺しになる!》
シュパシュパ
ボトボト
どうやらオンジさんが斬捨ててくれたようだった。1匹はマキーナが始末したようだ。
「ありがとうございます!」
「いえ!」
ファントムにはまた数匹レインニードルが刺さっていた。瞬く間に吸収する。
「ファントム!俺がセミオートショットガンを大量に召喚する!全部食え!」
俺が床にセミオートショットガンを大量に召喚して置いて行くと、ファントムの口が四方に開いて大道芸人のように次々とショットガンを飲んでいく。
《だめだ!時間がかかる!》
「口を開いとけ!」
がっぱぁ
ファントムの口がのどまで大きく裂けた。
ズボ
俺はファントムの口から手を突っ込んで、体内に300丁のセミオートショットガンを召喚する。
《うわぁ…ちょっとキモイ。》
俺が手を抜くとバグン!と口を閉じた。
《シャーミリア!ファントムに同じ武器を大量に飲ませた!弾が切れたらファントムから取り出せ!オージェの武器が切れたら渡すようにしてくれ!》
《かしこまりました。ご主人様!》
ガラガラガラ
ファントムがまた外に出ていく。
「ふう。」
「な、なにあれ?」
グレースがファントムを見て青ざめて言う。
「ああ、ファントムの能力だよ。」
「おっかないですね…」
「グレースもおそらく似たような構造になっている物を持ってるんだがな。」
「えーそうなんですか!それが使えればだいぶ楽なんですけどね。」
「そうだよ。何とか習得してほしいんだ。」
「努力します。」
暫くのあいだ雨音の中でかすかに銃声が聞こえていたが、その銃声が次第に無くなって来た。それと共に雨がだんだんと小降りになってきたようだった。
「音が止んだね。」
エミルが言う。
「雨も止んだしの。そろそろ結界を解くとするかの。」
「大丈夫でしょうか?」
「気配はない。大丈夫じゃろ。」
先生が力を抜く。
ストン
先生が座り込んだ。
魔力を消費しすぎて体を支えられなくなったらしい。
「先生!大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃよ。まあちと疲れたがのう。」
「エリクサーを!」
俺は先生にエリクサーを渡した。
「すまんの。」
ゴクゴクゴク
「ふう助かったわい。」
「では私が様子を見に外に出てきます。」
「気をつけるんじゃぞ。」
俺もセミオートショットガンIWI Tavor TS12を手にして構える。エミルに目配せするとハッチを開けてくれた。
ダッ
ハッチから外に飛び出る。すると目の前に3人が立っていた。
「ふう。ラウル、中は大丈夫だったか?」
「オージェ!あちこち血が出てるぞ!」
「大丈夫だ。刺さりはしてない。」
「これを!」
俺はオージェにポーションを渡した。
「助かる。」
オージェがポーションを飲むと傷が消えていく。
「シャーミリア!」
「はい、ご主人様。」
「お前は大丈夫なのか?」
「刺さりはしましたが、すぐに回復いたしましたので問題ございません。」
シャーミリアの服があちこちボロボロだった。
「お前のドレスが…」
「かまいません。またどこかで入手いたします。」
「とりあえずは俺が服を召喚するからあとで着替えろ。」
「ありがとうございます。」
側に立っているファントムを見れば、何事もなかったように遠くを見ていた。
そしてある事に気が付いた。
「生臭いな。」
俺が言う。
「ああ、周りを見てもらえば分かる通りレインニードルの山だ。」
「そりゃこれだけ死体があれば臭うか。」
「とにかく皆が無事でよかった。」
「オージェ本当に助かったよ。」
そして俺は機体に戻りみんなに安全な事を伝える。
「よくぞ乗り切ったものじゃな。」
「本当です先生、私達だけなら死んでましたね。」
「まったくじゃ。こんなに山ほどレインニードルが?」
「そのようです。」
「そりゃいい。」
「なにがです?」
「焼いて食おうではないか。」
「えっ?これ食えるんですか?」
「なかなかにイケるぞ。」
周りを見ると山ほどレインニードルの死骸がある。
《いや、かすかに生きているのもいるか。》
「食うにしてもここでは厳しいですね。臭いがひどい。」
「そうじゃな。まだ生きているのを拾って場所を移して食おうかの。」
「そうしましょう。」
《だが新鮮に保存するにはどうすればいいだろう?さすがにファントムに食わせて吐いたのを食いたくはない。》
「グレース!あの岩塩を消した時のように、しまいこむイメージはつけられるかな?」
「どうでしょう?やってみます。」
グレースがレインニードルを触りながら目をつぶる。
スッ
「おお!消えた!」
グレースが喜んでいた。
「よし!どんどん拾って行こう!」
自分の特殊能力に喜んだグレースが次々とレインニードルをしまっていくのだった。
《ふむふむ。俺にとってグレースはアイテムボックスだな。》
俺はレインニードルを拾い集めるグレースを見てほくそ笑むのだった。