第297話 賢者に真実を
俺達は西カルブ山脈に向けて飛んでいた。
二カルス大森林の上空を飛ぶCH-53Kキングスタリオンはまるで巨大な魔鳥だ。
チヌークヘリより大きなその機影は威風堂々としていた。
「まさか最新鋭機に乗る事が出来るなんてなあ。」
オージェがしみじみと言う。
オージェ(皆川)の前世は陸自のレンジャーだった。CH-53Kは米軍の最新ヘリなのでもちろん乗った事は無い。その機種の事は知っていても俺が召喚した時には驚いていた。
「ほんとですよ。ラウルさんは何でこんな機体を召喚できるんですか?」
「それがよくわからないんだよ。強敵を倒したり殲滅したりするとデータベースがバージョンアップされるみたいなんだ。」
「データベースとか、そのインターフェースを見てみたいですよ。」
「グレースが見ればよくわかるかもしれんけどね。俺は熟知してないんだよね。」
《システムに詳しいグレースなら何かわかりそうなんだが。》
「それでもこんな機体を召喚できるんだから凄いよな。」
エミルも感心したように言う。
すると俺達の会話を聞いていたモーリス先生が話す。
「おぬしたちはもしかすると同じ故郷から来たのかの?」
《さてと…今回の目的の一つを果たすか。》
今回モーリス先生だけを連れて来た一つの目的、それはモーリス先生に俺達4人の素性を明かそうと思ったのだった。
「あの先生。皆にはまだ内緒にしていただきたいんですが、私とエミル、グレース、オージェは皆同じ世界から生まれ変わって来たのです。」
《さてどういう反応になるかな?》
「ふぉふぉふぉふぉ。そうじゃろうて。驚きゃせんよ。」
「えっ?先生は分かっていらっしゃったのですか?」
「むしろ、わしが分からんと思っとったのか?」
「いえ!さすが先生です。そのご慧眼は本当に素晴らしいです。」
「そんな大したもんでもないわい。しかし4人は前世では何をしとったんじゃ?」
「先生に分かりやすく申しますと冒険者パーティーのような物です。」
「ほう、冒険者パーティーとな。」
「はい4人で一組でした。前世のある特定の場所では敵なしだったんですよ。」
「ふぉふぉふぉふぉ。なんとなくわかる気がするわい。」
「まさかこの4人がこの世界でも一緒になるとは思ってませんでした。」
「因果もしくは輪廻と言ったところじゃろうか。まあ運命と言っても良いかもしれぬな。」
「はい偶然ではないなと思っています。」
するとオージェが言う。
「ラウルは凄い隊長なんです。コイツと居るとどこに行っても楽しい事ばかりで、この世界に来てもこんな面白そうな事に首を突っ込んでるなんて、思わず笑ってしまいましたよ。」
「そうかそうか。まあわしも生きている間に、こんなものすごい冒険に巻き込まれるとは思わなんだ。」
「ラウルとオージェはいつも俺達を引っ張っていく存在でした。ただついて行くだけだったような気がします。」
エミルが言う。
「しておぬしは今世ではエルフに。前世では4人は何者だったのじゃ?」
「人間です。」
「ほほう!面白い!それが揃いも揃って人外に生まれ変わるとわな。ますます興味深いわい。」
「僕なんて性別無いですしね。」
「そうじゃな!おぬしなど神じゃからな。まさかの転生じゃったな。」
「本当ですよ!しかも男だったのに見た目がかわいらしい少女じゃないですか、なんかバルギウスに居る時は変な目で見られたりもして嫌でしたよ。」
「あっはっはっはっ!そりゃたまらんな。して今はどっちが好きなんじゃ?」
「感情的に女性と言いたい所なんですが、それがそうでもないんですよ。異性に対しての欲が全くないんです。」
「まあそうじゃろうな。虹蛇にそんな感情があるとも思えん。」
《前世ではITで成功してお金もあって、(そっち方面でも)不自由して無かったのだが、今世では全く欲が無いとか。面白い…》
「ラウル。良かったのか?配下達も聞いてるみたいだけど。」
オージェが言う。
「念話で全部駄々洩れだし今更だよ。なあミリア。」
「はいご主人様。意味はそれほど理解しておりませんが、直属の魔人は皆分かっております。」
「そうか。念話と言うのも大変なものだな。」
「ああ、いろんな考えが伝わってしまうからな。」
「うわあ。」
《オージェが言う恥ずかしい思いは、だいぶ前に経験して克服しちゃったぜ。》
「エミルはいいのか?ケイナが聞いてるけど。」
「ええ、私もさほど驚いてません。そして私はエミルを嫌いになる事もありません。」
「い、いや。だからって手を握る事は無いんだよケイナ。」
「いいじゃない!手ぐらい。」
《また・・痴話げんかをしている。》
「オンジさんはどうです?」
「虹蛇様であればそのくらいの事はあって当然かと。」
「そ、そうですか。」
《オンジさんはグレースの事なら何でも許すかまえのようだ。そりゃそうか…虹蛇を守る家系に生まれたんだもんな。》
モーリス先生が話を続ける。
「それでラウルよ。これらは前の世界の兵器という事かの?」
「そうです。前世はこの世界とはまた違った文明なんですよ。」
「ふむ。魔法などはあるのか?」
「いいえ。魔法など使える人間はおりません。先生がもし私達がいた前の世界にいたら超人ですよ。」
「わしなどがか?」
「ええ、魔法が使える人間などいないですからね。さらにこんなに多彩な魔法を使える人は超人以外の何者でもないです。エスパーと呼ばれると思います。」
「えすぱぁ?」
「そうなるでしょうね。」
オージェも言う。
「この世界ではおぬしたちが超人じゃがな。」
「先生。まさか私もこんな能力を持って生まれるとは思ってませんでした。」
「私もです。」
「私も。」
「僕も。」
「ふむ。とにかくこんな面白い力を持った4人が集まったのじゃ、必ず意味があるじゃろうな。この世界を冒険するよりおぬしらを見ていた方がずっと面白い。」
モーリス先生が目を細めて俺達を眺める。
「先生。我々は何かの目的のためにこの世界に呼ばれたんだと思います。」
「そうじゃろうな。」
「そして虹蛇がグレースに受体。これからエミルが精霊神に会いに行くことが決まりました。」
「ふむ。虹蛇様の言う事を考えれば後は魔神と龍神とあとはアトム神か。」
「ええ。」
「ラウルは魔王子、オージェが龍の民なのじゃろう?こんな偶然などないわな。」
「先生やっぱりそうですよね?」
「おぬしらの前世にはあと仲間はおらんかったのか?」
「ええこの4人だけですが?」
「ならばアトム神、言わば人の神様じゃな。それに該当するものがおらんがな。」
「確かにそうですね。私もオージェも心当たりがありません。もちろん後の二人にもです。」
「どういうことじゃろな?」
「わかりません。」
するとグレースが言う。
「話が変わるのですが、もし何らかの目的のために僕たちが呼ばれたとするならば、僕は虹蛇を受体しエミルは精霊神を受体する。ラウルさんとオージェさんは一体どうなるんでしょう?」
「普通に考えるならばおぬしらも受体じゃろうが、その様な事を聞いたりしたことは無いのか?」
「私はルゼミア王からは何も。」
「私も龍の国で何かを聞いたりしたことは無いですね。」
「そうか。まあそれがゆえにこれから魔人国と龍国へ向かうのじゃろうからな。」
「はい。」
《うーん。ここまで話せばモーリス先生なら何か手がかりを持っているかと思ったんだけどな。》
「もしかすると…」
モーリス先生が言う。
「えっ?先生なんです?」
「いやあくまでも仮説なのじゃがな。」
「はい。」
「おぬしらが敵対しているのはアトム神だったりせぬかの?」
「えっ?」
「まあしかし、おぬしらに心当たりが無ければそうとは言えんか。」
「うーん。よくわからないですね。」
「モーリス先生。」
「なんじゃ?」
エミルがモーリス先生に話す。
「私が受体すれば何かつかめる事があるかもしれません。」
「そうじゃな。何かを得る可能性はあるし、精霊神の泉でのことのように元の虹蛇様が現れるやもしれん。」
「とにかく情報が欲しいですね。」
「まずは行動あるのみじゃ。」
「はい。」
「はい。」
「わかりました。」
「そうですね。」
俺達4人がモーリス先生に返事をする。
《この世界の事はやはり賢者に聞いた方がいいだろうと思い、俺達はモーリス先生に正体を明かす事にした。それは正解だと思う。俺達では分からない事があるかもしれない、その時に賢者の知恵が必ず必要になると思ったのだった。》
「そしてもう一つ、セルマの事なんじゃがの。」
ぐるぅ
セルマがきょろりとこっちを向く。
「セルマがどうかしましたか?」
「魔獣に人間が宿るなどと言う話は聞いた事が無い。通常は屍人になるかスケルトンになり果ててさまようだけじゃ。それが生前の記憶をそのままに魔獣に魂を宿しておる。これもかなりの不可思議な事案じゃよ。」
「そうなのですね?今までにそういう経験は無いのですか?」
「無い。」
「私の推測で良いでしょうか?」
俺が言う。
「ふむ。」
「セルマが宿る事になったレッドベアーには、私が召喚した兵器の弾を嫌と言うほど撃ちこみました。そして私の兵器で人間などを倒すと、どうやら何らかの力を吸い取るようなのです。」
「なんらかの力‥‥おそらくは魂じゃな。」
「はい。私の弾をレッドベアーが体内に残留させることで、逆にレッドベアーが殺したセルマの魂を吸いこんでしまったんじゃないかと思うんです。それが私に還元されることなくレッドベアーに留まってしまった。」
「なるほど。ラウルよその話が本当であれば、おそらくはそれで間違いないであろうよ。」
「ある意味使役しているような形になるかもしれないんですが、こんなのはかなり特別な例だと思うんです。」
「魂の定着か‥‥ふむ。ありえん話でもないかの。」
「先生はそう思いますか?」
「現にここにおるレッドベアーはセルマなのじゃろう。確率的にそう考えるのが一番高いと思うがの。」
「わかりました。」
「屍人というのは魂は抜けてしまっておるのが普通じゃ。それなのに彷徨う魂がレッドベアーに定着してしまうとはのう。ますますおぬしの力は面白いのう。」
「まだまだ不確定な要素がいっぱいありまして、能力の何割くらい使えているのかわからないんです。」
「ひとつひとつ検証していくほかなかろう。」
「先生。ぜひこれからも私に知恵をお貸しください。」
「わしの老いぼれた知恵ならいくらでも貸してやるわい。」
「それを聞いて安心しました。」
モーリス先生にすべて打ち明けてどこかスッキリした。安心感に包まれるような気持だった。
「二カルス大森林を抜けます。」
エミルが言う。
俺達が窓の外を見るとどこまでも続く西の山脈が眼前に開けていた。
「うほほ。こりゃ壮大な景色じゃのう。また見れることになるとはサイナスにうらやましがられるわい。」
「また来たんですね。西の山脈に。」
謎の多い西カルブ山脈だが、この山脈にはどんな魔獣や自然現象が待ち受けているか分からない。
「なんだか雲行きが怪しくなってきました。」
空がどんよりとしている。一雨来そうな天気になった。
「ラウル。そろそろ燃料が無くなるぞ。」
「もうか?」
「二カルス大森林はおかしな程広い気がする。やはり普通の森とは何かが違うんだろう。」
オージェが言う。
「そうだ。グレース!虹蛇は本体をもっていて体現化していたんだが、出来たりしないかな?」
「すいません。ラウルさん、皆目見当がつきません。」
「わかった。ならばまた同じ機体を召喚するよ。どこか着陸できそうな場所へ降りてくれ。」
「ラジャー!隊長。」
西の山脈手前の広い草原のような場所にCH-53Kキングスタリオンは降下していくのだった。
ゴロゴロゴロゴロ
「雷ですね。」
グレースが言う。
「虹蛇様なのに天候のコントロールとか出来ないのか?」
「すみません…それも皆目見当がつきません。」
ヘリが着地する頃には大ぶりの雨になっていた。