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第296話 精霊神の天啓

エルフ達が用意した料理をグレースがもぐもぐ食べている。


俺達も一緒に食べていいと言うので同じテーブルで食べてるのだが、エルフの長老たちが手をつけなかった。


「あのう、良かったらエルフの皆様も一緒に食べませんか?」


グレースが言う。


「虹蛇様と一緒になど恐れ多い。どうぞお気兼ねなくお食事をお楽しみください。」


「えーと、それだと僕が気になるので命じます一緒に食べましょう。」


「そ、それではご一緒させていただきます。」


3人のエルフの長老たちが料理に手を付ける。


「よかった。一緒なら僕も食べやすいです。」


「気遣いをさせてしまい申し訳ございません。」


「いえいえ。ご一緒出来てうれしいです。」


虹色の髪をした少女のようなグレースがめっちゃ腰低くペコペコしている。するとさらにエルフがさらに腰低くペコペコするという不思議な光景だ。


「グレース。」


俺がグレースに目配せをする。


「あのう。長老様方にちょっとお伺いしたいことがあります。」


「なんなりと。」


「精霊神についてなのですが。」


「はい。」


「単刀直入に言いますと精霊神にお会いする事などは出来ますでしょうか?」


「それはどうでしょうか?私たちが会いたいと言って会えるものではございませんし、一番の長老である私でも一度もお会いできたことが御座いません。」


「そうなんですね!エミルとケイナは精霊神より精霊を宿されたと聞いていますが。」


「それはその通りです。精霊神の泉にてその資格のあるものが受ける加護でございます。」


「精霊神の泉?」


「ええ、ラウル様も行った事があります。」


グレースが俺を見る。


「ああ、エミルとケイナの儀式を見せてもらったんだ。」


「なるほどなるほど。」


「エミルにお宿りになられたシルフ様も、ケイナにお宿りになられたノーム様も精霊神の化身にございます。」


「化身?じゃあ前の僕と一緒だ。」


「虹蛇様は受体なされたのですね。」


「ああ知ってるんですか?」


「はい。」


「まだ受体したばかりですけど。」


「左様でございましたか。それは素晴らしい、お受け継ぎになられたのですね。」


「はい。よくわかってませんがそうらしいです。」


エルフの絶品料理が次々と運び込まれてくる。前世で言うところのオーガニックな野菜を使った料理と言う感じで体によさそうだ。


「あのう、食事が終わりましたら精霊神の泉とやらに連れて行っていただけませんか?」


「よろしいかと思います。私が生まれてから他のご神体が泉を訪れるのは初めてです。」


「ではよろしくお願いします。」


食事を終えて俺達は精霊神の泉に来た。


「ここが精霊神の泉。」


グレースがポツリと言う。


皆がグレースを見つめる。どうやら次の言葉を待っているらしい。


「なんの変哲もない沼だけど、かなり透き通っているかな?水が綺麗なんだろうね。」


エルフの長老も俺もオージェもモーリス先生もオンジも俺の配下も、グレースの次の言葉を待つ。


「ここはきっと普通の空間とは違うんだよね。それなのに森も空も湖も外の物と同じように見える。」


《きっと何かを感じ取っているんだろう。次に何か重要な言葉を言うかもしれない。》


「・・・・・」


グレースが何かを考え込んだ。


「えっと。」


いよいよだ。


「なんで皆は静かなんですか?なにか話をしましょうよ。」


「え?グレースからはなんか無いの?」


「ええ、特には。」


「きっと虹蛇様は長旅でお疲れなのでございましょう。お休みになられてまた明日にでも来られてはいかかでしょうかな?」


エルフの長老が気遣う。


「グレースそれでいい?」


「いや。実は僕もここに来れば何かが起きるかと思ったんですが、特に何かが起こる気配が無くて場が持たなくて適当な話をしてたんです。」


《そうだと思った。》


グレースの身もふたもない発言で少し場が涼しくなってしまう。


するとずっと黙っていたオンジが口を開いた。


「大変差し出がましいのですが、グレース様が泉に入られてはいかがでしょう。」


なるほどその手があった。


「あーなるほどね。オンジの言うとおりだな。」


グレースは勢いよく俺が与えていた迷彩戦闘服を脱いで下着になった。


「虹蛇様!そのような!」


エルフの長老が言うより早くグレースが湖に飛び込んだ。


ジャバ―ン


勢いよく水しぶきが上がる。


パァァァァァァ


湖が光り輝いた。


「おお!これは一体なんじゃ!」


モーリス先生がたまらず口を開く。


「グレース!大丈夫か?」


俺がグレースに声をかけるが、胸まで湖につかりながらこちらを振り向かない。


エルフの長老たちが何やら祈りを捧げている。しかし俺達には何がどうなっているのか分からなかった。


パシャ


グレースが水面に仰向けに倒れたと思ったらスルスルと岸まで泳いできた。いや体を動かして泳いでいるようには見えない。何かがグレースを岸まで運んできているようだ。


ズサササ


グレースが魚のように岸に打ち上げられた。


「グレース!」


グレースの目が閉じられてピクリとも動かない。


《おいおい。これ大丈夫なのか!》


俺達がグレースを覗き込んでいると。


パチ


グレースが目を開けた。


「ん?ラウルさん。どうしました?」


「いやいやこっちのセリフだよ。」


「なにが?」


「入水したと同時に光り輝いて、グレースが岸に流れ着いたんだ。」


「あ!そうだ僕は湖に飛び込んだったんだ。」


「それで?」


「あれ?なんだっけ?なんか大事な事があったような気がする。」


「それは?」


「それが思い出せません。」


《そんな‥確実に何かが起きたというのに。》


そしてグレースがむっくりと起きあがった。その時グレースの足元にいたエミルと目が合う。


次の瞬間。


虹蛇から七色の光が発せられた。


「そなたはエルフの光じゃな。」


「は、はい。」


グレースの口調がいきなり変わった。


「我は受体を済ませた。次は精霊神の番じゃ、次の世代に移行せねばならぬときが来たようじゃ。」


「受体でございますか?」


「西カルブ山脈のナブルトにて本体に触れよ。」


「ナブルト?」


「そこで待っているようだ。」


「私をですか?」


「そうじゃな。しかと伝えたぞ。」


「えっ。あのそして私はどうすれば。」


するとグレースの七色の光は無くなって、きょとんした顔で俺達を見ている。


「どうすればいいんです?」


エミルがもう一度グレースに尋ねる。


「なにがです?」


グレースが言う。どうやら今はグレースに戻ってしまったようだ。


「エミル。どうやら先代の虹蛇だったようだぞ。」


「そうなのか。」


「僕なにか言いましたか?」


グレースが聞く。


「ナブルトに行けと言ってた。」


「ナブルト?それはどこにあるんです?」


「西カルブ山脈だそうだ。」


「西の山脈…」


するとおもむろにモーリス先生が言う。


「二カルス大森林から真西にある山脈の事じゃよ。」


「大森林の西ですか?」


「そうじゃな。険しい山脈で人が足を踏み入れる事を許さぬ場所じゃ。」


するとエルフの長老たちが言う。


「そのような場所に精霊神様のご本体が?」


「そういってましたね。」


するとエミルが言う。


「あのう。私がその精霊神のご本体に接触すると受体するという事でしょうか?私などが精霊神を引き継ぐことになるのでしょうか?」


「エミルよ。そなたはエルフの光じゃ、その様な事が起きても不思議ではあるまいて。」


ラッシュ長老がエミルに言う。


「それでもし受体したとして、私は何をすればよいのでしょう?」


「それからは神のみぞ知る事じゃな。」


「そうなのですね…」


「みなさん、とにかく一度もどりませんか?」


グレースがみんなに言う。


全員で議事堂に戻りグレースが受けた神託の話をする。


「エミル次第だけど、どうする?ナブルトってところに行って見る?」


俺が聞く。


「龍国から来た時に俺は北の果てしない山脈を超えてきたからな、護衛の事なら心配いらないぞ。まあラウルのヘリで一気に飛べると思うがな。」


オージェが力強く言う。


「あとは俺の配下もついている。恐らく問題なくたどり着けると思うよ。」


「そうだろうね。ただ受体って言うのがよくわからないんだよ。」


エミルが言う。


「大丈夫ですよ。実際に受体した僕は何も差し支えなく生きてますから。」


確かにグレースの言うとおりだ。


「まあそうだけど、何かプラスになる事あるんだろうか?」


「エミルはこの4人の中では一番死ぬ確率が高いからな、受体する事で強化が図れるかもしれない。」


俺が言う。


「そうだな。俺とラウルは比較的、身体的能力が高いからな。」


オージェが言う。


「まあ行って見るしかないか。」


「グレースの保管庫のようにバージョンアップが図れるかもしれんしな。」


「確かに。それも悪くないか。」


そんなことを話している時に議事堂の外が騒がしくなった。


ガチャ


ルカルがいきなり部屋に入って来た。


「おい!お前は!だれの許しがあってここに入ったのだ!」


ラッシュ長老が言う。


「いや!俺は認めませんよ!なぜに精霊神の受体をこんな奴が!俺の方がふさわしい!」


「下がれ!」


「いやこれだけは言わせてもらわねば気が済みません。」


ゴゴゴゴゴゴ


またあのおっかないエルフの長老の影がちらつき始める。


「いえ!長老様、ルカルの話を聞きましょう。」


そう言ったのはエミルだった。


「エミルよ…そなたが言うのであれば。」


そしてルカルがグレースに一礼をしてからエミルの側に立った。


「エミル!お前はケイナのみならず、長老の息子である俺からエルフの光の権利も奪った!」


「いや、ルカルさん。俺は何もしていません。」


「何かしたんじゃないのか?」


「本当に何も。ただ選ばれただけです。そしてケイナも別に俺が何をしたわけでもありません。」


するとケイナが口を開く。


「そうよ!この際だからはっきり伝えておくわ!ルカル!私はエミルが好きなの!あなたにとやかく言われる筋合いは無いのよ!」


「えっ、す、好き?」


「そうよ!だからとやかく言わないで。」


この場にいる全員がポカンと口を開いてケイナを見ている。公開告白をしてしまったようだ。


「あっ…」


ケイナが自分が言った事に気が付いたようだ。みるみる顔が赤くなってくる。


「そ、そんなケイナ。俺じゃないのか?」


《ルカルさん。どう考えてもそうでしょう。空気を読まな過ぎて逆に凄い。》


「ケイナは騙されてるんだ。」


この期に及んでしぶとい。


「いえ。私が選んだのよ、むしろエミルが私を避けているみたいだわ。」


「いや…俺は避けてもいないけど。」


「えっ…」


「あっ…」


エミルがいきなりの爆弾発言だった。


《じゃあ両想いって事じゃないのか?ルカルなんて入る隙がないじゃん。》


ルカルがヘナヘナヘナと床にへたり込む。自分が好きな女から大々的に他の男が好きだと宣言されて、さらにその相手がまんざらでも無いというのだ。さぞショックな事と思う。


「もうよい。ルカルよ下がれ。おぬしにはおぬしの仕事があるのじゃ。」


「‥‥わ、わかりました。」


ルカルは長老に言われ肩を落として部屋を出て行った。その部屋にいるケイナ以外の全員が同情するような目でルカルを見送った。


《かわいそうに、こんな皆の目の前でふられるなんて俺なら引きこもりになりそうだ。》


「コホン。未熟なあやつをどうかお許しください。」


長老がみなに謝る。


「いえ。むしろちょっとかわいそうなので、ぜひ彼の処分などされぬように。」


俺が言う。


「そうですね。なにか良い職を彼に与えてあげてはいかがでしょう。」


オージェも言う。


「いえ、あヤツには厳しい躾けが必要なようです!」


長老がきつく言う。


「いえ、私からもお願いします。彼の心は傷ついています。どうか彼に厳しい事をしないで上げてください。」


グレースが言う。


「虹蛇様がそうおっしゃるのであれば、その様に致します。」


「くれぐれもお願いしますね。」


「はい。もちろんお約束します。」


「約束たがわぬように。」


「かしこまりました。」


グレースがルカルを救った。恐らく虹蛇のお告げとあればエルフの長老たちは、ルカルを無下にはしないはずだった。


「とにかく!明日の朝にでも我々はナブルトへと向かいます!」


空気を変えるように俺が言う。


「わかりました。それでは出立に際しエルフの食料などを提供させていただきます。」


「それは助かります。」


痛い出来事があったが、無事にエルフの里での情報収集を終えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 冒頭の食事 まぁ…自分達だけ美味しい食事して、食べずにじっと見ていられるだけ…というのも苦しいですからねぇ …どうせ食べないなら、『仲間内でお楽しみください、御用があればお呼びください』…と…
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