第295話 エルフに虹蛇もてはやされる
二カルス森林基地を離れ俺達は森林地帯に入っていく。
情報収集部隊
ラウル
モーリス先生
シャーミリアとマキーナ
ファントム
エミルとケイナ
オージェ
グレースとオンジ
セルマ熊
とかなりの戦力だ。
ただ俺達が守るべき対象は、人間としては最高戦力の部類に入る賢者のモーリス先生と剣士オンジ。精霊を宿して精霊の力を使うエミルとケイナの二人。グレースは未知数だが同じく守らねばならないだろう。それだけ二カルスの魔獣は強力だった。
が…
護衛する側のシャーミリアとマキーナ、ファントム、オージェに関して言えば、この地上に敵になる者など居ない。いまこの場所以上に安全な所はこの世界には無いかもしれない。
「さてとセルマ自由にすすんでいいぞ。」
セルマ熊に先行して進んでもらう事にする。
ぐるぅ
のっしのっしと進むセルマ熊にみんなで着いて行く。
きょろきょろ
立ち止まってはきょろきょろしてまた進むセルマ熊、それをくりかえしでどんどん森の中に入っていく。
「ご主人様。魔獣の気配がするようです。」
「分かった。全隊止まれ!」
皆が止まり俺を見る。
「えーっとおそらく基地の魔人の縄張りを超えたようで、魔獣が徘徊しているみたいです。護身のためにお渡しした短機関銃(イスラエルIMIのUZI)を構えていてください。」
「うむ。早く撃ってみたいものじゃな。」
「あの、先生…合図があるまで待ってくださいね。」
「ふぉふぉふぉわかっておるわい。」
「ケイナは大丈夫かな?」
「え、ええ。エミルに教えてもらったから。」
「ケイナ。念のために言っておくが味方に向けて撃つなよ。」
「分かってるわよエミル。」
「い…いちおう魔人からエリクサーとポーションを受け取って来たので、怪我をしてもなんとななりますが、無駄にしたくはないので周りをきちんと確認して発砲するように。」
「もちろん大丈夫ですよラウルさん。エミルが勝手にそう言ってるだけです。」
「そうですか。」
オージェとエミル、グレースには言わなくても全く問題ない。
《俺達はサバゲの最強チームだからな。こいつらは一瞬でフォーメーションを組むだろう。》
シャーミリアとマキーナは使い慣れているM240中機関銃とバックパックだ。500発もの7.62mm弾を射撃できる。ファントムにはM134とバックパックを渡していた。
「しかしミニガンか。実際に持っているのを見るのは始めてだ。」
オージェが言う。
「でも携帯して動くのは現実的じゃないですね。」
グレースが答える。
「でもオージェなら行けるんじゃないのか?」
俺が言う。
「かもしれんが、UZIでいいよ俺は。」
「なんかいきなりデカい武器は興ざめだよな。」
エミルが言った。
全員同じ部隊という事で、武器をそろえる事に美学を感じているらしい。
《なんて話していたら、セルマがいなくなってた?》
バッシィィバッシインバッシッ
「痛いわ!」
《ああ、見つけたようだな。》
「セルマが目的を達成したようです。皆さんすぐに音の方向に向かいましょう。」
「この音は?」
「ああオージェ。セルマが対象物を見つけてくれたんだよ。」
「なんか知らんがわかった。」
俺達が音のする方に歩いていると、木とセルマが戦っていた。
「セルマおいで。」
ぐるるるぅ
ダダダダダダダ
セルマ熊が俺の方に走ってくる。
「よーしよしよし。」
「あーなるほど、トレントを探させていたのか。」
俺がセルマを先行させていた理由をエミルが気づいたようだ。
「そうなんだよ。手っ取り早いと思ってね。」
「ならケイナが見つけられたのに。地の精霊ノーム様を宿しているから地脈から辿ればわかるんだ。」
「えっ!セルマじゃないと見つけられないと思ってた。」
「いやいや。てか前見た方がいいよ。」
ドドドドドドドドド
トレントが一目散にこっちに向かって走ってくる。
「あー、そうみたいだな。でも光のエルフ様がいるんだから大丈夫じゃないの?」
「俺を森なら何でもできる人だと思ってる?」
「やっぱ無理か。ファントム。」
シュッ
ファントムが消えてトレントの前に現れる。
ガッ
怒り狂うトレントをファントムが止める。
《うん。やっぱりこいつがいると冒険が楽だわ。》
「なんじゃ?」
「おお!トレント様よ!怒りをおしずめください!」
俺がトレンドに声をかける。
「おぬしはなんじゃ!?その熊はいったいなんなんじゃ!いきなりぶったたいてきおったぞ!」
「あれは‥‥愛情表現です!」
「あ、あいじょぉ?」
「そうです!愛情表現なのです!」
「あんな愛情表現があるものか!痛いんじゃぞ!」
「不器用なんです!」
「ぶきょお?」
「そうです。元来この熊は不器用なたちなのでございます!」
「そ、そんなわけあるか!?」
「あるんです。」
「えっ。」
「世界にはいろんな愛情表現があるものです。心のお広い素晴らしいトレント様でしたら少し冷静になればお分かりになりますよね?」
「う、うむ。しかしな!ものっすごく強く叩いてきたんじゃぞ!」
「まってください!ここにもっと確かな証拠が御座います。」
「なんじゃ?」
「さあ、エルフの光よ!」
エミルが俺達の前に出て来る。
「ほ、本当じゃ…本物のエルフの光じゃ。」
するとエミルが話す。
「トレントよ!エルフの光です。二カルスの主様より許可を得ている事は知っていますか?」
「もちろん分かっておる。」
「ではエルフの里に入れてほしい。」
「わかったエルフの光よ。じゃが何でわしはぶったたかれたんじゃ?」
「愛情表現ですね。」
「あいじょぉ…。わかったとにかく道を開く。この者たちは?」
「彼らは二カルスの森を救うべく基地を設立した魔人とその仲間達ですよ。」
「ああ!最近できたあのハイカラな街かの?ありゃ凄いな!あっというまにやってきて主様が許可した場所にいきなり街ができた。しかも滅びたと思った魔人が大量にやって来たんじゃ。まるで昔に戻ったようじゃな。」
「昔ですか?」
「人魔の戦いが起きる前まではの。世界が変わりつつあるという事なのじゃろ?エルフ達から聞いておる。とにかく里に行くが良い。」
「すみません。門を開けていただきありがとうございます。」
光の輪があいてエミルが先に入っていく。
「これは、凄いものじゃな。」
モーリス先生が光の輪に驚いている。
「ええ先生。これはエルフの里に入る門なんです。」
「初めて見たわい。」
「そうでしたか。」
モーリス先生はきょろきょろと光の輪の外と中の境を見比べている。
ギロ
その後ろをセルマ熊がトレントに睨みをきかせながら入ってくる。いってみればメンチきってる。
「こ、これも愛情表現なのじゃろうな…。」
トレントがビビった感じで言う。
《まあ違うと思うけど、これから先もこの言い訳で通すとしよう。》
俺達が光の輪をくぐると前に見た広い草原と畑が目に入ってくる。
「えっどうなってるんだ?」
オージェが驚いている。
「なんかここは別な空間らしいんだよね。」
「そうなんだ。ここがエルフの里かあ。」
「じゃあこっちです。」
エミルとケイナが先に歩いて行く。もともとエミルとケイナはここに住んでいたから庭みたいなものなのだろう。
エミルが左手を上にかざす。
シュッ
ポゥ
天に向かって光が昇り高いところで光り輝く。
《たしか帰って来た合図だったっけ?》
「あそこの森です。」
「ああ見覚えがありますね。」
俺が答える。
森に近づいて行くとあの時と同じようにぞろぞろと人が出てきた。
エルフ達だった。
「長老!」
「おおエミルよ再び戻ったか!」
「元気そうで何よりです!」
「ケイナも無事でよかったの。」
出てきた集団の一番前を歩いているのはラッシュ長老だった。
すると一番後ろの方からあの時のエルフがやって来た。
「ようエミル、ケイナを守ってくれたようだな。感謝するぞ。」
《あーそういえば、ちょっとダメ男くんのエルフだ。この人。》
「ちょっと、ルカル!なんであなたが感謝するのよ!」
「俺の為に戻ってきてくれたんだろう?」
「そんなわけ!ちょっと!…まあいいわ。とにかくお客様もいる事だし。」
ラッシュ長老がルカルを一瞥して下がらせる。
「これは…エルフの長老様ですか。お初にお目にかかります。」
モーリス先生が深々と頭を下げた。
「これはご丁寧に。」
「私はユークリットのサウエル・モーリスと申します。」
「私はエルフの長老をしておりますラッシュと申します。」
お互い深々と頭を下げ合っている。
エルフの長老と人間の賢者が、日本の営業マンのように頭を下げている図はシュールだ。
そしてゆっくり頭を上げた長老がツカツカと俺達を通り過ぎて、一番後ろにいたグレースの前まで歩いて行く。
「これはこれは!虹蛇様が直々にエルフの里へ足をお運びになるとは。わかっておりましたら準備を整えておりましたのに。」
エルフの長老と年寄り二人がグレースの前に跪いて頭を下げた。
「いやいや。ちょっと頭を上げてください!エミルについて来ただけなんで。」
「エミルに!それはなんという光栄でございましょう。彼はエルフの光なのです。」
「はい。それはもう聞いております。」
そしてラッシュ長老がボケっと突っ立っているルカルを睨む。
ズササ
慌ててルカルも膝をついて頭を下げた。
「大変なご無礼をいたしました。」
「いいんですよ。とにかく皆さんお立ちになってください。」
「はい。それでは失礼します。」
長老たちがゆっくり立つとルカルも見よう見まねで立ち上がる。
「ではこちらへ。」
エルフの長老たちについて、俺達一行は森の奥の議事堂まで歩いていく。森の中は相変わらずエルフがあちこちにいたが、俺達が来た時と違って皆が膝をついて頭を下げていた。
「えっと、グレース。」
「なんですか?」
「なんか髪が七色に光ってるよ。」
「マジっすか?自分からはわかんないですよ。」
「いやラウルの言うとおりだグレース。七色に輝いているようだぞ。」
「本当だ。」
オージェとエミルも言う。
「特に何も感じないですけどね。」
「でもエルフ達は気が付いているみたいだよ。」
「みんな跪いてますもんね。」
「この空間に入って来たからじゃないか?」
「そうなんすかね?」
《なんかここの空気感なんだけど、虹蛇本体の腹の中に似ている気がする。》
議事堂の扉をくぐると以前より空間が広くなったように感じる。
「ではこちらで少々お待ちくださいませ。おもてなしの指示をしてまいります。ケイナよ皆様を席にご案内していてください。」
「はい。」
3長老は奥に消えていった。
「ちょっとエミル!」
「なに?」
「なんか前来た時より堅苦しい感じするんだけど。」
「おそらくグレースが来たからだと思う。」
「やっぱ虹蛇の存在ってそういう事なのかね?」
「うーん。俺もよくわかんないよ。」
「そしてこの部屋なんだけど前より広がってない?」
「たしかに広がったような気がする…。グレースの到着と何か関係があるのかな?」
「それが全く分からない。」
「ですよねー。」
俺達はケイナに案内されるままに席に座る。
「とにかくラウルよ。エルフのしきたりに乗って、もてなしを受けるべきじゃろうな。」
モーリス先生が言う。
「わかりました。」
先生が言うならきっとそうだろう。
暫く待っていると長老たちがやって来た。
しかし…
長老たちの衣装が先ほどまでとまるで変っていた。
恐ろしく艶やかなローブに身を包み、頭の上には1メートルもあろうかという羽飾りの帽子をかぶっている。
「大変お待たせをいたしまして申し訳ございません。そしてケイナよ虹蛇様とそのご一行をもっと上座へ。」
「は、はい。」
ケイナは慌てて俺達を誘導し、グレースは神棚のようなある場所の豪奢な椅子に座らせられる。
エルフの長老たちは椅子には座らずその前の床に膝をついた。
「この度はよくぞエルフの里においでくださいました。美しいそのお姿をご拝謁させていただくことをお許しいただきたく思います。エルフ一同、心よりお待ち申し上げておりました。」
「えっと。僕?」
グレースが俺に聞いてくる。
「しかいないだろ。」
「え、どうすればいいの!?」
「さすがにわかんない。」
するとグレースは立ち上がってこう言うのだった。
「いきなりきてなんかすいません。もともとオマケみたいなもんなんで、あとは適当にしてください。」
「そのようなわけにはまいりません。」
長老が答える。
「と、とにかく。良いんです!皆さんも椅子にお座りください!」
「はい、それでは失礼いたします。」
ようやくみんなが同じ席に座る事が出来た。
俺はこっそりグレースに言う。
「あの、グレース主体でやってもらうしかなさそうだよ。」
「うっそ!こんなことならもっとちゃんと打ち合わせしとくんだった!」
「ITのプレゼンの要領で。」
「PCもプロジェクターも無いのに!?」
「とにかく頼む。」
俺はグレースに丸投げした。