第294話 武器の期限切れ対処法
会議を終えて俺は基地内を見回る事にした。
司令塔を出ると…
ドドドドドドドドド
向こうの方からものすごくモフモフのでっかい熊が走って来た。
「セルマ!」
うもー
「ごめんごめん。いろいろと忙しくてなかなか会いにこれなかったんだ。いきなり消えてごめんね。」
ぐぬぬぬぬ
セルマ熊は俺を抱き上げて頬ずりしている。めっちゃモフモフで気持ちいい。
「セルマ。悪いんだけど一緒に二カルス大森林に来てくれるか?お前が来てくれるとトレントを見つけやすいんだよ。」
ももも
「ありがとう。それじゃあ話し合いが終わったら一緒に行こう。」
がおがお
「えっとラウル・・それで二人は通じてるんだよな?」
オージェが聞いてくる。
「ああ、通じてるよ。」
それが証拠にセルマがそのまま俺について来た。俺はそのまま魔人軍兵士が集まっている場所まで歩く。
俺とオージェ、エミルの3人で話し合った結果、ファートリア侵攻作戦を前に行動計画が決まった。
やることは3つ。
ひとつは神についての情報収集
最初にグレースと話し合いをし虹蛇の記憶が無いか探る。次に二カルス大森林のエルフの里に行って神の情報を聞きだす事。その後魔人国へ行きルゼミアから話を聞く。最後はオージェからの提案があった龍国での情報収集。
二つ目は敵地の調査。
敵地に潜入して調査するのはとても危険だ。そのため当初の計画は偵察ドローンを潜入させて情報を得る事。
それで明確な情報が得られなければ、俺の長距離兵器と空爆による敵陣地の徹底的な破壊だ。それを行えば一般人が巻き添えを食うだろうが、これは戦争であり交渉でも遊びでもない。自分の仲間達を危険にさらすぐらいなら、敵国の見知らぬ一般市民に気を使っている場合ではない。俺は躊躇なくその手法を選ぶ。
三つめは自軍エリアの強化。
敵に転移魔法がある以上は世界のどこにも安全な場所が無いと判断し、各軍事拠点で銃火器の補充とさらに2割程度の魔人兵の増員を行う。
武器弾薬は十分以上にあった方がいい。
バルギウス帝都の魔人
ユークリット首都の魔人
サナリア領の魔人
シュラーデン王国基地
ラシュタル王国基地
ルタン町基地
本拠地グラドラム
ヘリを使ってピストンし兵力増強する。さらに武器は30日で消えてしまうため、移動を含め3週間かけて増強する予定だ。戦争が長引けば各拠点の戦力は低下してしまう。一度侵攻を開始したら短期決戦となるだろう。
全ての調査が終わった後で作戦が開始される。
「その兵器が30日で消えるって言うのはどうにかならないものなのか?」
エミルが聞いてくる。
「ああ、どうやっても30日で消えるんだよね。」
「その対応策さえあればもう少し動きが楽になるのにな。」
「エミルの言うとおりだが、何をやっても30日きっかりで消えるんだよ。」
「レンタルみたいな。」
「そうなんだよね。」
とはいえ、そう言うものなんだから仕方がないのだ。
「各拠点にはそれぞれの魔人の族長を配置して、俺達で情報収集することになる。」
「わかった。」
情報収集部隊は以下の通り。
ラウル
モーリス先生
シャーミリア
マキーナ
ファントム
エミルとケイナ
オージェ
グレースとオンジ
セルマ熊
他は現場から動かすわけにはいかなかった。いつ敵が攻めて来るか分からない状況で拠点を空けるわけにいかないからだ。
フラスリアと二カルス大森林にトップクラスの魔人を配置して、バルギウスとユークリットに隊長クラスなどを配置する。他の拠点には副隊長クラスや実力者を配置していく予定だ。
「隊長よろしくたのむよ。」
「ああオージェ。期待してるぜ。」
「きたね、このコンビ!凄い事が起きる予感がする。」
エミルが俺達を見て言う。
それから俺達は魔人達を集めてこれからの行動指針を伝えた。
「それじゃあドラグ!俺はかなりの兵器をここに置いて行く。魔人すべてにわたるようになるだろう。弾薬もかなりの量を置いて行くので、全員が常に武器を使えるようにしておけ。」
「は!」
俺は膨大な魔力にものを言わせて武器を召喚した。
3000人の魔人に対してM240機関銃とバックパック、大型の魔人にはM134ミニガンとバックパック、更にデザートイーグルを2丁ずつ6000丁。マガジンを各自に10本ずつ。UZIマシンガンを1000丁、手榴弾を10000、12.7㎜重機関銃を100丁、RPGロケットランチャーを500本と弾頭を500、そして十分な弾丸の在庫を置いて行く。
「これをすべて置いて行く。取り扱いには十分注意する事。そしてこれと同じものを各拠点にばら撒いて行く予定だ。」
「分かりました!」
そして魔人達が使い慣れている、ロシア製ウラルタイフーントラックを50台召喚した。
「これほどの物を。」
「俺が情報収集から戻ったらまた同じ兵装を召喚する。」
「かしこまりました。」
「ドラグ達がこんなに広い基地を作ってくれたおかげで余裕で武器が置けるよ。」
「ラウル様の指示のおかげでこのようになったのです。」
「みんなの力さ。」
「ありがとうございます。」
「それじゃあ俺達は行くよ。」
「お気をつけて。」
「カララ、ルフラ、ミノスは二カルス大森林へ戻るから一緒に来てくれ。」
「は!」
そして俺は一度二カルス大森林に行くためにヘリを召喚する。
召喚したのはフランス製の321シュペルフルロン巨大ヘリだった。
「うお!すげえな。」
「しっかしさっきの武器と言い、ロシアのトラックと言いそんなに召喚して魔力がよく尽きないよな。」
エミルとオージェが言う。
「我ながらそう思うよ。魔人側の俺の魔力が恐ろしいほどあるんだ。」
「これからもいい武器召喚を期待してるよ。」
「ああそうだなエミル。乗りたいものがあったらいくらでも言ってくれ。すぐに召喚して見せるさ。」
エミルが目をキラキラさせて俺を見ていた。
「ラウルは最強だよな。前世の趣味がバリバリに生きたスキルを持って転生するなんて羨ましすぎるぞ。」
オージェがうらやましそうに言う。
「じゃあみんなで乗り込もう。」
移動予定の人員が全て乗り込んでヘリが離陸する。
ヒュンヒュンヒュンヒュン
「やっぱセルマが乗るとぎゅうぎゅうだな。」
「セルマと一緒に居れるラウルがモフモフでうらやましいがな。」
「すまん。セルマは俺以外はマリアかカトリーヌしか受け付けないんだ。」
「そうか。なら仕方がない。」
オージェが残念そうだ。どうやらセルマにモフモフしたかったらしい。
そしてヘリは二カルス大森林に向けて飛んだ。
「エミル。昨日の酒は残っていないか?」
「ああまったくだ。ラウルはどうだ?」
「俺もさっぱりだよ。」
「なんだかんだお前たちの体もかなり強いんじゃないか?」
「かもね。」
その後二カルス大森林基地までは8時間以上の時間がかかった。シャーミリアと飛んだ時は3時間だから倍以上の時間がかかるようだ。
二カルス大森林基地へ到着して、すぐにカゲヨシ将軍やモーリス先生の所に行き会議で決定した内容を伝える。
「すると準備に30日以上かかると?」
カゲヨシ将軍が言う。
「ええ申し訳ないのですが危険すぎて、何の計画もなく飛び込むわけにはいかないのです。」
「ふむ謝る事は無い、もちろんそうじゃろう。こちらはこちらの都合でついてきたのじゃし、わしらは既にこの船に乗ったのじゃ。とことんつきあわせてもらうつもりだよ。」
「わかりました。何かあれば周りの魔人にすぐ申しつけ下さい。」
「十分すぎるほどしていただいておる。」
「何よりです。」
「ではモーリス先生、サイナス枢機卿もそのつもりで何卒よろしくおねがいします。」
「うむ。すまんなあサイナスよ、わしだけ楽しい思いをするようじゃがこれも世界の為。」
モーリス先生だけ神についての調査について周る事を自慢げに言っている。
「うーむ。どうも不公平な気がするが、人員の都合もあるのじゃろうからな。致し方ないきちんと働いてくるのじゃぞ!」
「ふん。言われんでも働くわい。」
モーリス先生とサイナス枢機卿の小さな小競り合いが始める。
「トラメルさんは次の出立の際にヘリでフラスリアに飛んでもらいます。」
「ありがとうございます。お気にかけていただき痛み入ります。」
「いえ、領の皆様も心配しておりましたので一刻も早く参りましょう。」
「ありがとうございます。」
そして俺はモーリス先生に伝える。
「ではモーリス先生、私達はグレースのもとにまいります。お待ちいただけましたらと思います。」
「ふむわかった。なにやら人を入れずに話すのであろう?わしらはここで待つよ。」
「ありがとうございます。」
俺達3人はさっそくグレースの所に向かうのだった。
そして二カルス基地の司令塔にある俺の部屋に元日本人のみが集まる。
「えっ!皆川さんなんですか?」
グレースが驚いている。
「おう林田!まさかみんなでこっちに来てしまうとはな。」
「本当ですよ。飛行機の墜落怖かったっすよねー!」
「あれはビビった。」
「ほんとほんと。」
エミルとオージェとグレースは、アメリカ大会の後で一緒に航空機の墜落に見舞われて死んだのだった。そして3人そろってこっちの世界に来た。
《それは間違いなく偶然ではない。こちらの何者かの手によって呼ばれたと思うのが自然だ。》
俺達は話を続けた。
「それでまずは神について調べる事になったんだよ。」
「神について?」
「そうなんだ。それで手始めにグレースの記憶の中に、何かないかと思って話を聞きに来たんだよ。」
俺が聞く。
「うーん記憶と言ってもろくなものは無いんですよね。」
「そうか、神の記憶のような物はないのか?」
「特には前と変わらずです。そもそも何をすればいいのかすら分かりません。」
「そうかぁ。」
やはりグレースにはまだ虹蛇としての能力は備わっていないようだ。
《虹蛇の力と言えば…》
「そういえば虹蛇に岩塩を大量に預けたんだけどさ、それどうなったかな?」
「岩塩?」
「そう白やピンクの岩の塊でまあ岩みたいなものなんだけど。」
「んー。ん?想像するとやたらとハッキリ目に浮かんでくるんですけど。」
俺はそれを聞いてピンときた。
「えっと!それを意識の中から取り出すようにイメージしてみてくれ。」
「こうかな?」
ドン!
いきなりグレースの目の前に岩塩の塊が出てきた。
「うわ!」
「やっぱり!」
「何がやっぱりなんです?」
「虹蛇はそうやってイメージしてものを引っ張り出すんだよ。俺の武器召喚にも似ているけどね。」
「ラウルさんはこうやって武器を召喚するんですか!?」
「まあ似たようなものだと思うけど違うらしい。虹蛇はいろんなものを取り出してはいたんだけど、俺の召喚とは違ってどうやら保管庫のような場所にしまってあるらしいんだ。それを取り出しているだけなんだって。」
「そうなんですね!…で、しまいかたはと。」
シュッ
「おお!消えた。なんとなくですけどコツがわかりました!」
《グレースはさすがに飲み込みが早い。前世の頭脳をそのまま引き継いだのかな?》
「他には何か出せそうか?」
「いやあ物のイメージがつかなくて何が入ってるのかさっぱりです。なんかモヤモヤってしてよくわかりません。」
グレースが目をつぶって何やらやっているが何も出てこないらしい。
「それじゃあさ。外出よう。」
「外ですか?」
「ああ。」
「わかりました。」
そして俺達はぞろぞろと外に出てきた。広場には魔人もいないようだった。
「ここで何をするんですか?」
グレースが聞いてくる。
「M777榴弾砲」
前触れもなく俺が言う。
「あっ!イメージ付きます。」
ドン!
「うわぁ!」
俺達の目の前にM777榴弾砲が出てきた。
「やっぱり!」
俺は発見してしまったのだ。
「なにがやっぱりなんですか?」
「以前俺がM777榴弾砲を虹蛇の腹の中に置いて来たんだよ。」
「じゃあ僕は、それを出したって事ですかね?」
「そうなるね。」
「それはすごい!」
「しかも虹蛇が言ってたんだけどさ。そこって時間が止まってるらしいんだよ。」
「時間が止まってる?」
「そうそう!という事はだ…もしかすると俺とグレースが組めば、武器が30日で消える事は無いかもしれない!」
「本当ですか?」
「もしかしたらだけど、実験してみる価値はあると思わないか?」
「もちろんやってみましょう。」
グレースがやる気になって来た。
「ラウル。もしかしたらこれは大発見じゃないか?30日で消える兵器の対策になるかもしれないぞ。」
オージェが言う。
「確かにな。まさかそう言う方法があるとは。」
「とにかく!すぐにでも試したらいいんじゃないの?」
エミルが言うので早速やってみる事にする。
「まず無駄に消えてしまったら悲しいので、AK47を10丁を預けてみるけどいいかな?」
「ええ!やってみましょう。」
グレースが言うので俺は早速AK47を10丁召喚する。
グレースがそれをじっと見て、手でさすりながら目を瞑る。
スッ
「消えた…」
AK47が跡形もなくなくなった。
《あれ?こんなこと前もどっかであったぞ・・・そうだ!ファントムも俺の武器を収納したっけな。あれは食って収納したんだけどな。あれと似た現象が起きているのかもしれないぞ。》
「これで30日経過しても消えなければ、かなり実用的な使い方が出来るな。」
オージェの言うとおりだ。
俺がいなくてもグレースが武器を提供する事が出来る。しかもストック庫として考えれば魔力の枯渇を気にしなくてもいいかもしれない。
「神の記憶は分からなくても凄い発見があったね。」
エミルが言う。
このために虹蛇は俺を腹の中に誘い込んで武器を収集したのかもしれないな。
前虹蛇の思惑に乗せられているような気がするが実用的なので良しとしよう。