第293話 神の使徒たちの宴
俺はこれまで経験してきた事をオージェとエミルに話した。
俺が魔人国まで行って魔人軍を率いるようになった事。エミルが二カルス大森林から、強制的に人の住むサナリアにつれてこられ俺と巡り会った事。グレースが卵時代(?)に人のいる場所まで飛んできてしまい、挙句の果てにバルギウスの2番大隊長になっていた事。そしてオージェが龍国から出立してシュラーデンで俺と巡り会った事。
話した結果やはりこのメンツが集まったのは偶然じゃないとわかる。
そして…
「虹蛇様とやらがそんなことを言っていたんだ。」
オージェ(皆川)が言う。
「そうなんだよ。なんか無関係じゃないんだろうなって思う。」
俺が無関係じゃないと言ったのは、虹蛇が言った5人の神のことだ。
この世界を作ったと言われる神々。
アトム神、魔神、精霊神、虹蛇、龍神だ。
アトム神とは人の神らしい。
「だろうね。どう考えても俺達の顔ぶれに関係していると思う。」
オージェが推測する。
「そうだな。そしてグレース(林田)が化身ではなく虹蛇そのものになったんだってね。」
エミル(田中)が言う。
「そうなんだよ。受体とか言ってカミナリが落ちてきて灰になっちゃって、その灰の中から以前と変わらぬグレースが出てきてさ。でも何を意味するのか本人も分かっていなかった。」
「とにかく付き人が言うにはグレースが虹蛇になったと。」
「まあそう言う事だね。」
《うん。確かにそうだ整理してみればこんな偶然があるわけがない。我々は虹蛇が言った神々の駒になっていると考えるのが自然だ。》
「その虹蛇の教えは流れに逆らうなという事だった。目の前に起きた出来事は偶然ではなく必然だと考えるべきだと言っていた。」
「必然ねえ…」
3人が考え込む。
「でもこの広い世界で俺達が遭遇する確率なんてゼロに等しいだろうから、必然と考える方が自然ではあるよな。」
エミルも言う。
「そういえばエミルは凄い精霊を宿されていたよな?」
「ああ、長老曰く精霊神が遣わしたそうだが。」
エミルとケイナに精霊を宿す儀式をやった。
《エミルはエルフの光とか言われてたっけか。》
「オージェは龍国で何かあったのか?」
「いやないかな。ただ思い立ったように大陸に渡ってきただけだが。」
「そうなんだ。自発的にきたわけだな。」
「まあ、そうだが何か引っかかるものはある。」
「引っかかるもの?」
「それが何かはわからないんだよ。」
「そうか。」
「とにかくみんなが同じ時期にこっちの世界に渡ってきたって事だね。」
「そういうことになるな。」
時期はまったくと言っていいほど同じだった。まるで故意にこの世界に引っ張られてきたような違和感がある。
《そういえば俺もなにか引っかかる事があるような気がするが…》
皆が考えて静かになる。
コンコン!
「はい。」
ガチャ
ティラだった。
「ラウル様お食事のご用意ができました。」
《凄くタイミングがいい。まるで会話が途切れるのを待ってたみたいだ。なんかどんどん洗練されていっている気がする。》
「ありがとう。じゃあ3人で食うか。」
「うれしいな。」
「なんか居候みたいで申し訳ない。」
エミルとオージェが言う。
「いいんだよ。フラスリアの領民を守るという交換条件のもとにやってもらってるから。」
「しかしラウルも考えたな。各国に魔人軍の駐屯基地を作って防衛を肩代わりするとか、ギルドの代わりって感じだよな?」
エミルが言うとおりだった、各国の情報が寸断されていたために後手に回った事も多い。またせっかく助けた民を守らねば世界は機能しない。それには軍事力を有効に使って守ってやるしかない。
「まあそんなとこだな。」
そして俺達はティラについて食堂に行く。
するとすでにテーブルの上には、俺達3人では食べきれないほどのご馳走が並んでいた。たぶんオージェが居るから空っぽになると思うが。
「うまそうだ。」
「いいね。」
「たまらんね。」
「フラスリアの料理人が腕によりをかけて作ったようです。」
ティラが説明する。
「そうかそうか。本当に炊き出しをお願いして良かった。」
「はい。どうしても私達魔人の料理は大雑把になりがちですから。」
「ティラも料理を覚えたのか?」
「私はまだ下手です。」
「今度食べてみたいな。」
「えっ!じゃあ今度、腕によりをかけて作ります!」
「楽しみにしてるよ。」
「はい!それではご友人と水入らずお楽しみください。用事があるときは私を呼んでくださいね!」
「わかった。」
そして俺達3人はグラスに酒を注いだ。どうやらサナリアの麦で作った酒らしい。
「かんぱーい!」
「再開した友に!」
「俺達の未来に!」
チン
ゴクゴク
「つよ!」
「きっつ!」
「そうか?」
「オージェは身体能力なのか、ただの酒好きなのか分かんないね。」
「確かに、皆川は酒強かったけど転生しても強いのかよ。」
「お前らが弱いんだよ。」
「そうだったっけ?」
「そうだよ。」
「とにかく食おうぜ。」
3人で料理をつまむ。
「うんま!」
「まじだな。」
「これならいくらでもイケるぞ。」
俺とエミルは酒をちびりちびりやりながら料理を食っているが、オージェはカパカパと酒を空けている。しかし酔っている気配は全くなかった。
「それにしてもオージェ。俺の軍の規律や行動を訓練していてくれたみたいで礼を言うよ。」
「ああ、することが無かったんでな。」
「だってラウル、オージェは陸自のレンジャー持ちだよ。陸自でもおっかない上官だったらしいからな。」
「そうだったけかなあ。俺が陸自やめた後サバゲショップに立ち寄った時、高山…ラウルに会ったんだよな。」
「懐かしいね!なんかやたらと詳しい奴がいると思って、あの時も居酒屋で酒飲みながらめっちゃ話したっけね。」
「そうそう、初対面なのに朝5時まで飲んで喋ったっけ。」
「そういえばその後に俺が知り合った時には、もう二人は阿吽の呼吸というか年配の夫婦のようだったよね。」
「やめてくれよエミル。皆川と夫婦とかって!まあ俺には彼女いなかったけど。」
「そういえばラウルはそうだったね。」
《うわ!いきなり墓穴を掘っちまった!》
「あー、いやーあの時はいろいろあったんだよ!」
「こっちの世界では?」
「いやぁーそれがまだ…」
「俺もだよ。」
「俺もだ。」
「えっ?そうなの?」
「いやだってさ俺はエルフだし長命だから。そしてまだ13でしょ?これからでしょ?」
「うっイケメンは良いよなあ余裕でさあ。」
「そういうラウルは周りに美女だらけじゃないか!」
「それはそうだけど、どうしたものかわからんし。…てかオージェはどうするんだよ?」
「俺はよくわからない。龍の子として生まれてるから人を相手にしていいのかどうか。」
「いいんじゃねぇの?」
「いやラウル。そんな無責任に言うけどな、龍として生まれて普通にそう言う事していいのかどうか。」
「そういえば龍同士ってそう言う事すんのかな?」
「多分するだろうよ。でもなんで俺が人間みたいな形で生まれて来たのか謎だけどな。」
「ともかく人間相手でも大丈夫な気がするがね。」
「どうしてだ?」
「俺もエミルも人間とのハーフだからさ。」
「そうだったな。」
「もしかしたらオージェも人間と龍のハーフなんじゃねえの?」
「それが分からん。聞いた事も無い。」
「そうなんだ。」
俺達は料理を食べながらだんだんと酒がすすんできた。
「とにかくこちらの世界では全員がまだという事なんだな?じゃあ同じスタートラインに立ったってことだ。」
「そうだな…でもさラウル、グレースが可愛そうじゃね?あんな可愛い感じに生まれてしかも性別が無いって。」
「うん?いいのいいの、あいつは前世でITで成功して金持ちだったし、クルーザー持ったり歌も上手いしでモテモテだったから。」
「あー」
「あー」
エミルとオージェが納得した。
もしかしたら前世の行いの反動で、逆の境遇になったのかもしれない。
《俺が前世であまりにも女っ気が無かったばかりに、今世で美女に囲まれているとか。グレースは前世で恵まれすぎてこっちでは性別が無いという事だったりして。》
「とにかくだよ!俺達の性事情はおいといてだな、なぜ俺達がこういう風に転生したかの話だったろ。」
「そうそう。」
「そもそもラウルが前世で彼女いないとか自爆したせいだろ。」
「すんません。」
「で、俺達がこの世界にこんな形で転生した事だけどさ。」
「うん。」
「ああ。」
「虹蛇が言う事を考えると5人の神たちに関係していると思うんだ。」
《たしかにエミルの言うとおりだが、俺は何かの啓示をうけたわけでもない。何かをしろとか言われた事なんてないからな。》
「この世界で俺達が何かをさせられているとか?」
「ああオージェ。ラウルがこうして魔人軍を引き連れて戦う事になった理由、俺達がそこに合流して来た理由。何かがあるんだと思うがね。」
「エミルの言う通りなんだろうけどな。俺は俺がやりたいようにやって来たし、オージェはオージェで自由を満喫しているぞ。」
「確かに俺は自由に世界を旅しているのが楽しかった。でも今はラウルの側にいる方が楽しいな。そしてそのラウルがさ、高山だったと分かって納得だよ。高山の側は本当に飽きないんだ。」
「あ、それ分かります。高山さんの側にいると飽きることが無かったですね。アメリカ大会なんて普通はオファー来ないですもんね。」
「あれはホント驚いた。架空請求詐欺のメールかなにかと思ったら本物なんだもん。」
「それで行動するラウルがすげえよ。」
「そうそう。俺もそう思う。」
確かに俺と一緒にいるとこの二人はいろんなことに巻き込まれてたっけ。
「で、この世界で巡り合ってみれば、また面白い事にめっちゃ足突っこんでるじゃん。」
「そうそう。俺なんかどっかの兵隊を鍛えるくらいしかすることなかったからな。そんなところにこんな面白いネタひっぱってきたんだぜ!」
「俺もだよ。サナリアで強制労働しているところに現代兵器引っ提げて現れるんだもん。血沸き肉躍るとはこのことだと思ったよ。さらに乗りたいヘリのオンパレード!前世に磨きをかけて面白くなってやがる。」
「そ、そう?なんかそんなに喜んでもらえるとは嬉しいよ。でもオージェはともかくエミルは俺達4人の中では死にやすいと思うから十分気を付けてほしいけどね。」
「そりゃ大丈夫。エミルは俺が責任を持ってカバーするよ。前世のサバゲでも田中のカバーは俺の仕事だったろ。」
「懐かしい。ただこっちはリアルに死ぬから要注意で。」
「了解だ。」
「そういえば…もっと凄いことがあるんだった。」
俺が言う。
「なんだ?」
「グレースは性別も無いしちょっと前まで奴隷だったけど、今回受体したことで不老不死になったんだよ。」
「えっ!不老不死!」
「そいつはすげえ!」
「でもさ俺は魔人の血が半分、人間の血が半分だからどのくらい生きるのか分からない。でもエミルは長寿のエルフだし、確か龍は何百年も生きるんじゃなかったっけ?」
「うん確かに。戦闘になれば皆より脆いけどね。」
「俺はそうだな。ただし龍の姿に生まれてないからどのくらい生きるかは分からん。」
「俺と条件は同じか。」
「そう言ったら俺だってラウルやオージェと同じで、半分人間の血が入っている。生粋のエルフと違ってそれほど長生きできないかもしれないな。」
「そのあたりもこの3人は条件が一緒って事か。」
「なんだかこっちの世界でも林田に差をつけられてるよな。」
「まったくだ。」
「まあ運命ってやつかね。」
「ふふふ。」
「はははっは。」
「あはははは。」
3人ともめっちゃ酒が入って上機嫌になって来た。そして何か大事な話をしていたと思うんだが、とりとめのない雑談になってしまう。
《でもいいか。なーんか前世の俺達に戻ったみたいだ。》
この世界ではもの凄いメンツになってしまったが、中身は昔のままだったのがうれしい。
「たぶんだけどな。俺達は何かに選ばれてそして得体のしれない敵と戦っている。そう言う事なんだと思う。」
「そのようだね。」
「ああ。」
「ならその流れに乗って、いきつくとこまで行って見るべきなのかも。」
「高山は相変わらずだな。」
「いいね高山のそのノリ。乗った!」
「これからもよろしく頼むよ。」
「「おう」」
そして3人はまたとりとめのない馬鹿話を続けるのだった。
明日は朝から会議だというのに‥‥