第289話 運命の神託会議
修正しました。
魔人軍を集めて今後の動きを説明した。
基本はこの基地を拡充する事と、フラスリアからファートリア神聖国を襲撃し森の中を進軍して挟撃する。さらには南方に逃げる残党をこの基地の戦力で叩くシンプルな作戦だ。
《俺の勘だけど敵を逃がせばろくなことは無い。》
「ファートリア神聖国はまだ無傷だ。バルギウス帝国から消えた兵の行方も分かってはいない。バルギウス皇帝と1番大隊長のブラウンとやらも消息不明だ。ユークリット公国の時のようにデモンが居る公算もかなり高い。シン国の人たちもファートリア神聖国に行くと言って消息を絶っている。」
俺がみんなに向けて話をする。
会議室にいるのは俺と直属の配下達とマリア、モーリス先生とサイナス枢機卿一行とケイシー神父、トラメル辺境伯、シン国将軍のカゲヨシと影衆、グレースとオンジ、魔人の代表たちだった。
「ふむ。情報が圧倒的に少ないという事じゃな。」
モーリス先生が言う。
「ラウル様。それではファートリア神聖国に偵察部隊を出してはいかがでしょう?」
ギレザムが言う。
「俺も考えたが、おそらくいままでと違いファートリアはかなり危険だ。魔獣と騎士の混合軍や魔導士の数も多いだろう。そしてアヴドゥル大神官とやらがどんな罠をはっているか分からない。」
「魔獣の出どころはどこなんでしょうね?」
グレースが聞く。
「それが分からない。」
するとケイシー神父が言う。
「おそらくですがファートリア神聖国のさらに東南にリュート王国という国があるのですが、その更に奥地にマナウ大渓谷と言う場所があります。そのあたりかなと。」
するとサイナス枢機卿が補足して言う。
「リュート王国はかなりの小国で魔導の技術も軍事力も低い国じゃ。恐らくはファートリア神聖国から征服されてしまったと思うがの。」
「そうなのですね。ファートリア神聖国はリュート王国経由で、そのマナウ大渓谷から魔獣を調達しているという事でしょうか?」
「おそらくはマナウ大渓谷というより、その奥にあるアグラニ迷宮からと考えた方が良さそうじゃ。」
枢機卿が言う。
《アグラニ迷宮か。たしかグラドラムを出発する前にクルス神父から聞いたな。》
「そういえば今ラシュタル王国にいる、クルス神父から4大迷宮の一つとして聞いてました。」
「まあ冒険者やギルドなら知っていて当然の情報なのじゃがの。」
モーリス先生が言う。
「そうなんですね。今はギルドも冒険者も活動出来ていませんからね。」
《父親のグラムなら知ってたろうが、まだ幼かった俺はそんな話をきいた事が無かった。魔人達はもちろん大陸の事情を知らないし、まだまだモーリス先生に学ばなきゃならない事はたくさんありそうだ。》
「アグラニ迷宮は洞窟なのじゃ。地の底にまで続くとも言われおり冒険者からはダンジョンと呼ばれておる。」
「ダンジョン!」
「ダンジョン!?」
俺とグレースがハモってしまう。
「どうしたんじゃ?」
「い、いえ。なんか聞き覚えの無い言葉を耳にしたものですから。なあグレースもだろ?」
「そうですね。何ですかそれ。」
俺もグレース(林田)もロールプレイングゲームで聞いた事のある言葉を聞いて、つい声を出してしまった。
《ダンジョンってモンスターや宝箱があって、階層ごとにボスモンスターが居るような場所だよな。まあこの世界はゲームとはかなり違うけど、冒険者たちが潜ったりするんだろうな。まあ俺は普段からボスモンスター達と一緒にいるようなもんだからなあ…》
「リュート王国やファートリア神聖国の一般市民は生きているんでしょうか?」
トラメルが言う。
「自国の人間を殺す事があるだろうか?」
カゲヨシ将軍が言う。
「将軍。敵は何を考えているのか分からないのです。各国の王族や貴族は皆殺しにあい、ユークリット王都とサナリアの民をも殺してしまった。グラドラムの民は私達魔人軍との戦闘で焼かれているのです。」
俺が答えた。
「そうだったのう。」
「ええ。ただ他の国やユークリットの領の民は生かしているので、人間を根絶やしにするつもりはなさそうなのですが、いったい何を企んでいるのか分かりません。」
「無関係の者は殺さないと言ったところか。」
「どうなんでしょうか。その目的が分かるのなら戦いようもあると思うのですが、何のためにこんなことをしているのか分からない以上、敵を殲滅する以外に作戦が思いつきません。」
皆が考え込む。
するとグレースが口を開いた。
「あのう。どうやら僕の頭の中にポツリポツリと浮かんでくるものがあるのですが?」
「グレースの頭の中に?」
「はい。昨日の虹蛇様のなんていうか…啓示?オンジの虹蛇は僕と共にあるという言葉からもしかしたらと思いまして。」
俺達はオンジを見る。
「はい。私が言った言葉の通りです。グレース様は虹蛇様をおつぎになられ、そしてすべてが共にあります。または私達一族はそのように理解をしております。」
オンジが言う。
「そうそう。それそれ!なんか僕が知らない記憶があるというか、自分では考えられないような事が頭に浮かぶんです。」
「どういう事?」
「この戦いは、人間と人間の戦いではないと浮かんでくるのです。」
「人間と人間の戦いではない?」
「はい。人間は駒に過ぎないみたいな。」
「人間と魔人が戦っているという意味かな?」
「うーん、たぶんそうじゃない気がします。魔人もエルフも人間も同じです。」
「どういう意味だろう。」
「それがまだはっきりと分からないです。僕が分かるのはそこまでで、あとは意識の中に何かがあるのですが、僕には理解できないと言うか何も話せないです。」
またも皆が考え込む。
《どういう事だ?人間と人間の戦いではない?俺達は何と戦っているんだ?》
「ふむふむ。そういえばラウルよ、おぬしは各地でデモンと戦ったのじゃな。」
モーリス先生が俺に聞いてくる。
「はい。ルタン町付近とラシュタル王国首都そしてユークリット公国首都で戦いました。」
「デモンとの戦いという事ではないか?」
「我々とデモンの?」
「魔人とデモンなのか人とデモンなのかそれは分からんが、虹蛇様が言わんとしている事は我々の想像を超えた戦いが始まったという事かもしれんのう。」
モーリス先生が推測をのべる。
「あー先生!そんな感じです!」
グレースがパッと閃いたように言う。
「ともかく我々が相手にしている真の敵はデモンと言う事ですかね?」
「でもアブドゥル大神官は紛れもなく人間でしたよ。」
ケイシー神父が言う。
「そのアブドゥルも駒の一つに過ぎないという事なんだろうか?」
「ラウルさん。頭に浮かぶのは、すべては必然だという事です。人間も魔人も亜人も流れに乗って動くしかないのだと。ただ僕がそう思っているのではなく、芯の部分がそう認識しているみたいです。」
グレースが理解できないながらも説明してくれようとしている。
「とにかく分かった。」
《自分たちが何のために誰と戦っているのか疑問に思えてくるな。》
《いえご主人様。私奴はご主人様の為に何とでも戦います。》
シャーミリアが念話で答える。
《そうです。我々には繋がりが御座います。ここにいる人間達にはわからないやもしれませんが、我らは元始の魔人の系譜によりそのさだめは決まっております。》
ギレザムも念話で伝えてきた。
《ラウル様。我々に疑問などございません。ラウル様がやりたいようにやっていただき、それらを私たちが全力で遂行するだけですわ。》
アナミスが答える。
《魔人達は俺が間違う事を考えないのか?》
《ご主人様が正解です。》
《シャーミリアの言うとおり。》
《何も考えずに行動してくださいまし。》
3人の魔人は俺をなすがままにしてくれと言っている。
そういえば虹蛇からも、なすがままに導かれるままに物事を進めるようにって言われてたっけな。もしかしたら魔人達は既にその事を理解しているのかもしれない。
とにかく俺は会議を進める。
「それではみなさん。話をまとめたいと思うのですがよろしいでしょうか?」
「ふむ。どうやら何か思い立ったようじゃな。」
「はい先生。」
皆が俺に注目をしてくる。
「俺はここに居るみんなも魔人の仲間達も、助けた人々もわずかに残った貴族たちも、もう誰一人失いたくないです。誰一人欠ける事の無いように事を進めたいと思います。もちろん甘い事を言っているのは重々承知です。それでも我らの力が一つになればそれは可能だと思います。人知を超えた敵に遭遇する事は想像に難くないですが、それに打ち勝つためにも皆さんの知恵を貸してください。」
「ラウルらしいのう。グラムを思い出すわ。」
モーリス先生が目を細めて俺を見る。
「賢者と呼ばれたモーリス先生の知恵、枢機卿のお知恵、シン国の将軍のお知恵、そしてグレースのいや…虹蛇様の導きを持って事に当たろうと思います。」
「ふむ!ならわしの無い知恵を振り絞って出してやろうではないか。」
「おもしろいのう。これからの世界を決める大勝負にわしらも合流できるとは思わなんだ。」
サイナス枢機卿とカゲヨシ将軍が言う。
「ならばまずは情報収取じゃな。魔人の力が必要になるかと思うがそれは全てラウルにまかせよう。我々は陽動奇襲夜襲など策という策を考えようではないか。また敵はどこに現れるかもわからんのだろうから、ファートリア神聖国に総力をかけるわけにはいかぬ。すべてを練りに練ってことにあたろうぞ!」
モーリス先生が言う。
「僕はまだ虹蛇の力を理解していないので、十分に理解しそれを皆さんのために生かせるように努力します。」
グレースが言う。
「ここに居るものの知恵と、俺達が持っている資源や軍事力を全て使って事に当たるしかないですね。」
全員がおおむねの状況を理解して動き出した。
そんな時だった。
「すこし腹が減りましたね?」
グレースがポツリと言う。
「そうだな。腹が減っては戦は出来ない!まずは飯にしましょう。」
「そうじゃな。」
キックオフ会議を終わらせて俺達は昼食を摂る事にした。マリアに目配せをするとコクリと頷く。
パンパン!
マリアが手を叩く。
ガチャ
何とゴブリンやハルピュイアの女子魔人達がメイド服を着て、料理をいきなり会議室に運んできた。
「えっ!マリア準備してたの?」
「はい。いつでも出せるように下ごしらえはしておりました。そろそろ良い頃合いかと思い運ばせました。」
「凄いね。マリアは本当に凄い人になった。」
「ラウル様。とんでもないです私はまだセルマに追いついてはいないですよ。」
《そうだったのか。セルマってそんなに凄いメイドだったんだ。今は可愛い巨大戦闘クマだけど人間時代は本当に凄かったんだな。》
「皆さん!形式など気にすることはありません!来た料理から手を付けていきましょう!魔人達も気にすることは無い一緒に食え。」
「おお!美味そうな匂いじゃ!」
モーリス先生が言う。
「何か食べないといいアイデア浮かばないし。」
グレースが言う。
「これもまたうまそうな!」
カゲヨシ将軍が言う
しかし…駒か。
俺達が何かに操られでもしているって言うのかね?
俺はふと虹蛇が言っていた言葉に思いをめぐらせるのだった。