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第287話 虹蛇の受体

虹蛇とみんなの最初の晩餐が終わった。 


特製のパイにシチュー、グレートボアのステーキに木の実のサラダ、プリンのようなデザート。度数の低いお酒にフラスリアのお茶。


みんなが幸せそうな顔をしている。


《マリアずいぶん腕を上げたな。セルマの料理にひけをとらないぞ。》


「美味いのう…。」


虹蛇がしみじみ言う。


「満足いただけて何よりです。」


「うむ。マリアと言ったか?」


「はい。」


「こっちに来い。」


「わかりました。」


マリアは座っている虹蛇の元へと近づいた。


「このような絶品料理を作ってくれたことに感謝するぞ。」


「ありがとうございます。」


「特別に加護を与えよう。」


「加護でございますか?そんな恐れ多いです。」


マリアが皆に気を使いつつ一歩下がろうとした時だった。


パァアアアア


いきなり虹蛇の体と髪が輝き眩い光がマリアを包む。直視できないくらいの光が部屋に満ちた。


そのあと。


パッ


急に光が消えた。


部屋の中に居る魔人以外の皆が目を覆うようにかたまっている。


《シャーミリアやギレザムは全く動じていない。》


光に包まれたマリア本人も目を覆うように立っていたが、光が無くなったので自分の体を確認するように見ている。


「終わりだ。」


虹蛇が言う。


「ありがとうございます。」


マリアがお礼を言うがいまいち何が起きたのか分からないようだった。しかし周りで見ている者には、マリアの髪が薄っすらと輝いているのがわかる。


「マリア。何とも無いか?」


俺が聞くとマリアが頷いた。


「なんじゃラウル我を疑っておるのか?何とも無いかとはなんだ。」


「いえ、だって光ってますよ。」


「すぐに落ち着くぞ。」


虹蛇が言っているそばからマリアの髪の毛の光が落ち着いてくる。


「本当だ。」


「常に光っとったら不便じゃろ。」


「はは、すみません。うちの大事な仲間ですので何かあったらと思いまして。」


「加護じゃと言っとるだろが。」


「わかりました。ありがとうございます。」


するとサイナス枢機卿が言う。


「マリアさんやこれは素晴らしき事じゃ。皆には見えておらんと思うが加護の光に包まれておる。」


「そうなのですか?」


「この聖女リシェルと似た輝きを放っておるよ。」


「素晴らしいです。虹蛇様このようなお恵みをいただき感謝いたします。」


「苦しゅうない。」


虹蛇が何事もなかったように言う。


「虹蛇様。飯が美味かったから加護をお与えになったのですか?」


俺が虹蛇に尋ねる。


「それもあるが、マリアには加護が必要なようじゃ…まあそのうち分かるじゃろ。」


「わかりました。これも必然という事ですか?」


「そうじゃ。おぬしも少しは話が分かって来たようじゃな。」


「まあ、あんまり意味は分かって無いですけど。」


「馬鹿め。」


虹蛇に馬鹿にされる。


《ちぇ、しょうがないじゃないか!虹蛇が何言ってるのかわかんねえんだから。》


すると虹蛇が席を立った。それに合わせてそこにいる全員が席を立つ。


「虹蛇様。いかがなされました?」


モーリス先生が訪ねる。


「うむ。そろそろじゃなと思うて。」


「そろそろ?」


「そろそろ受体の時間じゃぞ。」


虹蛇が振り向いて話しかけているのはグレースだった。


「なんです?受体って?」


グレースが焦るように聞く。


「とにかく皆で外に出るがよいぞ。」


「は、はい。」


部屋を出るとドアの前には、グレースのお付きのオンジが膝をついて頭を下げていた。


オンジとはグレースを守って来た虹蛇を守る家系に生まれた者だ。


《そうか。オンジは虹蛇と同じ部屋にいるのを良しとしなかったんだな。そりゃそうか虹蛇の守護者としての家柄だと言っていたものな、恐れ多くて近づく事なんてできないのかもな。さっきのみんなの反応を見ていてもそうだわな。》


「おう。おぬしは我の信徒であるな。守護者としてよう働いてくれたようじゃ。」


「ありがたき幸せ!」


オンジは顔を上げれないでいるようだ。


「おぬしが化身を守ってきてくれたのじゃな。」


「はは!さだめにより守り通してまいりました!」


「うむ。お前の家は末代まで我の加護を与えるとしよう。」


パアァァァァア


さっきのマリアの時と同じだった。目もくらむような輝きを放ちオンジが光に包まれる。


光が落ちた。


オンジも薄っすらと輝いている。


「ありがたき幸せ。我らが一族!未来永劫、虹蛇様にお仕えする事を誓います。」


「そんなに気負う事はないのだ。お前たちはお前たちでしたいことをすればよい。」


「は!寛容なお言葉ありがとうございます。」


「顔を上げよ。」


「はい。」


オンジは涙を流していた。


「まだ化身は若くて、右も左も分からんようじゃ。これからも化身を導いてやってはくれぬか?」


「はい!その命をしっかと受け賜りました!」


「よろしく頼む。」


「は!」


「では行くぞ。おぬしもついて参れ。」


「は!」


オンジが立ち上がった。


虹蛇とグレースが建物を出ていくので、俺達は全員その後をついて行く事にした。


「ラウルよ。どこかに広場はあるかの?」


「あ、はい。ギルどっちにいったらいい?」


「あちらにヘリの発着場を作りましたのでそちらへ。」


「虹蛇様。ではギレザムについて行きましょう。」


「うむ。」


屋敷を出て見上げる空は満天の星だった。まるでシャンデリアのごとく物凄い数の星が瞬いている。森の木々がマルっと無いので空がぽっかりと見えるのだが、二カルス大森林の星空もザンド砂漠の星空に負けず劣らず美しかった。


建物には明かりが灯り魔人達は夕飯でも食べているのだろうか?建物の中からにぎやかな声も聞こえてくる。


「すばらしい。」


カゲヨシ将軍が基地の様子を見て言う。


「本当です。」


トラメルも驚いているようだった。


それもそのはずでどうやら飯屋のようなものもあるようなのだ。俺の話から短期間でここが出来たことを知っているので驚くのも無理はなかった。


《俺だってびっくりしたもん。》


ギレザムについて行くとヘリの発着場についた。発着場には明かりが無かったが、ギレザムが広場の端の方に行って松明に火を灯した。


「化身よ。こっちへおいで。」


「あ、はい。」


グレースが虹蛇の元へと近づいて行く。


周りに居るみんなも何が起きるのか静かに待っていた。


「卵のおぬしを飛ばしてしまったのは、この人間界の争いごとに端を発している。」


「そうなんですか?」


「何かが起きようとしておるのだろう。」


「はい。」


「そのような節目に、そろそろ分身体の役目を終えようとしておるのじゃ。」


「分身体の役目?」


「そうじゃ。本体はラウルも知っておる。今おぬしの目の前にいる我は分身体なのじゃ。」


「はぁ…」


「まあ何を言うておるのか分からんじゃろな。」


「ええ。ちっとも。」


グレースがポカンとした顔で言う。


「おぬしもラウルと似て察しが悪いのう!」


「ごめんなさい。」


「まあよい。」


「はぁ。」


《この二人は血族だと思うが意思の疎通が全くなっていないようだ。まあグレース(林田)は前世の時から察しが悪い人だったから、寝起きドッキリになんかひっかかるんだけどね。》


虹蛇がグレースに向かってまた話し出す。


「おぬしが飛んで行った時は本当に困ったのだ。本体が消える事が無くても、分身体で共有されるべきことがなされぬままになってしまう。」


「はあ、虹蛇様が何を言っておられるのかわかりません。」


「まあよい。おぬしが死んでしまったら、引継ぎもされぬまま1000年の後に受体されるところじゃった。」


「……へぇ……」


「今度の分身体はずいぶんと察しが悪いの!ハズレ年かもしれんな!」


「す、すみません!」


「もういい。じゃあ受体するとするわい。」


虹蛇が頭の上に手を掲げて、何やら瞑想でもしているかのようにしている。


その神々しさに俺も人間たちも魔人も息を呑んだ。


《本当に神様だったのね。》


俺がしみじみ思う。


虹蛇の体が光って宙に浮いた。


グレースが虹蛇を見上げて声をかけようとする。


「えーっと…」


「そりゃ!」


虹蛇が掛け声をかけた。



ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!



物凄い爆音だった。


満天の星空にもかかわらず、天から物凄い極太の落雷が落ちてきてグレースを4度も打ち付けたのだ。


「グレース様!」


「えっ!」


「きゃあ!」


「うわぁ!」


「なんじゃ!」


「おお!!」


俺に引き続き人間の皆さんが目の前の光景に驚いた。


「グレース!」


俺が叫ぶ。


グレースがいた場所が焦げたようになり灰のような残骸が山盛りになっていた。


《えっ!まさかグレースが雷によって燃やされた?燃えカスしか残ってないんだけど!》


グレースがいなくなり山盛りの灰からプスプスと煙が上がっていた。


スーッ


虹蛇が地面に落ちて来る。


トン


「終わったぞ。」


目の前の出来事に全員が凍り付くようにかたまる。


「なんだなんだ!」


「敵襲か!」


「どうしたんだ!」


家々から魔人達が出てきてこちらの方に駆けてくる。先ほどの爆音で攻撃を受けたと勘違いしたのかもしれない。


「えっと!虹蛇様!あの!グレースがグレースが死んだんですけど!」


「はぁ?ラウルよ、おぬしの目は本当に節穴か?」


俺が周りを見渡すと、他の人も死んだとしか思っていないように驚いている。


「いえ。私以外もみな同じように驚いています!」


「まったくどんくさいのう。ラウルはこの世を虐げられるものがいない世界にするのじゃろう?」


「その通りではございますが、それとこれは何が繋がるというんですか?」


「我ら5人が作り上げたこの世界。その常識をくつがえし平等な世界を作ろうなどと神をも恐れぬ事よ。」


「なん…。」


「まあよい。受体をしてしまったのじゃし我はそろそろじゃな。」


「何が?」


俺が虹蛇に声をかけようとしたら虹蛇がスーッと薄くなってきた。


「虹蛇様!いきなりなんです!?どうしたんです?」


「我の代はおーしまい!次のやつ頑張れよー。」


ピュッ


「えっ!」


虹蛇が消えてしまった。


次の瞬間。


ブワアァァァァ


虹蛇が消えたところから大きな虹の橋が伸びる。


《夜なのに七色の虹の橋が伸びてるんですけど!普通は虹って太陽の光とか無いと出ないでしょ!》


まさに奇跡だった。


夜に虹を見る事になるとは。


ここに居る全員が奇跡を目の当たりにして呆然としていた。しばらく虹がキラキラと輝いていたが星空に虹がかかるなどこの世のものとは思えない美しさだった。


「美しい。」


「生きている間にこのような神秘が見れるとは。」


「何という事であろう…虹蛇様…。」


「お祈りを捧げます…。」


「神々しい。このような場にいれるなんて。」


モーリス先生もサイナス枢機卿もカゲヨシ将軍も聖女リシェルもトラメルも、あまりの出来事に感銘を受けてその場に立ち尽くしていた。


「えーっと。そんなことより!グレースが!!」


「グレース様!」


オンジが駆け寄るので俺が後ろを追いかける。


「そ、そんな…グレース様…」


オンジが呆然としていた。


「グレースが灰になっちゃった。虹蛇も消えちゃうし何がなにやら。」


ボコッ


「ん?」


灰の中から手が出てきた。


「あれ?」


灰が蠢いているように見える。


「あっちぃ!いってぇぇ!!!」


ババッ


いきなり灰の中からグレースが飛び出てきた。


「うわ!」


「なんと!」


俺とオンジがのけぞるようにしりもちをつく。


「えっ!なんで俺はだかなの!?」


「あの、グレース。」


「ら、ラウルさん!何かめっちゃ痛かったんだけど何があったんでしょう?」


「えっと雷に打たれて灰になってそこから出てきた‥‥的な?」


「てきな?」


「そうそう。そんな感じでいきなり裸に。」


「あの虹蛇とやらのせいじゃないっすよね!?」


「その虹蛇も消えちゃったよ。」


「消えた?どこに?」


「虹になっちゃった。」


「ラウルさん。なにメルヘンな事言っちゃってんっすか!?」


「だって本当なんだもん。」


俺はいま起きた出来事を全く理解できなかった。


「とりあえずグレースが無事でよかったよ。」


「ま、まあそうですね。あのラウルさん。寒いので戦闘服召喚してください。」


「あ、ああ。そうだな。」


俺は迷彩戦闘服を召喚してグレースに渡してやるのだった。


そして俺は気が付く。


《あれ、最後の晩餐だったのかも。》

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― 新着の感想 ―
[一言] 最期までマイペースにフェードアウトしていった虹蛇様…… ここまでの旅自体が終活だったのかも?
[一言] 飯ウマだったからマリアさんに加護を与えましたw …という訳でなく… 「それもあるが、マリアには加護が必要なようじゃ…まあそのうち分かるじゃろ。」 何だかんだで、マリアさん…多種多様なところで…
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