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第284話 魔人軍基地からのお迎え

運転できる人が俺しかいないので、ルノーVAB Mk3装甲輸送車を運転しながらも、久しぶりのシャーミリアとの会話を楽しんでいた。


念話で。


シャーミリアが車の中にいないからなのだが、彼女は外にいて車を護衛しながら進んでいる。


《いやぁー、シャーミリアがいてくれるだけでこの安心感。俺はお前からこんなに慕ってもらえるほどできた人間じゃないんだがな。》


《何をおっしゃいますか!ご主人様!ご主人様は素晴らしいお方でございます。私奴などがお側にいさせていただける事の方が不思議な事なのです。これ以上の誉れはございません。》


《俺もその気持ちに答えるように頑張るよ。》


《いえ、とにかく無理はなさらずに。手を煩わせるような事は全て私奴や魔人にさせれば良いのです。》


《それじゃあ俺も肩身が狭いから、俺が出来る事は最大限させてもらうよ。》


《ご主人様のお気に召すままに。私奴はそれに従うまででございます。》


俺とシャーミリアは念話でいちゃいちゃしていた。


念話でいきなり無言になってしまった俺をよそに、後部座席手では人間たちが情報交換をしていた。


俺はそちらにも聞き耳を立てている。


「ファートリア神聖国に出かけたきり消えた我が国の商人や冒険者は一体どうしてしまったのか。フラスリア領にも何か情報が流れていないかと思ったのじゃが。」


カゲヨシ将軍が言う。


「ご協力できずにすみません。我々のフラスリア領も最近ファートリアから奪還できたばかりで、まともに機能しておりません。」


トラメルが恐縮しながらも答えていた。


「トラメル殿もまだお若いのに領主となり大変でしょうな。」


「実はそれにつきましてもユークリット王都が壊滅してしまったそうで、正式に辺境伯を任命されたわけではないのです。」


「それならばトラメル伯が領主という事でよろしいのでは?我が国ならば必然的にそうなるが。」


「そうなのですね。」


トラメルは魔人達がフラスリアを最近奪還したばかりで、いきなり領主に仕立て上げられた為、まだすべてを掌握しているわけではないだろう。


「すみません。実は私もファートリア国内で幽閉されておりましたので、特に情報を持っているわけでもなくお役に立てません。しかしあのファートリアに向かったというのであれば、おそらくは無事にはすまないと思います。」


ケイシー神父が言う。


「聞けばケイシー殿は教皇の甥御様だとか。わしはロニー教皇へお会いしたことがある。素晴らしい人物だったことを覚えておるよ。」


「はい伯父は厳格な人格者でした。私が甥などと言うのが恥ずかしいくらいの人物です。」


「そのロニー教皇の行方も分からぬと・・」


「ええ。伯父も魅了をうけない一人でしたから、おそらくは邪魔になってしまったのではないかと推測しています。」


「生きてはおらぬと。」


「そこまでは分かりませんが、その可能性は高いかと。」


「もしファートリア神聖国が壊滅していた場合、ケイシー殿が唯一の生き残りという事になりますな。出来れば神聖国の国民が無事であることを祈るが、その可能性もかなり厳しいとみておるのじゃろ。」


「ここまでの状況を考えるとおそらくは。」


「国民を滅ぼしてまで手に入れる物とはいったい何なのじゃろ。皆目見当がつかぬ。」


「はい私にもそれは分かりません。戦争に勝って敵国の王家や兵士を全滅させる意味も分かりませんし。」


ケイシー神父の疑問は俺やトラメルの疑問でもある。


それではファートリア神聖国を独裁して領土を拡大しても何も旨味が無い。目的が不明すぎて相手の狙いが分からず気味が悪い。


そんな話をしている後ろには、人間達の争いごとなどにあまり興味を示していなさそうな虹蛇が退屈そうに座っていた。


「虹蛇様。」


カゲヨシ将軍が言う。


「なんじゃ?」


「虹蛇様は化身様をお探しになってここまで来たとか。」


「そうじゃな。」


「もしかしたら北部の人間の争いごとと、化身様の卵が飛び去ってしまった事は何か関係があるのではありませんかな?」


「そうかもしれぬ。そうではないかもしれぬ。我に興味はない。」


「左様でございましたか。確かに人間の有象無象などご興味はないでしょうな。」


「そういう事であるな。」


「わかりました。」


虹蛇があまりにも興味がなさそうにしているので、人間たちがその事を話すのをやめた。


するとカゲヨシ将軍が話し始める。


「それにしてもラウル殿。」


「なんでしょう?」


「配下の女性はお美しいですな。」


「はい。魔人の配下は全てこの世の者とは思えぬほどの美貌を兼ね備えております。」


「まことにご無礼ながら、もっと化物のような容姿を想像しておったのです。」


「それはそうだと思います。まあ化物じみた配下もまあまあおりますので驚かないでいただきたく思うのですが。」


「そうなのじゃな。あのシャーミリア嬢の可憐さは人の物ではないと、そう言われれば納得せざるをえません。」


「ありがとうございます。」


「そしてあのお力。」


そう・・車の前にノンストップで落下し大爆発したように地面がはじけクレーターを作った。さらにそのクレーターが邪魔になり、前に進めなくなったルノーVAB Mk3装甲輸送車を持ち上げて渡したのだ。


皆の目玉が思いっきり見開いていたのを思い出す。


《それもその筈なんだよな。カースドラゴン戦では戦艦の落下の軌道修正をしたくらいなんだから。》


「はい彼女は最強格の一人ですので、あのくらいはもちろん1割程度の力で出来ると思います。」


「1割の力とな。」


《まあ実際どのくらいなのか俺もよくわかんないけど。》


「そうですね。」


「それはすばらしい。美しく可憐で華奢なのにあれほどのお力を発揮されるなど、御伽噺を実際に目の前にしているようだ。」


「まあ私自身も最初に知り合った時は、御伽噺どころか悪い夢だと思ったくらいです。」


「そんな方が秘書をしているという、あなたが一体何者なのだと言わざるをえない。」


「私は魔人軍の司令官を魔王から任命されただけのものです。一応は魔人国王の息子ですので王子と言う立場ですが、戦場では皆と一緒に最前線で戦います。私自身も戦場に出れば一人の兵士ですので彼らは戦友でもあります。」


「ふふ。なるほど彼女があなたに忠誠を誓う理由が分かる。」


「そうですか?私には分不相応だと思いますがね。」


「ラウル殿も謙虚ですな。」


「本音ですよ。」


本当にそう思う。彼らがなぜ俺に忠誠を誓うのかと言うと、俺が元始の魔人とやらだからだ。恐らくそれだけで、それ以下でもそれ以上でもないだろう。


《ちがいます!》


いきなりシャーミリアが俺に言ってきた。


久しぶりすぎて念話と自分の思念の区別が上手く付けられない。そのおかげでシャーミリアに俺の考えが駄々洩れだったらしい。


《ご主人様が元始の魔人だから私奴は忠誠を誓うのではありません。ご主人様がご主人様であるから私奴はこの身を捧げるのです。》


《そうか。シャーミリアありがとう。》


《そしてそれは直属の配下の彼らも同じかと思われます。》


《あいつらか。》


《はい。彼らはご主人様の為にすべてを投げ出しても良いのです。ですがご主人様は自分を犠牲にすることを禁じました。》


《そりゃあたりまえだろ。仲間には絶対に死んでほしくないんだよ。》


《はい。ですから私奴はご主人様に忠誠を誓うのです。》


《忠誠をくれるのはありがたいが、俺の前から消えるのは無しな…って消えて帰って来たばかりの俺が言うのもなんだけど。》


《はい。私奴はご主人様の元から消える事など未来永劫ございません。》


なんでかしらんが俺はかなりシャーミリアに愛されてしまっているようだ。最初は俺をつけねらう怪しいバンパイアだったのに、今では押しも押されぬ一番の理解者のようになっている。


《お前を秘書にして正解だったよ。》


《あっあはぁんっ・・》


しまった!思い出した!!俺が褒めるとシャーミリアは悶えるんだった!


しばらくぶりのこの感じ、帰って来たって実感するなあ。


《ご主人様。そろそろギレザム以下の魔人達が設営している基地に到着します。》


《わかった。》


「えーっと皆様。まもなく魔人軍の二カルス大森林基地に到着します。」


「おお!ようやくついたか!」


虹蛇がめちゃくそテンションが上がる。それもそのはずようやく化身に会えるのだ、化身に会って何をするのか分からんがようやく目的を達成する。


「そういえば聞きたい事が。」


「なんじゃ?」


「虹蛇様は化身様に会って何をするつもりなのですか?」


「それは決まっておる…いや会えばわかるので言わん。」


「そうですか。」


滅茶苦茶気になるが、なんか言いたくないみたいなのでそっとしておこう。


「あの、魔人が出迎えに来てくれたみたいです。人間の仲間もいるようです。」


俺が言うと皆がフロントガラスの先に立っている人影を見つける。


キキ―


車を停めて後部ハッチから全員を下ろす。


「おーい!」


俺が車の先に立っている人たちに手を振る。


迎えに来てくれたのは3人と1匹だった。


アナミス、マリア、モーリス先生とでっかいゴーグだった。


「おお!ラウルよよく無事でもどったの!」


モーリス先生が声をかける横からマリアが飛び出して俺に抱きついて来た。


「ラウル様!」


「マリア。ごめんなちょっとドジ踏んじゃって。」


「いえ、いえ!ご無事で戻ってきてくださっただけで言葉は何もいりません!」


マリアは号泣していた。


シャーミリアと同じ反応だ。顔をくしゃくしゃにして泣いている。俺にしがみつく両手がそしてダイナマイトバディの胸が震える。


「心配してくれてありがとう。俺は無事さ!マリアを残して死ぬわけもないだろ。」


「本当に心配したのです。本当に本当に・・・」


すると少しだけ冷静さを取り戻して、自分の立場を思い出したのか一歩下がって頭を下げる。


「あの・・この方たちは?」


俺が後ろを振り向くと青ざめた顔をしている人間たちがいた。


カゲヨシ将軍も影衆もトラメルもケイシー神父も青ざめた顔で見ている。


ある者を。


そう。


ゴーグだった。


そりゃそうだこんなでっかい狼を見た事あるはずがない。ブラックドッグですら牛くらいの大きさなのだが、ゴーグはとびっきりでかい。象より大きいかもしれない。


「ら、ラウル殿!あの魔獣は大丈夫なのですか?」


「ええあの狼も私の配下ですから。」


「配下?」


「あれは魔人なんです。」


「魔人?」


「おそらくここまで人間を乗せてくるために、あの形態になっただけだと思いますよ。」


「形態?」


「ゴーグ!おいで!」


《なんでしょうラウル様。》


ゴーグは狼形態の時は念話で話をする。


《俺が召喚する服を渡すから人間に戻って着て来てくれ。》


《了解しました〜。》


俺が迷彩戦闘服を召喚してゴーグに咥えさせた。服をくわえてゴーグが森の中に走っていく。しばらくするとショタまっしぐらの男の子が森の中から走って来た。


《いきなりここで変身するとゴーグは素っ裸になってしまうからな。》


「紹介します。先ほどの狼のゴーグです。」


「えへ。こんにちは!」


「どういう事ですかの?」


「まあまあ詳しい話は基地についてからで。」


「わ、わかりもうした。」


俺はみんなを離れモーリス先生の所に歩み寄っていくのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] シャーミリアさんとの念話 《いやぁー、シャーミリアがいてくれるだけでこの安心感。俺はお前からこんなに慕ってもらえるほどできた人間じゃないんだがな。》 前半は納得…後者も…うん、納得…あれ?…
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