第279話 壊滅寸前の将軍部隊救出
北へ走るグリフォン装甲輸送車の中で虹蛇が俺に声をかけてきた。
「ふむ。ラウルよなにやらあちらの方で、何かが騒いでおるようだぞ。」
「騒いで?いったい何が?」
「わからん。」
虹蛇は何か感じ取ったものがあるらしい。森の先で何かが起きていると言う。
「将軍様の軍団かもしれませんね。急ぎます!」
ぬかるむ街道を一気に加速して車は進んでいく。
「あそこから森に入ると良いぞ。」
「森へ?虹蛇様。木々があってこの車は走れそうにないのですが?」
「あの先は大丈夫だぞ。むしろこの者達を車から降ろすのは得策ではないぞ。」
「わかりました。」
虹蛇は何かを感じ取っているらしい。俺はその指示に従い森へとハンドルを切る。
「皆さん!少し揺れます!つかまってください!」
ブロロロロロ
ブォン!
アクセルをふかして森に突入していく。街道を外れる時に車体が大きく揺れた。
「この先じゃな。」
俺が黙って森に突入して行くと、いきなり木の影から何かが飛び出してきた。
「えっ!エルフ?獣人?」
《轢く!》
そう思ってブレーキをふんだ。
ズサササササ
ドン!
《やば!轢いちゃった!人身事故だ!》
目の前にいきなり出てきた誰かを轢いてしまった。ぽーんと飛んで地面に落ちた。
「助けなきゃ!」
俺が慌てて車を降りようとしたが、周りからわさわさと人がでてきた。
「なんだ?」
すると今、轢いて飛ばされた獣人が足を折りながらも立ち上がり、ずるずるとこちらに向かって歩いてくる。
「屍人だ。」
どの個体も半分腐っているようで、感情の無い顔を向けてこの車に寄って来るのだった。
「森からどんどん出てくるわ!」
トラメルが窓から覗き込んで言う。
「この先で誰かが戦っているようだの。」
虹蛇が森の先を指さして冷静に言う。
「急ぎます。」
ブロロロロロ
ドン
グチャ
ベチャ
ドサ
《うん。前世のゾンビ映画で車でゾンビをひき殺していくシーンがあったが、あれと一緒だ。》
グリフォンはゾンビをものともせずにガンガン森の中に突入してく。
「誰か屍人と交戦中のようです!」
俺が後部に座っているマキタカに言う。
「あの鎧は!わが軍のものです!」
どうやらシン国の兵隊がエルフや獣人のゾンビに襲われているらしい。
「救出します!」
車を停めて車外の12.7㎜機関銃を遠隔操作する。
ガガガガガガガガ
前面のゾンビが粉々になって消し飛んでいく。
「お!気が付いたようです。」
戦っていた兵士たちが俺達の車の存在に気がついたようだ。
しかしどちらかと言うと驚愕の表情を浮かべていた。もしかしたら新手の魔獣か何かだと思っているのかもしれない。
「近寄ります!」
ブロロロロロ
グチャ
ドン
ドカッ
ベチャ
ゾンビどもを蹴散らしてグリフォン装甲輸送車を兵士たちのもとに進める。
「皆さん!外には出ないでください!中は安全です!」
中に乗っている人たちに声をかける。
「すぐにでも助けに行きます!」
マキタカが友軍を見てすぐに出ていくという。
「いえ!マキタカ様!それではここの皆も全滅します。私が出ます!」
マキタカの返事を待たずに、俺はグリフォン装甲輸送車の天井ハッチを開けて外に出て、すぐさま周辺にM67手榴弾をまき散らした。
ドガン
ドガン
ドガン
ドガン
ゾンビたちが炸裂に巻き込まれて吹き飛んでいく。
すぐさま拡声器を召喚する。
「シン国の兵の皆さん!私はマキタカ様と一緒に皆さんを救出しにまいりました!敵ではありません!」
俺の叫び声につられてゾンビたちがグリフォン装甲輸送車に向けて足を進め始める。
《うん。ちょっと量が多いし、人間のゾンビと違って動きも早いのか?》
俺はM9火炎放射器を召喚する。
ボウォォォォォ
グリフォンの周りに火を放ってゾンビを焼きながら話を続ける。
「そこまでこの車を進めます!生きている方は車に轢かれる事の無いようにしてください!」
前方に円形の陣形が見え、そこで兵士たちがゾンビに抵抗しているようだった。
俺は車内に入って運転席に行く。
「正面の方向に生きている人たちが多数いました。円形に陣形を取って防戦しているようです!そこまで行きます。」
ブオン!
ブロロロロロロ
ドン
グチャ
バチャ
ゾンビたちを蹴散らして一気に円形の陣形を組んでいる所まで詰め寄った。
俺はすぐさま兵士たちが陣形を組んでいる方向を確認し、フランス海軍の高速揚陸艇EDA-Rを召喚した。これは兵士や戦車などを輸送し敵地へ上陸させるための船だ。船首を陣形を組んでいる兵士たちに向くように置き、多数のゾンビどもが下敷きとなる。
ドッズゥゥゥン
「なに!?」
いきなり現れた巨大な鉄の塊に、陣形を組んでいる兵士たちが驚いていた。
俺は急いで上部ハッチから再度外に出る。すると居ても立っても居られないマキタカと影衆5人が俺の後に続いて出てきてしまった。
「殿!助けにまいりました!」
「おお!マキタカ!」
マキタカを確認した将軍がゾンビを切り殺しながらも返事をする。すると影衆たちがグリフォン装甲輸送車の上から消えるようにいなくなり、将軍の周りに出現する。
《ニンジャ!》
影衆たちは将軍に寄ろうとするゾンビたちをバッタバッタと斬捨てていく。
さらに車両の中からトラメルとケイシー神父が出てきた。
「二人とも!危険ですよ!」
「手伝わせて!」
「僕にも!」
二人には安全装置を外したAK-47アサルトライフルを召喚して渡す。
「以前教えた通りこの引き金を引けば弾が出ます!」
「わかったわ。」
「はい!」
ババババババババ
ババババババババ
二人は屋根の上から群がってくるゾンビに向けてアサルトライフルを連射し始める。
「危険になったら車内に入ってハッチを閉めてください!」
「ええ。」
「わかりました!」
二人が銃で周りのゾンビを倒してくれている間に俺は次の行動に移る。
「よ!」
俺はすぐさま高速揚陸艇EDA-Rにジャンプで乗り込み前方ハッチを下ろす。陸地でこの船舶を出したのは壁にするためだが、まずは兵達を中に入れなければならない。
ウィィィィィ
「入ってください!」
「よし!敵を斬捨てながら後退するんだ!」
将軍が指示を出した。
俺は高速揚陸艇EDA-Rの入り口上部に立ち、M134ミニガンを召喚して構える。
キュゥィィィィィィ
ガガガガガガガガガガガガ
兵士たちの後方から襲撃してくるゾンビたちを蹴散らしていく。
「急いで!」
動ける兵士が次々の高速揚陸艇EDA-Rの中に入るが、何としんがりは将軍が務めるみたいだった。
「将軍は普通最初に逃がすんじゃないのか?」
そう思って見ているが、影衆5人と将軍の剣技は他の者達に比べて明らかに群を抜いていた。一瞬にして何体ものゾンビを斬捨てている。
俺はそれ以上ゾンビが近づかないようにM134ミニガンで後方のゾンビを粉砕していく。
将軍と影衆が高速揚陸艇EDA-Rの中に入ったので、上陸用ハッチを上げた。
グゥゥゥゥン
ガチーン
全員中に入ったようだった。
グリフォン装甲輸送車の方を見るとだいぶ屍人から群がられていた。
「マキタカ様!トラメルさん!ケイシー神父!もう大丈夫です!中に入って閉めてください!」
「は、はい!」
二人が周りのゾンビを攻撃してひきつけてくれたようで助かった。
トラメル達が車両の中に入ったのを確認して俺は次の行動に移る。
「動ける兵の皆さんは、船体の脇に来て入り込もうとする屍人を倒してください!高さがありますが屍人が積み重なって中に入ろうとしています。」
「わかり申した!」
返事をしたのは将軍様だった。
《さてと・・このままでは埒があかないな。》
M134ミニガンの弾丸がつきたが俺は装填しなかった。
そのまま高速揚陸艇EDA-Rの壁の上から地面に飛び降りる。
「なにを!」
将軍の声が後ろから追いかけてきたが俺はそれを無視して、高速揚陸艇EDA-Rの壁を背にして12.7㎜重機関銃を三脚に立てて水平にゾンビを撃ち始めた。
ダダダダダダダダダダダ
俺が撃った方向のゾンビたちが、モーゼが海を割るように倒れていく。
「通った!」
円形に群がっていたゾンビの1方向に道が開いた。そのゾンビが割れた間を走り抜けると、ゾンビに追いつかれる事無く群れを抜けて外側に出ることが出来た。
後ろを見ると俺に気が付いたゾンビたちがこっちに向かって走ってくる。
走りながらコロンコロンコロン
手榴弾をばらまいて行く。
ズドン!ズドン!ズドン!
俺を追いかけてきていたゾンビたちが爆発に巻き込まれて吹っ飛んでいく。
ズササッ
俺は立ち止まり後ろを振り向く。
すぐさまロシアのNSV重機関銃を召喚して構える。12.7ミリ×108の弾丸を装填しゾンビに向かって撃ち始めた。
ブガガガガガガガガガガガ!
ゾンビは粉々に粉砕されていく。ロシアのNSV重機関銃は本体だけで25㎏あり、弾丸を含めるとかなりの重量になるが、俺には全く問題なく振り回す事が出来た。それを担ぎ走りながら撃つこともできる。
今度はジリジリと前に進みながらゾンビを撃っていく。
ガガガガガガガガガガ
高速揚陸艇EDA-Rに群がっているゾンビたちに撃ちこんでいくと、壁をよじ登ろうとしていたゾンビたちが剥がれ落ちる。するとこちらに気が付いて一斉に走り寄って来た。
ガガガガガガガガガガ
乱射して手を止める。
そして俺はロシアのRPO-A ロケットランチャーを召喚する。このロケットランチャーにはサーモバリック弾が装填してあった。
シュバ―
ドバァァァァァン
塊のゾンビたちが飛び散りながら吹き飛んでいく。
その音につられて外のゾンビたちも俺に気が付いたようだった。俺はそいつらを誘うためにNSV重機関銃を撃ちこむ。
ガガガガガガガガガ
細切れになりながらも走り寄ってくるゾンビたち。近づいてきたらまたRPO-A ロケットランチャーでサーモバリック弾を炸裂させる。これで高速揚陸艇EDA-Rにもグリフォン装甲輸送車にも被害が及ぶ事は無い。
何度も繰り返しているうちにゾンビがだいぶ減ってきた。
「よーし!」
俺はその場所から高速揚陸艇EDA-Rとグリフォン装甲輸送車がある場所を中心に回り込む。
NSV重機関銃を撃ちこみゾンビを蹴散らす。
暴れる俺に気が付いたゾンビたちがどんどんこっちに群がってくる。すべてのゾンビが俺を敵とみなしたらしく船や車に群がる事を止めて、俺に向けて突進してきた。
「オッケー!全部はがれたな。」
ゾンビたちが凄い勢いで俺の方に走ってきている。
「さてと久しぶりに訓練しようかね。」
そう、俺は戦闘からしばらく遠ざかっていたために、勘がなまらないように訓練しようと思うのだった。
早速2丁のデザートイーグルを召喚する。
「いきますか。」
脱兎のごとくゾンビの群れに飛び込んでいく。
すると前後左右から獣人やエルフのゾンビたちが襲い掛かって来た。
ズドン!
ズドン!
体術でゾンビの攻撃をかわしながら正確にヘッドショットで片づけていく。倒れたゾンビを乗り越えて前から来るゾンビに正確にヘッドショットで鉛を撃ちこんでいく。四方から飛びかかって来たゾンビの上に飛んで、逆さまになりながら脳天に的確に撃ちこむ。地面を転がりながら襲い掛かってくるゾンビの眉間に穴を空けていく。
俺に群がる事が出来ずに目の前で倒れていくゾンビ。
「あいつらに合流した時に、弱くなったなんて言われたくないしな。」
ズトン!
ズドン!
カシャ
カシャ
弾倉が空になったのですみやかにマガジンを捨てて、新しく召喚したマガジンを装填する。
「うん。召喚のタイミングと装填も問題ないな。」
そうして俺の訓練は全てのゾンビを倒すまで続けられたのだった。