第28話 美女の荒稼ぎ
腐ってしまった仲間たちの死体をM9火炎放射器で焼き払い、とおりすがりの僧侶に弔ってもらった日から3日後に宿場町に到着した。
腐乱死体を見たのも初めてだが…
あんな悪夢のような大量殺戮を自分たちが行った事にみんな精神がまいっていた。
《敵兵とはいえ人を大量に殺してしまった事で、メンバーの士気が駄々下がりだ・・なぜか俺だけ耐性がついたみたいだ。理由が分からない、なにかカッカと血が沸き上がるような熱っぽい感じだ。》
と考えているうちに朝靄の宿場町の中央に進んでいく。
朝から宿場は人でごった返していた。
「なんでしょう?こんなに人がいるなんて・・」
ニクルスは不思議そうに言う。普通はこの町にはこんなに人がいないらしいのだ。たぶんだが何かしら戦争に巻き込まれて逃げてきた避難民ではないかと俺たちは想像していた。
「こんなに人がいるのでは宿屋に空きがあるものでしょうか?」
「安いところは既に埋まっているかもしれませんな。定宿ならば空いているやもしれませんし、とにかく商業ギルドでいろいろ話を聞いてみましょう。」
「そうですわね。」
ここはラシュタルやシュラーデン、ファートリア神聖国、グラドラムの中継地点にあるルタン町という宿場町だ。
各国の中継地点にありそこそこ大きな町で、普段もそれほど人が少ないわけではないらしいのだが、こんなに人でごった返す事はないらしい。俺たちが想像していたより町は大きく、メイン通りは広めで馬車が何台も行き来する事ができた。建物がかなりあり商店なんかもある。
ちょっと人が多いためユークリットの王都の宿場町のような雰囲気もある。
ニクルスはとりあえず商業ギルドに向かった。俺たちは当てもないのでしばらくニクルスについていく事にした。メイン通りは石畳できちんと整備されていた。
商業ギルドは意外に大きな建物だった。
「それではちょっと行ってまいります。」
ニクルスとエリックがふたりで商業ギルドに入っていく。商業ギルドの建物はこの異世界にしてはかなり大きい。3階建ての広い建物で人間以外にもさまざまな人が出入りしていた。
「大きい建物ですね!」
「ええ、王都のギルドほどではないですが、宿場町にあるギルドにしては大きいですね。」
「そして母さん・・サナリアの屋敷にもいましたが、ここはさらにおおいですね・・」
「獣人が結構多いわね。」
「はい、うちにいた獣人ともまた違う獣人がいます。」
「いろんな種族がいますからね。」
猫にウサギに馬に犬の獣人・・本当にいっぱいいる。人間たちも獣人と普通に話をしていた。差別的なものは無いように見える。
「うちで働いてくださっていた獣人たちは逃げ延びたのでしょうか・・」
「母さん、獣人は人間よりも足が速い。きっと大丈夫ですよ。」
「そうね・・」
イオナは悲しそうにつぶやいた。自分の領の民がどうなっているのか・・そりゃ心穏やかにいられないわな・・
商業ギルドに出入りする者は皆、旅の服装や冒険者の装いだ。貴族みたいな恰好をしている人は視界に入ってくる範囲では一人もいない。もし、イオナやマリア達があのままの格好をしていたら滅茶苦茶に浮きまくっただろう。
今はイオナ、マリア、ミーシャ3人とも御者の格好で、うち二人は皮の鎧を身に着けている冒険者に見えなくもない。俺は商人の息子に見えない事もなく、ミゼッタはまんま使用人と言った感じだ。
とりあえず、怪しまれる事はないだろう。俺以外全員女という部分以外は・・
《てか・・俺以外、全員女子じゃん。31年+7年童貞の俺もずいぶん女子耐性がついたもんだ。あ・・もうそろそろ夏も終わりか・・って事は俺もう8歳なってるな。前世と合わせたら39歳だし逆に童貞のまま39歳になって悟りひらいちゃったかな?いやあそんなことはないか・・女子ーズとの水浴びはやっぱり恥ずかしいし・・》
俺に彼女がいた事はないが・・
今のメンツで言うとルックス的にはイオナがドストライクだ。しかし俺は近親相姦には興味はない。まあイオナを見るとたぶん誰でもストライクだろうけどな。てか俺も母親として見慣れてるから美人だな!くらいですんでるけど、最初見た時はびっくりしたもんなあ。
マリアのほうが体付きからすると20歳で細身なのにドーンと胸があり、おケツもいいものを持っている。有名な泥棒一味のときどき裏切る女泥棒を彷彿させる体だ。
ミーシャは目の比率が大きく人形のようだ、胸もふくらんでようやく女性っぽい雰囲気が出てきてはいるが、まだ14歳だし今後に期待だな。
ミゼッタに関してはツルペタのただの子供だしな。
うん・・俺は冷静に女性を分析できるほどの耐性がついている。しかも8歳の俺には彼女らをじろじろ見てもまったく怪しまれないという特典付きだ。子供バンザーイ!
「・・ウル、ラウル?」
「は、、ハイすいません、聞いてませんでした!」
「なにも言ってないわよ・・」
「なんですか母さん」
「ニクルスさんがこの町で商売するようだから、私たちもここに滞在する間お手伝いでもしようと思うの。おそらくその方が良いと思うのよ。」
「しかし、追手が来るかもしれません。」
「いえ、この格好でこの町に紛れ込めばおそらく隠れられます。」
「このまえファートリア神聖国の僧侶に見られてますが・・」
「私の勘ですがあの方たちは大丈夫です。」
「勘・・ですか・・」
「ええ勘です。」
しかしイオナの状況把握能力は異常に高い。瞬時に場をわきまえてその場を切り抜ける嘘も流暢に出てくる。天才プロファイラー的な能力があっても不思議ではないな。
「ではお手伝いする事にしましょう」
そしてイオナの言うとおりだ、ニクルスやエリックがイオナに好意を寄せてくれているうちはそれに甘えたほうが有利だ。さらに死んだ従者の代わりをすればここに滞在しているあいだの面倒を見てくれる可能性がある。
「あ、ニクルスさんとエリックさんが出てきました。」
ニクルスとエリックが商業ギルドから出てきてこちらに向かって来る。
「お待たせいたしました。いやあ良かったです、なんでも人が急激に増えて物資が不足しているらしく、商売は大歓迎だそうです!しかも今ならグラドラムで販売する相場かそれ以上で荷が買ってもらえるそうです。」
「あら?それは良かったですわね。」
「はい・・ただとても困ったことが一つございまして・・」
「どうされましたか?」
「ええイオナ様、実はこの盛況ぶりに人員が足りないらしく、商売の手伝いをする人員の貸し出しは出来ないと。」
とニクルスは困ったように言った。
「俺も護衛などはするが、商売となるとてんで分からんのです。」
エリックも早々に戦力外通知を自分から言ってきた。
「すこし時間がかかりますが小出しにしながら売るしかないかと、一人でさばくには限界がありますから。」
ビンゴ!!さっすがうちのママはすっごいでしょ?予言者みたい。心強いわあ〜
「あの・・」
イオナがきりだした。
「もしよろしければ、この旅で知り合ったのも何かの縁です。差支えなければ私たちがお手伝いをいたしますがいかかでしょうか?」
「いえ!イオナ様のような高貴な方にお手伝いを頼むなど・・とてもとても!」
「困っている私たちをここまで連れてきていただいたご恩もあります。何卒お気になさらず私たちを使っていただければと思います。」
「なんという・・イオナ様はお心が広い。本当はすぐにでも助けを求めたかったところでございますが、イオナ様から申し出ていただけるとはなんと感謝をいってよいやら。」
「いいえ、いずれにせよグラドラムに行く前にこちらで休まねばなりませんでしたし、グラドラム迄行く馬車と食料も分けていただきました。恩をお返しするのは私たちのほうですわ。」
「わかりました。そこまでおっしゃっていただけましたら、ちょうど御者3人分の経費が浮いてしまいましたので、宿場の面倒はぜひこのわたくしめにお任せください。」
宿屋ゲーット!ゲットだぜ!まさか・・イオナ・・ここまで推測していたとは恐れ入りました。
「それでは、商業ギルドで確認がとれた宿屋に向かいますゆえぜひご一緒に。」
「そうさせていただきますわ。」
ニクルスとの交渉を流れるように成功させたイオナは、何事もなかったように俺たちに目配せをして馬車に乗り込んだ。
宿屋はそれほど高級というほどではなさそうだったが、小綺麗で管理が行き届いた感じの建物だった。今日の夜はやっときちんとしたベッドで寝れる・・やった・・。
「いらっしゃいませ!」
おお!獣人が宿屋のカウンターから出てきた!犬耳の獣人だった。どことなくサナリアで仕えていた獣人のファミルと似ている。その獣人の後ろから人間の禿げた優しそうなおっさんが出てきた。
「これはニクルス様お久しゅうございます。お部屋は二部屋でよろしいでしょうか?」
禿げたおっさんが聞いて来た。ニクルスはこの宿を定宿としているらしい。
「そうですね、そしてひと部屋には3つのベッドがあるとうれしいです。」
ニクルスが尋ねてみた。
「大丈夫です。冒険者パーティーでも泊まれる4つのベッドの部屋があります。あとは2つの部屋が空いております。本当によかったですよ今朝がたどちらの部屋も空いたばかりです。」
「それで結構です。」
部屋は2部屋借りられそうだ。
「以前と宿泊費の変更はありますかな?」
「いいえいつもどおり部屋の大きさに関係なく、一晩1部屋ユークリット銀貨2枚です。」
「では2泊ほどお願いできますでしょうか?」
「はい、それではごゆっくりお過ごしください。」
「食事はとれますかな?」
「変わりなく。1階の食堂をご利用ください。お代金は食べる時にお支払いください。」
「浴場もいつもどおり?」
「ええ、夕刻より2刻ほど、朝は日の出から2刻ほど利用できます。鉄貨ひとり2枚となっております。」
「あいかわらず。良心的なお店ですな。」
「もちろんです。普段通りの金額ですよ。最近人が増えていますが値上げはせずにやっております。商業ギルドにお願いして、ならず者や身元がよくわからん人はお断りしてますので安全でございます。」
凄くて手入れが行き届いていて、荒稼ぎせず堅実に商売を行っている。部屋が空いているのは危なそうな人をギルドに断ってもらっているかららしい。ニクルスと一緒に来てよかった・・
「この度はこの町で商売をしようと思っているのですよ。」
ニクルスは今回はこの町で商売をするという。
「左様でございますか、それで2泊というわけですね。かしこまりました。」
「よろしくお願いします。」
「では、ニケお客様にお部屋を案内差し上げてください。」
ニケと呼ばれた犬の獣人は俺たちを部屋に案内した。小さくて10才くらいの女の子かな?このくらいの獣人の年齢は何歳なのか俺にはよくわからないが、オレンジのショートカットに半ズボンからぴょこっとしっぽが出ているそばかすの女の子だ。しっぽをパタパタさせて話してくる。
「ニクルスの旦那!今回の御者は皆、女なんですね。」
「いえいえ、この方たちは御者ではありません・・訳あってこの格好なのですが、本来は私などが・」
とニクルスがニケに答えているところでイオナが割って入る。
「そうなんですよ。ニクルスさんいいのです。私たちは今回ご商売をお手伝いさせていただきますのでお手伝いさんとしてご紹介してください。」
「あ、ああわかりました。この方たちはこの町で商売を手伝ってくださることになったのです。」
ニクルスもそのままイオナの気遣いと感じたのかそう答えた。
「ふーんそうなんだ。とにかく宿屋にいる時はなんでもアタイに声かけてね。」
「わかりました。」
「ところで、みんなが足につけてるそれなんだい?」
ニケが不思議そうに足についているホルスターを見て言う。
「ああ、これは道具です。金づちみたいなものですよ。」
「大工さんなのかい?」
「いえ、ちょっと道中いろいろありましたので護身用に持っているだけですわ。」
「そんなので戦えないよ。」
「やっぱりそうでしょうか・・戦った事がないからわからないわ。」
「やっぱりね、戦いの素人だなって思ったよ。そんなもので戦えるわけないもの。」
「まあ・・そうね。」
俺たちは部屋を案内されて泊まる場所を確認した。そしてニクルスさんと集合して商売をするため市場方面に向かった。エリックは宿屋で休んでから街を散策してみるという。
市場につくと人がごった返していた。
「えーここが商業ギルドから紹介された我々が使っていい場所です。」
市場の屋台が並んでいる一角に馬車を止めて幌を外して、横板をスライドさせてぬいた。ニクルスが商品を陳列し始めるので俺たちはそれを手伝う事にした。
ニクルスがラシュタル王国から持ってきたのは、花で作られたジャムの瓶、花から抽出された香水の瓶、ラシュタル産のお酒、薬に使われる乾燥ハーブや薬草、小麦などだった。小麦以外は高級嗜好品ばかりだった。
大商いは大商会にまかせ、高級嗜好品専門にやっているんだとか。それらを丁寧にわかりやすく陳列していく。陳列している後ろには客がちらほらと集まりだしている。
「それではみなさん!お客様の欲しいものがお決まりになりましたら、私のところまで連れてきてくださいますようにお願いします。」
「わかりましたわ、マリア、ミーシャ、お客様をニクルスさんのところにお連れしてね。ラウルとミゼッタはお店の見張り番よ。ものが盗まれることの無いようによく見ていてね。」
「イオナ様はお気遣いが素晴らしいですなぁ助かります。それではみなさん二日間よろしくお願いします。」
ニクルスはイオナの気配りに感心していた。
そして俺達の初めての商売が始まった。
「いらっしゃいませ。ラシュタルの名産を取り揃えてございます。ぜひご覧になってください!」
とニクルスが声をかけたら数人が立ち寄ってきた。イオナがお客さんに声をかける。
「こちらのラビルダーの花で作られたジャムはとても香りがいいですのよ。朝の食卓に高級感が出ますわ。なかなかこのような宿場町でお目にかかれるものではございませんのよ。おひとついかがでしょうか?」
「それはいいですね。どんな香りなのでしょう? 」
「ニクルスさん1瓶開けてもよろしいかしら?」
「ええどうぞ。」
「あと小さいさじも一つお貸しください。」
イオナはニクルスからさじを受け取りジャム1瓶からひとさじ救ってお客さんの手に乗せた。
「どうぞ!」
手に乗ったジャムをお客さんが口に入れた。
「おお!これはいい香りだ。では1瓶いただいていきます。」
「ありがとうございます。」
イオナはニクルスのところにお客様を連れて行く。早速ジャムが1本売れた。イオナは合わせてニクルスさんに提案する。
「ニクルスさんよろしければ、香水も1瓶だけ開けさせてくださいません?」
「はい、では1瓶だけ。」
「マリア、ミーシャこちらへ・・」
イオナはマリアとミーシャに軽く香水をふった。
「あなたたちは香水と薬草やハーブ類を頼みます。女性のお客様がきたら香水を手首にひとふりかけて差し上げなさい。私は食品や小麦を売りますから香水をふりません。臭いが邪魔になりますからね。」
「はい、奥様。」
するとそこに夫婦が立ち寄った。すかさずマリアが声をかける。
「いらっしゃいませ!」
奥さんの方が声をかけてくる。
「あなた方からとてもいい香りがしますわ。それは香水かしら?」
「こちらはラシュタルのローザで作られた香水でございます。奥様お手を」
マリアがついっと女の人の手をひいて手首に1滴のせてやる。
「あら、これすっごい良い香りじゃない!こんな宿場町でこんな高級なものが売っているなんて。」
すると隣にいたお金持ちそうな紳士が言う。
「そうかそうか、それじゃあお嬢さん私の妻にこれを1瓶売ってください。」
「ありがとうございます!」
マリアはお客様をニクルスのところに連れて行った。それを見ていた女冒険者が声をかけてくる。
「へぇーこんなところで香水かい?いい香りだね、私も一本もらおうかな。」
「はい、ありがとうございます。」
ミーシャもお客様を連れて行く。イオナは次のジャムをお客さんに薦めているところだった。俺とミゼッタは荷台を見守っているだけだ。すると男が荷台に近寄ってきて物色している。マリアが戻ってくると早速声をかけた。
「こちらはラシュタルのハーブです。薬草は治療薬にも使えるものです。」
「こりゃ品物が良いな、ここの使用人は美人ぞろいだし立派な商会とお見受けしたよ!さぞいい品なのでしょうな!」
「ええ。それはもちろんニクルス様の商品はどこの物にもひけをとりません。」
「私は薬の材料を卸している業者なんだが、まとめて買う事はできますか?」
そこにミーシャも戻ってきた。
「おお、こんなにかわいらしい使用人迄いるとは珍しい商人様ですな。」
マリアがニクルスを呼びに行く。
「これはこれは、お客様薬草をお探しでございますか?」
「ええ、ご主人。こんなに美しい使用人がそろっているとはさぞ名のある商会様なのでしょうね。」
「いえいえ、私共はごく普通の商人でございます。お手伝いしてくださっているだけですよ。」
「それにしてもいいものをそろえているようだ、まとめ買いは出来ますかな?」
「ええ、もちろんです。グラドラムに行く途中での商いですので多少お高めかもしれませんがよろしいですかな?」
「いかほどになります。」
「こちらの薬草とハーブですと3キロで金貨1枚になります。」
「それほどお高くないですね?」
「ええ、私共はそれで結構でございます。」
「それでは9キロほどください。」
ニクルスは金貨3枚を受け取って9キロの薬草の袋を渡した。
しばらく、順調に商品が売れて行った。
気のせいか他の店よりも人だかりができているように感じる。俺とミゼッタはただ立って見ているだけだったが、イオナもマリアもミーシャもせわしなく働いていた。
しばらく働いているとニクルスさんがいったんお昼にしようと言ってきた。いったん荷馬車の上に幌をかけて皆で集まり、朝に出した乾パンとニクルスが用意した干し肉をかじってイオナが全員分の水を注いだ。
「いやはやなんだかすごい売れ行きですな。」
「そうなんですの?」
ニクルスとイオナが話をし始めた。
「ええ、いつもはこんな勢いで物は売れていきませんよ。」
「うーん、それではもう少し利益を上乗せしてはいかがですの?」
「イオナ様それでは高くて売れなくなってしまうと思われます。」
「そうですか?・・なんとなくですが、お客様は付加価値を見出して買われているように感じます。」
「なるほど・・それでは午後は思い切って利益を上げてみましょう。」
ニクルスとイオナはそんな話をしていた。午後の商売が始まって店を開くと少しずつ人が寄ってきた。すると近づく冒険者たちの声が聞こえてきた。
「ここにキレイどころがいる店があるんだとよ。」
「ここじゃねえか?」
冒険者はなかなかに凄みがある強そうなものたちだ・・ひょっとしたら追手?・・違うな見たところ間違いなく普通の冒険者だ・・だが何かひと悶着あるのではないか?と不安になってきた。
「いらっしゃいませ。」
イオナが声をかける。
「!?」
「すっげえ・・び」
「あの?なにかございましたか?」
「い、いえ。あのこ・・この薬草いくら?」
「3キロで金貨2まいですわ。」
「金貨2枚・・おっおお安いなぜひ3キロ譲ってくれ。」
「ありがとうございます。」
イオナが薬草を倍の値段で売りつけた。その冒険者たちが立ち去ってからしばらくすると・・冒険者風情の男たちがなんだか増えてきた。さっきから冒険者の男がぞろぞろやってくるようになった。
「こちらはローザの香水です。思い人にプレゼントなどいかかでしょう?」
「おお!こりゃいいなこれを1瓶もらおうか。あんた名前は?」
「マリアです。」
「マリアか!いい名前だな。俺はダバ・・」
「ありがとうございまーす!」
マリアは相手の名前も聞かずにお礼を言う。
「ひと瓶金貨2枚です!」
「金貨2・・2枚!安いな。それをくれ!」
「お客様太っ腹ですね」
「当り前よ!」
また倍の値段で売れた。
俺は気が付いた・・
どうやら彼女らの魅力で倍の値段で売れていっている様子だ。そりゃそうかもしれない、こんな美人と可愛い女がそろったらお客も集まるよな・・冒険者が一目見ようと近づいて恥をかかないようになけなしの金をはたいて物を買っているのだ。
イオナはそれを分かって利益を上乗せしようとニクルスに提案したのだった。特にイオナの列が長いやっぱ超がつくほどの美形だもんな・・人妻で妊婦なんだけどまだ服を着ていればお腹も目立たないし、下心いっぱいの男が群がるわけだな。
結局夕方までにひとつ残らず商品が売れてしまった・・ニクルスが呆然としている・・
「グラドラムの倍の値段でうれるなんて・・信じられない。しかも明日も売る予定だったのに商品が無くなってしまった・・」
「あら?すみません。余計な事をしてしまったかしら?」
「いえいえ!イオナ様感謝こそすれ余計な事などと・・給金以上に謝礼をお支払いいたします!」
「よろしいのですか?」
「よろしいもなにも・・想定の倍近い利益が出ましたゆえ。利益の4分の1をお支払いします。」
「あらそんなに!すみません。とても助かりますわ。」
「こちらの方が助かりました・・イオナ様ありがとうございました。蓋を開けたジャムと香水は差し上げます。」
「ありがとうございます。それでは皆で宿屋に戻りましょう。」
空になった馬車をひいて宿に戻る事になった。
宿屋に戻り食堂にみんなで集まった。
「今日は大盛況でございました。遠慮なく食べてください」
夕食はニクルスの奢りとなった。
食卓には肉の盛り合わせや、あったかいスープ、フルーツの盛り合わせ、柔らかいパンが乗った。
やっとまともな食事にありついた俺たちはほんとうに一息つけたようだった。
イオナがみんなに声をかける。
「食前のお祈りをささげましょう」
みなでグーっと腹を鳴らしながら祈りをささげる。
「それではいただきましょう。」
飯はうまかった。何の肉か分からないが豚肉のような味だった。スープは野菜と鶏肉が入っていた。パンも柔らかく焼きたてのようで、やっとあたたかいできたての食事にありつけたことに俺は泣きそうになった。
商いではニクルスから儲けの4分の1を分けてもらった。
なんでも、当初グラドラムで商いをした場合に想定していた倍近い利益が出たらしい。
大金貨2枚と小金貨5枚銀貨8枚が俺たちの懐にはいり、さらに宿代とこの飯代まで出してもらった。至れり尽くせりというやつだ。なんでも命を救ってもらった上に倍の収益が出たという事でお礼も兼ねてらしい。
命を救われたという部分ではたぶん俺たちが狙われていたのでマッチポンプだが、イオナは黙っていく方向でいるようだ・・俺たちはイオナに従う。
「本当にすごかったですな!」
ニクルスが言っていた。
「本当に売れて良かったですわ」
イオナも自分の策略で倍以上儲けが出たので、ようやく面目躍如を果たしたような顔で言う。
「本当にこれもひとえにイオナ様がたのおかけでございます。」
「喜んでもらえたのならなによりです。」
「私共はあすラシュタルに帰りますが、せっかく2泊の宿をとりましたのでイオナ様がたはごゆっくりなさっていってください。」
「それではお言葉に甘えまして、そのようにさせていただきますわ。」
食事は楽しい時間となった。儲けたあとのご飯はウマいな。
みな食事が終わり満たされた顔になっていた。
そして待望の風呂だ!
旅の途中で何度か水浴びはしたが今日はあったかい風呂だ!
獣人の女の子ニケがスリスリと近寄ってきて話をした。
「最初は女性の時間だよ!あんたは子供だからお母さんといっしょだね。ゆっくりどうぞ」
あ・・8歳の俺は子供だ。イオナと入るのは当たり前か・・という事は・・
「では皆さんいきましょうか?」
「はい、イオナ様お背中おながしします。」
「久しぶりのお風呂でございますね〜」
「ラウルも早くいこ!」
うちの女性陣は全員一緒にはいるのか。おれ・・大丈夫かな?
それからの1時間ほど・・俺はこの世の桃源郷を味わうのであった。
次話:第29話 ポーション大量ゲットだぜ!