表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

277/951

第276話 将軍様救出会議

この国に来て分かった。シン国には大陸北部の惨状がまるで伝わっていないようだ。


ただマキタカの情報では砂漠の国アラリリスには魔獣が蔓延り、調査隊を出してもほぼ全滅してしまうのだとか。


「という事は砂漠で東に行かなくて良かったという事ですね。」


ケイシー神父が言う。


「そのようです。我々は砂漠を西に向かって正解でした。」


アラリリスはファートリア神聖国を南下し、二カルス大森林を迂回した東の山脈沿いの街道をさらに南に進んだ砂漠の東側にあるらしい。逃げたのが西で正解だったという事になる。


「我と巡り合うために西に向かったのだ。当然の結果と言えよう。」


虹蛇がどや顔で言う。


《そういえばめぐり逢いは偶然じゃなく必然なんだっけ?》


「おそらくファートリアは、転移罠を仕掛けるためにアラリリス国を拠点にしたんでしょうね。」


「そのようですわね。」


《ファートリア神聖国のアブドゥルとやらは、砂漠に転移罠を仕掛けるために東の街道を南下し、まずはアラリリスを占領したと考えるのが妥当だろう。二カルス大森林のエルフや獣人を始末して進んだ先がアラリリスか。》


「南部の西方にある我がシン国は攻略対象に入っていなかったと?」


マキタカが聞いてくる。


「そうなりますか。」


「それを幸運と考えるべきなのでしょうが、相手にされなかったとなれば屈辱ですね。」


「幸運と言うべきでしょう。各国の王族や貴族は皆殺しに遭いましたので。」


「皆殺しに!なんと言う事でしょうか・・・」


「敵は南に目的としていた何かがあったのかもしれません。」


「そうですか・・・」


するとおもむろに虹蛇が話し出す。


「ラウルよ。これは必然なのだぞ。急ぎおぬしらの正体をマキタカに明かし、協力を要請しても良いという事だ!我が保証してやるわ!いやシン国はラウルの力なくして将軍は救えんだろう。」


《どうした虹蛇よ・・いつになく真面目な口調で力強く言っちゃって。》


「正体とは何です?」


マキタカに聞かれる。


「虹蛇様がそうおっしゃるのであれば話します。私は北のグラドラムより来た事はお話ししましたが商人ではございません。」


「なんとなくそうではないかと思っておりました。」


「そしていきなりで信じられないかもしれないのですが、ファートリア神聖国に蔓延る悪魔が世界を変えようとしています。」


「そういうことか・・ファートリアに向かった商人や冒険者が帰ってこないのは・・」


「ええ。おそらくすでに全て殺されているでしょう。我々はそれを阻止するために戦っている魔人国の者です。」


「ま、魔人ですと?」


「そしてこちらがユークリット公国フラスリア辺境伯のトラメル・ハルムート様です。」


「お見知りおきを。」


「こ、これは辺境伯様でしたか!間違いとは言え牢などに入れてしまい申し訳ございませんでした!」


「いえ。気にしておりませんわ。私でもわけの分からない者が来れば牢に放り込みます。」


チラッとケイシー神父を見る。ケイシー神父が肩をすくめている。


「そしてこちらが元ファートリア神聖国から逃亡して来た、教皇の甥のケイシー神父です。」


「ファートリア神聖国の?」


「母国では殺されかけの身分でございましたが、トラメル辺境伯に救われこうしてラウルさんと一緒に旅をすることとなりました。」


シン国の重職の人たちがざわざわとし始める。それもそのはずファートリア神聖国を敵と認識して話をしているのだから混乱するのも無理はない。


「彼は大丈夫なのですか?」


マキタカが俺に聞いてくる。


「今までの旅でケイシー神父の事を良く知る事が出来ました。この人は間違いなくこちら側の人間だと思います。」


「ラウルさん・・ありがとうございます!」


ケイシー神父が俺に頭を下げる。


「それでマキタカ様。」


「はい。」


「敵は転移魔法を操りさらには魔獣をも使役して北部を壊滅させました。恐らくはアラリリスは敵の手中に落ちてしまったと思います。運よくシン国はその被害を免れたと言っていいと思います。」


すると重職者のざわざわが収まりマキタカが言う。


「という事は・・シン国は被害が無いのに、あえてその渦中に足を踏み入れたという事ですか?」


「そう言う事になります。ですがまだ将軍はファートリアには到着していないはず、今なら間に合います。」


「30日ほど前に出発してしまいましたが。」


「大丈夫です。私の車を使えば5日か6日で追いつくはずです。」


「しかし我々にその話を確かめるすべが御座いません。あなた方を信頼して良い物かどうかを国内の大臣を招集し話し合わねば。」


「それには及びません。我々がシン国を巻き込まぬよう阻止したいと思います。」


するとマキタカが怪訝な表情で聞いてくる。


「失礼ながら4人でですか?」


「ここからシン国の部隊に追いつけるのは私以外にいませんし、軍を率いて向かう時間などございません。信用するもしないも私が勝手に将軍をお救いすれば済むことです。」


「なんの得があってラウル様はそのような事を。」


「私は誰かが虐げられて生きなければいけない世界が嫌だからです。それ以外は特に何もありません。」


「そのような個人的な意思で世界を救う?」


「まあ好きでやってる事なのです。」


「ふふ。」


「はは・・」


トラメルとケイシー神父が呆れた顔で笑う。


「ふふ、はっはっはっはっ!!!」


「!」


いきなりマキタカが大笑いする。


「実に面白い!」


「はは、そうですか。」


するとマキタカは神経質そうな細面の面構えに似合わず豪胆な事を言う。


「虹蛇様ご一行が将軍に追いついても信用してもらう事など出来ますまい。それならば腹心である私が一緒について行き将軍を説得するようにいたしましょう!」


「え!国を離れてもよろしいのですか?」


「ラウル殿!シン国は我が1人離れたところでぐらつくような政治をしておりません。悪い言い方をすれば将軍以外の重職は、側衆と言えど誰がやっても回るような政治をしているのですよ。」


「素晴らしいですね。」


「本当ですわ。」


俺とトラメルが感心する。


「そうですか?これがシン国の政治という物なのですよ。」


「わかりました。もしマキタカ様がそれでよろしいのであれば。」


「自分の国の将軍を助けてくれると言う御方に、任せっぱなしにしたらそれこそ後で将軍に叱られます。」


《しっかしここの将軍は相当に人間が出来ているようだな。》


「そして事は一刻を争います。すぐにでも出立せねば将軍様に危険が及びます。」


「わかりました。おい!」


マキタカが周りに居る重職の人間に声をかける。


「は!すべて承知いたしました!しかしながらマキタカ様をお一人で行かせるわけにはまいりません。影衆にもついて行ってもらいます。」


「わかった。人選は任せる!すぐに出立の用意をしてくれ!」


「かしこまりました。」


すると重職の一人とふすまの後ろにいた数名の男たちが、俺達に一礼をしていなくなった。


「影衆とは?」


俺が気になって聞いてみる。


「要人の警護や隠密で情報を集めたり暗殺などを行ったりする部隊です。」


《OH!ニンジャ!》


「わかりました。それではマキタカ様の準備が整い次第、出立という事でよろしいですか?夜間ではありますが私の車であれば進むことができます。」


「はい。それで問題ございません。」


「では門の外に置いてある車でお待ちしております。」


「わかりました。」


早速俺達4人は車に向かう。


都の街道は日が暮れたのにも関わらず人がたくさん行き来していた。


《夜なのに活気があるな。》


俺達が進む道のりには、着物の肩を下げるように着崩したお嬢さん達が客引きをしていた。


ケイシー神父がきょろきょろしている。


《色ボケ神父・・》


俺はケイシー神父について行ってこっそりいう。


「ケイシー神父!それどころではありませんよ!今度また来ることがあればゆっくり。」


「はい!ぜひ来ましょう!」


《神父なのにいいのかね?》


門につくと兵士が周辺を見回っていた。しかし門番には俺達の事が既に伝わっているらしく、顔パスで外に出ることが出来た。


「さすが、マキタカ様は仕事が早いようですね。」


「そうだな。良い心がけじゃ!」


虹蛇が言う。


門を出るとMK28トラックは元の場所にそのまま置いてあった。荷台に積んでいた商人の荷物は既に空になっているようだ。


そして俺はあることを思い出した。


「あ!そうだ!商人さんに帰りの馬と馬車代を渡さないと!」


「そうでしたわね。」


「商人さんを呼んでもらえるか門番に聞いてみます。」


「我も行こう。」


虹蛇が一緒に来てくれるらしい。


「それではトラメルさんとケイシー神父はトラックに乗って待っていてください。」


「わかりましたわ。」


「はい。」


俺と虹蛇は門番のところに行って説明をする。


「えっと・・」


俺はある事に気が付いた。


《商人の名前を聞いていなかった!》


「すみません!門番の方!」


「はい!ああ!虹蛇様なんでございましょう?」


すでにマキタカから話が通っているようで話を聞いてくれそうだ。


「今日来た商人さん一行についてなのですがご存知でしょうか?あの車で一緒に来た人たちです。」


「ああ彼らであればエチゴ商会にいらっしゃるはずです。」


「その・・呼んできてもらう事は出来ますかね?」


「ええ大丈夫ですよ。おい!」


貫禄のある門番が大声で呼ぶと若い兵士がやって来た。


「はい!」


「虹蛇様ご一行が、一緒に来た商人に御用がおありになるそうだ。呼んできてくれるか?」


「わかりました!」


「それでは虹蛇様と御付きの方はこちらへどうぞ。」


「すみません。」


俺達は門番の詰め所に通された。門番の詰め所には10人ほどの兵士がつめていた。


「おい!虹蛇様へお茶を出して差し上げろ!」


「おう気が利いておるの!」


「マキタカ様よりそう申し使っておりますゆえ。」


「そうかそうか。」


虹蛇はVIP待遇に嬉しそうにしていた。


しばらく待っていると、マキタカと影衆と呼ばれる5人が現れた。


「虹蛇様。こちらで何を?」


聞かれるので俺がマキタカに答える。


「あの世話になった商人様にお金を渡す約束をしているのです。」


「そうでしたか。では一緒に待たせていただきます。」


という事でマキタカと影衆、俺と虹蛇が詰め所で待つことになった。


しばらく待っていると・・


若い兵士に連れられて商人がやってくる。すると商人も何人か人を連れてきたようだった。


「はぁはぁ。これはマキタカ様!そして虹蛇様もどうされました?」


息をきらしながら商人が言う。


俺と虹蛇だけでなく側衆のマキタカと影衆がそろっていたことに驚いて、変な汗をかきながら商人が言う。


「あの、帰りの馬代をお支払いしていなかったので。」


「いやいや!そのようなものを受け取るわけにはまいりませんと言ったはずですが!」


「いやダメです。受け取ってください。」


「いやぁ・・あのこちらがエチゴ商人です。ご紹介を!」


「私がエチゴと申します。急なごあいさつで申し訳ございません!」


「いえいえ。エチゴ屋さん!この方たちに馬と馬車をお貸しするのにおいくらでしょう?」


「いやいや!虹蛇様からお代をいただくなど出来ません!」


「それではダメなのです。では私が勝手に置いて行きます。」


俺は懐から金貨が入った袋を取り出す。たぶん60枚くらいは入っているはずだった。


「金貨60枚ほど入っています。これでお願いします!」


「は!60枚もいただけません!それでは10枚ほどで!それでも十分でございます。」


「虹蛇様・・こういっておりますがどうしたらいいでしょう?」


「それでこの者たちの気が済むのであればそれでよいぞ。気持ちという物はそういう物だ。」


「わかりました。では10枚ほど。」


「はは!」


エチゴ屋は全く悪い印象の無いクリーンな商人だった。人の良さそうな優しい顔をしており大商人と言われても、そうは思えないような人相だ。


《エチゴ屋!おぬしも悪よのう!って言うセリフは言えなさそうだな。》


「それでは商人様がたまたどこかで。マキタカ様!まいりましょう!」


「ええ、それではご一緒させていただきます。」


車に戻り俺は虹蛇に言う。


「それでは虹蛇様が助手席へ。」


「いやだ。荷台がいい。」


「そうですか。それではトラメルさんとマキタカ様が助手席へ。ケイシー神父もまた荷台で良いですか?」


「問題ないですよ。」


「影衆の皆様も荷台へ乗ってください。」


「「「「「はは!」」」」」


皆が車へ乗り込んだ。


俺が車を出発させてもまだ門の所には商人たちが立っていた。


通り過ぎる間もずっと頭を深々と下げるのだった。


《うん。商売人の鏡だな。》


この国の商売人はみんな腰が低いのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] この出会いは必然? アブドゥルが転移罠を仕掛けなければ…少なくともこんなに早く… 土地勘がなかったとはいえ、西でなく東へ向かっていたとしたら… 虹蛇様と出会うことは無かったんですよね… 以…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ