第274話 逮捕されるラウル一味と虹蛇
都についた。
しかし俺達のトラックは都に入る門の前で兵隊に囲まれてしまった。
《そう理由は前の村に着いた時と一緒だ。たぶん魔獣か何かだと思われている?》
「剣を出しましたわね。」
「魔法も詠唱が終わったような・・」
兵士たちが俺達のMK28トラックを囲んで臨戦態勢に入っている。
《デジャブ?》
まるでデジャブだ。もう一度同じことをしなければならないのかと、少々意気消沈しつつ助手席に座っている商人に言う。
「えーっと。まずはこの兵隊さん達に説明をしなければなりませんね。」
「ちょっと待ってください。私は通行証を持っています。」
商人が言う。
「大丈夫ですか?」
「もちろんです。」
「トラメルさん開けてあげてください。」
「ええ。」
ガチャ
「閉めて。」
「ええ。」
バン!
《なーんとなく嫌な予感がするんだよなあ。》
商人がドアを降りて歩いて行く。
俺達がウインドウから見ていると、ザザザっと兵隊がやってきて商人が取り押さえられてしまった。
「あらら。」
「捕らえられてしまったようね。」
「そのようです。」
「奥からさらに兵士が出て来たわ。」
「本当だ。」
高い城壁の上には弓兵や魔法士などが並び、なにかきっかけがあれば攻撃をされそうな状態となっている。
《ピリピリして来たな。》
すると兵隊の中から数名が俺達のトラックの方に近寄ってくる。
ゴンゴン
槍でボディを突っついている。
「中に乗っているヤツらは全員降りろ!」
商人が降りて行ったことで、どうやら兵隊たちはこれが乗り物だと確信したらしい。
「降りるしかないでしょうね。」
「ですが危険では?」
「いやトラメルさん。ここで魔法の総攻撃を受けたらトラック後部に乗っている彼らは焼け死にます。降りるしかないですよ。」
「そうですわね。」
俺は荷台のみんなに伝える。
「みなさんとりあえず降りましょう。顔見知りなどがいればきっといらぬ疑いは晴れると思います。」
「なんだ!なぜ我は魔法や弓を向けられているのだ!」
虹蛇が不満なようだ。
「虹蛇様ここはグッと堪えてください。きっと問題ないでしょうから。」
《デモンなどがいそうな気配は無いし、いきなり殺される事は無いだろう。》
すると冒険者たちが言う。
「きっと俺達の知り合いもいるだろうし、すぐに解放されるはずだよ。」
「そうか!それを聞いて我も安心したぞ!」
「よかったです。」
《うーむ。でも念のためトラックに仕掛けをしておくか。》
俺は運転席である物を召喚してごそごそとある事をした。
ゴンゴン!
「おい!」
更に強めにボディを突っつかれた。
《おいおい!傷がつくからやめておくれよ。》
「降りまーす!」
俺が叫ぶと槍で小突くのをやめてくれた。
「じゃあトラメルさん降りましょう。」
「ええ。」
「後ろの皆さんもおりましょう!」
「わかったわ。」
「はい。」
「大丈夫だよ。」
冒険者の言葉に少し安心しながらトラックを降りるのだった。
そして・・
ガシャン!
《どうしてこうなった!》
俺達4人と商人一行と冒険者5人は牢に入れられた。
「ちょっちょっと!話せばわかります!商人のエチゴに伝えてください!」
商人が声をかけるが取り合うことなく兵士たちが出て行ってしまった。冒険者たちは剣や槍を全て取り上げられ、手も足も出ない状態になってしまう。
すると牢屋の番をしている兵士の1人が言う。
「この牢屋には結界が張られているからな!魔法は無効化されるぞ!魔法使いは何もできないと思え。」
「そんなあ。」
「とにかく怪しい!」
「すばらしい献上品があるんだ!将軍様に見ていただければ納得されるはず!」
「将軍様なら今は都にはおらんわ!」
「え、どこに?」
「お前たちに言う必要などないわ!」
商人と牢番が揉めているので俺が治める。
「商人様。仕方が無いですよ、あんな乗り物で来たらこうなるのが普通です。ちょっと私が急かしたのが悪かったのです。」
「そ、そんな虹蛇様ご一行をこんな目に合わせてしまったのは私の!」
すると商人に虹蛇が言う。
「ははは!問題ないわ!ここにいるラウルなら、、」
俺は慌てて虹蛇の口を塞いだ。
「んぐぐぐ。」
虹蛇の耳にこっそりとつぶやく。
「虹蛇様・・私の能力の事は秘密にしてください。出れなくなっちゃいますよ・・」
「わ、わかった。黙る。」
「とにかく私が話をしますから!」
「わかった。」
虹蛇が不用意な情報を漏らしてしまわないようにクギを指しておく。
《この牢屋は地上だな・・ここに来るまで地下には降りてはこなかった。という事は壁を破れば外には出れるだろう。しかし都市内がどうなっているのか分からないし、兵士の数もどのくらいいるのか分からない。》
商人は俺にこそこそ話をする。
「とにかく大丈夫です。エチゴと話をすればすぐにわかると思います。」
「そのエチゴ商人にこの話は伝わりますかね?」
「それは・・・すみません。その手段がありません。」
「なるほど。だと将軍様がお戻りになるのを待つか、強硬手段に出るかしかない訳ですね。」
「あまり手荒な真似は。」
「ええ、分かっております。」
すると俺達がごにょごにょ言っているのを牢番が諫める。
「おい!さっきからごちょごちょうるさいぞ!」
「すみません!」
ガシャガシャ
通路の向こうから鎧を着た兵士たちに混ざって一人の男がやって来た。
細面の神経質そうな男だった。牢屋の前に立つと俺達に声をかけてくる。
「おまえはいつもの商人だな。」
「おお!マキタカ様!この度はお騒がせしてしまい申し訳ございません。」
「なぜお前たちが牢屋にいるのだ?」
どうやら商人とマキタカと呼ばれる人は知り合いの様だ。
「それが・・ちょっと変わった車に乗って来た事で誤解を生んだようでして。」
「変わった車?」
「はい。虹蛇様の一行をお連れしまして、その・・虹蛇様が乗ってきて乗り物なのです。」
「虹蛇様!?何を言っているのだ?おかしくなったのか?神様が車に乗って来た?」
「そうです!見ていただければわかります!」
するとマキタカと呼ばれた男が一緒に来た兵隊たちに聞く。
「車とやらはどこにあるのだ?」
「門の外にございます。」
「わかった。ではおぬし達はここで待っておれ!」
「お手数をおかけいたしまして申し訳ございません。」
ザ、ザ、ザ、ザ
マキタカと兵士たちはそのまま牢を出て行った。
「あれを見てびっくりしませんかね?」
俺は商人に聞く。
「確かにビックリするかもしれませんが、私を認識していただきましたので大丈夫かと思います。」
「えっとエチゴ商人に伝えてくれたりは?」
「いえいえ。すでにエチゴへ伝える必要などなくなりました。」
「どうしてです?」
「あの方は私も何度かしかお会いしたことはございませんが、マキタカ様は将軍様の側衆にてございます。」
「側衆?」
「えっとわかりやすくは側近にございます。」
「という事は直接話が出来るようになったと?」
「ええ、少なくともエチゴを通す必要はありません。」
とにかくここは個別の牢屋ではない。一派ひとからげで全員が入れられていた。恐らく魔法使い対策の結界が施されている部屋がここしかないのかもしれない。マキタカとの面識があったおかげで牢番からとやかく言われる事も無くなった。
「あのラウル殿。」
「なんでしょうトラメルさん。」
「先ほどお車で何かされてましたがあれは?」
「ああ万が一の為です。」
「万が一・・わかりました。それなら後は聞きません。」
そう俺がトラックに仕掛けたのは遠隔で起爆出来るTNT火薬だ。信管をしかけて起爆装置はポケットに入っている。剣や槍、魔法の杖を取り上げはしたが起爆装置は武器だと思われなかったらしい。
「虹蛇様。道具袋に私が呼び出した武器や車もありますよね?」
「嫌だ!あれは我の物だ!返さんぞ!」
「出れなくなってもいいんですか?」
「うむむ。じゃああのトラックとやらをくれるか?」
「いいですよ。いくらでもあげますよ。」
「わかった。何をする?」
「何も。とにかく今は何もする必要がなさそうです。」
「ほっ。」
虹蛇がおもちゃを取り上げられなくてホッとしているようだ。
《俺の計画はこうだ。もし俺達に危害が加わるようならば外のトラックを爆破する。その騒ぎで兵達が動き出したら、その隙にM777榴弾砲を虹蛇の道具袋から出してもらう。魔力を使わずに出し入れするから結界内でも問題なく出せるはずだ。牢屋の部屋の大きさからすれば結界は割れるだろう。俺達が結界から出てすぐに武器を召喚し攻撃を開始するのだ。》
「とにかくギリギリまで事を荒立てる事の無いように。」
「わかりましたわ。」
「そうですね、敵じゃないのにむやみに殺傷する事は得策じゃないです。」
トラメルとケイシー神父も俺の考えている事がわかっているようだ。
「なに?危害を加えてはならんぞ!この者たちは悪いものではないぞ!」
虹蛇には何かが分かっているようだ。
《さすがは神様か、神様に準ずる存在だ。人の心が分かるらしい。》
「ええラウル殿。大丈夫です!この国の者は平和主義の物が多いそこまで事が荒立てられる事も無いはずです。」
しばらく待っているとまた誰かが来た。
コツンコツンコツンコツン
先ほどのマキタカと兵士達だった。
「おい!早く牢屋の中からお連れしなさい!」
「は、はい!」
牢番に慌ててマキタカが言う。
「申し訳ございませんでした。あれほどの乗り物に乗ってこられるのは特別な方だけです。何か兵士が間違いを犯したようです!」
マキタカが深々と頭を下げた。
「うむ。人間だれしも間違いはある!すぐに我をここからだすのだ。」
「はい!」
そして俺達はマキタカと兵士たちの後ろについて牢屋を出ていくのだった。
俺達が通されたのは・・なんとお座敷だった。
《おお!お座敷があるのか!?ここはどうやら日本風の城らしい。》
「あの、虹蛇様でいらっしゃるのですか?」
マキタカがおもむろに虹蛇に聞く。
「だからそうだと言っておるだろう。」
「そうでしたか。あれほどの物をお作りになる神通力をお持ちだとは。」
「ん?あれを出したのは我ではない。こやつだ。」
「あなた様は?」
「ええ、北から来た商人でございます。」
「商人?」
「あれは我が国の乗り物です。」
「どこから?」
「グラドラムです。」
「グラドラム。北の果てにあるという?」
「そうです。」
「グラドラムの科学力はそこまで発達しているのですか?」
「まあ・・そうです。」
《あーあ。また嘘ついちゃったな。》
「ま、まずはどうぞ靴をお脱ぎになっておくつろぎください!」
「マキタカ様、我々は?」
商人達が聞くとマキタカが言う。
「お前たちはもう下がっていいぞ。無罪放免だ商いでもなんでもやればよい。」
「ありがとうございます。それではあの車の荷台にある荷物を取り出しても?」
「おお、好きにせよ。」
「ありがとうございます。」
そして商人と従者、冒険者たちはマキタカに深々と頭を下げて城を出ていくのだった。
「えっと私たちは?」
「大変申し訳ございませんでした。謝罪も兼ねておもてなしをさせていただけたらと思います。」
「ははは、苦しゅうない!」
虹蛇が高らかと笑うのだった。