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第273話 馬車が遅すぎる

宿屋の主人が輸送防護車MRAPを宿の前に停めさせた理由がわかった。


あれがドカンと宿の前の道に置いてあるだけで人が寄ってこないのだ。乗り物だとは分かっていても、未知の技術の恐ろしい物だという認識があるらしい。どうやら宿の主人は防犯の目的で俺達の輸送防護車を宿の前に置かせたのだった。


「私が警戒していなくても特に問題なかったようですね。」


「そうですわね。おかげでぐっすりと眠る事ができたわ。」


そのおかげもあって何事もなく、風呂に入り飯を食いぐっすり眠って朝を迎えた。


「メイドさんがいい香りのお香を焚いてくれたので気持ちも安らぎましたよ。」


「そうね。安らぎを感じる香りだったわ。」


ケイシー神父とトラメルが言う。


昨日わざわざ寝る前にメイドが来て、気持ちを落ち着かせるお香を焚いてくれたのだった。


「良い心がけだ。」


虹蛇も感心している。


「そして朝もわざわざおこしに来てくれましたよね。」


ケイシー神父が言う。


「そうですわね。」


出立の予定をメイドに伝えておいたのだが、メイドが俺達の支度の準備を踏まえて起こしに来てくれたのだった。


《うん。チップをはずんでおいて良かった。チップは多めに払っておくもんだ。》


前世の記憶が役に立ってよかった。


「そろそろ夜が明けますので1階の玄関の間で待ってますか?」


「そうだの。」


俺達は出発の準備を整えたので階段を降りて1階に行く。


しかし、どうやら俺たちのほうが遅かったようだ。


「おお!虹蛇様もうお目覚めでしたか!」


村長がすでに待っていて声をかけてきた。すでに商人と一緒に待っていてくれたようだ。


「我は眠ってはいないのだがな。」


そういえば虹蛇は眠らないんだった。


「すみません。村長様までお越しいただいてたんですね。」


「ぜひお見送りを、と思いましてね。」


「急だというのにありがとうございます。」


「それでは私たちの荷馬車についてきていただけますか?」


商人が言う。


「ついて行きます。それにしても急な私達の都合の為にすみません。」


「いえいえ。私たちもついでに都に行って商いをしようと思いまして、荷馬車を宿の前に停めております。」


《なるほど。俺達にどうやら便乗しようって言う事か。俺達の輸送防護車MRAPがただ一緒にいるだけで、この人たちの商品がワンランク上がる可能性がある。商売はそうでなくっちゃね。》


「それでは行きましょうか?」


「都につきましたら、私達を虹蛇様のお供という形で紹介させていただいても?」


商人から提案があった。


「ええ!もちろんですよ!そういっていただいて構いません。」


「ありがとうございます。」


《良い心がけだ。商売人の鏡だな。》


「それではまたこの村に寄る事がございましたら、ぜひ当宿をご利用ください。」


「ええ。そうさせていただきます料理もお風呂も最高でした。」


「光栄でございます。」


宿屋の主人が深々と頭を下げる。


「それでは良い旅を。」


村長が俺達に挨拶をする。


「ええ。また会える機会を楽しみにしています。」


「はい。」


宿を出ると商人の馬車隊は3台すべてが荷馬車だった。馬車の周りに5人の人がいた。


「彼らは?」


「護衛です。冒険者なので心強いですよ。」


《南には冒険者がいるのか。北と南では状況が全然違うようだ。》


「みなさん都までの道中よろしくお願いします。」


「ああ。こちらこそ!」


冒険者の一人が手を伸ばしてくるので握手する。


「はい。」


《普通の商人はこういう荷馬車に乗るんだ。ラシュタルのニクルスさんは立派な馬車に乗ってたっけなあ。やはり王都の商人さんだったんだ。ニクルスは俺達の騒動に巻き込まれて死んだようなものだった。あの時の俺は非力だったが、今では俺がこの護衛の人たちも含めて守れるくらいの力がある。》


村を出るまで村長と宿屋の主人が見送りに来てくれた。どうやら俺達を相当特別な存在だと思ったらしい。


「良い方達でしたね!」


「そうね。」


ケイシー神父とトラメルが感動しているようだった。急に来た者に対してこのもてなしは破格だったと思う。きっと心根の良い人達なのだろう。


《まあ・・おそらくだけど虹蛇の影響のような気がするがな。俺達だけだったらこうはなって無いような気がする。》


村の門を抜けるころには陽が昇り始め辺りは紫色に染められていく。朝露に濡れた道端の葉っぱが揺れてキラキラと輝いていた。


「美しい夜明けですわね。」


「そうじゃな。」


「いい旅たちですね!」


トラメルも虹蛇もケイシー神父もいい思い出になったようだ。


パカパカパカパカ


馬車は時速にして10キロに満たない速度だ。


《えっと・・・》


ブロロロロロロ


車はノロノロ徐行運転で進んでいく。


《なんか違う。何が違うんだ?いや・・とにかくダメだ。》


「ちょっとまったぁぁぁぁぁ!」


俺は運転しながら叫ぶ。


「ど、どうしたのだ?」


「ケイシー神父!前の馬車に止まるようにこれで話してください!」


「は、はい!。」


俺はLRAD長距離音響発生装置のマイクをケイシー神父に渡す。


「えっと!商人のみなさーん!すみませーん!止まってくださーい!」


ザザザザ


馬車が停まった。


前から商人が降りて護衛たちと一緒にやってくる。


「ど!どうなされました!」


俺は後部ハッチから降りて商人たちのもとへ行く。


「すみません!ちょっとお話合いを良いですか?」


「え、ええ!」


「あの、この速度で行くと都迄はどのくらいかかりますか?」


「はい!えっと7日ほどかかります。急ぎますか?」


「ええ!急いだ場合どのくらいかかりますか?」


「6日で到着するでしょう!」


《馬車ってこんなに遅かったんだっけ?そういえばサナリアからグラドラムに逃げる時も、ずいぶん時間がかかったんだったっけか!》


「皆さんが都で商いをした後なのですが、物を買って帰ったりはしますか?」


俺が商人に尋ねる。


「ええ、そのつもりでおります。」


「なるほど・・。」


《とにかく時間との勝負なんだ。折り合いをつけないといけない。》


「その・・虹蛇様達のご予定とは合わないという事でしょうか?」


商人がオドオドと聞いてくる。


「まあそうなんですけど、せっかくお付き合いいただくのでお互いの利益を考えたいのです。」


「はい。」


「都で帰りの馬と馬車を手配できますか?」


「それは馴染みの商人仲間に頼めば大丈夫です。」


「ではすみませんが、行きは私たちの車で皆さんのお荷物をお運びしようと思います。帰りの馬と馬車代は私がもちますので、それではダメでしょうか?」


「ええ!馬と馬車代を!?そういうわけにはまいりません!」


「いいんです!いいんです!私がそうしたいんです。ですから一度村に戻って商人様の馬車を全て置いて、商人様と御者の3名と冒険者の5名も私たちの車に乗って行ってください。もちろん商売の商品も全てお運びします。」


「私たちもそれに乗れるのですか?」


「いえ。この車は廃棄します。」


「は?廃棄ですと?」


「ええ、廃棄です。これは私達の特別な技術の物ですから。」


すると俺の後ろから虹蛇が声をかけてくる。


「おい!ラウルよ!これを捨てるというのか?我に我にくれい!」


「え、いいですけど。虹蛇様の本体はどこに呼び出すのでしょう?」


「一度離れた草原に二人で行こう!そこで我にちょうだい!」


「わかりました。」


とにかく車を廃棄するには爆破するしかなかったので、虹蛇が回収してくれるならば助かる。


「すみません。そういうことですので皆様は一度村に戻ってください。」


「わ、わかりました。それでは先にお戻りしていた方がいいという事ですよね?」


「ええ、後を追って戻ります。」


「では、一度戻りますのでお待ちしております。」


「はい。」


商人と護衛たちは今までの道を戻っていった。急な事で慌てたように馬を走らせているようだ。


「では、虹蛇様いきましょう。」


「二人で?」


「いえ、トラメルさんとケイシー神父を置いて行けるわけないじゃないですか!」


「お、おう!わかった。」


「いきましょう。」


そして俺達は急いで道をそれて草原の方角に進んでいく。


「虹蛇様。どのくらい村から離れればいいんですか?」


「まだまだじゃ!」


《まったく!不便な本体だ!コンパクトに出すとか出来ないのかな!》


それから2時間ほど草原に向かって走っていく。


「どうです?」


「ここらなら尻尾もかからんだろう。」


「村にですか?」


「そうだ。」


「わかりました。では車を降りましょう。」


俺達が車を降りると虹蛇は慌てて本体を出す。


「それじゃあ遠慮なく。」


また本体から光が出てきて虹蛇本体に輸送防護車を吸い込んでいく。


「いやあ得したわ。」


「もういいですか?村に戻りますよ!」


「あ、ああわかった。」


虹蛇はスッと本体を消した。


無機物の輸送防護車は問題なく一緒に消えるらしい。どういう仕掛けになっているのかさっぱりわからない。


「では!」


俺は急いで手を前に出して車を召喚する。


ドン!


出てきたのは


米軍のMK28中型戦術7トントラックだ。


「おお!またデカいのがでてきたの!」


「大きいですわね。」


「こういうのも出せるんですか!?」


「まあそうです。これなら荷物もたくさん積載できると思います。幌もついてますし荷物が濡れる事も無いと思います。」


「凄いものだな。」


「とにかく乗っていただいていいでしょうか?トラメルさんは助手席へ。お二人は荷台に乗ってもらっていいですか?」


「楽しそうですね!」


「我も早く乗りたい!」


MK28 6輪駆動 7tトラックに全員で乗り込んだ。


ブロロロロロロロ


「おお!風が当たるぞ!」


「本当ですね!」


荷台の幌は上げているので、荷台には風が当たりきっと気分がいいだろう。


「ラウル殿と二人きりですわね。」


「え、ええ。そうですね。トラメルさんはこっちで良かったですか?」


「もちろんですわ。」


トラメルはあんなにツンツンしていたのがいつの間にかデレになってしまったな。


そして2時間。


既に朝の10時頃だ。


「あー、村の前で商人が待ってますね。」


「本当ですね。ずいぶん待たせてしまいました。」


キキ―


「すみませーん。遅くなってしまいました!」


俺が商人に駆け寄って謝る。


「こ、これは・・先ほどの車ではないですよね?どうして、どこからやって来たのです??」


「あの・・深く聞かないでいただけると助かります。」


「は、はあ。すみません・・でもこれは何と言う・・・凄い・・」


商人も護衛の人たちもめっちゃ目を見開いている。


「それでは荷物を搬入してください。」


商人と御者、護衛の人たちが手伝って荷台に荷物を積んでいく。


「馬車3台分でどのくらいになりますかね。」


「どうでしょうね。」


俺とケイシー神父が商人たちの積み込みをはたで見ている。


商人の荷物は結局荷台の半分に満たなかった。


「これで全てですか?」


「ええ。かなり空間が空いてしまいましたが。」


「良いんです。御者の皆さんと護衛の方達も荷台に乗っていただく予定ですので。」


「俺達も乗っていいので?」


「どうぞどうぞ!商人様はぜひ助手席へ。」


そしてケイシー神父と虹蛇、御者3人と護衛の5人が荷台に乗り込んだ。


ガシャン


荷台の後ろを閉めて俺は運転席に乗る。


俺の隣にはトラメルがその隣には商人が乗った。


「では出発します。」


トラックは普通に走り出した。


ブロロロロロロロ


《よかった。これならきっと夜か明日には都につくだろう。この前の西の山脈に向かった時の事を考えればそれほど時間はかかるまい。》


しまりの悪い出発となってしまったが、むしろこの方が効率がいい。


「まあ、急でしたから仕方ありませんわね。」


トラメルが言う。


「すみません。私たちは早く伝えていれば・・。しかし!この車は早いですね!馬車など比較にならないスピードで進んでいるようですな!」


「ええ、これなら明日迄には都についていると思いますよ。」


「あなたは・・いったい何者なのですか? 」


「虹蛇と旅をする商人です。」


俺は適当にはぐらかすのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] トラメルさん、デレ期に突入す。 繰り返す。トラメルさん、デレ期に突入す。
[一言] 商魂逞しい人達 宿屋の主人にしろ、商人にしろ、輸送防護車MRAPをうまく利用しているあたりそう思う 《うん。チップをはずんでおいて良かった。チップは多めに払っておくもんだ。》 前話で言…
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