第271話 敵だと思われる
まあいい。
ここまでこんなに早く戻ってこれたのは虹蛇のおかげだった。推測するに虹蛇に出会わなければもっと時間がかかっていただろう。
《しかしだ。砂漠に飛ばされてから数日がたち、シン国に入ってから岩塩採取などをして1週間。まだ二カルス大森林にすらたどり着いていない。正直自分たちの部下がどうなっているのか気になって仕方がない。》
「あのう・・・」
「どうしたラウルよ。」
「ええ、やはりシン国の都のトウレンでしたっけ?そこのお殿様に岩塩を届けるべきなんでしょうか?」
「だって喜ぶって村の人が言っていただろう。」
「確かに村人は言ってましたね。」
「なら行くべきだろうな。」
「そうですか・・・」
俺達は輸送防護車MRAPの中で話をしていた。
北の街道はところどころ花が咲き誇り、次第に農業をしている人を見かけるようになった。本来なら輸送防護車を一般人に見せるわけにはいかないのだが、焦っている俺はなりふり構わず北へと車を進めていた。
《とにかく百姓はガン無視だ。逃げたきゃ逃げろ。》
畑仕事をしている人たちが輸送防護車を見かけては、走って逃げていくのを見て思う。どうやらこの車を魔獣だとでも思っているのだろう。
《そりゃそうだ。こんな走る鉄の塊見た事ないだろうからな。》
ブロロロロロロロ
「なんだろうな。我らを見て人々が逃げて行くように見えるぞ。」
虹蛇がその異変に気がついてぽつりと言った。
「え?そうですかあ?気のせいですよ。きっと忙しいんだと思いますよぉ。」
「そうかなあ・・まあ気にしても仕方がないか。」
《そうそう気にしても仕方がない。都にだってデモンがいない事を確認したら乗り込んで行こうと思ってるし。》
「シン国は平和ですわね。お百姓さんも普通に作業をしているし、畑も広々としていて何か制限などがかかっている風でもないみたいだわ。」
「本当ですね。北とは大違いのようです。」
トラメルもケイシー神父も大陸北部との違いを感じ取っている。
「うむ。やはり二カルスの森を抜けてくるのはそう容易くないのであろうな。」
「それだけ恐ろしい魔獣がいるという事ですか?」
「もちろんじゃな。魔獣だけでなく厄介な木の奴らも大勢いるぞ。」
「厄介な木ってトレントですか?」
「おーそうそう。あいつらが暴れると本当に大変だから。でも燃やされると困るから普段はじっとしていると思うがな。」
「あーわかります。森を燃やされてしまうのは困ると言っていました。」
「ラウルは二カルスのトレントを知っているのか?」
「はい。二カルス大森林の主だとおっしゃっていました。」
「そうかそうか!まだ元気でやっているのか!あ奴がおるなら精霊神もまだ無事であろう。」
「精霊神とはどこにいるのですか?」
「それは分からん。」
「分からないんですか?」
「いつも連絡し合ってるわけでもないのだぞ。」
「そうなんですね。」
「以前会ったのは何千年前だったか覚えとらんし。」
《年賀状でやり取りをしているくらいの間柄なのかな?》
村が見えてきた。
輸送防護車は村を迂回するように横にそれていく。村の周りの草むらを走って行けば無駄な時間を取られずに済むはずだ。
「ラウルよ。どこに行くのだ?」
「ええ。もちろん村を迂回します。」
「なんだと!寄って行かんのか?」
「理由がありません。」
「いやいやいや。おぬし我の話を聞いておったか?」
「なんでしたっけ?」
「岩塩じゃ!配るぞ!」
「えー!!」
「えーじゃないわ!」
「お殿様に献上するだけじゃないんですか?」
「この国の民には塩が足りておらん。いっぱい持ってるんだから置いて行っても良かろう!」
「ああ、そう言う事ですね。わかりました。」
俺は急遽村に向けてハンドルをきって走っていく。
村の傍に来ると村人や旅人などが街道を歩いているのが増えてきた。
「人がいっぱいいますね。」
俺が言うとトラメルとケイシー神父から返事が来た。
「あの村はこの前立ち寄った村より大きいですわね。」
「それよりも人々が逃げて行きますよ!」
輸送防護車が近づいてくると、音と迫力に驚いて人々が蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。
「村にそのまま入れますかね?」
「門を通らないんじゃないでしょうか?」
村に近づくと確かに門は輸送防護車にはギリギリっぽかった。だが俺の車両感覚的に言えば入りそうだ。
「いや入れます。」
ブロロロロロロロ
門番を無視して村におもいっきり侵入していく。
「魔獣だあああああ!」
「逃げろおおお!」
「女子供は中へ!」
「武器を持っていない物は武器を持って来い!」
「自警団を呼べ!」
車を見て顔面蒼白になり人々が逃げまどい慌てふためいている。
《そんなに驚く事は無い。俺は運転には自信があるのだ、絶対に轢く事は無いから安心してほしいものだな。》
キキキー!
車を停める。
「じゃあすみません。虹蛇様!岩塩をお届けに来た事を村人に説明してください。」
「我がか?」
「ええもちろん!言い出しっぺですから。」
「わかった。」
あっというまに剣や槍を持った人たちが車の周りを囲んだ。少し遠めにして近づいてこない
《村人はおそらく刺激しちゃいけないとでも思っているんだろう。》
「では虹蛇様!天井からどうぞ。」
「おう!」
そして輸送防護車の天井ハッチを開けて虹蛇が顔を出す。
ガパン!
「人だ!」
「これは!!乗り物か?」
「魔獣じゃなかったのか!」
「鉄の塊のようだぞ!」
そして俺は虹蛇に説明をしてLRAD音響兵器のマイクを渡す。
「これに話しかければいいわけだな?」
「ええ声を増幅しますよ。」
「わかった。」
村人たちはざわざわしている。どうやらここの村人は日本の明治時代の格好のような人が多い。この前の村はボロの和風な着物だった。
《大きい村は違うな。》
そして虹蛇が話し始める。
「我は南の砂漠から来た者だ。この国には塩が足りておらんと聞いたのだが、もしほしいならば塩を置いて行こうと思う。」
ざわざわざわざわ
《うん。そうなるわな・・怪しすぎるし、いきなり塩を置いて行くと言われてもなんで?ってなるわな。虹蛇頑張れ!》
「それで塩をどうしたらいい?ここに置いて行けばよいか?」
するとざわざわが収まって一人の青年が言う。
自警団の人かな?
「お前は誰だ!これは何だ!」
《うん。正論。》
「なにを・・我は砂漠から来た者で、とにかくみんなが塩が無くて困っているからあげるっていっているんじゃ!」
「質問に応えろ!」
「うぐぐ。」
《虹蛇がんばれー。》
「ラウルさん・・何か虹蛇様困ってますよ。」
「いいのいいの。虹蛇様があげたいって言っているんだから、虹蛇様にやっていただかないと。」
「そうですかぁ?」
ケイシー神父が俺を意地悪な人を見る目で見る。
「我は虹蛇と申す!」
《あらら言っちゃった。》
「はあ?お前はどう見ても人間の女だろう!どこをどうやったら虹蛇なんだ!」
「どこをって・・そんな・・」
「ラウルさん!虹蛇様が困ってますって!」
「大丈夫。」
《とにかく時間を短縮したいし交渉事は全部やってもらおうと思っているので。》
「我は虹蛇で南の村で聞いて来たんだ!塩が足りてなくて困ってるって!だからこの村でも困ってるみたいだから置いて行こうと思っただけだ!」
「まずは虹蛇とやらの証拠だ!」
「虹蛇を出したらこの村など潰れてしまうわ!出せるわけなかろう!」
「なにをいっているんだ!そんなでたらめが通用するわけないだろう!」
「でたらめなどではないわ!」
「じゃあこの鉄の塊はなんだ!なぜこんなものに乗っている!」
「これはツレが出したものだ!我は知らん!」
「もう一人いるのか?」
「いや!あと3人いるぞ!」
《なんかすっごく険悪な雰囲気になって来たな。あけすけに言うからそんなことになるんだぞ。》
「貴様ら降りてこい!」
「わ、わかった!」
《うん・・さすがにヤバイ。》
「虹蛇様!ちょっとお話を代わります。」
「な、なんじゃ?ラウルよ!なんでだ?」
「まあまあ。」
そして俺は虹蛇を車の中に引っ込めて、上部ハッチから出て車の上に立つ。
「えー。皆様申し訳ございません。お騒がせをいたしました。」
「お前は誰だ?」
自警団の青年から聞かれる。
「私は北の国から来た商人でございます。」
「商人?さっきは南の国から来た虹蛇だとか言っていたぞ!」
「いやあ・・すみません。さっきの人ちょっとあれなんです。」
「あれ?」
「事情がありまして。とにかく穏便にお話がしたいだけなのです。この国に塩が足りていないと聞き、北で開発された新しい馬車に乗ってまいりました。これから都の将軍様に岩塩を献上するのですがその途中で立ち寄ったのです。」
「・・・・・馬車?」
《どうみても馬車じゃないわな、馬いないし。》
「とにかく私が馬車をおります。敵意はございませんので、どうか武器をお納めくださいませんでしょうか?私は丸腰です。」
《ミニガンだってすぐ召喚できるけど・・》
「わかった。何もするなよ!」
「もちろんです。」
そして俺は出っ張りに足を掛けながら地面に降りていく。
そして地面に降りて手を上げた。
「お調べください!」
そして自警団数人が近寄ってきて俺の体を調べる。
「隊長!間違いありません。武器の類は持っていないようです。」
「あとの3人も下りろ!」
「少々お待ちください。」
ガパン!
俺は後部ハッチから入り込んでトラメルに剣を置くように言う。
「では虹蛇様。小さめの岩塩を出してください。」
「わ、わかった。しかしなんで相手はあんな言い方をするのだ?」
「警戒しているんですよ。」
「我はそんなに怪しいものじゃないぞ!」
「たぶんよそ者だからでしょう。」
「このまえの村ではこんなことなかったぞ!」
「いろいろあるもんです。」
そして虹蛇は道具袋から岩塩を取り出して車内にだす。
「では皆さん抵抗しないように。」
「わかりました。」
「はい。」
「なんで我がこんな扱いをうけねば・・ブツブツ。」
虹蛇がブツブツ言っているが無視する。
そして俺は手のひらサイズの岩塩を持って車を降りた。他の3人も俺について降りる。
「驚かせてすみませんでした。これが我々が持ってきた岩塩です。」
すると村人の後ろから自警団をかき分けて老人が前に出てきた。
「私がこの村の村長でございます。」
「村長!危険です!」
自警団が村長の前に出ようとするがそれを手で制して下がらせる。
俺達は頭を下げて挨拶をする。
「村長様。岩塩を売りにまいりました。」
「おお!そうですか!それで・・虹蛇様というのは?」
「この人です。」
「我だが。」
「虹色の髪・・・。本当に砂漠から?」
「そうだと言っておる!」
虹蛇が心外と言わんばかりだった。
「そしてこれが岩塩です。お確かめください。」
俺がさし出すと村長は俺の手のひらから岩塩を受け取る。
「こ・・これは!なんと上質な!」
「西の山脈の岩塩にございます。」
「ぜひお話をお聞かせください!」
《えー!めんどくせえ・・また時間かかっちゃうじゃん!》
俺の岩塩供給時短作戦は失敗に終わった。