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第270話 西山脈の岩塩は旨味の塊

「ええ!こんなにですか!?」


巨大な岩塩の塊を見て村のおばさんが驚いている。


西の山脈への移動に1日、採掘に4日、帰りの移動に1日。


たった1週間で戻ってこれた事にも驚いていたが、村のおばさんは岩塩の量に目を見開いている。目の前に置かれた岩塩の量は約100キログラム。驚くのも無理はない。


「いやいや!世話になったのだからこれくらいは当然のことだ!」


虹蛇が意気揚々と答えている。


《まあ確かにあんたの岩塩探知能力と道具袋が無ければ持って来れなかったさ。しかしそれを一生懸命汗水たらして採掘したのは俺達だ。そもそもこの100キログラムがすべてじゃない、虹蛇の道具袋には10トン以上の岩塩が入ってるはずだ。》


「これであなた達の食事も改善されるだろう。」


「なんとお礼を言ったらいいのか!」


「これは我からのお礼だから、お礼にお礼などいらん。」


「まるで神様のようです。」


《とんでもねえ、あたしゃあ神様だよ。》


俺は心の中でつぶやく。


「ただの神主だ。」


「ありがとうございます。ありがとうございます。」


村のみんなが虹蛇を拝むようにお礼をしていた。


《まあ言い出しっぺも虹蛇だし、西の山脈に登れたのも虹蛇のおかげだからな。虹蛇にかじ取りをしてもらって俺達が採る。ようは虹蛇と俺達は社長と社員みたいなもんか。ちょっとブラック気味だったが・・》


俺の横を見ると、トラメルとケイシー神父が虹蛇を尊敬と賞賛のまなざしで見ている。


「すばらしいですわ。」


「後光が見えます。」


《あれ?この光景にありがたみを感じている?いや君たちもめっちゃこき使われたけど。》


俺の思いをよそに虹蛇はみんなから感謝されまくっていた。


そして俺はもう一つ気になることがある。俺は虹蛇の後ろでトラメルとケイシー神父は両脇に立っている。村人たちは虹蛇の前で頭を垂れていた。


俺からは虹蛇の背中しか見えないのだがその背中が光っている。光っているように見えているのではない。”光らせて”いるのだ。


《これは、正面から見たら後光にみえるだろうな・・》


虹蛇は実際に背中をピカピカと光らせている。どう考えてもわざとやっているようにしか見えなかった。


「おお!後光が見えます!」


「ありがたやーありがたやー」


村人たちはいよいよ拝み始めた。


「苦しゅうない。おもてを上げよ。」


「ははー。」


人々はすっかり虹蛇に心酔しているようだ。


「あの!虹蛇様!よろしければ今日はこの岩塩を使った料理をいかがでしょうか?」


「おお!そうかそうか!ならば遠慮なくいただくとしよう。」


「それは良かったぜひこちらへ。」


俺達はまたお座敷に通された。


「ここでお待ちください。」


「分かった。」


ガラ


トントントントン


お父さんとおばさんの足音が部屋から遠ざかって行った。おそらく台所に行ったのだろう。


部屋には俺達4人が残される。


「おぬしたち!よかったな!」


「ええ!本当にすばらしいですわ。」


「物凄く徳を積んだ気がします。」


トラメルとケイシー神父はいい事をしたなあって顔で虹蛇に応えている。


《ちょっとちょっと!どんどん計画が遅れるだろう!》


「あのう・・・虹蛇様こちらで食事をいただきましたら、先に進みたいのですがよろしいでしょうか?」


「お、おお。ラウルよそれはそうだぞ。おぬし達は先を急いでいたのであるな。」


「そうです。この村の困りごとも解消しましたし良い事をしたのは良かったです。」


「そうだろそうだろ!」


確かに良い事をしたとは思っている。しかし俺は二カルス大森林やフラスリアに置いて来た部下たちが気になるし、ファートリア神聖国がどう動いているのかも気になる。まったく情報が入らないので焦りまくっているのだった。


「トラメルさんもフラスリアが気になりますよね?」


「え、も、もちろんです!別に忘れていたわけでは。」


「ケイシー神父も故郷の状況が気になるのでは?」


「え、ええ!それはもう、いったいどうなっているのか。」


「と言うわけです虹蛇様。そしてこうしている間にも虹蛇様の化身様がどうなっているか心配ではありませんか?」


「ん?それは大丈夫だぞ。」


「大丈夫?どうしてです?」


「化身が消滅したりすれば我は体の一部が持っていかれるようなものだ。すぐに気がつくし今は化身に危険が及んでない事もわかる。ただし念話などで話す事は出来ないがな。」


「そういうものなのですね。」


「そうだ。」


虹蛇が言い切る。


言い切るからには神通力的な何かがあるのだろう。俺はそれを信じることにした。


「ところで万が一、化身様の身に何かあったらどうなるんです?」


「あと1000年は待たねばならんだろう。」


「1000年ですか?」


「そうだ。それだけは避けねばならない。」


「どうしてですか?」


「虹蛇としての力が弱まり世界に厄災が起きるからな。」


「えっ!」


《なんかこの虹色ヘヤー、今すっごく大事な事さらりと言ったぞ!》


俺だけじゃなくトラメルもケイシー神父も今の発言に固まって目が点になる。


「えっと恐れ入りますが虹蛇様、今まで天下泰平だったのは虹蛇様のおかげですの?」


トラメルが聞く。


「まあ、そうともいう。あとはアトムも関係しているがね。」


「アトム神様も!」


ケイシー神父も滅茶苦茶驚いた顔をしている。


「それだけではないぞ!他に関係してるのは精霊神と龍神と魔神かの?」


いきなり知らない神様の話が出てきた。


精霊神と龍神と魔神。


始めて聞いた。


「えっと。ケイシー神父は知っていましたか?」


「いいえ。私はアトム神様だけが神だと思っておりましたから。」


「まあみんな神などと言っているが、そんな大したこと無いと思うぞ。」


「どういう関係ですか?」


「まあ腐れ縁じゃ。」


「くされ・・」


するとケイシー神父がかなり前のめりになって来た。


「あ、あの!詳しく!詳しく教えてください!」


「えー、面倒。」


虹蛇が本当に面倒くさそうに言う。


「えっ!」


ケイシー神父が豆鉄砲喰らった鳩のような顔をしている。


《そこまで話しておいて面倒とか言いやがったぞ。なんかちょっと面倒な神様だな。》


「そんな。あの!少しだけでも!」


「ご飯が来るまでの間だけだぞ」


「はい!それだけでも!」


ケイシー神父が食い下がる。


「我の祖先と、アトム、精霊神、龍神、魔神の全ての祖先がこの世界の基礎を作ったんじゃ。」


「そうなんですね!?」


ケイシー神父が動揺しているので俺が質問する。


「それで、どうして化身様に何かがあると厄災が起きるんですか?」


「それは当たり前じゃ。世界はそれで均衡がとれておるからな。」


「私には理解ができないです。」


「我がうっかり卵を飛ばしてしまったばかりに我はこうしておぬしらについて来たが。」


「はい。」


「我は本来は南におるべき存在なのだな。」


「そうなのですね。」


「それがな、最近均衡が崩れ気味になったせいで卵が飛んでしまったのだ。恐らくはアトムも精霊神も龍神も魔神も全て慌てている頃だろう。」


「あわてている?」


「とにかく均衡が破れつつあり、慌てて全てが修復に向かって動き始めておるのだ。」


「修復ですか?」


「怪我をすればひとりでに治る事もあるだろう?あれと同じだ。」


「はあ、そういうものですか。」


「まだ分からんかの?」


「すみません。私にはよくわかりません。」


「とにかく我は使徒など送るつもりはなかったのだがのう・・」


「使徒ですか?」


「化身のことよ。」


「そうなんですね。」


おそらく俺達は世界の真理か何かを聞かされているのだろうが、言っている事が漠然としていて何のことかがよくわからない。


コンコン


「失礼しますぅー」


ガラ


「ご飯の用意が出来ましたで、ぜひ食事に来てください。」


「おお!すまんのう!」


「あの!虹蛇様その話の続きは?」


ケイシー神父が更に聞こうとする。


「ご飯の時間までと言うたであろう。終わりじゃ。」


「そんな。こんな素晴らしい話を聞けたのに!」


「さあさあ。せっかく作ってくれたこの方々に申し訳がない。行くぞ!」


「は、はい!」


ケイシー神父は慌ててついて行く。


俺とトラメルもあとからついて行くのだった。


食事処に行くとおいしそうな料理が所狭しと並べられていた。


「おお!美味そうじゃのう!」


「つまらない物ですが、ぜひご賞味いただけましたらと思います。」


そして俺達は席に着く


「ではみなさん!召し上がり下さい!」


目の前には・・箸があった!日本じゃん!


「あのう・・この二本の棒で食べるのですか?」


「食べ方が・・」


トラメルとケイシー神父の2人が戸惑っていると、おばさんが後から部屋に入ってくる。


「北の人ですものね。こちらをお使いください。」


2人にはフォークのような物を持ってきてくれたようだ。


「ラウルさんは?」


「私はこれで食べれます。」


「ええ?そうですか?」


「はい。」


そして俺は箸を使って料理を口に運ぶ。


パク!


「うんまい!」


「うまいのう!」


なんと隣の虹蛇も箸を使って食べていたのだった。


「虹蛇様もこれを使えるのですか?」


「我はなんでも使えるぞ。」


「凄いですね。」


トラメルとケイシー神父はフォークで食べていた。


「おいしいですわ。」


「ええ!これはおいしい!」


この村に来た時に食べた料理と似たものだが、内容は全くの別物と言ってよかった。塩が加わっただけでこんなに美味くなるのだろうか?


「これはあの塩を使っただけ?」


「そうですよ。いつもの料理に足しました。」


「それだけで・・・」


「格段に美味くなっていますね。」


トラメルもケイシー神父もびっくりしている。


「おぬしら西の山脈の岩塩を知らんのか?」


虹蛇が言う。


「え?どういうことです?」


「西の岩塩はな、塩分以外にもいろんなうまみが濃縮されている凄い塩なんじゃぞ!」


「そうなんですね!」


「そうじゃ!なんじゃ?知らんかったのか!?」


《そういうことだったのか・・どおりで虹蛇があんなに岩塩を欲しがるわけだ。この塩を使えばこんな絶品料理になるなんて、それを独り占めするとかなんてぇがめついヤツだ。》


「ん?ラウルよ。いま悪ーい事考えなかった?」


「ええ、全然考えなかったです。」


「そうかのう。」


「ええ全く。」


「ならいいんだ。」


虹蛇は疑いのまなざしで俺を見つめている。しかし俺は悟られまいとポーカーフェイスを決めていた。


「しかし。西の山脈の岩塩って凄い物なんですね。」


トラメルがしみじみ言う。


すると村人のおじいさんがポツリと言う。


「そんな素晴らしい物をあんなに大量にいただくわけにはいかないです。」


「ん?良いのだぞ!好きに使ったらいい。」


虹蛇が気楽に言う。


「これほどの物、我が国の将軍様に献上したらよろこばれそうだのう。」


おじいさんが家族に向かって言うのだった。


「将軍様ですか?」


俺が聞く。


「ええ。都におられる将軍様は食にうるさいのでさぞ喜ばれるでしょうねえ。」


「ほう!そのものにこの塩をやったら喜ぶのか?」


「え、ええ・・でもそんなに気軽に会えるようなお方じゃありませんけど・・」


「喜ぶのであれば我が持って行ってやろう!」


「いえ!将軍様に下々の民がお会いするなど・・」


「我に任せておけぃ!」


あーあ。またいらんことに首を突っ込みそうだ。


「あのう、虹蛇様!私たちは先を急いでいるはずなのですが?」


「まったく!ラウルよ!おぬしは何を学んでおるのだ?」


「えっ?」


俺は虹蛇に指摘されている事が良く分からなかった。


虹蛇がやれやれだぜ・・と言う顔で俺を見下ろしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 神様がそれぞれ使徒を用意したわけですか。 アトムの使徒がわかりませんね。アヴドゥル説、ラウルに2つ入ってる説、まだ出てない説、
[一言] たった1週間で戻ってこれた事にも驚いていたが、村のおばさんは岩塩の量に目を見開いている。目の前に置かれた岩塩の量は約100キログラム。驚くのも無理はない。 まぁ…そのぐらいはとっていたろう…
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