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第268話 虹蛇って凄いなあと思いましたよ

俺達は結局、村をでて西の山脈に向かう事になった。


・・岩塩を取りに・・


走る輸送防護車の上部ハッチに登っていたトラメルから声が聞こえる。


「風が気持ちいいですわ!」


「いい天気ですね。」


トラメルとケイシー神父が後部座席で話していた。


「ええ!さわやかだわ!」


「我もそこに登りたいなあ。」


助手席に座っている虹蛇がトラメルをうらやましがっている。どうやら助手席に座っているのに飽きてきたらしい。


「どうぞどうぞ!」


トラメルが下に降りて来た。


代わりに虹蛇が上部ハッチから頭を出す。


「おお!気持ちよいな!花の香りがするぞ。ひゃほー!」


「虹蛇様が気に入ってくれたのなら何よりですわね。」


トラメルは意外にこの状況に順応しているようだったが、俺とケイシー神父は複雑な思いだった。


《虹蛇はあけすけに喋りすぎて不安なところがある。そしてこの岩塩採取に行く事になったのは虹蛇の性格によるものだ。何故か俺達はそれに逆らう事が出来ずに、こうして西に向かっている。》


それからは魔獣に遭遇する事もなく2刻(6時間)ほど順調に西へすすんだ。


ブロロロロロロ


車は順調に走っていたが、いつのまにか草原を抜けて荒野になった。このあたりには森が無くここから南下していけば砂漠にでるだろう。さっきまでは草木が生い茂り花が咲く土地だったのに、草木のまばらな岩だらけの風景となった。


異世界ならではの環境と言えるだろう。


《村人は西の山脈まで7日ほどかかると言っていた。それは馬の移動距離らしく、馬で1日約60キロ進むと考え7日で420キロ。輸送防護車なら悪路を考慮しても、12時間程度で着く距離なはずだ。》


「埃っぽくてつまらん土地だの。」


「え?虹蛇様はここより不毛な砂漠にいたではありませんか?」


「何を言っている!だから綺麗なダイヤの木を生やしておったではないか!」


「えっ!!あれ!!ダイヤだったんですか?」


「なんじゃ!見る目が無いな!まったく節穴のような目だな!」


「す、すみません。」


衝撃的な発言で、俺だけではなく他の二人の目も点になっていた。


《あれ・・ダイヤの木だったんだ。しかも趣味で生やしていたとは・・少しだけ持って来ればよかったな。全部砂漠に埋まっちまった。》


そんな俺の後悔をよそに車は走る。


しばらくすると西の山脈が見えてきたが、ここからはまだ6時間くらいかかりそうだった。


一旦車を停めて昼食をとる事にする。


「えーっと車を停めて昼食にしますが良いでしょうか?」


「かまわん。」


《・・虹蛇ってそもそも食いもん必要なのか?》


ズサー


車を停めて皆が降りた。


トラメルとケイシー神父が伸びをしている。車に揺られているだけでも疲れただろう。


俺は米軍の木製フォールディングテーブルを召喚して組み立て、その上に自衛隊戦闘糧食1型の乾パンとオレンジスプレッド、ソーセージ缶を4人分召喚した。


4人で食べ始める。


「この辺に魔獣はいないんでしょうか?」


ケイシー神父がきょろきょろと不安そうだ。


「どうでしょう。ここまでの道中で1回も見かけませんでしたよね。」


「確かに。」


すると虹蛇が話し出した。


「ラウルよ。お主ならばある程度知恵のある魔獣を使役できるのではないか?」


「はあ・・まあそうですね。」


するとトラメルが苦虫を嚙み潰したような顔になる。トラメルはセルマ熊との最初の出会いで、お漏〇ししてしまったからだ。


俺はそれをスルーする。


「ラウルであれば、まあ銀狼など下位魔獣は無理でも上位の魔獣ならある程度従うだろうよ。」


「えっと。虹蛇様はなぜそれが分かるのですか?」


「その才覚が見えるからだ。」


「才覚?」


「そうか・・おぬしには見えんのか?」


「はい。」


「ラウルは魔法が何で使えるのか知っているのか?」


「心で願った事を実現するに足る魔力と想像力だと学びました。」


「うーん。真の理とは少し違うな。」


「真の理?」


「うむ。まずは、おぬしたちの言葉では魂と呼んでいるものだが。」


「魂ですか?」


「そうだ。魔法とは魂の根幹の深い場所から引き出しておるものだ。それを引き出すのに必要なものが魔力と呼ばれる力だな。」


「魔力が切れればそれが引き出せなくなると。」


「そう言う事だ。」


「魂の根幹にある物を、ただ引き出しているだけと考えていいのでしょうか?」


「そういうことだ。」


《なんと!いままで俺はイメージを魔力に乗せて実現化し、放出しているんだと思ってた。でも虹蛇の言う法則の方がしっくりくる。普通ほとんどの魔法使いは限られた事しか出来ない。虹蛇の言うとおりであれば、魔法の種類が限定されるのは、その人の魂の根幹にないものは出せないからという事になる。》


「才覚とはその魂の根幹に関係するものなんですか?」


「全然違う。」


《違うんかい!》


「ではどういうものです?」


魂核こんかくを守る外側の外殻に刻まれる物だ。」


《???》


俺は虹蛇の言っている意味がさっぱり分からなかった。


「外殻とは?」


「わからんか・・」


「はい。」


「うむ。魂を守るためにある部屋の壁ような物だ。その外殻の中に魔力が生まれるのだがな・・その外殻に刻まれるのが才覚というものじゃな。」


「魔力だまりみたいなものですか?」


「おお!うまい事言うの!そうそう!魔力だまりの外に張っている殻に刻まれる、文字や映像みたいなものが才覚じゃ。」


《それならなんとなく想像がつく。魔力だまりの事はシャーミリアからも聞いているからな。》


「そこに私が魔獣を使役する要素があると?」


「そうだハッキリ刻まれておる。だけどな・・おぬしの外殻の中身が見えんのだ。」


「普通は見えるんですか?」


「我にはな。」


「凄いです。」


「我が中を見えないのはラウルが初めてだの。」


「そうなんですね・・」


《なんとなく推測されるのは俺の魂が、この異世界の物じゃないからかもしれない。要は虹蛇からすれば自分が創造した末裔じゃないから・・ってことかな?》


「そして・・ラウルの外殻なのだが・・」


「はい。」


「とてつもなく大きいのだ・・たぶん。」


「たぶん?」


「実はよくわからないと言った方がいいかもしれない。」


「そうですか・・」


「魔法や魔力量は生まれつきそうなるように出来ている、しかし外殻に刻まれるのは後天的なものじゃ。」


《そういえば魔力量は訓練してもそう増えないとモーリス先生から聞いたことがあるな。俺はどうやら異常らしかった。そして外殻に刻まれる才覚にも少し覚えがある・・それは、マリア、ミーシャ、イオナとミゼッタの事だ。俺はそれについて虹蛇に聞いてみる。》


「虹蛇様。もしかするとその人の周りに魔力の強い者や強力な魔法を持つ者がいると、才覚は更に強く刻まれる事があるんじゃないですか?」


「おお!おぬしはたまに賢いのう。」


《たまにって・・》


「そうじゃよ。あとは強烈な経験が影響する場合もあるぞ。」


「なんとなくわかりました。」


食べながら俺が虹蛇と話をしていると、いきなりケイシー神父が叫ぶ。


「すばらしいです!!」


「なんじゃ!いきなりどうしたんだ!!」


虹蛇が驚く。


「い、いえ・・すみません。それが真理なんですね!我々が学んで来たものとは違ったので驚きました。長い歴史の中で変化していったのだとは思うのですが。」


「うむ。どうやらそのようだな。」


虹蛇もしばらく人間と接触していなかったのだろう。俺達との接触で多少の人間の変化を知る事となったようだ。


「この食べ物もラウルさんの魂から出てきたものと言うことですよね?」


「そうなるな。」


「それを食べるというのも不思議な感覚ですわね。」


「本当じゃな。最初は道具袋から出てるのかと思ったぞ」


「すいません。出せちゃうものですから・・」


「不思議なものだな。」


なんとなく前世の話に触れそうな感じがするので、俺は話題を変える。


「あの・・虹蛇様。昨日のあの村でのお礼は岩塩でなければいけなかったのでしょうか?」


「そうだ。」


「そうですか・・」


「うむ。そうか気になるのだな。」


「まあそうですね。」


「一宿一飯の恩義はそれ相応の物で応えねば。」


「わかります。」


「ならばそういうことだ。」


「はい。」


俺とケイシーが黙っていると虹蛇が付け加える。


「流れという物が分かるか?」


「流れですか?」


「なんにでも流れがある。水の流れ、空気の流れ、人の流れ、時の流れ、魔力の流れ、どんなものでも流れがある。ラウルの系譜も流れだよ。」


「系譜も?」


「おぬしから下の者達に流れておる力の流れよ。」


「その流れが岩塩と何か関係が?」


「いたって自然な流れだ。あの者達には塩が足りておらん、そこに塩を探る事が出来る我と採る事が出来るラウルが訪れた。」


「はい。」


「ならば採りに行くのは必然。そしてその流れは周りにまわって繋がっていくのだよ。」


「わかりました。」


《うん・・全然わかんないけど、なんとなく虹蛇が深ーい事を言っている気がするので納得しておこう。》


「貧しい人間から施してもらった恩とは大きい物だ。」


「なるほど・・それに応えなければならないと。」


「ふふ。まあ信じていればいい。」


するとケイシー神父が言う。


「私は・・凄く理解ができました。」


「神父は賢いようだな。」


虹蛇が笑って言う。


「では。昼食も食べた事ですし行きましょうか。」


「そうだな。」


俺はテーブルを畳んで車に入れ、その場に缶詰やごみを置いて行こうとすると虹蛇が言う。


「物を粗末にしてはいかんぞ。」


「あ、これはですね・・」


「なんじゃ。」


俺は虹蛇に耳打ちした。


・・・30日すると消えてなくなるんです・・・


「えっ!そうなの?」


「はい。」


「じゃあ我がもらったあの車も?」


「ええ。」


「なーんじゃ!そんな・・我はあれで遊ぼうと思ってもらったのに!」


「すみません。説明はいらないと思っていたので・・」


「おぬしは悪くないがの。そうかぁあれ消えるのかあ・・」


トラメルとケイシー神父は、俺と虹蛇が何を話しているのか分からない様子だ。


とにかく4人はまた輸送防護車に乗って走り出した。


それから2刻(6時間)で西の山脈の麓に到着した。やはり西の山脈は高い山々が連なっており、その先に行くものを阻んでいるようだ。


「つきました。」


「このまま行かんのか?」


「これでは登れません。」


「そうか。」


「どこにあるんですか?岩塩は。」


「ちょっとまて。」


・・・・・・


虹蛇が目をつぶって静かになる。


「むこうだ。」


「わかりました。では山を登らねばなりません。」


「いやいい。ここには人里もないから我の本体を出現させるさ。」


「本体を?」


「ああ。」


すると空が徐々に曇っていく・・・というか空一面に何かが現れていく。


「え・・お、お・・大きい!なんてもんじゃない!」


「本当ですわ!あれが・・」


「お、おお・・」


胴体が太いというか大きすぎて蛇という感じがわからない。ただ空を埋め尽くしているものが七色に輝いている・・


「あれが・・本体。」


「我が跡を継いだ、以前の古い虹蛇たちはあのようにして世界中にいるぞ。」


「そうなんですか!?」


「おぬしらが見ている虹と言われるものは、元は虹蛇の本体だったものだな。」


「「「ええー!!」」」


衝撃の事実を知った。


《あの虹は虹蛇の成れの果てだったの?光が空気中の水滴に屈折や反射して起きる現象でしょ!なんていうメルヘンチックな話だよ!》


「ということは今のこの感じも?」


「あの村あたりから見れば、虹の橋が架かっておるだろうな。」


「うわぁ〜」

「ほへぇ〜」

「奇跡・・」


俺達3人は神の御業を目の当たりにして、ただただ感動するだけだった。


すると虹蛇本体から、スポットライトのような物が俺達4人に照射される。


「これは・・」


と・・


考える間も無い次の瞬間!俺達はソファーがある部屋にいた。


「えっ?」

「はっ?」

「ほへ?」


「なんじゃ!鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしおって!この前もこの部屋に入ったであろう!」


「あまりに唐突で・・・」


「あの・・その・・」


ポロポロポロポロ


トラメルとケイシー神父は二人して涙を流していた。あまりにもの感動に感情を抑えきれなくなってしまったようだった。


虹蛇。


《グレースってこれを継がなきゃいけないのか・・。壮大すぎて怖っっわ!》


俺は一人グレースの未来を考えてぶるりと身を震わせた。


「では岩塩がある場所までいこうかの?」


「・・はい。」


二人からはすでに返事はない。


俺は虹蛇本体の中で大砲をぶっ放したことを思いだし、悔い改めようとおもうのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 虹蛇様…助手席に飽きるw まぁ…ずっと助手席で風景の移り変わりを見てるだけじゃねぇ…(それこそ本体の方でも楽しめる) アレ水晶じゃなかったんですか? …まさかのダイヤモンド…まぁ、普通は…
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