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第261話 乗り物で攻略しましたがなにか?

この大迷宮の通路はほとんどの場所が4メートル以上の広さがあった。


《この通路だと小さいバギーなら余裕だよな・・》


どうやらブラック・ホーネット・ナノなどの無機質なものはズル認定されないようなので、乗り物を使ってもズル認定される事はなさそうな気がする。


「えっと二人はちょっと疲れていると思いますのである作戦を考えました。」


「ある作戦?」


「ええ。砂漠で馬の無い馬車を使いましたよね?」


「ええ。あれは快適でしたわね。」


「ホント。砂漠なのに涼しくて最高でした。」


「ここでも乗り物で行こうと思うんです。」


「えっ?さすがにあれでここは通らないんじゃないかしら。」


「そうですよ。あれはそこそこ大きかったはずです。こんな狭い迷路を通れるはず無いのでは?」


「あれは使いません。」


そして俺は立ち止まる。


「この迷宮の通路に丁度いい物があるんですよ。もちろんゆっくり進まないと壁にぶつかりそうなので慎重にいきますが。」


俺はまた目の前に手をかざしてポーズをとる。


「よっ!」


ドン!


「また!これも乗り物?」


「そうです。」


「小さいですね!馬車よりずっと小さい。」


「これなら小回りが利くと思いますよ。」


「いろんなものが出せるのですわね。」


出てきたのは米軍特殊部隊でも使われているRanger XP 900 EPS小型ビーグルだ。3人乗りなので丁度よかった。2気筒4サイクル68馬力エンジンでホイールベースも206cmと小回りが利く。この迷宮でも余裕で走って行けるだろう。


「えっとトラメルさんはここに座ってもらえますか?」


「ここね。」


トラメルを助手席に座らせる。


「ケイシー神父は後ろの荷台部分に乗ってください。」


「はい。」


そして俺はケイシー神父に映像ディスプレイを渡す。


「ケイシー神父はこれで先を見て指示してもらえますか?分からない時はトラメルさんと相談して私に指示してください。」


「わかりました。僕もだいぶ慣れたので大丈夫だと思います。」


「頼もしいですね。」


ブラック・ホーネット・ナノをオートパイロット機能に切り替えた。もちろんこの世界に人工衛星なんか飛んでないのでGPS機能は使えない。そのためトラッキング方式にして上空から車の周辺を映し出すようにする。トラッキング方式なら、自動でコントローラーの位置を探り追尾してくれるので、一切の操作は不要だった。


「では行きましょう。」


「ええ。」


「わかりました。」


ブオン


ブオオオオオオ


Ranger XP 900 EPS小型ビーグルは軽快に走り出した。それでもそれほど通路が広いわけでもないのでぶつからないように運転していく。


「次を右です。」


ケイシー神父が指示をくれる。


俺はハンドルを右にきった。


「次の十字路は曲がらないで真っすぐですね。」


「はい。」


「道なりに左に曲がった先の十字路を右です。」


「はい。」


《ケイシー神父・・・めっちゃ的確。前世に生まれていたらラリーのナビゲーターとかいいかも。ゲームも得意そうな気がする。》


ブロオオオオオ


順調に進んでいく。


「ラウル殿・・助かりましたわ。」


「僕もです。」


「それは良かったです。」


「実はかなり限界でしたの。」


「本当に・・僕も今にもへたり込みそうでした。」


「でしょうね。ここまでの旅路を考えても無理がありましたから。」


「あ、次を左で少し進んだ先を右ですね。」


「了解です。」


ケイシー神父はまるでカーナビだった。冷静に指示を出してくれる。


《彼にこんな取り柄があったなんて。》


おかげで順調に進んでいく。


時おり充電切れのブラック・ホーネット・ナノを戻して、充電完了した替えを飛ばしてやる。


「あの止まらずに何か食べたいと思います。」


「わかりました。」


俺はトラメルの膝の上に手をかざす。トラメルの太ももの上に、戦闘糧食2型の様々な缶詰を出してペットボトルも召喚する。


「あの二人で代わりばんこに食べてください。終わったら私に食べさせてもらえると嬉しいです。」


「ラウル殿に先に・・」


「良いんですトラメルさん。先に二人が食べてください。」


「わかりましたわ。」


そしてトラメルが缶を剥いて後ろのケイシー神父のひざ元に置く。それをケイシー神父がスプーンで食べ始める。


「これも変わってますよね。」


「何を食べてるんです?」


「あの粒粒のやつです。えっと鶏肉が出てきました。」


「鳥炊き込みご飯です。」


「美味しいですよ。あ・・次を左で十字路を通り過ぎてその先の十字路を右です。もぐもぐ。」


《ケイシー神父・・器用なもんだ。食いながら先の先まで指示してくれる。》


隣を見るとトラメルが赤飯を食べていたようだった。


「これも美味しいですわ。」


これで休むことなく進みながら食事をとる事が出来る。


「ラウルさん!食べてる間も進めるので魔物退治しなくていいですね。」


「まったくですわ。」


「あ、ラウルさん。次を右でその次を左です。」


「了解。」


《めっちゃ軽快だ。なんでこんなことに思いつかなかったんだろう。あ、ズル認定を考えていたからか。最初っからやってれば一発クリアだったな。》


トラメルが食べ終わり助手席で俺に缶詰を食べさせ始めた。


あーん。って感じで。


「もぐもぐ。」


トラメルがスプーンで口に運んでくれたのは五目御飯だった。イイ感じの塩加減で美味い。


《なんか・・前世で彼女とかいたらこんな感じだったのかなあ・・。これすっげえいいなあ・・》


などとくだらないことを考えたりして。


するとトラメルがペットボトルを開けて俺に渡してくれた。


「ごくごく。」


いいなこれ。


「えっとおかず。」


「はい。」


「パクっもぐもぐ」


《ウインナーも美味い。運転しながら食べさせてもらうってなんか特別な感じがするわぁ。》


勘違い野郎の俺はまるでトラメルを彼女の様に扱っていた。


「えっと次を左で曲がり角を過ぎて、その先を右です。」


《ケイシーナビも的確だし快適ー!風景が変わらないのでドライブ感覚としては面白くないが、この感じは最高やね。》


飯を食い終わってドライブ感覚が終わった。


《いやあ・・楽しかったわこれ。》


「トラメルさんありがとう。」


「喉が渇いたら言ってね。」


「ああ。」


「次を右です。」


彼氏彼女と的確ナビのドライブは続く。


そして3時間ほどそのまま走る。攻略開始してから14時間たっていた。


「すみません。トラメルさんが指示を代わってもらえますか?」


「わかりましたわ。」


「ケイシー神父はその場で30分仮眠をとってください。」


「はい。」


そして走ったまま後ろのケイシー神父に仮眠を取らせることにする。走行スピードは30キロぐらいだったがトラメルはディスプレイに慣れてないところもあるので、20キロの徐行スピードに落とす。


《それでも徒歩だと時速4キロ前後だからな。十分だ。》


「えっと、次を右ですわ。」


「はい。」


ブロオオオオオ


「次を左ですわ。」


「はい。」


やはりトラメルは苦手なようだった。指示が遅く、ゆっくり走って無いといき過ぎてしまいそうになる。それでもどうにかこうにか前進していた。


30分が過ぎてケイシー神父をおこす。


ケイシー神父は車の荷台で寝ているためそんなに爆睡はしていないようですぐに起きた。


「トラメルさんと代わってください。」


「わかりました。」


「トラメルさんが30分寝てください。」


「はい。」


ナビをケイシー神父に代わってもらうと俺は速度を30キロにあげるのだった。


そしてそれから3時間後。


攻略開始から17時間が経った時だった。


「ラウルさん。おそらくもう少しで中心部分の建物?が見えてきます。」


「わかりました。」


何度か行き止まりに差し掛かったがRanger XP 900 EPS小型ビーグルに乗っているため、誤差の修正も早くあっというまに中心部分に近づいて来た。休んでもいないので魔物に遭遇する事も無かった。


「ああ!見えてきましたね。」


「次を左ですぐに右です。」


「はい。」


指示通りにハンドルを切る。


「そして直進して右に行き左に行くと目的地です。」


《まるで・・カーナビだ。》


ケイシー神父の言うとおりに運転していくと大きな広場に出た。


円形の広場につくと中央辺りに建物のような物がある。


「あれだ・・」


「ええ。きっとあれですわね。」


「疲れましたが、乗り物に乗って来たので全く問題なかったです。」


「よかった。二人の体力が心配だったものですから。」


俺は一旦Ranger XP 900 EPS小型ビーグルを停める。


ブブブブブブ


俺の手元にブラック・ホーネット・ナノを呼び戻す。


「お前もよく頑張ったな。」


そして俺のリュックにある充電器に接続してしまう。


「さてと・・目的地に着いたら願いを叶えてもらえるんだっけ?」


ブロオオオオオオ


俺はそのままビーグルを建物方向に走らせる。


「なんか簡単でしたね。」


ケイシー神父が言う。


「そうね。この乗り物のおかげだわ。」


トラメルがやっと目的地に着いた事で安心したらしい。


「とにかくこれでここの主に言う事を聞いてもらえそうです。」


そんな事を話ながら広場を中央の建物に走らせている時だった。


ビーグルの前の床が光った。


「おわ!」


俺は咄嗟にその光の輪をよける。


「また魔物?」


しかし・・その光の輪から魔物は出なかった。


するとまたビーグルの前に光の輪が出て来る。


「はぇ?」


俺はその光の輪を左に避けると曲がった先の正面に光の輪が出てきた。


急ブレーキを踏んでその光の輪の前で止まる。


「なんだこれ?」


「魔物は出てきそうにないですわね。」


「周りを光の輪に囲まれてますよ・・」


ケイシー神父が言うので床を見ると前後左右に光の輪が出ていた。


その直後だった・・


俺達のビーグルの下に光の輪が出来た。


スッ


ビーグルが落下する感覚。


「わ!」


「なに?」


「えええ!」


急にビーグルはトンネルをくぐりだした。


「これが目的地って事?」


「どこに行くのでしょう?」


「外の砂漠に出されるんでしょうか?」


シュッ


トンネルを出た!


キキィーー


ブレーキを踏んで車を停める。


いきなり広い場所に出されたからだ。目の前に広がる光景は・・砂漠・・ではなかった。


白い壁が見える。


左右に俺達が休んだテントがあった。


「これ・・開始地点ですね・・」


「本当ですわね。」


「なんで?」


「どういうこと?」


「ラウルさん!あの入り口の文字が光っています。」


ケイシー神父が言う方向を見ると入り口の脇の掲示板が光っている。


ブロオオオオオ


3人はビーグルを降りて掲示板に近づいて行く。


「ケイシー神父それには、なんて書いてあるんですか?」


「そ・・そんな・・」


「言ってちょうだい。」


「あ、あの・・言います。到着したのが早すぎるのでおかしいと思ったら、なんか馬車みたいなのに乗って来たみたいですね。いままでそんな人はいませんでしたからそれを違反とはしていませんでしたが、こんなに早く簡単に攻略されると面白くないので新たに決めごとをしました。」


「・・・・・」


「・・・・・」


俺とトラメルは無言になる。


「つづけますね・・せっかく面白いと思って作った迷宮が、そんなことをされたのでは台無しです。馬車は使っちゃダメです。あと馬とかも。それから・・次はもう二段階難しくしますので頑張って徒歩で攻略してくださいね。あしからず。」


「・・・・・」


「・・・・・」


「えっとまだ書いてありますが・・。」


「続けてください。」


「そんなズルをして面白いですか?ズルして面白いなんて馬鹿ですか?死ぬの?次に目的地に着けるもんなら着いてみてください。そのアホ面をしっかり拝むことにいたしましょう。」


ブッッチィィィィ


俺のこめかみから、おっそろしいほどのキレる音が聞こえたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] クソガキムーヴで煽ってきやがった……これはわからせタイム確定演出ですわぁ
[一言] トラメルが食べ終わり助手席で俺に缶詰を食べさせ始めた。 あーん。って感じで。 (この間、略) 勘違い野郎の俺はまるでトラメルを彼女の様に扱っていた。 主人公補正全開…トラメルさんヒロ…
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