第260話 難易度アップの大迷宮2巡目
俺達は大迷宮2巡目でゴールを目指していた。
迷宮入り口の壁には難易度が上がると書いてあったが、特に1回目より難しくなったようには感じられない。
しかしながら・・
1巡目の後に体力回復のため2人には寝てもらったものの、トラメルとケイシー神父はすでにかなりの疲労をため込んでいた。
《・・無理もない。この砂漠に転移させられてからというもの、気が安らぐ事が一度も無かった。二人は疲労困憊なはずだ。》
当初の予定通りに4時間歩き続けているがすでに限界だろう。
俺は休憩を取ることにする。
「ではここらで何か軽く食べましょう。」
「はい。」
「わかりました。」
俺はあえて横道にそれて袋小路を選ぶ。この方が二人を守りやすかったからだった。これもブラック・ホーネット・ナノからの俯瞰した映像があるから出来る芸当だ。
二人はへたり込むように座り込む。
俺は3人分のロシア軍のレーションを召喚した。
牛缶
クラッカー
りんごジャム
砂糖
ビタミン剤
ペットボトル水
この牛缶はおもいっきり「肉」といった食べ応えのある缶詰で、二人の体力の為にぜひ食ってもらいたいと思う。りんごジャムをクラッカーに塗ってさらに砂糖をかける。凄く甘いと思うが疲労にはもってこいだった。さらに二人の体力回復を考えビタミン剤を補給してもらう。そして水分補給はペットボトルの水だ。
「とにかくエネルギーを補給しましょう。」
「わかりました。」
「はい・・」
「疲れているとは思いますが無理しても食べてください。」
「大丈夫です。隠遁生活で慣れてますから!このくらいで食欲は無くしません。」
「はは・・私は牢獄生活でホント質素でしたので大歓迎です!」
二人は黙って食べ始める。
15分くらいで缶詰とクラッカーを食べ、ペットボトルの水でビタミン剤を呑んでもらった。
「ではあと10分とちょっと休憩しましょう。次の4時間後の食事の時はあえて魔物を出すために時間を超過しようと思いますので、ここは早めに切り上げましょう。」
「わかりました。」
「はい。」
そして俺達は最初の30分の休憩を時間いっぱい消化しようとする。
しかし・・
5分休憩・・約20分休憩した時だった。
シュン
シュン
迷路の床が円形に光り出したのだった。
「ん!?前回より10分早いぞ!」
1巡目と違い20分間その場に待機したら魔物が出てきたのだった。
そしてゾンビ2体に対してスケルトンが3対、一方向から通路を塞ぐようにわさわさと湧き出て来た。
「戦闘です!」
「はい!」
「おっと・・!」
二人が銃を構える。
「えっと弾はいくらでもあるので撃ちまくっていいですよ。」
パンパンパンパン!
パンパンパンパン!
二人はスケルトンの胸の魔石に向けて銃を放つ。魔石が砕けたスケルトンはその場に崩れて灰になっていった。
俺はショットガンでゾンビの頭を砕いている。
ズドン
バゴォ
ズドン
バゴォ
魔物は全て片付けたが総数は20体だった。しかしスケルトンの出現率が高くなってきており、次第に魔物は強くなっているようだった。
「前回の時より出現時間が早くなりましたね。」
「そのようですわね。」
「難易度が上がったという事なんでしょうね。」
「そう言う事だと思います。」
俺は二人のP320ハンドガンに新しい徹甲弾のマガジンを装填してあげる。
「ひきつづき俺の後ろをついてきてくださいね。」
二人は俺の後ろからついてくる。
迷宮は最初の時より少し複雑に感じたが気になるほどではなかった。休ませない為の魔物の出現の方がシビアだ。
《魔物を出現させればそれだけ時間のロスになる・・更に魔物は強くなっているみたいだし、休憩をとればとるだけ、攻略が難しくなる仕組みになっているんだな・・》
二人は既に口数が少なくなっていて話す事は無くなった。
「ふぅふぅ」
「ハァハァ」
辛いだろうがそれでも一生懸命に俺についてきていた。映像ディスプレイは俺だけが確認している。
上空からの映像で確認していると、間違いなく中心部分に向かっているのが分かる。1回目の攻略でこの迷宮に慣れた事もありスムーズに進んでいた。
4時間してまた休憩をとる。
「ふう・・疲れましたわね。」
「はい。どこも同じような風景で、上から見てるからいいですけど普通なら気が滅入りますね。」
トラメルとケイシー神父がさすがに弱音を吐いた。
「ええ。では今度は長めに休憩をとります。約40分一度魔物を出現させますが二人は休んでいてください。私が全て片付けます。」
「あのっ」
「いいんですトラメルさん。私は疲れていませんし魔力が満タンです。」
「わかりました。」
俺はトラメルが何か言おうとしたのを制して休ませる。
今度はスペイン軍のレーションを召喚した。
チキンとパスタスープとオイルサーディンとペットボトルの水とビタミン剤。とにかく早めに食べてもらって休んで貰う事にする。
もちろん今回も袋小路に逃げ込んでの食事とした。
二人は無口にモクモクと食べている。
「どうですか?」
俺は二人にレーションの感想を聞く。口に合わなかったら他の物を召喚してやろうと思う。
「このスープも魚も味が薄めで食べやすいですわ。」
「はい。疲れているのであっさりしていて食が進みます。」
「ならよかったです。」
二人は早めに食事を終わらせて壁に寄りかかっている。
「魔物が出ても動かなくていいですから。すぐに終わらせますから。」
そして休憩をして20分が過ぎた時、袋小路の入り口の床が光り輝き魔物が出現する。想定通りにゾンビ1体とスケルトン4体のチームが4チーム出てきた。
「ああ、想定通りスケルトン16体に屍人4体ですね。」
「本当に一人で大丈夫なのですか?」
「ええまあ。」
ぞろぞろと敵が近づいてくる。
「えっと、トラメルさんもケイシー神父も耳を塞いで目を閉じていてください。」
「わ・・わかりました。」
「そうですか・・」
二人が俺の言うとおりに目を閉じて耳を塞ぐ。
「さて。」
俺は二人から距離を置いて魔物たちが出現したほうに歩いて行く。
歩きながらRPG-27ロケットランチャーの弾頭を、サーモバリック爆薬に交換したRShG-1ロケットランチャーを召喚する。
そして構えた。
カチ
ズグバァアァァン
凄い風圧が押し寄せて来る。魔物から後ろに衝撃波が向かっているが、跳ね返りがこちらにも戻ってきた。
イタッ!
「ん?」
俺は声を聞いた。
俺が振り向くと二人は奥の壁に縮こまるようにして、まだ目を瞑って耳を塞いでいた。
袋小路の奥まで行ってトラメルの肩に手を置く。
「終わりました。」
「え!もう?すっごい音がしましたわ。」
「はい。」
「えっとラウルさん・・あのあたり壊れてません。」
「なんか少し欠けたりしたみたいです。ところで・・ケイシー神父さっき声を上げませんでした?」
「いいえ私は目をつぶって歯を食いしばっていましたから。」
「そうですか・・。」
《なんか・・「イタ!」って聞こえたような気がしたんだがなあ。一瞬骨片とかがケイシー神父に当たったんだと思った・・》
「とにかく引き続き休んで貰えますか?」
「え、ええ。」
「ありがとうございます。」
《と言うか・・この壁は一応壊れるのか・・。でも壊して進んだらズル認定されるかな?とにかくサーモバリックならスケルトンも一瞬で粉々だし楽だわ。いや・・ズル認定は無いか?すっごい魔法ぶっ放したらズルってわけではあるまい。》
二人を35分ほど休ませてまた歩き出す事にする。
実際の所・・二人は歩くのがやっとの様子だった。
《これ・・本当に人間がクリアできる迷宮なのかな・・》
また4時間進んで休憩をとる。
「今回も35分休みます。魔物は私が片づけますので、食事を食べ終わったら二人はテントに入ってください。」
「ラウル殿は?」
「そうですよ。」
「魔人の体っていうのは便利なものなんですよ。数日寝なくてもぴんぴんしてるんです。私なんか半分人間だから弱いほうで、強い魔人は10日以上眠らずに作戦行動できるんですよ。」
「凄いものですね・・」
「魔人は本当に御伽噺にあるような存在なんですね。」
「たぶん。というのも私は子供のころから御伽噺を読んだことが無いんです。フラスリアについたらトラメルさんに読んで聞かせてもらいたいですね。」
「ふふっ。喜んで。」
トラメルは嬉しそうに言った。
そしてまた俺達が軽食を取ってから、二人を壁際に設置したテントに入れてしばらく休んでいると、袋小路の入り口の床が光り輝いて魔物が出てきた。
想定通り20体全部がスケルトンになっていた。
「えっと今回も耳を塞いでください!」
テントの中の二人に言う。
俺はまたRShG-1ロケットランチャーを召喚し、サーモバリック爆薬を装填して魔物の群れに撃ちこんだ。
カチ
ズグバァアァァン
イタァッ!
「ん?」
《また聞こえた。》
魔物がすべて吹き飛んだので俺はテントの中の二人に知らせる。
「そのまま安心して休んで下さい。」
「先ほどから凄い音なのですが大丈夫ですか?」
「ええ私の武器の音ですから心配いりません。」
「そうなのですね・・」
サーモバリックは爆発によって起きる衝撃波が凄まじく、スケルトンを破壊するには効果的だった。ただこんな迷宮内で使う事を想定していないため、爆風の跳ね返りが襲って来る。俺はまともに喰らっても問題ないが、二人は極力遠ざけるようにして撃っていた。
「しかし壁は壊れるんですね。」
「本当です。」
「きっと壁を壊して進んで行ったら、ズル認定されそうですよね?」
「そうかもしれませんね。」
壁をよく見ると穴が空いているわけではないが、角や床などが欠けているようだった。
《しかし・・気のせいじゃなさそうだ。ロケットランチャーを撃つと「イタッ」って聞こえたよな・・》
時計を見ると迷宮に入り込んでから約10時間ほどたっている。
「よし、順調だな。」
前回の進み方よりだいぶ早い。しかし二人の疲労が気になった。
《このまま強行軍で行けるかどうか。》
とにかくこのままの調子で進めるだけ進んでみて、状況次第で判断する事にしよう。
「ん?まてよ・・乗り物はズル認定されるのだろうか?」
ブブブブブブ
俺はバッテリーが切れそうになったブラック・ホーネット・ナノを手に呼び戻す。
「うん・・行けるかも。」
手に乗せたブラック・ホーネット・ナノを眺めながらそう思うのだった。