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第26話 惨劇の後で

スプラッターな戦闘が終わったあと・・


そこらじゅうに血がまき散らされていた。


《うーん、平和なサバゲ―に明け暮れていた俺には衝撃の光景のはずなんだが、それほど心にダメージが無いように思える。最初に死体を見た時はゲーゲー吐いてたのに・・慣れってやつ?怖いんだけど。》


とりあえず俺たちは怪我をして動けなくなったニクルスさんとエリックを先頭の馬車の床に横たえた。


まったく体を動かせないほどの重傷を負っていた。俺たちには回復魔法を使えるものがいなかったのでとにかく応急処置で対応する。


「母さん、とにかく情報を整理しましょう。」


「ええ。そうね。」


イオナが水を出して二人に飲ませながら答えた。ニクルスさんはあまりうまく水を飲めていないようだった。


マリアとミーシャは外を警戒していた。俺とイオナは怪我人の二人世話をしながら話を続ける。ニクルスさんは気を失ってしまったようだが、エリックの意識がまだあるようなので話を聞いた。


「エリックさん怪我をしているところ申し訳ありません。どういう状況だったんですか?」


「ああ・・いきなり俺たちの乗っていた荷馬車の御者がいきなり矢で撃ち抜かれたんだ。そのあと後ろから急にさっきの兵士たちが乗り込もうとしてきた。」


「僕たちの荷馬車と同じだ。組織的に動いていますね・・かなり統率がとれているようでした。」


「そうね・・間違いなく、正規の兵士ね。」


「しかし母さん、なぜ兵士がこんなところにいるんでしょう・・」


「・・・・」


イオナは答えなかった。もしかすると?・・と俺も頭をよぎった。でもここにエリックがいるので話すのを控えた。


「あの、あなたがたは土魔法も使えたのですね。」


エリックが聞いてきた。


「ええ、石弾を使えますのよ。」


「見たことのない凄まじい威力の石弾でした・・」


「無我夢中でしたから。」


「そうですか…とにかく助かりました。礼をいいます・・ありがとうございました。それで…あいつらは?ラリーとペイジは?」


エリックは仲間の事を聞いて来た。


「すみません、すでに息絶えておられました。」


「そうですか・・」


エリックは寝ながら目元を腕で隠し横を向いた。


「ミゼッタ。二人の看病を任せてもいいですか?」


俺が聞くとミゼッタは青い顔でうなずいた。


「それでは母さん、マリア、ミーシャ、ちょっといいですか?」


全員で2台目の荷馬車に乗り込んで話を始める。この状況から考えられる事を推察する。


「母さん・・」


「ええ・・おそらくは敵軍が私たちを待ち伏せしていたと考えられるわね。」


確かにそう考えるのが一番合点がいく。統率がとれすぎていた、Cランク冒険者が勝てないというのはそういうことらしい。Cランク冒険者が相手をするなら数人が限界だろう。


「それにしては待ち伏せするのが早すぎませんか?」


「ええそうね・・まさかこんなところまで来るなんて、早すぎますね。」


「どこの騎士でしょう?」


「鎧に刻まれた紋章はファートリア神聖国の物よ。」


どういうことだ??


俺たちはサナリアを追われまだ数日しかたっていない。後ろを追ってきていたグレートボアに乗ったやつらの仲間が俺たちの逃亡に気が付いたにしても、ここまでは俺たちより早くは来れないはずだ。という事はファートリア神聖国から北上してきたとみるが・・


まるで俺たちがこちらに逃げてくることを予測していたようじゃないか?


「僕たちが逃げることを推測して網をはっていたんですかね?」


「それは難しいわ、そもそも私たちが逃げるとも限らないし、逃げるなら属国のラシュタルやシュラーデンに逃げると考えるのが普通だわ。」


「父さんの手紙を装ってグラドラムに誘いこむ罠の可能性はありませんか?」


「うーん・・それはないわね。間違いなくあの人の筆跡だしレナードが渡された状況を考えても人の目にそれが入る事はないと思うわ。」


なるほど・・言われてみればそうだ。レナードがあんな状況になってまで持ってきた手紙だ、グラムに直接渡されたと言っていたし、となると広く網をかけられている?


「最後尾のむき出しの荷台に乗っていたマリアとミーシャを見ればメイド服ですし、どれかの馬車に身分の高いものが乗っていると確認したうえで攻撃した可能性がありますよね・・」


「ええそうね・・以前襲われた商隊の護衛の冒険者に死傷者はでたようですが、商会主と使用人は全員無事だったとのことでした。という事は・・狙いをつけて襲撃されたとみて良さそうね。」


「私とミーシャのいでたちを見て、イオナ様の存在を予測したという事ではないでしょうか?それであれば全員を殺してイオナ様を連れ去るために手を下したという事になりませんか?」


「おそらくはそう考えるのが妥当でしょうね…」


「許せません!」


マリアは憤っていた。しかし…ニクルスやエリックらは俺たちのせいで巻き込まれて死んだ事になる。俺たちといると危険なため早く別れた方がいいのだが…怪我をした彼らを放置していくわけにはいかない。俺たちには責任がある。巻き込まれて死ぬなんて…うかばれない…


しかし、こういう状況がおきるのであれば、誰にも助けを求められないと思う。


「なぜこんなところに?こんなに早く兵士を配置できたのかが不思議だわ。」


俺もとにかくその疑問を解明したかったが、全く予想がつかなかった。


「母さん・・もしかすると何らかの手段で、広範囲に手を広げられているとも考えられませんか?」


「そうね。でもどうやって?」


俺たちはしばらく討論してみたが答えは見えてこなかった。


「いずれにせよ、早くしないとニクルスさんとエリックさんが死んでしまいます。宿場町まで急いで移動しましょう。」


「あの・・亡くなった方達はどうしますか?」


ミーシャが聞いて来た。


「きちんと弔ってやらねばスケルトンや屍人となって人を襲う事でしょう。骸を私たちがいただいた荷馬車の荷台に乗せて、ラウルが出したテントをかけてあげましょう。宿場町まで運び弔っていただきます。」


イオナが言う。


「「「はい」」」


「あの・・イオナ様!身重のイオナ様はどうかお休みになっていただけないでしょうか?」


マリアが、イオナを気遣う。


「それでは、皆に負担がかかります…。」


「あ、母さん大丈夫ですよ僕たちでなんとかしますから。」


「そうですか・・では、私はミゼッタと怪我人の看病にまわります。」


イオナはマリアの気遣いをうけ先頭の馬車に向かっていった。


そうだ!これ以上母体に負担かけたらお腹の子に影響が出そうだ。イオナよマリアの言うこと聞いてくれてありがとう。


俺たちは3人の御者の遺体とペイジとラリーの遺体を荷台に乗せた。その時に御者の衣服とペイジとラリーの皮の鎧をぬがせるように指示した。


「マリア、ミーシャ…死人のもので申し訳ないのですが、この服と皮の鎧を身につけてくれませんか?」


「ええそうですね…。ちょっと気がひけますが冒険者に変装したほうが良さそうですね。」


「…私も着ます…」


「お願いします荷馬車の中で着替えてください。僕は警戒行動にあたります。」


着替え終わって二人が出てきた。


マリアは御者姿に皮の鎧があんがい様になっていた。ミーシャにはブカブカのようで、裾と袖を捲り上げて少年のようにも見える。髪が長いのと目が大きいのでかわいい女の子なのを隠しきれないが仕方がない。メイド服よりは目立たないだろう。


ズボンなので2人とも銃が剥き出しになった。緊急時にはこのほうがすぐに銃がぬけるため移動中はこれでいい。


…しかしさきほどからミーシャの顔が真っ青だ、大丈夫かな?まあそりゃそうだ死体を運んで、さらに死体が着ていた服を14歳の女の子が着るのだ。精神的にまいってしまうのはあたりまえだ。


とりあえず俺は先頭の馬車に行きイオナにも着るように言ってみると、イオナもすんなり受け入れて着てくれた。イオナはミーシャよりさらに浮いてる…。綺麗な金の長い髪も美しすぎる美貌も御者の服装には全く似合ってない。


《てかこんな綺麗すぎる御者がいるわけない》


まあ遠目にはわかるまい!とりあえずこれで行く。


また、皆に変装をさせながら俺は別なことを考えていた・・


遺体を運ぶとき俺の体に異変があったからだ。おそらく・・いや間違いなく俺の筋力は7歳の子供のそれをはるかに超えていたことだ。大人を引きずって荷馬車まで運ぶのにそれほど重さを感じなかった。急速に筋力が増強されているような気がする。


「ラウル様なんだかすごい力ですよね。」


青い顔のミーシャに聞かれる。この子も俺の変化に気がついたようだ。


「そうなんですよ・・急に力がみなぎってきたように思えます。」


「どうしてでしょう?」


「よくわかりません。」


本当に分からなかった・・特に変わった事はしていないつもりだ。


なにか変わったことしたっけかな?


《特に重機関銃をぶっ放した後から急激に変わった気がする。》


5人の遺体をすべて荷台に乗せてテントのナイロンをかけた。商人の荷物にあったロープで遺体をしっかりとしばりつけた。ナイロンから、M16自動小銃をとりだして肩にかけるがやはりそれもだいぶ軽く感じる。


「この敵兵士たちの亡骸はどうしましょうか?」


マリアが聞いてきた。


「街道を通る人たちの邪魔になるし…証拠隠滅のため燃やしましょう。薪をあつめて火をつければ燃やせるんじゃないでしょうか?マリア燃やせますか?」


「雨が降ったばかりで薪には火はつきませんね…そしてこれだけの死体を焼くとなると私の魔力では全くたりません。」


俺はどうしようか考えた。


「…思いつきました。とにかく敵の死体を集めましょう。」


などと話しているうちに、青い顔をしていたミーシャはダウンしてしまった。バラバラの頭部や動体、手や足だけになった死体をみてゲーゲー吐いている。


「ミーシャ、母さんと一緒に馬車の中で2人を看病しているミゼッタの手伝ってもらってもいいですか?」


「はい。」


ミーシャを遺体から遠ざける。


「マリアは大丈夫ですか?」


「ラウル様だけにそんな大変な思いをさせられませんから…。」


マリアも若干青い顔をして答える。


マリアと2人で遺体を集めた。マリアは嫌悪感いっぱいの顔をして青い顔で死体を集めていた。だいぶ具合が悪そうだった。しかし不思議なことに俺は全く具合悪くならなかった。逆にこころなしか…高揚している?まさかな…でもアドレナリンが出ているみたいに興奮していた。


《俺あまりの極限状態にとうとうおかしくなったんかな。》


俺は林の中の2体も引っ張ってきて、全員ぶんの死体が集まった。凄惨な現場だ…ホラーでしかない。


「ラウル様、全部集まったようですが…どうするのですか?」


「はい。では…」


俺はまた武器を召喚した。


ガシャ。


召喚したのはベトナム戦争でも使われた、M9火炎放射器だ。炎を吐き出すというより可燃燃料をまきちらすこれならば、骨も残さず焼いてくれるはずだ。


「これでいきます」


ボワアアアア


火炎放射器は火炎を吐き出して死体を焼き払った。みるみるうちに炭になって焼け焦げたプレートと小さな骨だけが残った。


いったんイオナとミーシャに終わったことを伝える。


「しかし・・御者が3人いなくなってしまいましたね・・」


うーむどうしよう、俺は馬の手綱などひいたことがない。このメンツでは俺がやらねばいざというとき困るな。


「最後尾の幌無しの馬を前の馬車にロープでつなぎましょう。3人で手綱を引けば何とかなりそうです。」


マリアが提案してくる。


「すみません。僕は馬の扱い方を分かりません。」


「そうですね・・それでは・・」


「マリア?私が手綱をにぎります。あなたとミーシャと私で引けば何とか進めるのではないでしょうか?」


「すみません。母さんに負担をかけてしまって。」


「いいえ、あなたには戦いの時にすごく助けられています。私の事よりもまずは前に進むことを考えましょう。」



俺たちは出発の準備をした。12.7mm機関銃を乗せた幌馬車にM16とTAC-50スナイパーライフルとM9火炎放射器を積み込み、すべての武器に毛布を掛けた。いきなり覗かれて怪しまれるといけないので隠す事にする。



武器を隠したあと、一度みんなに外に集まってもらうことにした。


「母さんもみなさんもお疲れのところすみません。ちょっと銃の扱いを再度説明します。」


みんなの銃を出してもらう。


「これから素早いマガジン交換の仕方を教えます。その前に母さんとミーシャにあげた小さい銃を渡してください。」


俺は二人からスミス&ウエッソンM&P9シールドを受け取り弾倉を満タンにした。


「これは護身用です。フットホルスターに隠しておいてください。そしてこれです・・」


俺はH&K VP9サブコンパクトを2つ召喚した。そしてフルに詰まっているマガジンも2つ用意した。


「この弾倉には13発の弾丸があります。これが無くなると弾は射出されません。そのときは握りの下のこの脇のところを押してマガジンを抜きます。」


俺はスライドさせてマガジンを抜き取った。


「あとはこの装填済みのマガジンをスライドして入れるだけです。カチッとなる所まで入れてください。できればこの行動を手すきの時に何度もやっていただきたいんです。戦闘中には慌てて半分の力も出せないと思いますのでお願いします。」


イオナとミーシャの二人に渡してやって見せる。彼女らは何度かやってスムーズにできるようになった。


「次は反対側の足につけるホルスターを出します。」


左足用のフットホルスターを二つ呼び出した、マガジンのホルダーも付いている。


「これを左足につけてください。そしてここにこのマガジンを差し込みます。」


2人はホルスターを装着し銃とマガジンを差し入れた。


「次の戦闘の時はこれを使ってください。小さい銃より威力があります。そして戦闘中に銃の弾倉が空になったら捨ててください。左足からこの弾倉を抜き取って入れてください。捨てたものは後で拾うか、捨てたままでも30日後に消えますので放っておいてもいいですよ。」


「わかったわ。」

「わかりました。」


そしてマリアにもP320とベレッタ92の装填済みのマガジンを渡す。


「マリアは使い慣れたこの2丁をそのまま使ってもらいます。マガジンの入れ方はすでに説明する事はないですよね?」


「はい、問題ありません。」


「僕も先ほど呼び出したVP9サブコンパクトを使います。」


俺は腰のホルスターにそれを入れた。


説明していると前の馬車からミゼッタが話しかけてきた。


「あの・・ニクルスさんが苦しそうです・・」


イオナと俺で見に行った。ニクルスさんは汗だくで苦しそうにうなされていた。


「ラウルとにかく先を急ぎましょう。」


「そうですね。」


すると・・ミゼッタが話しかけてきた。


「あの・・私、馬を扱えます。」


「そうなのか?」


「はい、荷馬車で作物を運ぶのはおじいちゃんの代わりに私がやっていましたから。」


この世界の子供はたくましいな。小さい頃からそれが当たり前で育ってきたんだろうが平和な日本では考えられない。それならばイオナに馬をひかせる必要がなくなる分助かる。


「それではミゼッタは真ん中の馬車をひいてもらえますか?」


「わかりました。」


ああ、こんな時は馬もひけない俺は使えねえなあ・・自動車の運転免許はもってるんだけどなあ、こんなことなら前世で馬の乗り方くらい学んでおくべきだった。


先頭の馬車の手綱はミーシャがにぎり、中の馬車をミゼッタ、最後尾の連結の馬車をマリアがひいた。4台の荷馬車はゆっくりすすんだ。


しかしここから先、敵が待ち伏せをしていないとも限らない。


そして次の宿場町には敵軍が駐留しているかもしれない。



グラドラムには無事にたどり着けるのだろうか・・



とにかく巻き込まれてしまったニクルスさんとエリックだけは何としても助けたい。


こんなに良い人達を巻き込んでしまった事に罪悪感を感じつつ、馬車は進んでいくのだった。



次の町まであとどのくらいかかるのか・・


それだけが心配だった。

次話:第27話 僧侶の回復魔法

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