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第253話 黒砂の大津波

《いやぁ〜快適快適。》


砂漠をひた走る自衛隊のLAVライトアーマービーグルの中で俺は悦に入る。


「ラウル様は本当に素晴らしいですわ。」


「トラメル様!私を様で呼ぶのはやめて下さい!今まで通りでいいですから。」


トラメルの中で俺の評価は爆上がり中のようだった。


「でも魔人国の王子であらせられるのでしょう?」


「いえいえ。私はサナリアの男爵の息子ラウルですって。」


「わかりました。じゃあおっしゃる通りにいたします。私にも様じゃなくて呼び捨てでもよろしいですわ。」


「じゃあ・・トラメルさんで。」


「ええ!それでいいです!」


魔人の司令官と王子では扱いが違うのかね?というより凄く親し気な雰囲気になってる気がする。


「とにかく急いでフラスリアに戻らねばなりません。」


「ええ恐らくすごい騒ぎになってそうですわ。」


「ファートリア侵攻作戦前にこれは痛いです。」


「ラウル殿ここは位置的にどのあたりになるのでしょうね?」


「ここは恐らく大陸南方のザンド砂漠ではないかと思うのです。」


たぶん・・・だけど。


「最初に転移させられたのが砂漠のどのあたりなのか定かではなくて、今は砂漠の中央に向けて走っているのか、砂漠の西側よりにいるのかもわかりません。」


すると黙っていたケイシー神父が話し出す。


「でしたら私たちは東側に出現したのではないでしょうか?」


「なぜです?」


「夜にナリナンがありましたから。」


「ナリナン?」


《成田南高校?あのヤンキーの?》


なわけないか・・


「星です。」


「ああ・・星ね。」


「月とは違い、東の地平線に少しだけ出る星です。」


《えっ?そんな星あんの?月以外の衛生かな?》


「私がいたグラドラムは東方でしたがそんな星見たことないですよ。」


「私のフラスリアでも見たことないわ。」


「それはそうだと思います。ファートリア神聖国でも晴れた日の夜に、東の地平線に少しだけ見える星なので北に行けば見えないはずです。」


《そんな星が見えていたのか・・俺の確認不足だ。》


「えと。その星はどんなふうに動くんです?」


「ファートリアの南東付近に出て南下し、また東の空に沈みます。」


「水平に?」


「そうです。」


《いやいやいや。なんで東から出た星が東に沈むんだよ・・いや・・ここは異世界だ。前世の常識で考えると失敗する。そもそもここが普通の惑星かどうかもわからないしな。》


「その東に見える星があったということは、私たちは東から砂漠の中央に向けて走ってる?」


「となるのでしょうか?」


ケイシー神父は自信なげに答える。


《マジか?なら東に向かうんだったかな?でも飛ばされたのは昼だったし仕方ない。いまさら戻れないのでこのまま進むしか無い。》


「ケイシー神父。次に何か気がついた事があったら。すぐに教えていただけると助かります。」


「は、はい。私は何が失敗しましたか?」


「いえ、していません。転移したのは昼でしたしね。」


「わかりました。とにかく何か気がついたらすぐ伝えます。」


《いや良いんだ。敵がいる確率は東の方が高いはずだ。そう判断してこちらに来たのだから間違っていない。ここでの迷いは命とり、決めたら迷わず動くだけ。情報収集を怠った俺が悪い。ケイシー神父を軽く見ていた事が問題だ。》


「あのー。それでなんですが。」


ケイシー神父が言う。


「なんです?ケイシー神父。気兼ねなく言って下さい。」


「右手後方の遠くの場所がなんかおかしいんです。見てもらえませんか?」


俺はVALを止めて車の右手後方、北東の方角を眺める。トラメルも一緒に見ていた。


「あれ?なんだ?向こうに黒い何かがあるみたいだ。」


遠く北東の方角が黒くなっているのだった。


「あちらで何かが起きてるのでしょうか?」


俺は召喚していた望遠鏡でその方角を見た。


「うーん。恐らくあちら側は天候が悪いんじゃないでしょうか?」


するとケイシー神父が言う。


「あの黒いのはさっき僕が見つけた時より、大きくなったように思います。」


「大きくなった?」


「はい。西に広がってきたみたいな気がします。」


《確かに何か違和感がある。》


「とにかく先を急ぎましょう。トラメルさま・・いえトラメルさん、これで向こうを監視していてくれませんか?」


「これは?」


「遠くのものを拡大して見れます。」


「オペラグラスみたいなものかしら?」


「まさにそれです。」


《この世界にもオペラなんて演劇があるのね。ちょいちょい前世と重なる事もあるから不思議だよ。》


俺はトラメルに北東の監視を任せて車を西に走らせる。


「ラウル殿!間違いありません。あれはどんどん西に広がっているようです。」


「西に・・」


悪い胸騒ぎがする・・俺はLAVのアクセルを踏んで加速していく。


砂漠からはゆらゆらと熱気が立ち込めていた。


「ラウル殿!あれは広がっているのではありません!近づいているように思います!」


トラメルが叫ぶ。


「近づいている?」


俺はLAVを停めトラメルから望遠鏡を借りて見る。


《本当だ。何かがこっちに来てる・・まさかデモンか?》


とにかく急いで西に車を走らせる。


気がつくと右の視界に黒い壁が広がってきた。


《やはり何かがこっちに押し寄せている?》


いつのまにか北の方角には黒い壁が出来上がっていた。黒い壁は凄い速さで近づいてきているようだった。


「あれは恐らく砂嵐だと思います!」


俺が叫んだ。


「砂嵐?」


「砂漠に吹く大風です!」


「この乗り物は耐えられるんですか?」


「わかりません!とにかく逃げましょう!」


俺はやむを得ず南にハンドルをきった。


南は快晴の空だ。しかし後ろからは砂嵐が近づいてきている。


その速度が尋常じゃない!


俺は窓から後方を確認する。


《なんだぁ・・・》


よく見ればそれは砂嵐などではなかった。


砂の津波だ。


地面の砂がめくれ上がるようにして押し寄せてきていた。


「速い!」


すぐそこまで来ている。


LAVは全開走行だが、砂の津波はその速度より速いようだった。


ゴゴゴゴゴゴゴ


地鳴りがしてくる。


ブオオオオ


LAVは唸りを上げて砂漠の山をいくつも越えていく。


「すぐそこまできています!」


トラメルが叫ぶ。


俺はそれを聞いて絶望する。


《追いつかれる!》


そして・・


LAVはとうとう砂の津波に追いつかれ、まるでサーフィンのように押されていくのだった。


「みんなとにかくつかまってください。体を固定して!」


もう二人からは返事もない。必死につかまっていた。


フロントの視界には地面しか見えなかった。クルマが砂の波に持ち上げられ前のめりになっているのだ。


耐えきれなくなったLAVは次の瞬間・・


砂の津波にのまれた。


LAVはゴロゴロと転がっていく。しかし強靭なボディはその衝撃に耐えていた。


《いつまで持つか!?》


俺は暴れる車の中で冷静に周りを確認していた。


ギシッギシィ


恐ろしいほどの回転が加わって車体が軋む。窓ガラスの外は砂の渦が巻き起こっていた。


《持ってくれよ。》


ベルトはしているのだが体があちこちにぶつかる。


ガン!ギシィガガッ


車が悲鳴をあげてきた。


《ダメか!》


時間にしてそれほど長い時間ではなかったが、集中する俺の意識ではスローモーションのように感じられた。


だが・・いつしかクルマの転がりは止まっていた。


《波が過ぎたのか?》


音もない。


ただし・・車内は真っ暗になってしまった。俺はLAVの室内灯をつけた。


どうやら俺はベルトをして座席にぶら下がっていたようだ。車が逆さまになっている。


《凄い衝撃だったな・・後ろの2人は?》


後部を確認すると2人は気を失っているのか、バンザイの姿勢で座席にベルトでぶら下がっていた。


とりあえず俺は自分のベルトを外し、天井部分を四つん這いになって後ろに行く。


トラメルとケイシー神父の首に手をあて脈を確かめる。


「ほっ」


どうやら2人は衝撃で軽く気を失っただけのようだった。


「トラメルさん。」


俺はトラメルをゆすった。


「うっ、ううん・・」


トラメルから見れば俺は逆さまだ。


「・・ラウル殿・・私たちはどうしたのです?」


「はい。なんとか生き延びました。」


「どうなっているの?」


「逆さまになっているようです。いま降ろします。」


俺はトラメルをグッと抱きしめてベルトを外した。トラメルは両手を天井についてゴロンと体を起こす。


「神父は?」


「無事なようです。」


俺はケイシー神父も起こしてやる。

 

「・・な・・これは?」


「たぶん砂に埋まりました。」


「なんと・・」


「ベルト外します。」


「はい。」


ケイシー神父も天井に座った。


「車は逆さまになってしまったようです。」


「そんな・・」


「脱出を試みなければなりません。」


「そうね。」


「はい。」


《さて・・車はどのくらい埋まってしまったんだろう?》


「ちょっと2人に着けて欲しいものがあります。」


「なんです?」


2人の目の前に酸素ボンベと携帯用酸素ボンベ用フェース・マスクを召喚した。


「これは・・」


「息をするための道具です。」


「息をするための道具?」


どうなっているのかわからない以上は長丁場になる可能性もありえる。緊急時に説明している暇はないので今酸素ボンベの説明する。


「そのうち息が出来なくなります。しかしこの中に空気が入っていて、その仮面を顔に着ければ息を吸う事ができます。」


「い、息が・・」


「まずそのボンベというものを背負います。」


2人は指示通りボンベを背負った。


「そしてそれを顔に。」


俺が手伝ってやりながら二人はマスクをつけた。俺はマスクにボンベから出たチューブを取り付けバルブを開いた。


シュー


酸素がマスクに送られる。


俺もマスクとボンベをチューブで繋いでからバルブを開いた。


念のため車内の酸素は緊急時の為に使わないでおく。


《さてと・・》


俺は運転席に戻った。


逆さまになっているので運転席には座れない。まずはエンジンをかけ直してみる。


しかし・・エンジンはかからなかった。


おそらくマフラーやいたるところに砂が入ってしまったのだろう。車は後部の方が上に向いているようだ。


《うむ。やはり俺が1人で砂に潜らねばならないか?》


スキューバの経験はあるが砂を泳いだ事はない。


《問題はこの防弾ガラスをどうやって破るかだ。》


拳銃やマシンガンで撃ったら、中で跳弾しまくって危なすぎる。


《というわけでツルハシでなんとかやってみっか!》


俺は自衛隊が災害救助で使う備品ツルハシを召喚した。


一度マスクを外す。


《さて・・》


座席とフロントガラスに足をかけて、助手席のガラスにツルハシを打ち込んだ。


よいしょー!


ビシ。


すこし白くなっただけだった。


よいしょー!


俺は寸分の狂いもなく一回目にツルハシを落とした場所に叩き込む。


ビシィ!


うん硬い。白い部分が広がっただけで割れはしなかった。


俺は体に魔力を循環させ力を練り上げるイメージで巡らせる。


《力が漲ってくるようだ。》


よーいしょぉ!


ガヅッ


《お!ツルハシが外まで突き通ったぞ!こんな体制で防弾ガラスを突き破るの・・人間には無理だな・・》


ツルハシを抜くとそこから砂時計のように砂が入り込んできた。


サラサラサラサラ


《いやー。気が遠くなるな・・》


俺はまたツルハシを振り上げて魔力を体に巡らせる。この砂漠に来てから魔力を練る作業ばかりしているような気がする。


どっせい!


ビシ


さっき穴の開いたところとは、少しずらしたところに落とす。


よいしょー。


ズガッ


もう一箇所穴が空いた。


《普通ツルハシでこんなに簡単に貫通しないよなあ・・魔人に生まれて良かったー!》


ズボッ!


ツルハシを抜いたときだった。


グラリッ!


車体が傾いて車が垂直になった!


後ろの二人が前に落ちて来る。


ドサドサ!


二人が怪我をしないように俺が抱き留めたが、3人でフロントガラスの所に落ちた。


「きゃあ!」


「痛い!」


《なっ!なんだ?》


体感的に車がさらに砂の中に潜っていってるようだった。


まずいぞ!


俺は冷静を装いながらも一人焦るのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 「夜にナリナンがありましたから。」 「ナリナン?」 《成田南高校?あのヤンキーの?》 んなわけねぇ~だろっ!!!!…連想するのは仕方ないとしても… ともあれ…珍しくケイシー神父が頼り…
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