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第247話 熱砂の砂漠

ジリジリジリジリ


うん。

暑いな。

炎天下だ。

砂漠だよな。

砂しか見えん。

蜃気楼は見える。

間違いなく砂漠だ。


やられた!


俺達は転移の罠にかかったようだ・・


「貴様ぁぁぁぁ!!」


トラメルが叫びながら剣を抜いてケイシー神父に斬りかかった。


「ヒィィィィ!」


「ちょっとまったああ!!」


ガキィィィィ


俺は咄嗟にマチェットナイフを召喚してトラメルの剣を受け止める。


流石はトラメル!剣が得意と言うだけある!見事な斬撃だ!おそらく止めなければケイシー神父は両断されていただろう!


・・とか言ってる場合じゃない!


《なんじゃあこりゃぁぁぁぁ!》


俺だってかなり取り乱しているが冷静にならねばならない。


「まずは落ち着いてください!」


「なぜ止める!」


トラメルが叫ぶ。


「今は状況を確認すべきです!」


俺が言うがトラメルの勢いが止まらない。


「こいつがやったに決まっているだろうが!」


するとケイシー神父が叫ぶ。


「違います!」


「違わん!」


俺はトラメルの体に抱きついて後ろに下がらせた。


「ちょっと待ってください!」


「待たん!斬る!」


「ダメです!」


とにかく俺はトラメルが落ち着くまで抱きついた。


「ふうふう・・わ・・わかった。放してくれラウル殿。一旦剣を納める。」


「はい。」


俺が離れるとトラメルは剣を鞘に納めた。どうやら暑さもあって少し疲労してきたようだ。


「で・・ケイシー神父これはどういう事かわかりますか?まさかあなたが黒幕?」


「違います!信じてください!僕も聞きたいくらいです!ここは・・いったいここはどこなんですか?」


「砂漠です。」


どうやらこの表情や驚きっぷりから考えてこいつも被害者だ。


「そんなこと言われなくてもわかります!ここはどこなんです?」


「わかりません。私も一緒に来たばかりですから。」


「あ、ああ・・」


どうやらケイシーも冷静さを欠いていて正常な判断が出来なくなっている。


「しかしこれは間違いなく転移魔法です。」


「はぁはぁ・・あの牢屋に転移魔法陣があったんですか?」


ケイシー神父が驚いて言う。相当な暑さなので息切れしてきたみたいだ。


「ふう・・我が邸宅の地下に転移魔法陣などがあったのか?」


トラメルも汗をかきながら信じられないという顔をして聞いてくる。


「いえ。あの部屋に転移魔法陣が設置されていたのではないと思います。そもそも牢屋に転移魔法陣を書いたところで、そんな罠に嵌るのは囚人だけです。」


「それでは・・どこに?」


トラメルが混乱して俺に聞いてくるが彼女が困惑するのもわかる。


しかしあの部屋には最初から転移魔法が設置されていた。


謎解きは簡単だ。


「転移魔法陣はずっとあの部屋にあったんです・・。」


「どこに?」


ケイシー神父が聞いてくる。


「あなたですよ。」


俺は名探偵少年のようにケイシー神父を指さして言う。


メラメラと燃えるような砂漠にしばしの沈黙が流れた・・


「僕?僕には魔力など微量もありませんよ!」


「魔力持ちは私です。」


「えっと?ラウルさん・・もしかすると僕自身に転移魔法陣が書かれていたと?」


「たぶんそう考えるのが妥当です。まさかそんな使い方が出来るとは思っていませんでしたが、私の魔力に反応してあなたから放射的に魔法陣が発動・・そして私達二人を巻き込み、ここに連れてきてしまったのでしょう。」


するとトラメルが怒り心頭といった感じで言う。


「ほら!やはりお前ではないか!」


「そんな!僕が知らないうちに設置されたみたいなんです。」


ケイシーがまた斬られてはたまらないといった表情で後ずさる。


「ちょっと待ってください。ケイシー神父が最後にファートリアで眠りにつく前に何か食べましたか?もしくは何かのお香の匂いがしたとか?」


「・・・あ。そういえば夜の食事を食べたあと急に眠くなって・・目覚めたら牢屋の鍵が開いていたんです。」


「・・・・・」

「・・・・・」


「やはり・・お前ではないか。」


今度はトラメルが呆れたように冷静に言う。


「やはり・・ケイシー神父が原因ですね。無防備に眠り薬を食べさせられたか香を焚かれて眠ったか・・その隙に転移魔法陣を仕組まれたんでしょう。」


「そんな。毎日定期的に食べているご飯に薬をまぜられたら分かりませんよ。」


「確かにその通りです。そして多分ですが、あなたを使って標的にした相手も想像できます。」


「誰です?」


「おそらくは・・逃亡したサイナス枢機卿でしょう。」


俺の推測でしかないが間違いなく教会関係者を狙った犯行だと思われる。


すると・・ケイシーが何かを考えているようだった。


「おまえ!何を黙り込んでいる!何か隠しているのか!?」


ジャキ


トラメルが剣に手をかける。


「隠してないです!なんとなく思い当たるふしがあるんです!」


「すぐ言え!」


「はい!教皇とサイナス枢機卿は竹馬の友なんです!そしてサイナス枢機卿が次期教皇と目されておりました。僕はその対抗馬として担ぎ上げられたんです。」


「それがどうした!」


「サイナス枢機卿を恐れたアヴドゥルが、僕を使ってサイナス枢機卿を罠に嵌めようとしたのではないでしょうか?ファートリアの外に身寄りのない僕が頼る相手といえば・・」


「サイナス枢機卿か・・」


「はい。」


確かにそうかも。


サイナス枢機卿には力があるし聖女リシェルと騎士カーライルがついているから、反乱の恐れを抱いたアヴドゥルとやらが仕組んだのかもしれない。


「それは一理ある・・もしくは聖女リシェルを狙った可能性はないだろうか?」


「はい。彼女の可能性も否定できません。彼女は聖女なので邪を封じる力を持っている。」


「邪を封じる力?相手はその力を恐れたと?」


「わかりません。あくまでも僕の推測です。」


「なるほど・・という事なら直ぐにここから離れましょう!」


「そうなるわね。」


「え?どうしてそういう事に?」


ケイシーは鈍かった。


「俺達はサイナス枢機卿の代わりにおびき寄せられたという事ですよ。確かに砂漠に放置すれば普通の人間なら死ぬでしょうが、とどめを刺しに敵が駆けつけてくるかもしれない。」


「・・なるほど!そうですね!早く!に・・逃げましょう!」


ここは戦闘車両を召喚して進む方が安全かもしれないが、敵にデモンがいた場合この3人での戦闘となる。そうなればさすがに俺一人では荷が重い。


《いま敵に見つかるわけにはいかないな・・》


「とにかく!とりあえずこの炎天下では、お二人はあっという間に倒れてしまいます。とりあえず水分を補給してください。」


二人は大量の汗をかいていた。この気温で飲まず食わずではあっというまに体力を消耗する。


「そんな・・水なんてどこに?」


「そうですよ!牢獄からここに飛ばされて来たんですよ!」


俺は黙って戦闘糧食としても提供されるペットボトルの水を召喚した。


「えっ!いまどこから?」


「どうやって?これは何です?」


「これは水です。こうやって飲みます。」


俺は二人に一本ずつ預けてふたの開け方を実演して見せる。すると二人も俺に習って蓋を開けてみた。


「開いた!」


「本当だ!」


「ただの水ですが、とにかく補給してください。」


「わかった!」


「はい!」


俺達3人はペットボトルの水を一気に飲み干す。それだけここは暑く二人は先ほどから汗がポタポタとしたたり落ちていた。二人に比べて俺はこのくらいの暑さには耐えられるようだ。


「衣服はひとまず脱がない方がいいです。日差しが強すぎて火傷をしてしまう恐れがあります。」


「分かった。」


「はい。」


そして次に俺は砂漠用のベージュ色をした遮光テントを召喚した。


「また!」


「本当だ!」


二人は召喚を初めて見るためいちいちビックリする。


「これの両端をもって下さい!」


「え、ええ。」


「はい。」


デモンに遭遇する可能性を考えると徒歩で逃げるのが最適解だろう。


更にコンパスを召喚し方角を確認する。おそらくここはクルス神父から聞いていたザンド砂漠の可能性が高い。ここに飛ばされた人間は北へと向かおうとするだろう。そのまま北に向かえば待ち伏せの可能性が高い。


「こっちが西です。こちらに向かいます。」


「わかりました。」


「西ですか?」


「ええ。待ち伏せされたらたまりません。」


「わかりました。」


俺達は3人でテントシートを持ち上げ、頭の上に張って日傘代わりにして歩き出した。それから4キロくらい歩くと二人はへばってきたようだった。


暑さもさることながら砂で足がとられ思うように前に進めないのだ。


「よし。先の所からはだいぶ離れました。この辺に駐留して様子を見ましょう。」


「わかったわ。」


「はい。」


俺が遮光テントで屋根を作り日陰を作る。斜めに張った屋根の下に入るように二人に指示をする。トラメルはケイシーと一緒に潜るのは嫌そうだったが、とにかくなだめて入ってもらう。


直射日光に当たり続けるのとは違い、遮光テントの日陰に入るとかなり温度が下がる。外の温度は50度ちかいと思うが、テントの下では30度前後といったところだ。


そして俺は再び戦闘糧食のペットボトルの水とたくわん漬の缶を召喚した。


「また!どこから?」


「不思議ですね・・」


二人は俺が召喚魔法を使うたびに驚くが、出し惜しみなんかして死んでもらっちゃ困る。とにかく水と塩分を補給してもらう事にする。


「缶はこうやって開けます。」


備え付けの缶詰についてる缶切りで開け方を説明する。二人は見よう見まねで缶を開けて驚く。


「これは食べ物だわ!」


「本当だ・・」


俺がたくわんを一口放り込むと、二人も真似てたくわんをつまんで口に入れた。


「しょっぱい。」


「しょっぱいですね。」


「汗で塩を消費しました。塩を吸収するために食べてください。」


「わかったわ。」


「はい。」


この二人はフラスリア領でも、ろくすっぽ栄養のあるものを食べていない・・とにかく栄養補給が必要だった。


俺は次にエネルギーを合理的に補給できるよう米軍のレーション「MRE」を召喚する。


「これは・・食べ物です。」


「これも・・」


「食べます!」


俺は二人と一緒に米軍のMREを食べ始めた。味は濃い目だが・・空腹の為美味しかった。


「美味しいな。」


「おいしい。」


「それは良かったです。」


不平が出るかと思ったら案外美味いと言ってくれた。と言うより今まで食べてきた物が質素すぎてこれでもご馳走に感じたのだろうと思う。


二人はレーションをバクバクと食べて一気に無くなる。


「ふう・・」


「生き返った・・」


二人は少し落ち着いたようだった。


「テントで日陰になっていますので、上着などを脱いでも良いと思います。」


「しかし今は敵中にいるのでは?」


「トラメル様。それは大丈夫ですよ、いざという時は私がお守りします。」


「ラウル殿一人で?」


「ええそうです。もし敵がきたら私一人が敵をひきつけて迎撃するほうが戦いやすい。二人を守りながらの方が難しいかもしれません。」


「・・・わかった・・・」


「すみません。僕は剣も魔法もダメなんです・・」


「大丈夫です。」


そして俺は双眼鏡と方位磁石を召喚した。先ほど俺達が出現した方角を双眼鏡を使って見張る。


それから3時間後には太陽が真上よりだいぶ傾いて来た。ずっと見張っていたが俺達が転移出現したあたりに敵は現れなかった。


「あと1刻ほどしたら陽がだいぶ傾くでしょう。それまではこの気温の中を動くのは得策ではありません。水と先ほど差し上げた食料に塩が入っていますので、それを舐めてしのいでください。」


「はい。ふぅ・・」


「はぁはぁ・・暑いですね。」


「二人にはキツイでしょう。転移した場所から遠く離れることができたら、私に策がありますので大丈夫です。」


「策?わかったわ。」


「わかりました。ふぅふぅ。」


二人は黙って俺に従ってくれる。それもそうだ・・二人は突然の事にかなり参っているようだった。思考力も低下しているようなので、体力温存のためにも水分と塩を取って極力ここに留まるしかない。


俺一人だったらこのぐらいならいくらでも動けたものだが・・二人はすぐに死んでしまう可能性がある。魔人基準ではなく二人基準で動くように考えなければならない。


《救援を呼ぶのはもう少し状況が飲みこめてからだな。》


一応ここが敵地なのかどこなのかもわからないので念話も使わないでいる。レーションとテントに召喚魔法を使ったが、念話となると距離によってはどのくらいの魔力消費量になるか分からない。魔力は極力温存する方向で動くことにする。


「とにかく体力温存です。そしてこのテントにいる限りは敵に見つかる事もないでしょう。」


「これだけ広大な砂漠ではそうなのかもしれないわね。しかしラウル殿は砂漠に来た事があるかのような知識だけど。」


「たまたま砂漠の知恵があっただけです。私も砂漠で遭難した事など初めてですよ。」


「案外。この砂漠に放り出すのがアヴドゥルの魂胆だったんでしょうか?」


ケイシー神父が聞いてくるがそれは分からなかった。


「それはまだ何とも言えません。陽が落ちるのを待って出来るだけ、転移された場所から遠ざかりましょう。」


「わかったわ。ラウル殿に従うのが最善なようね。」


「僕も従います。」


「それでは夜に行動しますので陽の高いうちに眠っていてください。もし眠れなかったとしても目を閉じて横になっていてください。」


「ええ。」


「わかりました。」


そして俺達は猛暑のなかのテントで、ひたすらじっと耐え忍ぶ。


この二人を連れて生かして帰るにはどうすべきか?


俺は索敵しながら考えるのだった。

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― 新着の感想 ―
水とメシを出し放題って時点でチートやんな
[一言] 冒頭 とりあえずケイシーさんは当然として(酷)、トラメルさんは冷静ではないでしょうね…少なくとも冷静なら自分ごとこんな場所に転移しないでしょうし、やるつもりだったらもっと何時でもやれる機会は…
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