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第244話 悪役令嬢だと思ったら厳しいだけの人

「うっま!」


「本当だ!なんだこれ!」


俺とオージェは匂いに誘われて食堂に入り、店の人がおすすめしてくれた料理に舌鼓をうっていた。


ただし食っているのは魚だと思うのだが料理名が分からない。


《食べた事あるような無いような・・》


「この油が乗った肉がいいですね。」


オージェも気に入ったようだ。


「オージェさん。一応他のお客さんに迷惑がかかるといけないので、ガッツリ食うのはやめておきましょうね。」


「そうですね。店の材料を空にしてしまうといけないし。」


店には他にも客がいるし回転寿司のように皿を積み上げるわけにもいかなかった。


顰蹙を買うかもしれないし・・。


「やはり印象は良くしておかないと。」


「はい。」


俺とオージェは向かい合って飯を食っていた。シャーミリアとファントムは店の外の玄関付近で待機している。


「しかしシャーミリアさん達は、こんな美味い物が食べられないなんて損をしてますね。」


「まったくです。」


「ところでラウルさん。あの2人は何を食べるんでしたっけ?」


「えっ?」


《ウググ》


食べ物がのどに詰まるところだった。そういえばオージェにはシャーミリアとファントムの食べ物を伝えていない。


それと・・俺は彼女らの食事を思い出してきもち悪くなる。


「えーっと。オージェさんあいつらの食いもんは・・」


どう誤魔化そうか考えていると、目の前にゴトリと料理が置かれた。ナイスタイミング!


「お待たせしましたー!」


お店のお姉さんが言う。


「おお!来た来た!えっと・・これは・・」


「オージェさん・・これ蛇ですよね?」


「のようですね。」


テーブルには串に絡まるように刺して焼かれている、蛇のような生き物の丸焼きが出てきた。


「あの!店員さん!これは何ですか?」


オージェが聞く。


「魚です。」


「蛇のように見えます。」


「ああ確かに似てますが違いますよ。川を泳ぐ魚なんです。」


「へえー。」


すると店員さんが付け加える。


「見た目はあれですが、丸焼きは絶品なんですよ!」


「いただきます!」


絶品と聞いてオージェが即効でかぶりつく。俺もそれを見て丸焼きにかぶりついた。


「うまい!」


「これは・・」


わかった・・俺が前にレッドヴェノムバイパーを食った時に感じたあの味だ!


ウナギ!


でも前世で見たウナギとは少し違っていて白黒じゃない。多少似てはいるがグレー地に斑点模様があって・・見た目は毒蛇だ。


インパクトがある。


「匂いは最高ですよ!」


「味も良い!」


「うっま!」


「ほんとうまい!」


やっぱりまんまウナギの味がする。いや・・ウナギより味わい深いかもしれない、濃厚な甘味の脂にほくほくでプリッとした肉と、パリパリに焼けた皮の香ばしい匂いがたまらない。


《ああ・・醤油や砂糖があれば、かば焼きに出来そうなものなんだが・・》


「さっきと同じ食材なのに調理法でこうも違いますかね。」


「確かにそうですね。しかしオージェさんは食通ですよね。龍の国では料理も盛んなんですか?」


「いや・・それが・・龍国では焼いた肉や焼いた魚をそのまま食っていました。むしろ調理するのは自分だけで龍の民はそのままガブリと・・」


「うわあ。」


「今は美味しい食事中です。この話はやめましょう。」


「え、ええ。」


オージェが気を利かせて話をやめたが、さっきの俺の話はもっとグロいからしなくてよかった。やっぱり特定の魔人の食料は、まだ内緒にしておいた方がいいかもしれない。


「まあまあ腹が膨れました。」


「私はまだいけますが自重します。」


「また今度ゆっくり。」


彼にとっては軽食くらいに感じる量の食事を終え金を払い店を出た。


「さてと、街の中をじっくり見ていきましょう。」


「わかりました。」


俺とオージェはシャーミリアとファントムを引き連れて街を巡回し始める。


既に自由を得た領民たちは街の中を普通に歩き回っているようだ。さらに最近は魔人達が運び入れる物資のおかげで、生活の水準を上げつつあるようだった。おそらく大戦前ほどの活気までは無いかもしれないが、領民は復興の意欲に満ち溢れているように見える。


「あちこちにポツリポツリと魔人さんがいますね。」


オージェが言う。


「はい先発隊です。彼らが町を救いました。そして復興の手伝いをするように申しつけてあるので、その作業に追われていると思います。」


「魔人はなぜ人間の為にそこまでするのですか? 」


「いえオージェさん。”人間の為”ではありませんよ。すべては自分達の為にやっているのです。」


「大陸への進出の為ですか?」


「そのとおりです。少しでも魔人達の印象を良くするためです。」


「印象ですか?」


「ええ。ただでさえ見た目が怖い者が多くおります。まあ・・もとより大陸北部には獣人がいるため、そこまで受け入れの抵抗は無いにせよ魔人となると人間も恐れを抱くでしょう。」


「考えているのですね。」


「まあ千里の道も一歩からってところですか。」


「千里の道・・」


俺の印象操作の話を聞いたからなのか、オージェは何かを考え込むように黙る。



二人で街を歩いていると子供たちの掛け声が聞こえてきた。


「ヤ―!」

「トリャァ!」

「ハッ!」


カン!カン!カン!


「ラウルさん!子供達が剣の稽古をしているようです。見ていきませんか?」


「ええ。いいですよ。」


左手の空き地のような広場で、木剣を持ちチャンバラをしている子供たちがいた。


そしてよく見ると・・その奥にはトラメル辺境伯がいた。


「あっトラメルさんだ。」


「ですね。」


俺とオージェはトラメルに近づいて行く。


子供たちは俺達の事など目に入らないように稽古を続けていた。


「子供達は凄い集中力ですね。」


「本当だ・・」


「凄いな。」


オージェが子供たちの集中力を褒める。


俺達はトラメルに一礼し、その場に立って子供たちの剣の稽古を眺めていた。


カンカン!


「やぁ!」

「は!」


大きい体の子の上段の振り下ろしを小さい体の子が受けたが、体格差でぐらついて体制を崩してしまう。


「やめ!いまの受け方じゃだめよ!」


トラメルがキツイ口調で言う。


「はい!」


体格の小さい子が大きな声で返事をする。


するとトラメルは小さい子供に寄り添って教え始める。


「強い攻撃が来たらあなたでは正面から受けきれないわ。こう上段から来たら受け流すようにして体をずらし、相手の小手先を狙いなさい。相手が怯めば儲けものよ。怯まなくても一瞬動きが止まった隙に、後ろや受け流した方向と逆方向に体を逃がすのよ。」


そういってトラメルは子供から距離を置いた。


「はじめ!」


「やあ!」

「とりゃあ!」


「それ!」

「そりゃあ!」


小さい子も何とか大きな子のパワーを逃がすように動き始める。


しかしながら力の差は歴然としていた。トラメルの言うようにやって見るがうまくいかないようだった。


「とう!」


「あっ!」


カラン!


小さい子の木刀が地面に叩き落される。


「それではダメよ!」


「はい!」


またトラメルが小さい子の所に行って剣の受け流しの型を教える。


「さあ!もう一度!」


「はい!」


そしてまた子供の稽古が始まる。するとトラメルはまた違う組の稽古を見る。


「やあ!」


「きぇぇぇ!」


「はい!」


「そりゃ!」


カラン!


次の組でも大きい子と小さい子の組み合わせで練習をしていた。よく見ればどの組もそういう組み合わせになっていたようだ。


どうやら・・年が違う子を組ませて練習しているらしい。


トラメルが剣を落とした子のところに行ってまた指導する。


「あなたは剣の握りが甘いわ。もっと強くそして振るときはしなやかに。あとまともに強い力と打ち合っては負けるわ。あなたは目がいいのだから見切る事を覚えなさい。」


「はい!」


また大きな声で返事をする。


「じゃあもう一度!はじめ!」


「はい!」


「やあ!」


「とりゃぁ!」


カンカンカン!


どうやらトラメルは年長の者達に、年下の子らへ剣の指導をさせていたようだ。


しばらく剣の稽古をしていると小さい子達が剣を落としてしまったり、寸止めながらも参ったをすることが多くなってきた。


「やめ!今日はここまで!」


「「「「はい!ありがとうございました!!!」」」」


「剣の稽古が無い時は必ず親の手伝いをし、孤児院の子は院の清掃や手伝いをしなさい!甘えは許しません!そして手が空いた時には剣の素振りをしなさい!」


「「「「わかりました!」」」」


小さい子も大きい子も大きな声で返事を返してくる。間違いなくトラメルの指導の賜物だろう。


子供達はそれぞれの方向へと帰って行った。



「それで・・あなた方は何をしているのですか!!」


トラメルにいきなり怒られた。


「ええ!都市内の視察をしていました。防衛時にどうするかや魔人の配置などを考えるために。」


「その口の周りの脂はなんなのです?」


「これはこの都市の現状を知る意味もあってですね。」


「それでどうなのです?この町は?」


「はい。復興に対する意欲はあれど、やはり物資や人手が足りていないように見えます。」


「そう・・そんなこと分かっているわ。」


トラメルが悔しそうに言う。でも仕方がないと思う。まだ敵を掃討してそれほど日もたっていないのだし、こればかりは領主がいくら頑張ったところで追いつくものではない。


「トラメル辺境伯。今日は辺境伯のこれからのご予定に私がついて回ってもよろしいでしょうか?」


「・・いいわよ。でも特別な事なんて何もないわ。今は領民の為に出来る事をやっているだけ。」


「かまいません。」


「じゃあどうぞお好きに。」


「はい。」


つっけんどんではあるが俺達がついて周る事を了承してくれた。


トラメルについて行くと今度は農家の所に来た。百姓たちはトラメルに丁寧に一礼をするのみで、特に声をかけずに黙々と作業をしている。むしろトラメルが来た事でピリピリと作業を進めているようにも見える。


「進行状況はどうなの?」


トラメルは農家の指示をしている一人の行政人に声をかけた。


「はい。手つかずになっていた農地はだいぶ元の状態に戻りつつあります。」


「まだ全部には手を入れていない訳ね。」


「はい。さすがに農家にも休みを取らせませんと続きません。」


「ふん!甘いんじゃないの?」


「そうでもありません。皆ギリギリのところでの作業となっております。」


「じゃあ私もやるわ。」


「いや!また!お嬢様!そのような事はいけません!」


「だって人が足りてないんでしょう!私がやるわよ。」


「いえそうではなくお嬢様が作業を止めるまでは誰も休めなくなりますので・・」


「なら好都合じゃない。」


「いえ!百姓だけじゃなくお嬢様も体調を崩されてはより進行が遅くなりますので!」


「・・わかったわ。じゃあ何か運ぶものがあるなら私が運ぶわよ。」


トラメルは・・何が何でも農作業の手伝いがしたいようだった。


なので俺が横から声をかける。


「辺境伯。私たちが今は空いてますからお手伝いしましょう!」


「あら?悪いわね。じゃあやってくれる。」


「トラメル様、お客様にそのような事を!!」


行政人が慌てて言おうとするが俺はそれを制する。


「良いんです。これも視察の一環です。ねぇオージェさん。」


「そうですよ。私たちに出来る事があるなら何なりと言ってください。」


「わ・・わかりました。おーい!」


行政人が困ったような顔をしつつ農家のおじさんを呼ぶのだった。


「なんでしょう。」


「あの、この方たちに仕事をさせてあげてください。」


「わかりました。んじゃこっちこい!」


百姓は俺達がただの助っ人だと思ったらしい。


「あの!!この御方達はお客様ですからあくまでも丁寧な言葉遣いを。」


また行政人が慌てて止めようとするが俺がそれを制す。


「いいんですよ。」


「そうそう。こき使ってください!」


それからしばらく俺とオージェは農作業をするのだった。

次話:第245話 龍の民の稽古


お読みいただきありがとうございます。


期待できる!と思っていただけたらブックマークを!

★★★★★の評価もお願いします!


引き続きお楽しみ下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] ストイックを極めた仕事人間って感じだな ついて行く側の資質が問われるし、ストッパーがいないと限界までいって共倒れになりそう
[一言] テーブルには串に絡まるように刺して焼かれている、蛇のような生き物の丸焼きが出てきた。 魚…これはひょっとして…ウナギ(のようなもの)だったか… 「千里の道も一歩から」…というセリフを聞い…
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