第235話 巡り会うソウルメイト
オージェがファントムと手合わせしたいという・・
《いや・・いま合格だって言ったじゃん。別に手合わせする意味なんてないって・・》
「あのーオージェさんファントムはちょっと体調が悪いのです。万全じゃないファントムに勝っても意味がないのでは?」
「そうなのですか?彼はどこか悪いのですか?」
どこか悪い?どこが悪いって?なんて言おう・・
「えっと・・か、風邪をひいてまして。」
「彼のようなものでも風邪をひくのですか?」
モーリス先生とサイナス枢機卿たちが、やらかしたな・・という顔をしてジト目で俺を見ている。聖女リシェルまで・・そんな目で見ないで!嘘はつき通してこそ本当になるのだ!
「それで喉がやられて声もでません。」
「そうなのですね・・それではまたの機会にお願いするといたしましょう。」
「はい。そう願います。」
信じた!
けど・・失敗した。
これから先もファントムは声を発することが無いから、いつか嘘がばれてしまうだろう・・どうしたものか?
《・・ま、いいか。》
「と、とにかく城に戻ってお話をしませんか?」
「そういたしましょう。」
俺は開き直ってオージェに城に戻るよう促した。モーリス先生が呆れた様子で俺の肩をポンと叩く。
《モーリス先生。俺はあなたの様な人生経験はない・・アドリブが利かないんです。いまのやり取りを先生に任せればよかったと後悔しています・・》
反省をしながら城に足を向けるのだった。
城に戻ると・・なんとなく城内がシーンとしていた。
「どうしたんじゃろな?」
モーリス先生が言う。
「さあ・・」
俺は不安がよぎる。
・・・まさか!シャーミリア!
そう思いながらも冷静を装い足早に舞踏場へと向かう。
中に入ると壇上でシャーミリアとティラが兵士たちを見張っていた。さらに兵たちの周りを囲むようにオーガとオークの4人が見張っている。
《よかった・・皆殺しとかにしていたらどうしようかと思った。》
でも・・
その兵士たちにものすごく違和感がある・・というか俺は息を呑んだ。
なんと兵士全員が逆立ちをしていたのだ。完全に倒立して一人たりとも体制を崩している者はいない。顔から汗がしたたり落ちている・・いつからこうしてた?
「あのシャーミリアさん・・これは?」
オージェがシャーミリアに聞く。
「はい。精神が歪んでいる者が数名いるようでしたから、精神を鍛えるため倒立をして倒れた場合は命を刈り取ると言いました。」
「命をか・・刈ると?」
オージェが動揺している。
そしてよく見るとシャーミリアとティラの足元に、岩の破片みたいなものが散らばっていた。
「えっと・・シャーミリア。その足元に転がっている岩はなんだい?」
「はいご主人様。エントランスに飾られていたブロンズの銅像にございます。」
「壊したの?」
「はい・・申し訳ございません。倒立を命じたところ出来ない、などと申す者がいたものですから、この巨像をもってきて壊し・・このようになるぞと伝えました。」
「なんで?」
「人を殺して見せしめにするのは良くないと思われましたので。」
「へー。そうなんだ・・」
「すぐにお掃除いたします。」
「いや・・いい。掃除は後でみんなでしよう。」
「ラウルさん!さすが分かっておりますね!掃除はみんなでやった方がいいのです。で・・でもシャーミリアさんってこんな考え方をする人なのですか?」
オージェが・・ちょっと疑念の目を向けているような気がする。
「いやあ・・例えですよ。例えばです!な!シャーミリア。」
「も、もちろんでございます。ご主人様の言うとおり”例え”でございます。」
「ですよねー。それを聞いて安心しました。」
「はは。オージェさんも疑い深いなあ。」
「すみません。元来慎重な性格なものでして・・」
「大事です。それはすごく大事な事です。」
「はい。」
オージェがドン引きしている。やばい・・誤魔化せていないんじゃないか?魔人の本性がちょっと垣間見えてしまった気がする。考えが変わったりしたら不味い。
「それでシャーミリア譲ちゃんよ。これはどのくらい続けるつもりじゃ?」
モーリス先生が場の空気を変えるよう発言する。
「そうですね!皆さんが戻るまで!としておりましたのですぐにやめさせましょう。」
「その方がいいじゃろうな。」
「全員!起立の姿勢にもどれ!」
シャーミリアが言うとザっと全員が倒立をやめて直立の姿勢になった。
「凄まじい・・私が教えていた時より統率がとれている・・」
オージェが感動していた。
やはり・・死に物狂いと言うのは効くらしい。
「よし!お前たち!そのまま聞け!」
「「「「「「はい!」」」」」」
「お前たちの指導はこの新たに来た仲間たちにゆだねることになった!」
どよっ
城内にどよめきが広がった。
「オージェ様!オージェ様はどちらかに行かれるのですか?」
「それはこれからの話次第となる。」
「私共を連れて行ってはもらえませんか?」
「えっ?」
「ぜひ私たちもお供させてください!!」
兵達はどうやらオージェに心酔しているようだった。
それよりも・・
《あの・・オージェさん?もしかしたらこの兵士たちを外へ連れ出すという考えはなかった?》
俺は兵達が混乱する前にオージェに提案する。
「あの・・オージェさん。まずは私達の話をまとめてからの方が・・」
するとオージェが兵たちの方に向かって言う。
「その話一旦保留とさせてもらう!今日の訓練はこれで終わりだ!各自部屋に戻って道具作りに励むと良い。」
「わ・・わかりました。」
どよどよどよ
どうやら兵士たちに動揺が広がっているらしい。
「とにかく部屋に戻って連絡を待て!」
「「「「「「はい!!!!」」」」」」
兵士たちは再び一糸乱れぬ行動で部屋に戻っていくのだった。
「では会議室にいきましょう。」
オージェに連れられて会議室へと戻る。
会議室では初めての時より空気感が和らいでいた。さらにマーグの部隊が部屋の中と廊下にも立っているため、少し熱気にあふれているようだった。
「オージェさん。兵士たちは部屋で道具作りをしているのですか?」
「ええもちろんです。市民たちが家事で使う道具や農工具を作らせています。」
「凄いですね。」
「もちろん市民の為に出来る事は何でもします。」
なんだか・・前世で言うところの刑務所みたいだな。
「それで。オージェさん・・ファートリアとバルギウスの兵達の事ですが・・」
「はい。」
「なにもここに詰め込んでおく必要はないのでは?」
「確かに・・ただ私一人では、外に連れ出して管理が出来るか分からなかったものですから。」
「そうですよね。しかし今はこうやって我々が来た。3000の兵を移動させることもできます。ここに残して住民に不安を与えるよりは、連れて行った方が安心かと思うのですが?」
「おっしゃる通りです。もしかしたらそのお言葉に甘えてもよろしいのでしょうか?」
「ええもちろんです。そしてこの国の防衛は我々にお任せください。もとよりこの王都に隣接させた防衛基地を作る予定でした。民の安全は責任をもって我々魔人達が保証します。」
「そうなのですか?」
「暫定的な政府を魔人が作ります。」
「そこまで考えているのですか?」
「マーグ。お前にシュラーデンの暫定的な代表を任せる。統治するのに相応しい人材を確保して連れて来るまでここを任せたいが問題は?」
「ございません。」
「え?マーグさんそんなにあっさり決められるのですか?」
オージェがマーグの即決に驚いている。
「ラウル様の命とあらば絶対です。」
「ああマーグ。市民たちがすごしやすいように気楽に接してやってくれ。」
「かしこまりました。お任せください。」
シュラーデン王国の復興のため、ここに更に魔人を送り込む必要がある。すでに仮説基地の建設は進んでいるし、まずはその基盤を作ってもらうためマーグには頑張ってもらおう。
じゃ。本題にはいろうかな。
「で、オージェさん。我々の仲間になってくれませんか?」
「単刀直入ですね?」
「いけませんか?」
「まっすぐで好ましいです。」
「私はオージェさんを気に入りました。なんというか・・行動を共にしたくて仕方がありません。」
「そうですか!実はラウルさん!なぜか私もあなたと行動したくてウズウズしていたんです。」
《なるほど・・相思相愛だったというわけか・・俺にはそんな趣味は無いが。》
「おもしろいのう。」
モーリス先生が話に入る。
「おもしろい?」
「龍族と魔人はその昔、人間との関りを断つために北の大地に移り住んだのじゃ。」
「はい・・」
「ええ・・」
「その龍と魔人の子が・・そろいもそろって大陸にやってきて行動を共にするというのじゃ。」
「でも・・なんとなくそんな気がしたんです。」
「わたしもです。」
「なんと言うか・・魂のつながりと言うか・・」
「魂の友といったところですかね?」
「うむ。これも何かの導きであろうよ。」
「導きですか?」
「そうじゃ。そうでもなければこのような事がおきるわけが無かろう。」
サイナス枢機卿も納得するような顔で俺達を見ていた。するとサイナス枢機卿が言う。
「おぬしらは気が付いていないと思うのじゃがな、同じような匂いがするのじゃ。」
「匂い?」
「似た者同士と言った方が分かりやすいかのう?目指すものが同じような気がする。」
まあ確かにそうかも。龍や魔人の国出身なのに人間という部分も似ているしな。
「そうかもしれません。」
「確かに。」
「それで・・おぬしらはどうするつもりじゃ?」
モーリス先生が俺達に聞く。
「私は初志貫徹です。人間と魔人、獣人が平等に暮らせる世界にしたいです。」
「なるほどラウルの思いは変わっておらんようじゃな。」
「あの・・そこに龍もまぜてもらえませんかね?」
「龍も?良いんじゃないでしょうか?まあそれぞれ多少の住み分けはいると思いますが。」
「龍族の承諾を得てませんがね。」
人間、魔人、龍、獣人・・あとエルフもいるか・・一緒に暮らす世界が来たら凄い事だな。
「ほっほっほっ!まるで天地がひっくり返るような話じゃのう!血がわき胸が躍るわい!」
モーリス先生がすっごいテンションを上げて笑う。
「またおぬしは。すぐに浮かれ気分になりおって。」
「サイナスこそ!わくわくするのじゃろ?にやけておるぞ!」
「まさかわしらの生きている時代にこのような冒険が待ち受けていようとはな!」
「まったくじゃ。」
「わっはっはっはっはっ!」
「わっはっはっはっはっ!」
「・・サ・・サイナス様。そんな子供みたいに・・」
「う・・うむ。でもなリシェルよこんな面白い事はそうないぞ。」
「面白いとか。まがりなりにもファートリアの枢機卿なのですよ。」
「そんなもん関係ないわい。」
「そんなもん・・」
するとカーライルが隣から言う。
「リシェル様・・不遜な事を申し上げて申し訳ございません。私はこのような強者にお会いできてうれしいのです。まだまだ上には上がいる、私はさらに上り詰める事が出来る。」
「カールまで・・」
「まあまあリシェルよ、カーライルは今まで自分より強い者に会った事が無かったのじゃ。そういう気分になるのも仕方のない事じゃ。」
「そのようなものなのですか?」
「まあそうじゃな。」
「ではオージェさん。そういう事なので明日の朝に王都を発ちましょう。」
「わかりましたそのようにいたしましょう。」
話し合いが終わってオージェが一人の兵士を呼んだ。
「全員に通達せよ!明日の朝、全員がこのシュラーデンの地を出ることとなった。準備して日の出とともに城の外に集合するように伝えろ!」
「はい!」
兵士は通達の為に部屋を出て言った。
「それではみなさんこれからよろしくお願いいたします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
「頼もしい味方が出来たのう。」
「そうじゃな、龍の民が一緒とは心強いわい。」
「私もこれからオージェ様に武を教えていただける事をとてもうれしく思います。」
俺、モーリス先生、サイナス枢機卿、カーライルの順番に返事をする。
するとオージェが言う。
「この城には1年と数ヵ月世話になりました。最後は綺麗に掃除をして出たいのですが?」
「わかりました。我々魔人も手伝いましょう。」
「いえ。それでは意味がない。使った者達で綺麗にして魔人の皆さんにお渡しするのです。」
「そうですか。」
「ではこれからよろしくお願いいたします。」
そういってオージェは部屋を出て言った。
「素晴らしい精神を持った若者じゃな。」
「えっと・・若者・・なんでしょうか?龍って長生きするとかないですか?」
「ああそうじゃった。長いもので数千年を生きる者もおるとか聞いておる。」
「じゃあ青年の様に見えますが、きっと長生きしてますよ。」
「そうかもしれぬな。」
「とにかく心強い味方ができました!まさかこんなところにこんな逸材がいると思いませんでしたよ。」
「まったくじゃ。」
俺はマーグたち魔人の配下に向き直って言う。
「それじゃあ、マーグ。配下を集めてくれこれからの事を話す。」
「わかりました。」
マーグの部下たちがぞろぞろと会議室に入ってくるのだった。