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第227話 はじめてのおつかい ~ティラ視点~

ラウル様一行と別れマーグたちの部隊と一緒にシュラーデン王都まで来た。


マーグの言うとおり都市は平和な感じがする。


城壁の高さもそれほどではなく、見張りの兵士が立っている気配がない。


「ラウル様からいただいたお金で服を買わなくちゃ。」


ティラは初めて人間の国で買い物をする。このあたりでは珍しい肌の色を持つ南国風の少女。露出度が少し高めな胸当てとミニスカートの見た目は可愛い冒険者だ。だれも元ゴブリンだなんて分からない。


「じゃあマーグ。私行くね。」


「ラウル様が目的とするこの都市の異様の原因をつきとめるのだ。心してかかるようにな。」


「もちろん。じゃいってくる。」


林の中に潜伏するマーグ小隊から離れて城壁の方に近づいて行く。


城壁付近に近づいても周辺には誰もいなかった。林に隣接する部分なので人はいないようだが、これまでの他の都市だったら城壁の上に見張りくらいいた。


それが・・いない。


「ほんとだおかしい。」


ティラはその可愛い顔を傾けて考える。


「ま、いいか。」


城壁の高さは5メートルほどだった。とりあえず周辺を確認する。


「誰もいない。」


ザッ


5メートルほど跳躍して城壁の上に下りたつ。左右を見渡しても衛兵などが立っていなかった。そのまま城壁の上を走り抜けて都市内に降りていく。


誰にも見られることはなかった。


市内には普通に人があるいていた。活気があり今までの他の町とは雰囲気が違う。


「さてと・・」


服を買うとは言ってみたものの服屋がどこにあるのかがわからない。大通りに出ると八百屋があったので、とりあえず店頭に立っている八百屋のおばさんに聞く。


「あの。おばさん!このあたりにお洋服屋さんはないでしょうか?」


この辺りでは見かける事のない南国風美少女に声をかけられ、八百屋のおばさんがすこし珍しそうにティラを眺めて言う。


「おや?あんた寒くないのかい?」


いや・・魔人国グラウスから考えたら春みたいな陽気だ、全く寒くなんかなかった。


「うん。そんなに寒くないです。」


「元気だねえ・・でも風邪をひくといけないからねぇ。上着を買うなら、その先の角を曲がって歩いていくといい。十字路があるからその角が服屋だよ。」


「ありがとう!」


ティラは思った。ただ物を訪ねて何も買わないわけはいかない。


「教えてくれてありがとう。あの、その赤い・・」


「アルプかね?」


「あ、はい。アルプを3個下さい。」


「おや?そうかい。じゃあ小銅貨6枚だよ。」


とりあえず銀貨を一枚出して支払う。


「おやこんなにかい?じゃあ待っておくれ。」


すると八百屋のおばさんは大きい銅貨を13枚と小さい銅貨を2枚返してきた。


一気に小銭袋がかさばる。


「おねえちゃんあんまり見ない顔だねえ。おまけしておくよ!」


赤い実を5個もくれた。スカートをまくり上げてそこに乗せてくれるようにおばさんを見る。


「おや。そんな下着が見えてしまうじゃないか。頭陀袋をサービスで付けるよ。」


アルプの実を頭陀袋にいれて渡してくれた。


「おばさん!ありがとう!」


「またおいで。」


「うん!」


果物がいっぱいの袋を持って歩いて行く。角を曲がると人がたくさん歩いていた。


《今までの町とは違う。》


町は普通に活気にあふれているからだ。


てててて


小さい子供が向かいから走ってきて横を通り過ぎようとしたとき・・


ズデン


子供が転んだ。


「うわぁぁぁぁん。」


子供が泣いてしまう。


ティラは抱き起して膝をはたいてあげる。それでも子供が泣きやまない・・


「これ、食べる?」


「ぐす、う・・くれるの?」


「どうぞ。」


ティラは袋に入った5個のアルプをあげる。


「えっ!こんなに!」


するとその後ろから親が歩いてくる。


「あらあら、どうしたの?」


「僕が転んだらこのお姉ちゃんが起こしてくれて、アルプをくれるって言うんだ。」


「あら、すみません。そんな親切にしていただいて。」


「いえ。泣いていたので・・可哀想だなと思って。」


「優しいお嬢さんね。でもこんなにいただけないわ。」


「じゃあ。」


ティラは2個取り出してお母さんに1つと子供に1つあげる。


「どうぞ、お二人で食べてください。」


「なんだか・・悪いわね。それじゃあお言葉に甘えていただこうかしら。」


「そこの先の八百屋で買ったものです。」


「あら、いいアルプが売っているのね。行ってみようかしら。」


「それが良いと思います。」


すると二人がぺこりと頭を下げて脇を通り過ぎていく。


「おねえちゃん。ありがとう!」


子供が去り際にお礼を言ってくれる。ティラは子供に手を振った。


「さて。」


通りを進んでいくと十字路があり、四つ角のそれぞれが・・全て店だった。


「あれ?角ってどれだろう?」


とにかく手前の店に入って見ることにした。


「こんにちは。」


するとそこには厳つい男たちが数人いた。どうやらご飯を食べるところのようだった。


「ん?どうした嬢ちゃん。ここは酒場だ嬢ちゃんのくるところじゃないぜ。」


カウンターの方から男が声をかけてくる。店の人の様だった。


「服屋さんを探しています。」


「おう、それじゃあ道向かいの店だ。あそこの親父はエロジジイだからお姉ちゃんみたいな可愛い子は注意しなよ。」


「えろじじい?」


「まあ、酷い事をするわけじゃないから。大丈夫だがな。」


「わかった。」


ティラは酒場を出て道向かいの店に歩いて行く。


「すみません。ここは服屋さんですか?」


「おおーいらっしゃーい。かわいいお嬢さん。ずいぶん寒そうな格好をしてますね。」


「えっと。服を買いに来ました。」


「そうですか!寒そうな服装ですもんねーどうぞお入りください。」


そこにいたのは少しやせた感じの髪の毛の薄くなったおじさんだった。顔がてかてかしていて色艶がよく健康そうだった。


「あの。街の女の人と同じ服がいるんです。」


「町の。なるほど・・普段着を買いに来たのですね。」


「そうです。これを着ていると肌寒そうと言われるので、そう見えないのが良いです。」


「ほうほう。それではお店に飾ってあるものを見て行ってください。」


「はい。」


ティラは店内を見始める。ところがいろんな服があってよくわからなかった。あともう一つ問題が・・服の前の板に値段が書いてあるとは思うのだが、値段表を見てもいくらか分からない。


・・・どうしたらいいのか分からなくなった。


「気に入ったのはありますか?」


「うーん。寒そうに見えなくて動きやすいのが良いです。」


「ズボンが良いですかね?スカート?」


「どちらでも。あの・・おじさんが選んでください。」


「おお、私がですか?あの・・よろしいのですか?」


「はい。」


「では・・寸法を測らせていただいても?」


「おねがいします。」


「かしこまりました。」


すると服屋の主人は採寸のひもみたいなのを持ってきて、体に這わせながら寸法を測り始めた。


腕、首、胸


くんくん


腰回り、おしり、太もも


くんくん


股下、足


くんくん



時間をかけてティラをじっくりと眺めながら採寸していく店主。胸とおしりと股下を採寸する時はやたらと時間がかかる。後ろに回った時には・・どうやら匂いを嗅いでいるようだった。もちろんティラには後ろで何をしていようが相手の行動は筒抜けだ。


「あのー、私・・臭うでしょうか?キレイにしてるつもりですが。」


「いえいえっ!!!匂いなどいたしません。」


「鼻がなりました。」


「いやいや・・たまたまです。くっ・・癖です。」


「あ、ごめんなさい。人の癖をそんな風に言って。」


「いえ。不快な思いをさせたらごめんなさい。」


服屋の店主は冷や汗をかいていた。


・・どうやら一生懸命だったのだろう。


ティラは主人が一生懸命にやっているのに、変な癖の事を指摘したことを申し訳なく思う。


「はい。だいたいわかりました。それでは少々お待ちください。」


すると服屋の主人は店内からあれこれと服を持ってくる。


「あの・・だいたいこんな感じで。何着必要ですか?」


「上から下まで靴も1着あればいいです。」


「お値段がそこそこなるかもしれません。」


・・・どうしようと思った。でもモーリスさんはこれで十分だと言っていた。きっと大丈夫なんだろう・・


「大丈夫です。」


「わかりました・・それでは、まずこれを着てみてください。」


「わかりました。」


ティラがその場で服を脱ごうとする。


「いえいえいえ!すみません。こちらで着替えてください!着替え終わったら教えてください。」


ティラに奥の箱のようなところに入るように言う。


ティラが箱に入ると上から下までそろえた服と靴を箱の中に入れて、カーテンを閉めた。ティラは速攻で着替える。


「着ました。」


すると店主が言う。


「も!もうですか?」


シャッ


カーテンを開く。


「うん。いいですよー。見立てではお似合いすると思っていました。ですがもう1着持ってきました着て見ますか?」


「いえ。これでいいです。」


「そうおっしゃらずに。」


「はい。」


まあ・・きっと似合うとは言っても、どこかおかしなところがあったのだろう。店主の言うとおりにまたカーテンを閉めて服を着替える。


「着ました。」


「は!早いですね!」


そしてカーテンを開ける。


「うん!いいです!これはかわいい!お嬢さんにぴったりだ!」


「じゃあこれで。」


「いっいえいえいえ。もう一着持ってきましたのでお試しください。」


すると店主が手に持っている服を箱の中に入れた。


「・・じゃあ。着ます。」


シャッ


カーテンを閉める。


「着ました。」


「えっ!もう!」


どうやら主人は次の服を用意していたようだった。


「いいですねー。こういうシックな格好も似合うと思っておりましたよ。」


「よかった!じゃこれで!」


「まってください!これも!!これも着てください!」


「いや・・あまり時間がないので・・」


「次で最後です!次で・・」


「わかりました。」


シャッとカーテンを閉める。


「着ました。」


「はやっ!」


シャっとカーテンを開ける。


「うーん!これも良い!可愛い!可愛いのが似合いますね!!」


「ならこれで。」


「ま!!まって!!急がずとも!!もう少し見てみましょう!!」


困った・・終わらない。服を着替えて都市内を調査しに行かなければならない。ここでモタモタしているわけにはいかないのだが・・店主は熱心に薦めてくる。こんなに一生懸命なのに・・無下にできない。


「じゃ、じゃあ!もう1着で・・これで決めます!!」


「わ、わかりました!ありがとうございます。きっと似合う一着を見つけてごらんにいれます!」


さっきから全部・・全部似合うって言ってるけど・・きっとどこかおかしいところがあったのだろう。でもこれで間違いなく決まる。


店主がまた服を見繕って箱に持ってくる。


「じゃあ、これを!」


「はい。」


シャ


「着ました。」


「もう?!!!」


シャ


開けて見せると・・凄く喜んでいるようだった。


「あの・・どうですか?」


「・・・えっと・・・こんなに着せてごめんなさいね。あなたが凄く可愛いからつい着せ替えたくなってしまって・・でもせっかく来てくれたんだから最高の一着を見立ててあげたいの。」


「ということは・・」


「もう・・もう一着だけ。ここまでの全部の服を見たら、あなたにどういう服が似合うのか見えたの!」


「わ・・わかりました。」


このおじさんの口調が・・女の人の様になってきた・・不思議なひと・・


そして主人はあちこちから厳選した服を持ってきたようだった。


「これで間違いないわ!」


「はい。」


そして主人が箱の中に服を入れてきた。


シャ


「着ました!」


シャ


「きたぁー!!」


ん?なんだろう?何が来たんだろう?とにかくぱぁっと主人の顔が明るくなった。


「こちらでいかがでしょう?」


主人が聞いて来た。


「これでいいです。」


「はい!ありがとうございます。」


どうやら・・服屋の主人的にはこれで良かったらしい。


「ここまでお付き合いいただいたので、値引きいたしますよ!」


どうしてだろう・・こんなに頑張って、私はただ着せ替えさせられただけなのに。


「えーっと。白のステンカラーのシャツに、厚手の肌色のセーターと茶色の長いスカート。くるぶしまでのこげ茶色の靴。合わせて銀貨8枚の所を6枚でいかがでしょう?」


よかった・・銀貨をアルプに使ってしまったから、もしかしたら足りないんじゃないかと思ってた。


「はいこれでお願いします。」


「毎度ありがとうございます。」


服はさすがしっかり見立ててもらっただけあって体に合っていた。動きやすいし街を歩いている人と同じような服装だ。


なんだかだいぶ良くしてもらったようだった・・なにかお礼を・・


「あの。せっかくこんなに良くしてもらったので・・これを。」


袋に入ったアルプ3個を店主に渡す。


「いえいえ!いただけません!お代金をいただいてますので・・それ以上は。」


「いいんです。良くしていただいたので。あと・・私の着てきた服は捨ててください。」


「えっ!服をいただいても!!」


「え、ええ・・あげます!」


だって布っきれで適当に作った服だった。ボロと言ってもおかしくないものだ。


「ありがとうございます!お嬢さんに幸ありますようにお祈りもうしあげます!」


店主はティラの前に深々と頭を下げた。なぜか・・こんなボロをもらって喜んでいる。


「じゃあ・・ありがとうございました。」


「ええ!またお越しください!」


ティラのはじめてのおつかいは成功した。


ティラはその服装で店を出たのだった。

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[一言] 服屋のキャラと性癖が濃いぃ
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