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第226話 シュラーデン潜入作戦会議

シュラーデンの南東部に位置する高台の森の中に魔人軍の基地があった。


森の木々を切り開いて基地を作ったらしく人間では到底侵入できない場所にあった。すでにヘリポートも出来ておりチヌークが置いてある。チヌークはすでに燃料は無いため廃棄処分する予定で、いずれ来るドワーフに解体を任せることにする。


ドワーフは凄い。


俺の兵器を分解して分析する事で自分たちの技術向上と、鋳物の技術を用いて似たような部品を作ったりしている。燃料の問題さえ解決すれば何らかの機械を生み出す可能性を持っていた。


そして今ヘリに乗って来た俺達一行と、シュラーデン侵攻部隊長のマーグ、参謀の配下3名が作戦室で話をしていた。


「マーグ。基地の位置取りは最高だな。南方やラシュタル方面からの敵に対してにらみを利かせる事が出来るし、万が一に西の山脈からの敵襲があったとしてもよく見える。ハルピュイアに定期的に上空からの監視報告をもらうだけで、シュラーデンの監視が出来そうだ。」


「ありがとうございます。」


俺達はここで元シュラーデン王国を制圧する計画を進める。


今までの戦闘ではルタンとラシュタル王国、ユークリット王都にデモンが配置されていた。おそらくは魔人軍のバルギウス侵攻に備えての配置だと思われる。こんな北西の辺境にデモンがいるかどうかはわからないが、マーグが言うには妙な雰囲気があるという。


「密偵からの情報だとファートリア・バルギウスの兵がいるのみで、市民はほぼ残っているという話だったな。」


「はい。鏡面薬による魔法陣探索にも何もひっかかりませんでした。」


「そうか・・でも妙な雰囲気があると。」


「はい・・いや・・妙というか、平和すぎると言いますか。」


「平和すぎる?」


「なんというか、大戦など無かったようにと言ったらいいのでしょうか?ただただ平和なのです。圧政にあえぐという感じもせずに・・」


「どういう事だろう?」


「とにかく静かに暮らしています。」


謎だ。


ファートリアやバルギウスの兵が駐留しているというのに・・平和?


「他に情報は無いのか?」


「市民の噂・・程度の情報しか取れなかったのですが、どうやら彼らは守られているようなのです。」


「守られている?何にだ?」


「それが・・我々にもわかりませんでした。」


「デモンか?」


「いえ・・それが潜入部隊からの報告ではそんな気配は一切ないとの事です。」


「手が出せないというのは?」


「それが・・なぜ平和なのか分からないのです。不貞を働く敵兵もおらず普通に暮らしているからです。何を調べれば良いのか見当がつかないのです。」


《そういうことか。もしかしたら敵軍はこれまでの失敗を元に作戦を変えてきたのかもしれないな。こんな短期間に俺達の行動がバレた?隣国のラシュタルを制圧したことで何かが変わったからか?》


「よし、罠の可能性も否定できない。きっと何らかの原因や思惑があるはずだ。そもそも敵兵がおとなしいというのは何かある証拠だ。その証拠を突き止めて敵の本当の狙いを突き止めよう。」


「わかりました。」


「無茶な侵攻をせずに冷静な判断で基地の設置と密偵による潜入捜査。マーグにシュラーデンの侵攻をお願いして正解だったよ。」


「過分なお言葉痛み入ります。」


ライカンの族長であるマーグは強さもあるが、特に際立っているのはその冷静さだった。常に状況を俯瞰してとらえ的確な判断で動いてくれる。ミノタウロスの長タロスはその強さゆえに常に前進する気性だったが、一歩引いた判断をしてくれるのはありがたい。


「俺達が合流したからにはデモンの処理はどうにか可能だろう。しかしデモンがいないとなると他の要因を考えねばならない。今回は人間の味方をつれてきたんだ、俺とシャーミリア、ティラが護衛に付いて人間の仲間と潜入してみるよ。」


「わかりました。」


「ふむ。そういうわけじゃな。」


「わしはファートリアの枢機卿として隣国ラシュタルにいたから、シュラーデンには何回もきたことがある。土地勘があるから何を巡ればいいのか多少の見当はつく。」


モーリス先生とサイナス枢機卿が納得する。


「それはありがたいです。」


「私達もサイナス様と一緒にシュラーデンは何度も訪れました。きっとお役に立てると思いますわ。」


聖女リシェルが言う。


「よろしくお願いします。」


なるほど。そういえばサイナス枢機卿一行はラシュタルにいたんだった。だとティファラやルブレストも知っているかもしれないな・・いや・・間違いなく知っているだろうな・・。


そのうちあの国にいったらわかるから、ここでは黙っておこう。


「では、エミル。申し訳ないが・・また待機だ・・」


「へいへい。」


「今回は基地に魔人がたくさんいるから。安全のためヘリに乗っていなくてもいいぞ。」


「兵装はどうするんだ?」


「AH-64Eアパッチガーディアンを置いて行くよ。」


「マジか!アパッチガーディアンか!わかった。じゃあ待機で我慢する。」


戦闘ヘリ最強の呼び声高い AH-64Eアパッチガーディアンを召喚する事でエミルは小躍りするように喜んだ。


「セルマ。お前もここに居るんだぞー。」


くぉん・・


「俺の癒しで付いてきてもらったんだから頼むよ。」


くるるるる


セルマが喜んでいる。


「ファントムはこれをかぶれ!」


俺がファントムに渡したのは特殊部隊の夜間作戦用の目だし帽だった。ファントムがそれをかぶると、目の部分がほんの少し怖いが人間には見えるだろう。


「ティラ。今回お前に来てもらったのは偵察のためだ。町娘に扮して都市内を調査してほしい。」


「わかりました。それでは服も都市内で調達いたします。」


ティラの服装は南国娘のようなので北国では目立ってしまう。着替えてもらった方がいいだろう。


「じゃあ買うための金だ。金貨10枚もあれば足りるだろ。」


するとモーリス先生が言う。


「おいおいラウルよ!どんな豪奢なドレスを買うんじゃ?姫君が着るようなものを考えているのか?」


「え?多すぎですか?」


「金貨一枚でも多いわい。」


「そうなんですね。」


「まあ・・おぬしはお坊ちゃん育ちじゃったからのう、逃げ回ってる間も人間の社会で金を使った事は無いかもしれんがの。」


「ありますよ。」


「何を買ったんじゃ?」


「奴隷です。」


「ど・・奴隷じゃと!!」


「もちろん助けるために買いました。解放しましたよ。」


「ほっ。そうか安心じゃ・・おぬしはそんなところも変わってしもうたのかと思うたわ。」


「奴隷なんて必要ありません。」


「うむ。とにかくじゃ!こんな華奢な小娘が金貨なんぞちらつかせたら問題になるわい。銀貨10枚ほど持っていかせればよかろう。」


「わかりました。」


俺はティラに銀貨10枚を渡す。


「じゃあティラは別行動で。」


「わかりました。」


俺は準備は万端とばかりに言う。


「ちょ・・ちょっとまてまて。シャーミリア嬢の服もそのままかの?」


「いけませんか?」


「ドレスを着ていたら貴族だと思われるじゃろ。もちろん町民風にした方が良かろうて・・背格好も近いしリシェル嬢ちゃんの服でも借りたらどうかの?」


「そうですね。鞄にもう一着服がありますので私の服で良ければお貸しします。」


「わかりました。じゃあシャーミリアはリシェルさんから服を借りて着てくれ。」


「かしこまりました。」


リシェルとシャーミリアがバックをもって他の部屋に消える。


「モーリス先生・・あとは何か?」


「そうじゃのう。やはり商人を装うのが一番無難かのう・・」


「馬車がいりますね。どうしよう・・」


馬車なんてないや。


4輪駆動車か装甲兵員輸送車ならすぐだせるのに・・


「ラウル様。」


「なんだマーグ。」


「私共が潜入する時にも商人として潜入しております。馬車と都市内で売る魔獣の毛皮や薬草は既に取り揃えておりますが?」


「すごい!」


「滅相もございません。」


「いやあ・・シュラーデン攻略はマーグに任せて、ほんっとに正解だったよ。」


「ありがとうございます。」


「ラウルよ・・魔人とはこんなにも優秀なものなのじゃな・・」


いやあ・・こんな芸当が出来そうなやつは、マーグかギレザムくらいしかいないけど・・


「そうなんですよ。凄いですよね!」


「ふむ。」


ガチャ


違う部屋で着替えてきたシャーミリアが出てくる。


「おお!」


反応したのは他でもないカーライルだ。


「シャーミリア様。ドレス姿もお美しいですが町人姿も様になっておりますね。何を着てもお美しいのはシャーミリア様の特権と言ったところでしょうか?」


「だまれ。」


ぴしゃりとシャーミリアから抑えられてシュンとするカーライル。


《お前も・・少しはカーライルを受け入れてやれよ。》


《こんなクズをでございますか?ご主人様の命とあっても承服いたしかねます。》


《間違ってもクズではないと思うぞ。カーライルはどちらかと言うと人間の中では高貴な魂をもっていそうだがな。》


《いえ。私奴に声がけをするときは雄の匂いがします。まったくご主人様の前で不敬な輩です。》


《まあ・・無理にとは言わないけど・・くれぐれも殺すなよ。》


《それはもちろん。ご主人様に泥を塗るような事は致しません。》


《お、おう。》



「じゃあ、マーグ。お前は小隊を率いてついてきてほしい。ここには10名の魔人とドワーフを残してくれ。残った者はエミルとケイナの護衛をたのむ!」


「は!!!!!!」


「セルマも二人を守ってくれよ。」


くぉん!


「マーグ小隊は都市近隣の林に身を隠し、俺からの合図があるまで動くな。」


「かしこまりました。」


「じゃあ、エミル悪いんだけど無線の報告をまってくれ。」


「了解。隊長。」



そして俺は先生達の方を振り向いて言う。


「では私たちはこれから商人となり、シュラーデンの王都へ潜入いたします。これまでの戦いではデモンという恐ろしい存在がおりましたが、ここにはデモン以外の正体不明の敵がいるかもしれません。それを見極める事だけに専念し、危険があると分かった時にはすぐに撤退します。よろしいでしょうか?」


「ふむ。異議はないぞ。」

「わしもじゃ。」


モーリス先生とサイナス枢機卿が答える。


「ティラはマーグ隊と一緒に都市へ向かえ。」


「はい。」


それじゃあ先生。そして皆さんもまいりましょう。


俺達一行は馬車が置いてある場所へと向かうのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 平和すぎるシュラーデン 兵達の規律が守られているのだとするなら、それなりの存在が統率してる…と、考えるのですが… そんな大物…バルギウスの皇帝とかぐらいしか残ってない気がするんですが、いく…
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