第224話 隠れ家からの旅立ち
魔人達がヘリを降りて皆の前に姿を現すと、残党軍からどよめきがあがる。
おそらく。
カララとセイラとティラのせいだろうか。
美女美女美少女。
魔人の仲間達と聞いてどんな想像をしてたのかは分からないが、シャーミリアに負けず劣らずの美女カララに、羽衣に身を包み見た目が女神のようなセイラ、そして南国美少女のティラ。
きっと美魔人達に驚いているのだろう。
いや・・
もしかして世紀末の覇者みたいなミノスに驚いているのか・・それとも大工さんみたいな普通のおっさんが混ざっているのに驚いているのか・・ラーズだけ普通だもんな。
いや・・
エルフか・・エミルとケイナのエルフカップルに驚いているのかもしれない。もちろんエルフと言うのは美形だしな。
まてよ・・
ショタだ!ナタとマカの美少年二人に驚いているんだ。いや・・美少年に驚く事は無いか。
ざわざわざわざわ
とにかく某ギャンブラーが集まる闇の会場のようにざわめいている。
おおおおおおおお!
ざわめきが歓声に変わる。
「皆、どうしたんですかね?先生。」
「おそらく救世主にでもみえとるんじゃろ。」
「救世主ですか?」
「あんな乗り物に乗ってきてさらに勢ぞろいしたのが美男美女じゃ、魔人と言うよりも英雄の降臨の様に思っとるんじゃろて。ひとりだけ普通のおっさんがおるがのう。」
「おっさん・・強いんですけどねぇ。」
どうやら登場の仕方の違いによる歓声だったようだ。俺達は捕らえられて縛られてズダ袋をかぶせられてきたというのに・・大違いだな。あっちの方がカッコイイ登場だ・・
俺、王子なのにな。
ずるいな。
そして、魔人が全員俺の前に跪く。
「ラウル様の命によりユークリット王都より馳せ参じました!」
ミノスが言う。
「おう。ユークリット王都の屍人は?」
「一匹たりともおりません。」
「修復は出来そうかな?」
「城と東側はだめです。西側の屋敷は無事な物が多く、補修せずとも住める家はありました。」
「130人収容可能か?」
「余裕かと。」
「了解だ。」
そして俺はLRADのマイクをとり冒険者の皆にはなす。
「えー、皆さん。これからユークリット王都へと移動していただきます。家屋が使えるものも多数残っておりますので、居住場所は困らないと思います。」
すると1人の冒険者が聞いてくる。
「他人の家だけど問題はないのか?」
「ええ。というのも・・ユークリット王都の民は敵の策略により全滅してしまいました。皆さんに使っていただがなければ、幽霊屋敷になってしまうだけです。」
「全滅か・・」
「はい。さらにもうひとつ、いまは魔人が30名以上いますが更に増える予定です。その者達の棲家も暫定的に同地区になると思います。」
「わかった。」
「住む家は公平性を期すために配下に決めさせていただきますが、もちろん悪いようにはいたしません。」
まあ王城付近の家はTNT火薬の被害が大きく、住めるのは俺が幼少の頃に住んでいたような貴族の家になる。一部の凄腕冒険者でもなければ、貴族が住んでいるような屋敷に住むことはなかっただろうから不満は無いと思うのだが。
「ここからだと20日以上かかるな。」
他の冒険者が言う。
「それを3日で行ってもらう事になります。」
「そんな無茶な。」
「私が足を提供しますので大丈夫です。」
「足?」
「はい。森を抜けるまでは徒歩でお願いします。そこから先は私が車を用意します。」
「それでも・・3日は難しいんじゃないのか?」
「問題ありません。森を抜けるまでは魔人が護衛しますので、森林浴を楽しみながら行きましょう。」
「いや・・我々も戦うが・・」
「すみません。急いでおりますのでここはお任せください。」
「はぁ・・・」
そして話を終えてモーリス先生にマイクを渡す。
「それじゃあ皆!2年近く住んだこのアジトともおさらばじゃ。近代的な町にもどるぞ!」
おおおおおおおお!
《おお、盛り上がってる。》
そして俺はエミルとケイナに先にヘリで森の入り口で待っているように伝える。
「ティラとナタとマカはエミル達の護衛の為ヘリに乗り込んで行ってくれ。」
「わかりました。」
「じゃあお先。」
エミル達はヘリに乗り込んでいった。
ヒュンヒュンヒュンヒュン
ローター音を響かせてチヌークが上空に上がる。
おおおおおおおおお!
また冒険者たちから歓声があがる。エミルが賞賛を浴びてるようだ・・俺が召喚したヘリなのに・・
「では!モーリス先生!サイナス枢機卿!まいりましょう!」
「そうじゃな!さらばじゃ!不便極まりない集落よ!みすぼらしい丸太小屋よ!」
「まったくじゃ!せいせいするわい!はやく綺麗な風呂に入りたいわい!」
モーリス先生とサイナス枢機卿は、このド田舎の森の集落が心底嫌いだったようだ。
しかし聖女リシェルだけは違った・・
「なにをおっしゃるのですモーリス様もサイナス様も!このような集落でも世話になったのです。感謝の気持ちを込めて礼をする事は大切ではありませんか?」
「いやじゃ。」
「そうじゃ、わしもいやじゃ。」
「いやじゃ・・って・・」
「さっさと都会にいくんじゃ」
「このような田舎に染まったら田舎臭くなってしまうわ。」
「はあ・・・じゃあ私だけでも祈りを捧げていきます。」
「おう、わしらの代わりに景気よく祝ってやってくれ!」
「リシェルよ。これも務めじゃ。」
なんて勝手なジジイたちだろう・・。でもそうとう嫌だったんだな・・仕方ないか。
すると胸の前で手を合わせて祈るリシェルの脇では、カーライルも同じように礼をしていた。よく見ると130人の冒険者それぞれが自分たちが暮らした集落に、お辞儀をしたり手を振ったりしている。
してないのは二人の老人だけだった。
そこで俺が言う。
「あの先生。先生たちは王都に行けません。私と一緒に戦場に行きます。」
「はっ!そうじゃった!」
「あっ!そういえばそう言っておった・・」
「ですから、都会の御屋敷も風呂もお預けです。」
二人の老人はシュンとしてしまった。
「えっと・・元気つけてください!あ!そうだ!俺と一緒にクマに乗りましょう!」
「えっ!良いの!」
「わし・・初レッドベアーじゃ。」
「わしもわしも。」
「ええ!良いですよ。ぜひ一緒に乗りましょう。」
二人の老人の機嫌が直った。
そして一行は森を歩いて行くが、冒険者や西領残党兵達は一匹たりとも魔獣に会う事は無かった。もちろん魔人の配下達が魔獣を殺さずに追いやっているからだった。力の差がありすぎるのでレッドベアーでも気絶させて黙らせている。
「一匹も魔獣がいない・・」
「これを全部魔人達がやっているのか?」
冒険者たちは驚いていた。
この西の山脈の森はとにかく魔獣が多く俺でも進みづらかった。しかしファントムにシャーミリア、カララ、ミノス、ラーズ、セイラがいる。安全に道を開く事など造作もなかった。
俺とモーリス先生とサイナス枢機卿はのんきにセルマ熊の上で揺られている。
「そういえば先生・・この熊。セルマなんです。」
「・・・・なんじゃと!?やっぱりどこかで会った事があると思ったが・・クマがセルマじゃと!」
「はい。あのメイド長の・・」
「セルマが・・こんな姿に。セルマよ!わしはお主の作ってくれた魚のパイが大好きじゃった!もうあれは食えぬのかのう・・」
くぉん・・
セルマが少し寂しそうに鳴いた。
「いえ・・セルマには及ばないかもしれないですが、セルマ直伝のマリアが覚えています。だいぶ近い味でしたから楽しみにしていてください。」
「そうかそうか!」
くおん♪
セルマもそれを聞いて嬉しそうにしている。
「セルマよ。こんな姿になってもラウルを守ってくれて礼を言うぞ。」
くるるるるる
《・・・まあトレントの邪魔になるから俺が保護したようなもんなんだけど。》
そしてのしのしと機嫌よく歩くセルマ熊をモーリス先生はいつくしむように撫でていた。
あっというまに森の外に出る。
「もう着いたぞ!」
「魔獣が一匹も出なかったな。」
「・・・凄いな・・」
チヌークヘリが荒野に着陸して待っていた。
「おお!さっきの鉄の龍が・・」
「本当だ・・」
なるほど・・鉄の龍か・・こんなにずんぐりむっくりしてるのに?龍?
そして冒険者全員の到着を待つ。
揃ったところでみんなに言う。
「ここからは草木も無く走りやすいと思います。冒険者の皆さんと兵士の皆さんは陸を走って行ってもらいます。それでは車を召喚します!」
ドン
ドン
ドン
ドン
俺は陸上自衛隊74式特大型トラックを4台召喚した。運転席に3人と荷台に32名が乗り込める通称7トントラック。これならば130名を輸送する事が出来る。運転はそれぞれミノス、ラーズ、ナタ、マカがすることになる。
「じゃあカララとセイラはそれぞれの車の護衛に付いてくれ。」
「わかりました。」
「きちんと送り届けますわ。」
「頼む。」
そして俺は運転組にも伝える。
「ミノス、ラーズ、ナタ、マカ!運転大変だけどよろしくな。」
「お任せください。」
「問題ございません。」
「はい。」
「大丈夫です!」
「では、みなさん!この車の荷台にお乗りください!ちょっと揺れますが馬車よりは快適だと思います!」
「えっ!これは・・馬車?」
「馬がいないようだが・・」
「そもそも・・鉄で出来ているぞ。」
「はい。鉄の馬車ですが、馬は必要ありません。」
すると別な二人がトラックの話にのっかってきた。
「なんと!馬がいらぬじゃと!あの飛ぶ奴といいこれといい・・なんという便利な物じゃ。」
「本当じゃな。近代的にもほどがあるわい。」
「はは。喜んでいただけて光栄ですが、先生たちはトラックには乗りません。あのヘリと言う飛ぶものに乗っていただきます。」
すると目をキラキラさせて言う。
「はは!みな残念じゃの!わしらは飛ぶ奴じゃぞ!いいじゃろ!」
「みんな残念じゃのう・・わしも皆と一緒にいきたいところじゃがの・・飛ぶことになりそうじゃて!残念じゃ!」
なんかうれしそう。
冒険者と兵達がぞろぞろと荷台に乗り込んでいく。みな・・セイラやカララをちらちらとみている・・一緒に旅ができるのがうれしいらしいが・・二人の食べ物は・・
!!
《セイラ!カララ!一応言っておくがな!ここに居る人間はみんな仲間だぞ!食うなよ!》
《ふふ・・ラウル様・・私はそれほど卑しい魔人ではございませんよ。》
《そうですわ。ラウル様・・酷いです。私が何でも食うと思っているのですか?》
《いや・・念のためだ。もちろん信用しているよ・・とにかく130人だ!130人をきっちりユークリット王都へ届けてくれ。》
《はい。》
《かしこまりました。》
うん・・きっと大丈夫なはず。
「じゃあミノス!行ってくれ!」
「は!」
トラックは俺達を残して出発していった。
「指令!先にまいります!到着をお待ちしております!」
「サイナス枢機卿!ご無事でお戻りください!」
「聖女リシェルよ!治していただいてありがとうございました!」
「カーライル様!また・・また稽古をつけてください!」
モーリス先生と3人は兵達に手を振っていた。
トラックは兵達を乗せて遠のいていく。
「さて・・先生!それでは私たちはシュラーデンへまいりましょう。」
「おお!やっと乗れるのか!楽しそうじゃのう!」
「はよ、乗ろう乗ろう!」
俺が言うより先にヘリに乗り込んでいく。
「ちょ・・・」
リシェルが呆れたようについて行く。カーライルだけ・・いかない・・どうして。
「シャーミリア様。それでは私が手を・・」
「触れるでない!」
プンプン!
「ご主人様!お先にお乗りくださいませ。」
「あ・・ああ。じゃあセルマ行くぞ!」
くおん!
後部ハッチからのしのしとセルマと一緒に乗り込むのだった。
ティラはファントムの肩に乗って乗り込んでいくのだった。