第221話 反乱軍と共にギルドの再興を
モーリス先生が率いる冒険者の一団と西の領の残党兵は総勢130名ほどいた。その兵団を俺達の仲間とし、俺は彼らをユークリットへと護送するつもりだった。
「反乱軍は私の想定していた人数より多いです。」
「そうかの。してこれから彼らをどうするつもりじゃ?」
俺はモーリス先生と話をしていた。会議をしたいわけではなく俺の考えをモーリス先生に知ってもらうためだった。部屋にはシャーミリアとサイナス枢機卿、聖女リシェル、カーライルがいた。
「はい。彼らを早急にユークリット王都に差し向けたいのですが、その前にどう話をするかを考え中です。」
「ん?彼らは戦う予定じゃったし戦意は十分にあるぞ。最前線に送らんのか?」
「せっかく得た仲間をみすみす殺させはしません。」
「あやつらは・・この戦乱を生き抜いただけあって、かなりの力をもつ連中なのだがなあ。」
「それでは先生。カーライルを超える者は?」
「残念ながらそこまではおらん。」
「それであれば一度体制を立て直す意味でも、ユークリットに行ってもらいたいのです。」
「わかった。」
そう。いくら強いとは言え100人そこその人間では何もできない。魔人達とのコンビネーションも考えねばならないし、ユークリットで魔人と訓練してもらう事によって、ふるいにかけさせてもらうつもりだった。そしてもう一つ・・
「都市や村には守りが必要です。ここに残った力のあるものたちで市民を守っていただきたいのです。」
「そういうことか。」
兵士や冒険者がいなくなったことで、村や町の防衛が手薄になってしまったのだ。それを補強する事が急務だった。
「それ故に・・ギルドを復活をさせてもらえないかと思っているんです。」
「なるほどの。情報も分断されてしまったしの・・それなら適任がおるわ。」
「適任ですか?」
「冒険者からギルド職員になった者も数名おったはずじゃ。」
「なるほど・・紹介していただきたいですね。」
「まっておれ・・連れて来る。」
「ある程度は先生から説明していただいた方が、聞く側も納得できると思います。」
「もちろんじゃよ。愛弟子の手を煩わせるほど老いぼれてはおらぬよ。」
「頭が下がります。」
モーリス先生が小屋を出ていく。
そして俺は進化したゴブリンのマカ少年に念話を繋いだ。
《マカ。》
《はいラウル様。》
《今どこにいる?》
《魔人の兵団を乗せてユークリット王都に向けて飛んでおります。ユークリット王都北東の上空あたりかと思われますが。》
《了解だ。操縦しているエミルに伝えてほしいんだが、輸送中の魔人をユークリット王都に降ろしたら、6時間の休憩を取った後にこちらに来てほしい。ユークリット王都に残してあるチヌークヘリに乗り換え、西の山脈のゴブリンを発見したあたりの地点に飛んでくれと伝えてくれ。》
《はい。》
《来るのはエミルとケイナそしてミノス、ラーズ、カララ、セイラ、ティラ、ナタ、セルマを連れてくるように伝えろ。そしてマカお前もこい。》
《伝えます。》
《以上だ!》
《はい!》
念話を終えたはずが・・またマカから念話がつながる。
《あの・・ラウル様。》
《どうした?マカ。》
《エミル様から伝言が・・その・・》
《そのまま言ってくれていい。》
《まったくおまえは人使いが荒いなあ、くそったれ。うまいもんの一つも食わせろよ。・・との事です。》
《ふふっ・・そうか。じゃあそのくそったれから伝言だ。こっちに来たらケイナと二人っきりにさせてやるから、その時に仲良く鳥飯缶をたらふく食わせてやるってな。》
《はい・・・あの・・一発殴らせろだそうです。》
《首を洗って待ってるよ。》
《伝えます。》
エミルはどうやらケイナが苦手らしいからな・・本当にまたケイナと二人きりのテントに詰め込んでやろうっと。
俺は次にミノスに念話を繋げる。
《ミノス》
《は!ラウル様!》
《王都の復元はある程度出来そうかな?》
《全員で調査中ですが、かなり損壊が激しいようです。特に中心から南東側にかけては、ほとんど新しく建てたほうが早いかと思われます。》
《そうだよな・・他には何かあったか?》
《残った屍人があちこちに潜んでおりましたが、すべて掃討いたしました。》
《そちらに100人を超える人間が行く予定だ。屍人は徹底して潰しておいてくれ。》
《はい。あらかた潰したと思いますが、カララの糸で都市内をくまなく探させましょう。》
《よろしく頼む。あと間もなくエミル達が到着する。俺達と違いエミルとケイナには休息が必要だ。なんか食わせてから6時間の休憩を取らせてあげてくれ・・強制的にな。》
《かしこまりました。》
《王都周辺に敵が潜伏している可能性は?》
《皆無です。》
《ルタンからの応援部隊にはミノスの判断で、街の復興に向けて全力を尽くすよう指示を頼む。人間が行くから住める場所も確保したい。》
《はい。》
《エミル達が休憩を終えたら、お前とラーズ、カララ、セイラ、ティラ、ナタ、マカ、セルマはヘリに乗って一緒にこちらに飛んでくれ。》
《了解いたしました。》
《以上だ!》
《は!》
ミノスとの念話を閉じて目を閉じる。
・・うん・・だいたいこんなところか。
ガチャ
するとモーリス先生が2人ばかり人を連れて入って来た。
「さてと、この二人が元ギルド職員のサムとカミラじゃよ。」
「どうも、サム・スコットです。ギルドの会計などをしていました。」
人の好さそうなおじさんだが、顔に傷があり昔は強かったっという雰囲気がにじみ出てる。
「ラウルです。よろしくおねがいします。」
「よろしくおねがいします。」
もう一人の女性が挨拶をしてくる。
「カミラ・ターナーです。私は受付や事務全般と荒くれ者の対応をしていました。」
年齢は30半ばくらいか・・それでも目鼻立ちがはっきりしていて綺麗な人だ。胸も・・・なかなかいい・・
「ラウルと申します。よろしくお願いします。」
するとサムの方から会話をきりだしてくれた。
「モーリス指令から話は聞きました。ギルドの復活を望んでいると、そしてユークリット地内の警護を強化したいとの事ですね。」
モーリス先生がすでに話をしてくれているようだった。
「その通りです。すでにかなりの町や村でファートリアバルギウスの兵を排除しました。敵兵などの襲来に関しては現状心配のない状態まで持ってきたのですが、魔獣に関しては手薄な状態です。早急にギルドを復興させたいのです。」
「わかりました。ギルドマスターは殺されてしまいましたが、私が責任をもってユークリット国内のギルドを復活させたいと思います。」
「ではサムさんが暫定的に、ユークリットのギルドマスターを引き受けていただけるとありがたいです。」
「はい。承りました。」
サムさんから快諾をもらう。
「カミラさんはサポートを全力でお願いしたいのです。組織化にはかなり時間がかかると思います。そして私の配下の魔人に必要物資などを依頼してください。」
「かしこまりました。」
カミラさんが丁寧に頭を下げる。さすが元受付嬢だ・・様になっている。
「ユークリット王都に戻り次第、ギルドの要綱についてまとめていただきたいのです。」
「はい。」
「はい。」
「モーリス司令官とサイナス枢機卿と私でそれを検証しますので、すぐに稼働できるようにお願いします。」
「了解しました。」
「精一杯取り組まさせていただきますわ。」
「それではその旨を、冒険者たちとユークリット残党兵に伝えてすぐに動き始めてください。」
「ありがとうございます。それでは失礼いたします。」
サムとカミラは小屋から出て行った。
そして再びモーリス先生と話す。
「さてと・・先生。俺達は向かえが来たらシュラーデンに援軍として向かいます。モーリス先生も同行されますか?」
「もちろんじゃ。お主達はどうする?」
モーリス先生が、サイナス枢機卿と聖女リシェルとカーライルに尋ねる。
「行くに決まっとるわい。こんな面白そうなことモーリスだけに行かせるわけなかろう。」
「サ・・サイナス様がそんな物言い・・どうされたのです?」
「ああ。リシェル嬢ちゃん・・サイナスは枢機卿とかいって偉そうにしておってものぅ、冒険者時代から子供のままなんじゃよ。」
「えっ?」
「おぬしはアホか!こんな老いぼれを子供などと!勝手なことをぬかすな。そもそも冒険者時代はモーリスが一番やんちゃであったろうが。」
「ほっほっほっ。久々に血がたぎるわい!」
「そういう司令も・・」
聖女リシェルがはしゃぐ老人二人にうろたえている隣で・・カーライルを見ると彼は一生懸命シャーミリアに声をかけていた。
「シャーミリア様、不肖わたくしめが同行する事をお許し願いたい!」
「うるさいかしら。」
「ああ・・私のような者とお話をしていただけるだけでも光栄です。」
「あなたの存在自体、ご主人様に許されているだけだと肝に銘じなさい。」
「シャーミリア様がそうおっしゃるのであればそうなのでしょう。私は肝に銘じます。」
「ふん!」
《・・・・うーん。もしかしたらカーライルはMなのか?》
《ご主人様。この者だけは、あの・・許可を・・》
《殺すとかダメだぞ!人間では最高の戦力なんだし性格も悪くはなさそうだ。自分に嘘をつけないタイプのようだから適当に流しとけ。》
《この男は本当に厚かましくて・・》
《まあまあ・・あんまりひどいようだったら俺から言うから、このくらいは流しとけよ。》
《ああ・・ご主人様がそのようにおっしゃるのであれば・・私奴は耐えます。》
《すまんな。》
《いえ!ご主人様!謝罪など不要です。むしろ私奴はなんというわがままを・・・》
《いいっていいって!》
ああ・・この二人のやり取りが、だいぶ面倒くさい事になってるな。
「カール!空気を読みなさい!」
「リシェル様?空気は読んでいるつもりですが?」
「あなたのは気配感知でしょう!気持ちの事を言っているのよ!」
「そ、それは気が付きませんでした。申し訳ございません。」
「まったく!あの・・シャーミリア様カールのご無礼をお許しください。」
「いえ・・あなたは・・偉いのね。」
シャーミリアがリシェルの謙虚な姿勢に、少し恥ずかしくなってしまったようだった。聖女リシェルも・・これじゃあ心労が絶えないだろう。
「そうだぞミリア!お前も見習うといい。」
「はい。そのようにさせていただきます。」
すると・・カーライルが言う。
「ラウル様!シャーミリア様をミリアと呼んでいらっしゃるのですか?う、うらやましい!」
「えっと・・」
俺が口ごもるのと同時に声がかかる。
「うるさい!」
「黙りなさい!」
あーあ怒られちゃった。
小屋の中はおかしな空気が流れ・・
モーリス先生とサイナス枢機卿はニコニコしながらその様子を見ていた。
イケメンが怒られてるのが楽しいらしい。
どうやら・・俺も軽くにやけていた。