第220話 人魔大戦の真相
「2000年より前・・デモンは世界で3体召喚されたという記録がある。」
モーリス先生が言う。
「3体もですか!」
カーライルが驚いている。
《俺達はすでに5体のデモンと接触し倒しているから、それほど驚くことでもないけど・・》
モーリス先生は話を続ける。
「それぞれ3体のデモンは最初、召喚した人間達の指図に従ったらしい。しかし人間は要求を聞き入れてもらう為の供物を差し出す事をやめた。要求された供物は大量の人間だったそうじゃがの。それに怒ったデモンは大勢の人間を殺し喰らい始めたのじゃ。」
「大勢の人間を・・」
聖女リシェルが絶句している。
「そうじゃ。それは凄惨な状況じゃったろうて・・。人間はようやく自分たちの過ちに気が付いてデモンを討伐する事にしたのじゃ。」
モーリス先生の話に俺は思う。
《なんだかな・・勝手に呼び出されて勝手に討伐されるのか・・人間の身勝手さに翻弄されたデモンはさぞ腹が立ったろうな。デモンにとっては大量の人間は供物・・食べ物だ。呼び出して戦わせておいて食べ物をよこさずに、あまつさえ殺しに来るとかどんな冗談だ。邪魔になったら殺されるとかシャレにならん。》
俺は人間の恐ろしいほどの身勝手さに呆れるばかりだ。
「討伐と言ってもデモンは恐ろしい力の持ち主だ。人間たちは周到に準備を始めそして討伐に向かった。3体のデモンは大勢の英雄と聖職者達で倒したとされておる。」
《そうか・・人間に倒されるくらいのデモンだから、それほど大したこと無かったのかもしれないな。》
「しかし一つの問題が起きる。デモンに生み出されたしもべの魔人達は、各地にそのまま残ってしまったのじゃ。」
「多くの魔人が大陸にいたという事ですか。」
「そうじゃ。しかし残された魔人達は特に人間に危害を加える事も無く、自然と共に暮らしておったのだとか。」
《うーむ。確かに大半の魔人はそうだと思うが、魔人の種類によっては危害を加えると思うけど・・ここに居るシャーミリアも含めて。うん。言わないでおこう。》
「デモンの支配がとけて自由に生きていた。といったところじゃろうな。」
「私が出会った魔人達は、気遣いも出来るし助け合いながら生きていました。魔王の命令ならば魔人同士戦う場合もありますが、戦う理由が無ければ遺恨も残さないと言ったところですね。」
俺が出会った魔人達の”いい部分の”特徴を言う。
「わしがグラムから聞いた魔人の話もそうじゃった。冒険で怪我をしているところを魔人に助けられたらしい。それがお主の実の父親じゃったというわけじゃな。」
「そうなんですね。始めて聞きました。」
「そうかそうか。」
モーリス先生は俺と話す時は、未だに子供と話すように優しく話してくれる。
「人間に危害を加える事の無い魔人達。しかし人間はデモンの恐怖を忘れてはおらなんだ。デモンの産み落とした魔人達がいつ人間の世界を脅かすかと、針の筵に寝ているような状況になったのじゃな。」
《それもまた・・ひどい話だな。》
「なあおかしいじゃろラウルよ。魔人は何もしておらんのじゃぞ・・それなのに人間は魔人に対して畏怖の念を抱き続け、魔人を虐げるようになっていったのじゃ。」
「はい。なんと勝手な話でしょうか。」
「わしもそう思うわい。」
サイナス枢機卿、聖女リシェル、カーライルは黙って聞いていた。
「ああ・・すまんのう。おぬしらのファートリア神聖国の教えでは、魔人は受け入れられぬ悪としていたのじゃったの。」
「いやモーリス・・わしはそのようには思っておらなんだ。ただ住む場所が違う。そのように思っておった。」
サイナス枢機卿が言う。するとリシェルも言うのだった。
「今のお話をお聞きして・・人はなんと愚かな生き物であろうかと・・同族ながらお恥ずかしいと思いました。」
「そうかそうか。聖女リシェルならそう思うじゃろうて。」
するとカーライルが言う。
「そうです。シャーミリアお嬢様の様なお美しいお方が悪のはずがない。」
またおべっか。しかもお嬢様とかって勝手に・・
ピキピキピキピキ
シャーミリアのピキの数が多くなってきた。
でもな・・カーライル。シャーミリアはかなり悪い所あるよ。
モーリス先生の話は続く。
「しかし人間側にも、魔人と一緒に生きたいという者がおったのじゃ。そして魔人と関わりを持ち恋仲となり、子をもうけた者もいたのじゃよ。それが今の獣人などの祖先となった。」
「獣人が・・。私も魔人と人間の相の子ゆえか、より一層獣人を親身に感じますね。」
「うむ。サナリアにはたくさんの獣人がおったからな。グラムとイオナの考えはお主と同じ・・分け隔てなくじゃ。ラウルは本当にあやつらの子なのじゃな。」
「はい。両親は私の誇りです。」
「そうかそうか!」
モーリス先生がまた一段と目を細めて俺を見る。そして話を続ける。
「しかし大半の人間はそうはならなかったのじゃ。迫害を続け魔人達を虐げた。それでも魔人達は反発する事も無く細々と生き続けたのじゃな。」
魔人って・・ほんと健気だわー。
「しかしとうとう人間がしびれを切らしてしまった。魔人達を討伐し始めたのじゃな。」
「やはりですか・・不要な物を消去しようとしたわけですね。」
「有り体に言えばそうじゃ。」
「それで魔人は?」
「逃げ始めた。森の奥地に、南の砂漠に、東の迷宮、西の洞窟に。」
《なるほどね。森の奥地は二カルス大森林、南の砂漠はスルベキア迷宮神殿、東はアグラニ迷宮、西はナブルト洞窟だったか。》
やはり間違いなくそのあたりに魔人が生息していたのだろう。
「しかしじゃ。魔人の中にもさすがに我慢の限界に達したものがいたのじゃ。」
「反撃をしたというわけですか?」
「そう。そして起きたのが人魔大戦じゃ。人と魔人の戦いじゃな。」
「魔人が圧倒的に有利では?」
「そうじゃ。今まで無抵抗だった魔人の反撃に人間はなすすべもなく倒されていった。それもそのはず、魔人と人間では強さがまるで違う。魔法で多少の抵抗はしたらしいが、圧倒的な身体能力の差に押され始めたのじゃな。」
「しかし、なぜ魔人は負けたのです?」
「人間は英雄を更に強化する事に成功したのじゃ。お前の父もそうじゃったが気を練り上げる事で人ならざる強さを身に着けた。身体強化魔法も開発された。さらに魔人に効く毒が開発されたのじゃ。」
「屡巌香・・」
「そうじゃ!ラウルは詳しいのう。」
「いや・・それをバルギウスに使われて死にそうになりましたので・・」
「そうじゃったのか・・やはり屡巌香は魔人には毒なのであるな・・」
「しかし、私の配下達は進化し克服しましたが。」
「凄まじいのう。お主の配下達は。」
「はい。」
《あの毒は本当に厄介だった。ガルドジンの視力を奪い数人の魔人が殺された。グラドラム戦の時は俺もヤバかったし・・》
「その結果は皆が知っている通り人間の圧勝で幕を閉じるのじゃ。しかしそれでもわずかに残った魔人達はひそかに暮らしていたのじゃがな。」
「そのひそかに暮らしていた魔人達も見つかり討伐されていったという事ですか?」
「この2000年の間に大陸の魔人は、ほとんど消え去ったかもしれんのう。」
「いえ先生。魔人の国には数万の魔人がおります。消えてなどおりません。」
「そうじゃったな。魔人の国か・・わしも行きたいものじゃ。」
「先生!ぜひご一緒いたしましょう!」
「そうかそうか!連れてってくれるのかい!」
もちろんだよおじいちゃん!と言いそうになる。
ようやく人魔大戦の全容を知った。
人魔大戦は結局人間が引き起こした戦争だった・・魔人達もとんだ災難だったな。勝手に連れてこられたデモンに勝手に作られて勝手に恨まれて勝手に殺されて。
・・とんでもねぇな。
「それでも大陸には野生の魔獣が多数生き残っておる。あやつらは繁殖力が強く根絶やしにすることなど出来なかったのじゃ。」
「魔獣もやはりデモンの影響ですか?」
「そのようじゃ。既存の生息動物に魔力をそそいで作られたとも言われている。デモンや魔人の魔力だまりから生まれたとも言われておる。発祥は実際のところ定かではない。」
どうやらモーリス先生とサイナス枢機卿はこの話を知っているようだったが、俺を含めシャーミリアも聖女リシェルもカーライルも知らなかったようだった。
聖女リシェルがポツリと言う。
「魔獣も結局は、人間の不始末の産物という事ですね。」
「そういう事になるのう。」
「しかしながら・・魔人と違って、魔獣は理性も知恵もなく人間を喰らいます。」
「そうじゃ。じゃから今度は、人間は生きるために魔獣を殺さねばならなくなってしまった。」
「自分たちで生み出した脅威・・」
「まったく馬鹿らしい話じゃがの。」
魔人も食うために魔獣を殺すしね・・でも魔獣を生み出している根幹がデモンの影響か、魔人達の魔力の残滓の影響だったりするわけで、それはそれで不思議なサイクルが出来ているのか。
「どうじゃな?これが人魔大戦の真相じゃ。わしが生涯をかけて調べ上げたのじゃ。人間たちが歴史から抹消するために、記述などもほとんど残っておらぬものじゃ。わしが若いころから世界を周り調べつくしてまとめたものじゃよ。もちろんサイナスもだいぶ協力してくれたがの。」
「わしも興味があったからのう。それでなければ変わり者のモーリスとパーティーなど組まなかったわ。」
そういえば!思い出した!
「あの・・パーティーと言えば!思い出したのですが・・デイジー・リューさんをご存知でしょうか?」
「もちろん知っておる。」
「デイジーさんは、今はグラドラムで私のメイドと一緒に薬品や道具の研究にいそしんでおります。」
「そうなのか!デイジーもラウルの味方に・・これも何かの縁じゃの。」
モーリス先生が言う。
「はて・・ルタン町にいたころに会ったのだがそんな話は聞いとらんかった。」
サイナス枢機卿も驚いたように言う。
「はい。デイジーさんは最近グラドラムに来たばかりですから。」
「まったくあの婆さんも物好きなものじゃな。」
「若いころから全く変わっとらん。」
二人は昔を懐かしむように言う。
そして・・俺は本題に入る。
「それで・・私がここに来たのは他でもない。ぜひ私たちの仲間になっていただけないでしょうか?すでに西の領のファートリアバルギウス兵は全滅、ここに討伐に来るものはおりません。ユークリット王都はデモンにより全滅しておりましたが、デモンを討伐し都市はとりかえしました。」
「なんと!西の領には1000の兵が、ユークリット王都には恐ろしいバケモノがおらなんだか?」
「もちろんどちらも倒しました。」
「なんじゃと!わしらは何度か斥候を出したが帰ってこなかった。」
「デモンは3体いましたが問題なく。」
「!?」
「3体1度に?」
「デモンを!!」
「はい。ついでに数百万体の屍人やスケルトン、そしてカースドラゴンが2匹いましたのでそれも。あとユークリットにたどり着くまでに2体のデモンを始末しました。」
「数百万の屍人と、か・・・カース・・カースドラゴンじゃと!そんなバケモノ国がひとつ亡ぶどころではないぞ!」
モーリス先生が叫ぶように言う。
「みんなで協力してやりました。」
「そ、そうなんじゃな・・・」
モーリス先生がようやく平常心をとりもどす。
サイナス枢機卿と聖女リシェルとカーライルはまだ目をむき出して驚いている。
「あとついでにバルギウス帝国も手中に収めました。すでにわが軍の治安部隊が到着している頃かと思います。」
「バルギウス帝国を陥落させたじゃと!!!」
「そんな!!まさか!!そんなことが!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
モーリス先生が再度取り乱して、サイナス枢機卿がさらに目を見開く。聖女リシェルとカーライルは言葉を失う。
「大変でしたけど。」
「50万からのバルギウス兵がいるはずじゃが!!!」
「もちろん全員は倒してません。20万ほどは倒しましたが降参してくれました。」
「ラウルはそんな魔人の大軍を指揮しておるのか?」
「いえ、7人と1匹でやりましたけど。」
「7人と1匹て!!にわかに信じがたいが・・魔人とは・・魔人とはそれほどのものであったか・・」
「先生に嘘はつきませんよ。」
4人とも腰を抜かしてしまったようだった。そんなに大それたことした覚えはないんだけど・・
「それならば我々など・・一瞬だったろうな。」
枢機卿が青い顔で言っている。
そして俺は改めてみんなに聞く。
「で・・全員一緒に来てもらえますか?」
「もちろん!是非もない!」
モーリス先生は快諾してくれた。
「ラウル殿。むしろわしらは良いのかの?ファートリア神聖国の人間がいては不和にならぬか?」
「全然大丈夫です。むしろファートリアから追われていると聞き及んでおります。私たちが皆様の護衛に付くことで行動範囲も広がると思われますが?」
俺が言うとモーリス先生が口添えする。
「ほれ!どうじゃ?一緒に冒険じゃぞ?楽しいじゃろ?」
どうやら本気で楽しんでいるようだ。
「むむぅ・・そこまで言われればお願いしよう。リシェルとカーライルはどうじゃな?」
サイナス枢機卿が聞くとリシェルが答える。
「もちろんお供させていただきます。私も既に帰るところがございません。」
カーライルも答える。
「もちろんでございます。シャーミリア様と同行出来るのであれば依存などございません。」
「はぁ?」
シャーミリアの爪が伸びそうになるので俺が慌てて制止する。
「ちょっちょーーーーとっ!シャーミリア!」
「はっ!申し訳ございません!私奴としたことが・・」
うーむ。
若干だが・・先が思いやられる。
まあきっと仲良くやってくれるだろう!
俺は開き直るのだった。