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第219話 禁術となった召喚魔法

モーリス先生が俺達に話し始めた。


「その昔・・世界には人と獣だけがいた。それ以外に生きる物はおらず世は弱肉強食の時代だったそうな。人が獣に食われる、獣の時代とよばれる世界じゃった。」


口ぶりがおじいちゃんじゃなく”先生”に変わった。


「いつしか人の中に魔法を使える者が現れ始めた。最初に魔法を使った者は火をおこし水を生み出したそうじゃ。それが獣を退け人々に安寧と秩序をもたらしたのじゃ。そしてその者達を神の力を持つ者として人々は崇め始めた。」


異能者を神と讃えるか・・どことなく前世の人間の歴史に似てるかもしれない。


「神の力を持つ者が各地で権力を持ち、それが貴族のもとになったと言われておる。権力者はそれぞれの土地を統治し勢力を拡大していった。人間の世界の原型が出来上がってきたわけじゃな。」


異能者が生まれ統治者として世界に点在し、それが国になっていったという事か。


「しかし、それぞれが支配地を拡大していくと領土が重なり始めた。そこから人の争いごとが生じ始めたのじゃよ。その争いに勝つために魔法を発展させ剣や槍の技を磨いた。獣と人ではなく人と人の争いが始まったのじゃな。」


まあどこの世界も同じって事だな。


「だが・・魔法というものは便利すぎたのじゃ。火を生み氷を作り大地を動かし光や闇までを操るようになった。争いに勝つために魔法の効率を上げ、更なる新しい魔法を作りだした。その巨大魔法の前に人々はなすすべもなく死んでいったのじゃ。」


《獣から身を守るために魔法を覚えてその魔法で死んでいくとか・・。前世でも最初の頃の火は人間が生きるために使っていたはずが、殺すための火に変わっていった歴史があるからなあ・・。どっちの世界でも人間は本当に愚かな生き物だと思う・・》


「人が魔法を作り出していく過程で水、火、土、風、光、闇、神聖、治療などの魔法が生まれていった。まあ・・戦で必要な物ばかりじゃ、戦争が無ければ魔法は発達しなかったかもしれん。水、火、土、風は攻撃に、光は守りに、闇は目くらましや隠形に、治療は負傷した者に、とにかく戦に関係する物ばかりじゃ。治療魔法は神聖魔法の派生じゃがの。」


そう考えていくと神聖魔法だけが何か違和感がある。他の物は自然に関係するものだし、なんとなく科学的な根拠もありそうな雰囲気だが、神聖魔法ってどっから出てきたんだろう?


俺は聞いてみることにした。


「モーリス先生。質問よろしいでしょうか?」


「おおラウルよ。懐かしいのう!お主はいつも向上心にあふれ、3歳じゃと言うのにわしを質問攻めにしたものじゃ。天才じゃと思ったのを昨日の事のように覚えておるわい。ほれ言うてみい!」


いや中身が30代だっただけだけど・・


「神聖魔法だけが他の魔法と比べて違和感があります。」


「やっぱりお前は賢いのう。そうじゃ、これだけは異質なのじゃよ。」


「どう異質なのですか?」


するとモーリス先生はサイナス枢機卿と聖女リシェルを見る。


「この二人は聖職者じゃ、いわゆる神に仕える物じゃな。他の魔法は頭の中でそれを考え詠唱をすることで具現化し魔力と共に放出する。しかし神聖魔法だけはそれらとは違い神の加護による力じゃ。魔法と言うより神聖術と言う方が二人にはしっくりくる呼び名じゃ。」


「神聖術ですか。」


「そうじゃ。」


「神の力を借りるという意味ですかね?」


「まあそんなところじゃ。相変わらず飲みこみが早いのう。」


「もしかすると光魔法の結界とは?」


「ふむ。光魔法だけでは槍や弓矢しか防げぬが、神聖魔法を付与する事で魔法も防げるようになる。強さの上下はあるがな。僧侶や神父に結界をはれるものが多いのはそういう理由じゃよ。」


「なるほどわかりました・・続けてください。」


「そうじゃな。」


・・神聖術ね・・進化していなかった頃の魔人が結界により弱ったのはそのせいかもしれないな。


「して・・その神聖術じゃがの。派生して生まれた治療魔法という物がある、もちろんサイナスもリシェルにも使えるものじゃ。人間は体の治癒治療を推し進めるうちに更に先を追い求めるようになったのじゃ。」


「さらにその先ですか?」


「そう・・戦いで失った人間の欠損部分の復活を求めるようになっていったのじゃ。しかし神の加護だけではそれはなされなかった。一度無くなった欠損部分を復活させるためには、神の世界から呼び戻す必要があったのじゃ。それが召喚術じゃ。」


「なるほど・・どうやらカトリーヌはそれが使えたようですが・・」


「そのとおりじゃな。あの子もラウルと同じように生まれながらの天賦の才があった。それがあの究極の復活魔法じゃな。どうやら意識せずとも治療魔法に召喚術が付与されておったのじゃ。」


ああそうか・・繋がって来た。デイジーさんが禁術を解いてエリクサーを作ったと言ってたが、エリクサーも召喚術の一種だと言っていたしな。


「そしてその欠損部分を復活させる召喚魔法を開発しているうちに、ある場所から違う場所へと人や物を転移させる魔法が生まれたのじゃ。あの世からではなく現世から現世ならそれは容易であったらしい。それが転移魔法と呼ばれる禁術じゃな。」


「それが・・なぜ禁術に?」


するとモーリス先生とサイナス枢機卿はすこし難しそうな顔をした。


「・・ラウルは既に召喚術を身に着けているから・・それを使い間違うと大変なことになる。」


「大丈夫です。俺は何をやっても武器か食料くらいしか呼び出せないようになっているみたいです。」


「そうか・・不思議な能力じゃな・・」


モーリス先生は言う。するとサイナス枢機卿もリシェルに向かって言う。


「リシェルよお主は禁術を知らんだろうが、これは追い求めてはならぬ術じゃ・・しかと心得て聞くようにな。」


「かしこまりました。」


聖女リシェルが頷く。


「ラウルよ・・人の欠損部分を召喚できるようになり、人の転移が可能になったら次に人は何を考えると思う?」


モーリス先生が聞いてくる。


なんだろう・・分からない。人の欠損部分を復活させ人を転移させて・・便利な魔術だとは思うが、禁術になっているんだよな?その先に何を考えるだろう?


まてよ・・


俺が考えていると、モーリス先生は次にカールに尋ねる。


「ではカールよ、お主ならば何を考えるかの?」


「はい。私であれば戦で死んだ友や仲間を呼び戻せないかを考えるでしょう。」


カーライルは即答した。


やはりそう考えるか。


俺も一瞬だけ頭をよぎったが・・なんだか前世で子供の頃そんなホラー映画を見た記憶がある。墓から生き返った家族に魂が入っていない為、人を殺しまくるようなのが。あれを見てトラウマになって思い出さないようにしていた。


「まあそう考える者は多かったという事じゃな。」


「はい。」


「じゃが・・死んだ人間が呼び戻されることはなかった。しかし・・おかしなものが呼び出されるようになったのじゃ。」


「おかしなもの?」


「カールも討伐したことがあるじゃろ。屍人やスケルトンじゃ。」


ヤベッ・・それを呼び出す人、俺の隣で金髪の巻き髪を揺らしながらポーカーフェイスで話を聞いてる。そして・・彼女にそれで作られたヤツが、この小屋の前でボーっと突っ立っているぞ。


・・内緒にしておこう。


「あれは・・もともと人間が呼び出したものだったのですか。」


カーライルが聞く。


「そうじゃ。昔のこの世界には存在していなかったのじゃ。」


「そうだったんですね。」


「それで、それを呼び出した者達が何を考えたか分かるかな?」


モーリス先生が聞く。


「戦いに使ったということですか?」


「そうじゃ。」


カーライルが答えると正解だったようだ。


「屍人に敵の領土を攻めさせて、弱ったところで本隊が赴いて叩くという戦術が取られた。」


「そんなことを・・」


リシェルが苦虫を潰したような顔で言う。シャーミリアはどこ吹く風だが。


「しかしそれには大きな問題があった。」


「それは?」


「召喚術者や味方兵以外の人間・・市民を無差別に襲うようになった。それも死ぬことは無いので体が朽ち果てるまで永遠にな。」


「なるほど・・」


「そしてそのうち管理しきれなくなった屍人やスケルトンが、世界に散ってしまった。すると各地で自然発生する屍人が現れるようになり、討伐隊などが組まれるようになったのじゃな。」


これも・・まるで前世で言うところの地雷や機雷のようだ。戦いでばら撒いたのはいいが、生活する段階になって市民を吹き飛ばし怪我をさせたり殺してしまう。つくづく人間という者はおろかだと思わせられる。


「それが禁術になった理由ですか?」


「いや違うのじゃ。」


「どういうことですか?」


「屍人召喚が戦いで使える事は分かったが、もっと強く知性のあるものは呼び出せないかの研究を行ったのじゃな。相手を滅ぼすためにより強い力を求めたのじゃ。」


なるほど・・どんどん強い力を求めて火を大きくしていったわけね・・


「そしてとうとう人間は開けてはならん扉を開けてしまったのじゃ。」


「それは・・?」


「そう・・神の世界とは違う悪しき世界。この世ではないどこか恐ろしい世界に通じる扉をな。」


やっちまったわけだ。


「最初に呼び出したのは地獄の業火だった。何物も焼き尽くしてしまう恐ろしい炎よな。」


「はい・・それがグラドラムを焼きました。」


「そうじゃ、それをインフェルノと呼ぶ。どうやら敵には禁術を使うものがおるという事じゃの。」


そうだったのか・・あの炎はなかなか消えないと思ったら、そんなおっかない火だったのね。まるでナパーム弾の延焼の様だった。


「そして・・本来は人を呼び戻すために追い求めた召喚魔法だったが、いよいよ屍人よりも強い知性のある者を召喚する事に成功したのだ。」


「それが・・デモンですか?」


「そうじゃ。純粋なる悪・・と呼ばれているがの。」


「人間は行きつくところまでいってしまったわけですね。」


聖女リシェルがつぶやくように言う。


「そうじゃ、しかも・・悪しきものを召喚するには供物がいるのじゃな。」


「・・・供物ですか?」


リシェルが訪ねる。


「そう・・人間じゃ。」


「司令殿・・それは生贄・・という事でしょうか?」


「まさにその通りじゃ。」


モーリス先生が肯定する。俺が一つの質問を投げかけてみる。


「先生。もしかすると・・その生贄の数で召喚できるデモンの強さは変わりますかね?」


「そこまではわしも知らんが、最初に呼び出したデモンとやらは数百の命を必要としたらしい。」


「数百もの命を・・」


リシェルは絶句した。


「そして、デモン達は更に自分たちの部下を作るようになった。それがデモンに生み出された魔人じゃ。」


「魔人・・」


「ラウルよ魔人にはいろんな種類がおったろう?」


「はい。馬の様な頭の者、狼に化ける者、巨人化する者、空を飛ぶ者と様々おりました。」


「そうか・・ワシも見たことは無いがやはりそうなのだな。」


モーリス先生が目を輝かせて言う。ちょっと研究心が搔き立てられているのだろう。


「私も魔人と人間の子でしたし。」


「おお、そうじゃったな。この子もかいな・・」


「シャーミリアは・・よくわかりません。シャーミリアどうなんだ?」


俺がシャーミリアに聞く。


「ご主人様申し訳ございません。私奴にも私がいつ生み出されたのか存じ上げません。」


「・・・という事らしいです。」


「なるほどのう・・」


するとカーライルが言う。


「このような美しい方であれば魔人と言うのも頷けますね。この世のものではない美しさがありますから。」


また・・おべっか・・


ピキピキ


また・・シャーミリアのこめかみ・・


「世界中に産み落とされた魔人はそれぞれに繁殖していったのじゃ。」


「そういう事だったんですね。それがなぜ人と魔人の戦争に発展したんでしょう?」


「うむ。まず召喚されたデモン達は人間の英雄たちに滅ぼされたと聞き及んでおる。」


「英雄ですか。」


俺が答えるとモーリス先生はカーライルをチラリとみる。


「カールの様なものが大勢集まって、討伐したと考えるのが妥当じゃろうな。」


「それほどに強いんですね?」


「デモンは一騎当千だったとの事じゃ。ラウル一行はそれを打ち破ってきたのであろう?」


「まあ、私達3人だけの力ではありませんが・・」


「それだけに魔人の力が凄まじいのじゃろうな。」


「魔人の仲間がいなければ、私はすぐ死んでました。」


「うむ。」


《なるほど・・デモンはそれほどに強いものだったのか。俺達が接触したデモンはどれほどの者だったんだろう。ものすっごく厄介で強かったけど・・》


「そのデモンを召喚し続ければ世界はデモンに支配されてしまう。そう危惧した人間は自らの手で召喚魔法そして転移魔法を禁術として封印したのじゃな。」


「とても良く理解が出来ました。」


俺が言うと聖女リシェルも感激したように言う。


「これまでそのような事を学んだことがございませんわ。」


「まあ・・それを教え解く事で、召喚を追い求めてしまう者が出てしまうとも限らんからのう。」


「そうですね。」

「はい・・・。」


何故便利な魔法が禁術になったのかよくわかった。


そして俺達の敵はそれを使う者だという事も・・


「先生。人魔大戦について教えていただいても?」


「そうじゃな・・」


モーリス先生が話を続けるのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この世界で生まれた屍人を作る技術と、ネビロスのネクロマンシーは同じものなのかな 異なる世界でも同じものに行きつくのか、デモンが誘導したのか、
[一言] 異能者が生まれ統治者として世界に点在し、それが国になっていったという事か。 王族・貴族などの上流階級の人は魔法の適正を持っていて、一般人はそういった適性があるのは稀…という考えでいいのでし…
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