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第218話 御伽噺の魔王

俺達は森の中にある反乱軍の拠点に建てられた木造の小屋の中にいた。森に集落が出来上がっていて沢山の木造の家が建てられている。


この集落は大戦の後から数年の間にここに出来たようだった。大戦後に冒険者を集い少しずつ大きくしていったのだとか。森を切り開いて作ったようで、そこそこ人が集まれる広場の様な場所もあった。


いま部屋の中にいるのは俺とシャーミリア、聖女リシェル、カーライルの4人だ。ファントムには外で待機を命じたので、いつも通り遠くを眺めてボーっと立っている事だろう。奴がいるため誰も中に入ってくる事が出来ないと想像する。


《・・まあそうだ・・カーライルが対処できない者を誰が対処できるわけでもない。諦めて俺達だけになる事を容認したみたいだ・・》


「はあ・・お美しい。」


カーライルがポツリと独り言を言うのが耳に入る。


俺の見立てだが、このカーライルという騎士は凄いと思う。


グラムの師匠だったルブレストも魔人の正体を見抜いて警戒していたが、達観していて俺達と戦っても仕方のない事を悟っていたようだった。まあモーリス先生と同格といったところだろうか・・


だがカーライルは違う。なんと俺達の力を見抜いたにも関わらず、俺達に戦いを挑もうとしていた。負けると分かっていても戦う覚悟があるのだろう。その後の俺達への謝罪にしても本気で自分の首を斬ろうとしていた・・ファントムが神速で剣を奪わなければ斬ってた。潔さがハンパない。更にこの恐ろしいまでの気の冴えを考えると、もしかしたら俺は手傷の一つも負ってしまったかもしれない。


人間としての凄みを感じる。


しかしそれよりもだ・・


カーライルは・・


この男は・・それ以上に凄いのだ。


やたらとシャーミリアにデレデレしている。”オリジンヴァンパイア”のシャーミリアにだ。というかとても馴れ馴れしい気がしてならない。俺はいいのだが・・恐ろしい事になければいいなと思う。


シャーミリアが怖くないのかな?


純粋にそう思う。


だって会った時は全力で俺達を殺そうとしていたのだから。見事なまでの変わり身に背筋が寒くなる思いだ。


俺は・・キレたシャーミリアを抑える自信はないぞ。


「シャーミリア嬢は美しくそれでいてお強い。こんなにも可憐な女性がそれほどの気を纏っているのをお見受けしたことがございません。さぞ気の遠くなるような鍛錬を行ってきたのでしょう。そのようなお美しい手を見る限り想像もできません。」


・・ずっと


・・ずーっとシャーミリアにおべっかを使っている。


・・清々しい。


ピキピキ


「ふん!馴れ馴れしい。いますぐでも消してやろうか!」


シャーミリアの言葉遣いも荒いし。


でもまだこめかみの音が「ピキ」くらいだからレベル中くらいか。


「こら!シャーミリア!仲間に対してなんてことを言うんだ!」


「は・・はい・・ご主人様。私奴としたことが・・しかしこの者ときたら。」


するとカーライルの後ろから聖女リシェルが言う。


「申し訳ございません。カーライルはこういう性分なのです。シャーミリア様のお気分を害してしまい・・本当に申し訳ございません。カール!もうおやめなさい。」


「しかしリシェル様。私は特に失礼な真似はしていないと思うのですが?」


「あなたは・・いつもいつも・・シャーミリア様のご表情を見ればわかるでしょうに。」


「えっ!!そ・・そんな。シャーミリア様?・・私は気分を害するような事をいたしましたか?」


「それすら気づかぬとは。厚顔無恥も甚だしい!」


シャーミリアのプチキレがおさまらない。


なんだか美女二人に責められるカーライルが可愛そうになってきた。この男見るからにイケメンだ・・金髪の貴公子というに相応しい、白馬に乗った王子様の様な雰囲気がある。氷の様な表情が見え隠れするが、シャーミリアに対する時だけ甘々だ。きっと女性に対しては息をするようにこういう対応をしてしまうのだろう・・


《そういえば以前・・イオナ母さんに対してもこんな感じだったなあ・・ん?彼は金髪美女が好きなのかも》


「すみませんシャーミリア様。この者の元来の性質でして決して悪い者ではございません。」


「なぜあなたが謝るのかしら?あなたは私に対して一つの無礼も働いていないわ。」


「配下の不始末は主の責任であると思いますので・・」


「まあいいわ。あなたの顔に免じて許します。あとラウル様に対しての口の利き方には十分気を付けるように。」


「心得ております。」


秘書が勝手に俺に対しての礼儀を聖女に諭し始めた。


「いやいや!いいんですいいんです!別に俺はどんな話方をされたって問題ないですよ。」


「ご主人様。魔王のご子息なのですから、人間に対してへりくだる必要があるとは思えません。」


すると・・場の雰囲気が凍る。


「魔王!」


「魔王の息子!」


カーライルとリシェルが青い顔をして驚いている。


ガチャ


そこに遅れてサイナス枢機卿とモーリス先生が入ってくる。部屋の中の凍り付いた雰囲気に気が付いて二人は怪訝な顔をする。


「どうしたのじゃ?」


サイナス枢機卿が聞く。


「この方が魔王の息子だと・・」


カーライルが言うと、サイナス枢機卿が何かを気づいたように言う。


「そうか・・お前たちは知らんだろうな。そもそも魔人の存在を知らないのじゃからな。」


「ほっほっほっ!そうじゃな。わしとサイナスはその存在を知っておるが、大陸のほとんどの人間にとっては魔王など御伽噺か夢物語の世界の話じゃ。驚くのも無理はなかろうて。」


「そのとおり。じゃが・・魔”王”とな?」


「ラウルよその事も含めて、お主のこれまでの経緯を聞かせてもらいたいんじゃが。」


「はい!先生。順を追ってお話させていただきます。」


「すまんの。」


「いえ。」


そして俺は必要な情報をかいつまんで話ていくのだった。


「実は俺にはおかしな魔法が備わっていたんです。」


「おかしな魔法?」


「はい。先生。」


「見せてくれるかの?」


「はい。」


スッ


俺はコンバットナイフを召喚した。


「おお!」

「これは・・」

「!」


魔法使いのモーリス先生とサイナス枢機卿、聖女リシェルが驚いている。


「まさか・・召喚魔法か?」


「はい。禁呪とされている召喚魔法です。自然と使えるようになりました。」


「魔法詠唱も魔法陣も無くか?」


「はい。勝手に出てきます。」


「やはりお主は特別な子であったか。」


モーリス先生が目を細めて俺の事を見る。


「しかも、かなりの魔力量じゃな。人間側の魔力は緻密でさらに大きくなっておるのじゃが、もう片方は計り知れぬ大きさになっておる・・爆発しそうじゃの。しかもこの者とつながっておるのか?」


モーリス先生はシャーミリアを見た。


「先生にはそう見えるのですね。私はどうやら元始の魔人という存在で、魔人達の頂点に立つ者らしいのです。そしてその魔力や魂が連なっているということです。先生に教えていただいた食物連鎖の頂点の様に。」


「なんとも不思議なものじゃな。して・・魔王とは?」


「そうなんです。意図していなかったのですが魔王の息子になってしまいまして・・」


「確かグラムに聞いたところによれば・・おぬしの実の父親が魔人の主であったとか。」


「あ・・先生知っていたんですか?」


「たしか、元・・じゃったはず。」


「はい・・それが実父が現魔王と結婚しまして・・」


「そういう事か・・わしは本当に大まかな話しか聞いておらんかったからの。して、その血のつながった父が元始の魔人とやらなのかの?」


「いえ・・それが違うらしいんです。遺伝的なものではなく急に出現するらしいのです。」


「他には元始の魔人は、いないという事なのか?」


「それも違います。私の義理の母親で現在の魔王が、もう一人の元始の魔人となるそうです。」


「それにしても魔王が実在していたとはのう。」


「魔王とはそういう存在なんですね?」


「グラムもはっきりした話はせなんだ。」


それもそのはずでガルドジンが俺をグラムに預けたのは、俺を魔王から奪われないようにする為だったのだから。グラム父さんは俺の情報をモーリス先生にもおぼろげにしか伝えていなかった事が分かった。本当に俺を守り通すつもりでいたことが分かる。


「古き冒険者仲間には魔人に会った事がある者がおったがの。大陸でのそれは討伐と言う意味で見た事があるということじゃ。」


「大陸にも生き残った魔人がいたという事ですよね。」


「そうじゃな。」


「魔人はなぜそのような扱いだったのでしょう?」


「特に理由はなかったのじゃろう。人間に害をなす存在として語り継がれておったからのう。魔人というくくりはなく、魔獣と等しい全て討伐の対象じゃった。」


「そうでしたね。」


そういえばグラムやモーリス先生に教わった話にもそういう話があった。


「若き日のグラムもその討伐に行った冒険者の一人じゃった。しかしどうやら魔人であるガルドジンに助けられた恩があるのだとか。ガルドジンは10名ほどの魔人の主だったと聞いておったが、魔王という存在が本当にいるというのは定かではなかった。」


「そうなんですね。でも本当に魔王はいます。」


「どんな御仁かの?」


なんて伝えようかな。まあそのままでいいか?


「可愛らしい少女みたいな人です。」


「!?」

「えっ!」

「そうなんですか?」


どうやらモーリス先生とサイナス枢機卿と聖女リシェルのイメージとかけ離れていたらしい。


「はい。見た目はか弱い少女ですが、魔人全員と戦っても勝てるそうです。」


するとカーライルが驚いたように話に入ってくる。


「ということは!?ここにおられるシャーミリア様やあのファントムよりも?」


すると俺の代わりにシャーミリアが答える。


「そう・・私は不死故に勝敗がつけがたいところはありますが、間違いなく勝った覚えはありません。おそらく足元にも及ばないかと・・ファントムは私の想像の範疇を超えてきておりますので、私にもよくわかりませんね。」


そうか・・知らなかった。シャーミリアはルゼミア母さんと戦った事があるんだっけ?


「そ・・そうですか・・。我ら人類には想像も出来ない何かがあるのですね。」


カーライルが驚いて口をつぐむ。


モーリス先生が話を戻す。


「して、グラドラムは今どうなっておるか分かるかの?」


「はい。大戦の折に魔人の力を借りて一度は助けたのですが、我々が魔人の国から戻った時に敵兵の策略により、業火に焼かれ滅亡の危機に瀕しました。生き残った人間は王以下数百名でした。」


「なんと惨い。数万の民が?」


「はいほとんどが・・」


この屋敷にいる全員が無言になってしまった。


「そしてラウルはどうしたのじゃ?」


「グラドラムを復興するために大量の魔人を移住させました。」


「魔人を移住とな?・・して?」


「グラドラムは今観光地の様な華やかな都市となりました。」


「この・・短期間に?」


「はい。」


モーリス先生は少し考えて言う。


「・・ラウルはこれからどのようにしたいと思っておるのじゃな?」


「はい。私は人間と獣人と魔人が自由に生きれる国を作りたいと思いました。そのためにもサナリアを・・いえユークリット公国を取り戻さねばならないと思いました。」


「それで・・魔人を率いて大陸に進出したのか?」


「そのとおりです。魔人の力は凄まじいものでした。ファートリアバルギウスの兵など物ともせずに進みました。」


「それは・・そうじゃろうが・・」


ここに居る人間4人は、おそらく伝説的な話を聞いているのだという事に気が付いていた。俺達が必死にやってきたことは奇跡に近いのだ。人間の想像を絶するはずだった。


「しかし。そう簡単にはいきませんでした。」


「それはなんじゃ?」


「デモンと言うバケモノの存在です。」


「純粋なる悪・・か。」


今度はサイナス枢機卿がポツリと言う。


「枢機卿は何かをご存じなのですか?」


「そうじゃの。禁術にかかわる話じゃからの。」


「わしもラウルにはそれを教えておらんかったからのう。」


モーリス先生が言った。


「転移魔法が禁術になったのは2000年前の人魔大戦が原因なのじゃよ。」


「大戦が・・」


「この度の世界の事象はその話と酷似しておるのじゃ。」


「2000年が過ぎその時代にわしらが生きることになるとはのう・・」


俺はまた新たな情報を聞くことになるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] カーライルさん 確かにラウル君の評価は正しいと思う… 特にシャーミリアさんに対する態度は本当にそう思う ぶっちゃけ、容姿が可愛らしくなったとはいえ、それなりに威圧感とかはあると思うので、それ…
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