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第217話 一触即発

「ちょっちょっと待ったぁぁぁ!」


俺は必死に大声で叫んだ。


3人で両手を上げているが、自分たちが後ろ手に縛られた縄をあっさり引きちぎってしまった事に、自分で気がついていない。


「ちゃんと縛らなかったのか!!」


イケボのお兄さんが言ってる。俺の待ったも聞いちゃいねぇ・・


「いえ!!縛ったはずです!!」


「最大警戒!巨大魔法詠唱開始!剣士は最大限に気を研ぎ澄ませろ!中級魔法士は剣士全員に強化魔法をかけるんだ!攻撃に備え多重結界を張れ!」



あわわわ。


ピキピキピキ


この音は・・シャーミリアのこめかみの血管の音。まるで魔王だ・・俺が魔王の子なのに。



「ちょーっと!まってぇっぇぇぇぇぇ!」


俺が叫ぶが全く聞いていない様子で、相手の気がどんどん高まり今にも攻撃が開始されそうな勢いになってきた。


「準備が整い次第!巨大魔法を撃ちこみ間髪入れずに全剣士で攻撃するんだ!」



ビキビキビキビキ



シャーミリアのピキからビキに変わっている!


《シャーミリアまて!殺すな!大丈夫だ!おちつけ!》


《いいえ。ご主人様に痛みの一つも与えるのであれば万死に値しますわ。》


《待てって!》


俺は冷や汗をダラダラとかいていた。仲間になりに来たのにいきなり相手を皆殺しとかシャレにならん。ファントムが自動反撃しないとも限らない。そうなったらもうおしまいだ。



「えっと!聞いてください!私は貴族です!そう貴族!殺したら大変なことになりますよ!」


「みんな悪魔の声に惑わされるな!詠唱はまだか!相手が動き出したらひとたまりもないぞ!」


「ちょっと!かっこいい声のお兄さん!俺の・・俺の・・俺の話を聞け!5分だけでいいから。」


「よし!間に合った!」


いやいやいやいや。間に合ってない・・いや間に合ってもらっちゃ困る!


「攻撃!・・・」


「待てぇい!」


「はぁ!司令官!ここは危険です!下がってください!」


「あわてるなというに!まあ・・これほどの魔闘気を見ればこうなるのも無理はないかのぅ・・」


どうやら・・聞き覚えのある声が聞こえてきた。



おそらく・・・助かった・・と思う。


「皆、よく聞けぃ!この者たちが本気で殺しに来るならば我々など一瞬ぞ!殺さぬにはわけがあるのじゃ!きちんと話をきかんか!」


そうそうそう!そうだぞイケボの兄さん。俺さっきから話を聞いてって言ってんじゃん!


「まあのんびり話を聞いているうちに、我ら全員消滅させられそうじゃからのう。お主達の行動も間違いとは言えんがな。」


どっちなんだよ!


「司令。ここに集まったのは人類の最後の希望です!何もせず殺られるくらいならば!玉砕覚悟でいかねば!」


「まてまて、すでに勝敗は決しておるのじゃ。無駄な抵抗をするでない。」


「は・・」


すごい。イケボにいちゃんがおとなしくなった。確かにシャーミリアやファントムの異常な気配を察知すれば、能力の高いものほど反応してしまうだろう。それだけこの二人は予断を許さない。



「してお主達は何処からきたのじゃ。」


「グラドラムからです。」


「ん?お主のその声・・はてどこかで・・遠い記憶に・・」


「あ、あの私の顔に被せた袋を取っても?」


「ああ、すまなんだ。一応ここの安全のために目隠しをしておったのじゃ。わしらが近づくのはいささか怖いから自分で取ってくれるか?」


俺は首のあたりで縛られた紐を解いて、するりと頭に被せた目隠しを取った。


パサッ


袋が落ちる。


「なんじゃと!」


俺は深々と頭をさげて礼をする。


「お久しぶりでございます。モーリス先生!」


「ラウル!」


モーリス先生が脱兎のごとく俺に一目散に走り寄って抱きしめてくれた。


「先生!遅くなりました!助けに参りました!」


「おお、おお!良くぞ無事で!生きていてくれたのぅ!」


「はい。先生の教えがあって生き延びる事ができました!」


「なんだか、髪も白くなっていて気がつかなんだ。こんな仕打ちを許しておくれ!」


モーリス先生が泣くので俺も涙が溢れてくる。


「先生!母さんも生きております。マリアも!あと先生が差し向けたカトリーヌも生きてます!」


「イオナもカトリーヌもマリアもか!!」


「はい!先生!俺が守りました!全力で守ったんです!」


「おお、そうかそうか!よくやったぞ。」


「はい!」


「してラウルよ、相変わらずおかしな魔力を持っているのじゃな。」


「はい。どうやら先生の見立ては正しく!私には半分人間、半分魔人の血が流れておりました。」


「やはりそうであったか!お主の魔力の流れが2つあったのでな・・グラムの言うとおりじゃったか。」


「父さんに聞いていたんですか?」


「おおよそのところはな。しかし本当にそのような事があるのじゃな。」


「はい。」


「して今までどうしておった?」


「大戦の後で私達は北に逃げて、今こうやってようやく先生のもとに駆け付けた次第です。」


「そうじゃったか・・・バケモノ扱いしてすまなんだ。」


「いえ・・半分バケモノの様になってしまいました。ですが私はラウルです!ラウル・フォレストです!」


「そうじゃな。間違いなくわしの教え子じゃて。」


「ありがとうございます。」


俺と先生の感動の再会に場が・・・



きょとんとしている。


そりゃそうだ。



するとイケボが声をかけてくる。


「司令のお知り合いなのですか?」


なるほどイケメンだ。っていうか・・・


「あーー!!!!」


「ん?どうしたのじゃ?」


「私はこの人に助けてもらったことがあります!」


俺がイケメンのお兄さんに声をかける。


「ん?私は君など知らんが?」


「私は髪も白くなり目も赤くなって・・身長も伸びました。だけどあなたは私の母を知っているはずです。」


「あの・・・だれだろう?」


すると・・その後ろから二人のこれまた見覚えのある二人が近づいて来た。


「カール下がりなさい。」


「はっ!リシェル様」


このリシェルと言われた女性。俺達が敵に襲われてニクルスとエリックが怪我をしていたのを、治してくれた聖女だった。


「あの・・あなたにもお会いしたことがあります!」


「私にも?」


「はい。あの・・あなた方がラシュタルからファートリア神聖国に帰る道すがら、私の仲間があなたの回復魔法に救われたのです。」


「あの・・荷馬車ごと遺体を火葬していた?」


「はいそうです!その時いた子供です!」


「こんなに大きくなって?髪も白く目も赤く・・別人のよう。」


リシェルと呼ばれた女性は俺の事を覚えていなかった。おそらくイオナを見たなら一発で分かったろう。


「リシェルもカーライルもわからんか?」


「あのときは・・本当に助かりました!ありがとうございました。」


「無事で何より。」


そう声をかけてきた老人はあの時一緒にいた人だった。


「私はラウル・フォレストと申します。モーリス先生の教え子です。」


「これはまた・・とんでもない教え子じゃな。しかしモーリスより聞いておるぞ。不思議な魔力の子じゃったな。旅の途中で助けた時は、こんなにはっきりと魔力が出ていなかったように思う。しかし間違いなくあの時の子じゃ。」


「サイナス枢機卿もこの子をしっておるのかの?」


モーリス先生が聞く。


「知ってるも何も。お美しい奥方たちと困っていたところを回復魔法で救った事があってな。もう見た目が全く違うので気が付かなんだ。」


「お会いしたのは一瞬でしたから。」


「して・・この者たちはいったい・・」


シャーミリアとファントムを見て言う。


「俺の配下です。」


「ほう?」

「・・・配下とな。」

「配下!?」


モーリス先生とサイナス枢機卿、カーライルと呼ばれた騎士が驚いている。


「はい・・そのお話をしたいのですが・・そろそろ、うちの配下を自由にさせていただいても・・」



「自由にさせて、だ・・大丈夫なのか? 」


カーライルが青い顔で聞く。


「もちろんです。先ほども申しましたが、我々は仲間になりに来ました。私は先生の教え子です。」


「おお、もちろんじゃよ。その顔の袋を取っておくれ」


「はい。」


シャーミリアが袋を脱ぐ。


「これは・・・」

「なんと。」

「お美しい。」


モーリス先生とサイナス枢機卿は予想外だったようで驚いていたが・・


最後の言葉はなんだ?


「これは私の仲間が大変失礼をいたしました。このようなお美しい女性にこのような真似を・・ぜひご自由になさってください。」


カーライルが言う。


えっ・・・・


カーライルの言葉に・・味方の男達やモーリス先生サイナス枢機卿が唖然としている。


「まったくもって無礼な対応をしてしまい大変失礼をいたしました。私は聖騎士のカーライル・ギルバートと申します。」


カーライルが見事な騎士の挨拶を決める。


「ふん!ご主人様に攻撃をしようとしたこと帳消しになるとでも?」


「いえ。あなたのようなお美しい方に刃を向けてしまった事・・なんと謝罪を申し上げても許されざることでしょう。おい!だれか!俺の首を斬り落とせ!」


カーライルがとんでもない事を言う。


「早くしろ!何をしている!」


カーライルは真剣らしい。


「仕方がない!自分でやる!」


カーライルが自分の首に刀をつけ引こうとする。


「ちょーっとまっっったぁぁぁぁ」


すると俺に反応したファントムが目隠し状態で、スッとカーライルの刀を掴んで奪い取り放り投げた。


「えっ!」

「おいおい!」

「なんだと。」

「あの大男・・・カーライル様の剣を無造作に奪い取って捨てたぞ。」


「・・・・・」


奪い取られたカーライルが無言になっていた。


「そういえば・・その御仁は目隠しを取らぬのかの?」


そうか・・やっぱ取らないとダメだよね。


「えーっと。みなさん!今からこの男の目隠し袋をとりますが!!驚かないでください!」


「酷い怪我か何かをしているなら回復魔法で・・」


「いえリシェルさん!違います怪我などしておりません!」


「では・・どういう・・」


「やっぱりやめておきませんか?こいつの袋を取るのは・・」


「ラウルよ、それでは可哀想ではないか。」


「わかりました・・」


俺はファントムの頭の袋の先をむんずとつかむ。


「みなさん・・本当に・・・驚かないでください。驚いても気を確かに。」


スッ


袋をとった。


袋を取って顔色を変えなかったのは・・


モーリス先生だけだった。


サイナス枢機卿は引きつっているが何とか誤魔化している。


リシェルと言う女性は青い顔をしているが何とか保っている。


カーライルは思いっきり嫌な顔をしていた。


しかしその4人は大したものだ。普通に気を保ってそこに立っていたのだから。問題はその後ろの大勢の騎士や魔法使いたちだった・・


「ひっ!!」

「うっうわぁぁぁ」

「バケ・・バケモンだぁぁぁぁ」

「にげろぉぉぉ」

「そんな・・・この世のものなのか・・」


はい。


そりゃこうなるよな。ファントムは・・人間なら見ているだけで恐ろしい。グラドラムの連中は慣れてるからあまりこうなる事はないが・・それはグラドラムには魔人が多いからだしな。


この大陸の人間がファントムを見たら・・腰を抜かすのは当たり前だった。


「あの・・俺の言う事絶対聞くんで大丈夫ですから?可愛い鬼みたいなもんですから?」


「かわ・・可愛い鬼ってなんだぁぁぁぁ」

「可愛い鬼なんているかぁぁぁ」

「どこが可愛いんだぁぁぁ」


「いやほんと。」


《ファントムこうしろ。》


俺が指を立てて片足ケンケンをしながら、いいねダンスをしたら・・


ファントムが俺と同じ格好で片足ケンケンで、いいねダンスをした。


「うっうわぁぁぁぁ」

「怖い、こわいぃぃぃ」

「やめてくれぇぇぇ」


これには・・サイナス枢機卿もリシェルもカーライルも、更に引きつりまくっていた。


なぜか・・我らがモーリス先生だけは・・


「おお、そうかそうか。」


とか言いながら俺とファントムの良いねダンスを目を細めて優しく見ているのだった。


先生・・


やっぱ凄いわ。

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― 新着の感想 ―
>俺の・・俺の・・俺の話を聞け!5分だけでいいから。 引用:クレイジーケンバンド「タイガー&ドラゴン」
[一言] 冒頭のシャーミリアさん 落ち着け…気持ちはわかるが… 司令官登場 「ん?お主のその声・・はてどこかで・・遠い記憶に・・」 「あ、あの私の顔に被せた袋を取っても?」 ラウル君はすでに声の持…
[良い点] いつもと違う主人公の言葉遣いから、先生への気持ち、距離感が伝わってきますね。アクションシーンもそうですが、平易な文章で臨場感が出せるのはスゴイの一言です [気になる点] コミカライズが待ち…
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