第214話 魔王の片鱗
バシュッバシュッ
ドサ、ドサ
コルトガバメントで最後の2人の騎士を殺した。
「シャーミリア。建屋内に人間の反応は?」
「はい。食堂の3人だけでございます。」
「よっしゃぁぁぁぁ!」
「お見事でございます!」
パチパチパチパチ
シャーミリアが拍手をしてくれる。
俺はコルトガバメント2丁とコンバットナイフで500人を殺す事が出来た。武器を限定して戦う事で戦闘力を向上させようとしたのだ。2丁とコンバットナイフでと言いつつも大量に召喚してしまった・・使い捨てながら戦ったからだ。
「2時間か・・割と早く終わったな。」
「はい。目覚ましい成果かと思われます。」
パチパチパチパチ
これだけ動けば2日間で食った大量の肉のカロリーは消化したはずだ。ただし人の魂で魔力がかなり供給され力がみなぎって来た。俺が戦闘をしている時に無尽蔵に動き続けることが出来るのは、魔人側の魔力が補充され続けるからなのだ。
「ファントム!建屋内に散らかした数丁のコルトガバメントとコンバットナイフを処分してきてくれ。」
スッ
ファントムが消えるようにいなくなった。俺が武器を召喚して使い捨ての戦闘をしたため、そこら中にハンドガンとコンバットナイフが転がっている。
「さて食堂に行ってみるか。」
「はい。」
俺達は食堂に降りて従業員に声をかける。
「終わりましたよー。」
そろそろと食堂のおばちゃんと若い女性と少女の3人が厨房から出てきた。
「終わったんですかい?」
食堂のおばちゃんが聞く。
「はい。兵舎の900人はいなくなりました。」
「900人がいなく・・」
「あの・・人の怒号が聞こえていましたが・・お仲間の声ですか?」
若い女性に聞かれる。
「いえ。全てここに居た兵士の声です。」
「お二人以外の兵隊さんはどこに?」
「いま。もう一人が建屋内を掃除しています。綺麗にして戻しますね。」
「えっと・・・3人で900人をかい?」
おばちゃんが聞いてくるので、シャーミリアが答える。
「いいえ・・・全てご主人様と下僕の2人がやりました。私は何もしておりません。」
シャーミリアがそう言うと、彼女らは直ぐに理解が出来なかったようだ。
「えっと、ラウルお坊ちゃまと従者様が2人でなさったということでしょうか?」
おばちゃんが狐につままれたような顔で言う。他の二人も一緒だ。
「ええ。ちょっと訓練がてらここの兵士に付き合ってもらいましたよ。」
「訓練て・・」
「それで・・外の100人を殺りに行く前に、どうかご飯を食べさせていただきたいのです。」
3人がキョトンとしている。
「あ、いま無理ならいいです。このまま外の連中を倒しに行きます。」
・・・・・・
沈黙が流れたので駄目だと思い、部屋を出ようかな?とか思う。
「本当に900人を?」
「ええ。」
「すごい・・すごい!」
「本当なのですか?」
「はい。」
「やはりあの人の息子さんだ!凄いんだねぇ!精一杯料理を作らせてもらうよ!」
「やっと・・私はやっとあいつらの慰み物から解放されるのですね・・」
「わたしも、もう嫌な思いをしなくて済む。私も料理がんばります!」
パァっと3人の顔が晴れた。
「本当に・・この子らには辛い思いをさせてしまって・・」
「おばちゃんのせいじゃないから。」
少女がおばちゃんを擁護する。
「こんな若い女の子まで・・あいつらは・・」
おばちゃんがポツリと言う。
・・こんな少女まで・・か・・許せんな。
「とにかく料理を作らせてもらうよ!待ってておくんなさい。」
「ありがとうございます。」
そしてしばらく待つことにする。
ズンズンズン
食堂のドアからファントムが入って来た。
「あ・・お前、顔怖いから入り口を見張ってて。兵士が入ってきたら消しといて。」
スッ
ファントムが消える。
あんなおっかないのをみせたら3人の女性は絶対に腰を抜かす。
「シャーミリア。森には早朝からいけそうだな。」
「はいご主人様。この都市は広いので私も戦闘に参加いたしますか?」
「その方が良さそうだ。一般市民に被害が出ないように暗殺作戦に切り替えよう。」
「かしこまりました。」
この建屋内では訓練の為に派手に動き回ったが、外の100人は時短のためシャーミリアにも参加してもらい、ひとりひとりこっそり殺害していく事にする。
「お待たせしました。」
3人が料理を持ってやってくる。
俺は念話でシャーミリアに話しかける。
《念のためだが。毒は?》
《ございません。》
《オッケー。》
「ありがとうございます!もう腹ペコです!いただきます!」
「あなたも・・」
「あ、私は結構です。全てご主人様へ。」
「わかりました。」
出てきたのは野菜のスープとファングラビットのソテーとパンだった。あっさりしていてとてもお腹に優しそうだ。野菜スープからあがる湯気を見ているとホッとする。
《・・・どれも薄味だ。どうやら塩が無いようだが・・》
俺の反応を見ておばちゃんが言う。
「すみませんねえ。塩や砂糖が足りていないんですよ。」
「流通してこないって事ですか?」
「はい外からはほとんど入ってこなくなりました。」
それもそうか・・ユークリット王都があんな有様じゃあな。バルギウスからもシュラーデンからも物資はほとんど来ないだろうし・・
「でも美味いですよ!上手に下ごしらえしてあってとても食べやすいです。素材の味が引き立ってるし、心を込めて作ってくれたんだなって分かります。」
「そう言ってもらえるだけで嬉しいです。」
食堂のおばちゃんが半分申し訳なさそうに言う。
本当にこのあっさり味が良かったんだけど。とにかく腹が減っているので食べ続ける。
「よく食べますねえ!気持ちの良い食べっぷりだ。作り甲斐があります。」
おばちゃんから褒められる。
「数百人と戦うとなると体力も消耗しますしね。」
「しかし戦いといっても、お坊ちゃまは剣などお持ちじゃないようですが・・」
「ああ、これで戦いました。」
ゴトリ
俺は銃ではなくコンバットナイフをテーブルに置いて見せる。
「へっ・・・これで数百人を? 」
「まあ・・そうです。」
「こんなナイフで?」
「ええまあ。」
違うけど。
「お父さんは剣の達人でいらっしゃったけど、坊ちゃんはナイフの達人なんですね。」
「そんなところです。」
俺自身でもどこに入っていくんだろうと思うほど大量に食う。
《シャーミリアの胃袋の訓練で胃がデカくなっちゃったんだろうか?》
「あの・・少しお尋ねしたいんですが・・」
俺が3人に聞く。
「ここの兵士たちが森に討伐に行く予定だったのを知っていますか?」
「ああ、食堂で兵士が話しているのを聞いた程度だけどねぇ」
「森には何がいるのですか?」
「どうやらここの領兵だった残党や冒険者が集まっているとやらで。」
「他に何か知っている事は?」
「私ら一般市民には聞こえてこないのですが噂がちらほら」
「どんな噂?」
「なんでも伝説の冒険者がいるとかで、鶴の一声で各地から冒険者が集まってきたのだとか。」
「そうですか。」
間違いない。おそらくモーリス先生やサイナス枢機卿がいるんだ。
「もうここには討伐隊はいないので、彼らは存分に戦力増強できるでしょう。」
「ええ。坊ちゃんのおかげで冒険者たちも救われます。」
「さてと。ごちそうさま!うまかったですよ!」
「それは何より!」
「これからちょっと外の兵士を片付けてきます。」
「ちょっとって・・外にもまだ100人はおりますよ?そして一人強い騎士がおります。元のバルギウス大隊長だったとか。」
「大丈夫です。」
「頼もしいねぇ・・」
「では行きます。」
「もっと食材がそろっていれば美味いものが食わせられたんだけどね。」
「物資を流通させるまでしばらく我慢していてください。」
「ありがたいねえ。」
「こちらこそありがとうございました。」
そして俺達は席を立ち頭を下げて部屋を出る。すると見送りの為・・3人も俺の後ろをついて来た。
「あれ?兵士たちがどこにもいない。」
少女が気づいたようだ。
「本当だ。遺体も見当たらないねえ。」
おばちゃんも言う。
「どうやってこんな・・」
若い女の人も言う。
どうやって説明しようか考える・・というか説明がつかない。
《うーむ・・なんて言おうかな・・。》
「あ、あの。家が汚れると思って下僕が全部運び出しました!」
「一人で?」
「はい。」
「この短時間で?」
「はい力持ちなんです。」
「そんな・・」
「本当です。」
「そのお話の従者様はどちらに・・」
「あ・・あの・・その・・皆さんの後ろに。」
3人がくるりとうしろを振り向く。ローブのフードを深々と被った3メートルの大男が立っている。
「ひっ!」
「わ!」
「・・・ひぃぃぃぃ」
ローブを深々と被っているために顔はよく見る事が出来ない。だがその異様な雰囲気はハッキリと伝わってくる。3人は全く気配を感じない3メートルの大男に、腰を抜かして床にへたり込んだ。
「こいつは力持ちなんですよ。」
「えっと・・ど・・どうも。」
「・・・・・・・・」
ファントムは何も言わない。
「あのそいつは話が出来ないんです。とにかく怖い奴ではないので大丈夫ですよ。」
優しさも感情もないけど。
3人がブルブルと震え出した。おそらくこの世の者とは思えないオーラを感じ取っている。3人はファントムから目が離せなくなってしまったようだ。
俺がファントムに念話で命じる。
《ファントム!こうしろ!》
俺は頭を右に傾けピースサインをしてファントムに見せる。
するとファントムが頭を右に傾けピースをして見せた。
「ヒッ!」
「ワッ!」
「アワワ!」
3人の震えは更に増す。
「ほら。可愛いとこあるでしょう。だから怖くないんですよ。」
「お、お坊ちゃんのいう事は絶対に聞くんですよね?」
「絶対です。絶対に逆らいません。」
俺の言葉を聞いて3人の緊張が少しほどけたようだ。
「じゃあ行きます。ファントム!来い!お前は人を怖がらせちゃだめだぞ!」
「・・・・・・・・」
もちろん何も言う事はない。ただ黙って俺についてくるだけだった。
「じゃあ皆さんごちそうさまでした!明日の朝、目が覚めたら悪夢は終わっています。それまではここに居てください。日の出とともに家に帰られるといいでしょう。」
「わかりました。」
「はい。」
「ありがとうございます。」
3人を後にして俺達は兵舎を出ていく。
外は既に陽が落ちて夜になっていた。街に人は出ていないが建物には光が灯り、そのひとつひとつにそれぞれの生活がある。しかしまだバルギウスやユークリットが俺達に制圧されている事を知らないため、いつまで続くか分からぬ圧政を耐え忍んで暮らしているのだった。
「それでも・・生きていてくれるだけでありがたい。」
「はい。」
「早く皆に自由を・・か・・俺の勝手な思い込みかもしれんがな。」
「いえ。ご主人様に解放されるのを人間は待ち望んでいるでしょう。」
「そうだな。そう信じていくしかないな。」
「はい。」
こんな辺境の地に来る兵士は本部からの目が届かないためか、好き勝手に住民を凌辱し強奪し我が物顔で街を闊歩している。食堂の3人も苦しい思いをしてきたらしい。もちろん氷山の一角だろう。
「バルギウスは制圧したものの、辺境の兵はどうしようもないな。」
「まったく・・下衆な連中でございます。」
「あんな小娘を凌辱したやつらの仲間だ。一人として容赦はしなくていいぞ。」
「はい。それでは好きなようにさせていただきます。」
「ファントムも瞬殺だ。」
「・・・・・・・」
腐ったミカンは早めに取り除こう。これからのこの世界には不要だ。
《・・いや・・こんな考え。いつからするようになったんだろうな・・俺。》
世の腐った人間とそうでない人間を正確に選別する事なんてできない。だから怪しきは全て非情に罰して行こう。それは悪い奴とつるんでる方が悪いからだ。
《・・まて・・どうしたんだろう。いや、そう考えた方が楽だからか?それがいいのか?》
人間と魔王の心が俺の中でぶつかっているような感覚に襲われていた。
しかしハッキリしている事は、一度腐ったものを更生させている時間は1秒も無いという事だけだった。少しでも迷えば、いま苦しんでいる人々の苦しみの時間を長引かせてしまう。
俺の心の天秤は魔王に傾いているのだろう。
悪いがそれが俺のやり方だ。
どうやら俺は既に魔王になりつつあるのかもしれない。