第21話 絶望の逃走劇
…こんなことになるなんて…
国家滅亡。親父が首をはねられ自領の軍が皆殺し。
普通は戦争っていっても捕虜になったり逃げたりするので、悪くても三分の一は帰ってくるだろ。
皆殺しって…
サバゲで死んで幸せな貴族一家に転生したのに、国ごと滅ぶなんて…デスモードすぎるだろ。
俺が大人の意識があるためかグラムは父親という感じはしていなかったが、あの強くて家族思いのグラムが無慈悲に殺されるなんて…かなりこたえる…涙が止まらない。すぐに軍隊が攻めてくるらしい。でも非力で何もできない…でも手を動かさなきゃ。俺は自分の部屋で出立の準備をしていた。
「くっそ!グラム!みんな!必ず恨み晴らしてやるからな・・」
俺は部屋に戻りショルダーバッグにP320とベレッタ92、グラムからの書簡を詰め込みレナードの眠る医務室に向かった。時間が逼迫し手紙を読む暇がない!とにかくいまは動くのが先決だ。
イオナとマリア、セルマ他3人のメイドが祈りを捧げていた。レナードの亡骸は心なしか笑みを浮かべているように見えた。実際は冷たく無残なままだったが。
「ラウル…。」
「はい、母さん。」
「あなたは7才ですが男の子です。いつまでも泣いていては皆を導くことはできません。これからは常に選択と判断を求められるでしょう。覚悟を決めましょう。」
「はい…」
俺はまだ泣いていたのか…自分が泣いていることすら気が付かなかった。
「我々は生き延びねばなりません。ラウルもひとりの人間として皆と協力しあって行くのですよ」
「わかっております。」
「では、皆さん参りましょう。」
すぐに外に出た。
外はもう真っ暗だった夜の9時過ぎごろだ。
馬を全部厩舎からだし3頭にそれぞれ騎乗する。メイド2人とセルマは馬を操れない。馬に騎乗できるのはイオナとマリアとメイドのひとりミーシャだった。イオナと俺ともうひとりのメイドが一頭に、マリアとセルマ、ミーシャとメイドが組みになってそれぞれ馬に跨った。
領民は夕方からから避難が始まって、みな北に向かい動き始めていた。すでに領主邸のまわりは人がまばらだった。
みな徒歩か…とにかく…領民の一人でも多くが逃げ延びてくれればいいが、俺たちも馬を歩きださせる。
街のなかは荷台をひくもの、着の身着のままでてきたもの、商人の馬車には定員より多く乗っているようだった。みな疲労と悲壮感漂う顔で俯いて歩いていた。いったいどこに逃げればいいのか?そんな顔をしていた。
「徹底抗戦だ!」
と武器をもち集う若者たちもいた。
「母さん。」
俺はあれは無理だろ…と思いイオナを見上げるが口を堅く結んで黙って前を見据えていた。
それから先の道にも延々と避難民の行列が続いていた。
街を抜け畑地に入っても先には避難民がいた。ジヌアスとスティーブンは未だ説得に奔走しているだろう。しかしさきほどの若者のような血気盛んなものもいる。軍隊が敵わなかった相手と知っても、自分の故郷を捨てるなど簡単に決心がつくわけはないだろうな…
避難民はみなうつむき黙って黙々とあるいていた。
「あの2人のおかげで助かる命がこれだけあるのです。ラウルよく見ておきなさい。この人達の生きる希望を見いだす時のために、皆の苦しみの表情を心に焼き付けなさい。」
「はい。」
正直31才の俺は平和な日本でサバイバルゲームに没頭していた平和ボケ人間だ。テレビくらいでしか難民の行列なんてみたことがない。ましてや自分が難民になるなんて思っても見なかった。
こんなに苦しく絶望的で救いがないものだと身をもって知った。住む場所を追われあてもなく救いもない、世界のどこにも居場所がなくなった人達の気持ちとはこんなに凄まじいものだったのだ。
イオナは道すがら逃げていない避難民に対して声をかけながらすすんだ。俺にも絶えず話しかけている。やはりイオナからすれば俺は子供だ、この状況下で教えるべき事を伝えているようだ。
「ジヌアスとスティーブンは自分の命を賭して領民を救わんと残ってくれました。」
「はい。」
「私は彼等と共に残らねばなりませんでした。救われたこの命を無駄にはできません。ラウル…考えるのです…」
「はい。」
「この命をどう使うのか、何のために生きているのか?誰のために生き続けるのか…自分に常に問いかけながら生きなさい。それが私たちに課された生涯の責務です。」
やはり…イオナは素晴らしい貴族だった。イオナは身重の体にかなりの負担がかかっているはずだ。馬などもってのほかである。お腹の子がこのストレスに耐えられるのだろうか?それには俺が負担になってはいけない。負担になどなれるわけがない出来るだけ役に立ち守ってやらねばならない。
「母さん、僕は何があっても母さんのお腹にいる弟か妹を守りたい。」
イオナが俺を抱く手に力をこめた。
「そうね、必ず生き延びましょう。」
馬はしばらく進み1時間ほどでサナリア領の出口まで来た。石碑があるだけで王都のように城壁があるわけではない。避難民もまばらになってきた…まだここまできている人は少ない。
「ここからは夜の人以外の生き物がいる地帯に入ります。みなさん短剣を携えてください!森を通過するときは周囲の注意を怠らないように。」
「「「はい!」」」
そうして小高い丘を登りさらに30分が過ぎたときイオナが馬を止め後ろを振り返った。つられて皆で来た道を振り向いた。すると…衝撃的な光景が目に飛び込んできた。
「なんと…。」
街が燃えていた。あちこちから炎があがり暗闇を照らしていた。俺たちは本当に間一髪で出てきたのだ。
しばし全員が呆然とした。
「そんな…まさか…。」
セルマがつぶやいた。マリアとメイド3人は嗚咽を堪えられずむせび泣いている。早すぎると思ったがレナードはすぐそこまで来ていると言っていた。これも想定すべき出来事だった。
「急ぎましょう。」
イオナは先を急ぐように促した。
「父さん…母さん…逃げられたかな…」
ミーシャが口走った他のメンツも泣きながら馬をすすめた。それでも休まず進まねば追手がくるかもしれない。領主の館がもぬけの殻なのだ当然追手を差し向けてくるだろう。狙いはイオナと俺だ。
スティーブンとジヌアスと逃げ遅れた領民、立ち向かっていった若者達…。国軍でも迎撃出来なかった部隊だ。サナリア領にたどり着いたのが敵の何割かもわからないが、もちろん他の領にも侵攻しているだろう。状況がまったくわからない。
とにかくサナリアには兵士がいない・・・自警団ではとうてい防ぎきれるものではないだろう…
「少し足を早めます。」
イオナが言うとみなが青い顔で頷いた。
丘を越え降りた先には深い森林地帯があったが道はそれほど整備されておらず、街道というには厳しいものだった。馬の足も2人ずつ乗っているためそれほど早くは進まなかった。本来ならばこんな深夜に森に入るのは危険だった。鬱蒼とした森はまっくらで、瞬く間に視界が悪くなってしまった。一旦馬を止めた。
これはまずい・・停まれば追手が来るかもしれないが、森の中は真っ暗で危険すぎる・・俺はイオナに進言した。
「母さん。深夜に森の中なんて行くものではありません。かなり危険な魔物に遭遇する事もあると聞いています。」
俺は父のグラムから聞いた冒険者時代の話をした。しかし後ろからは追手がくるかもしれない。
「ラウルぼっちゃまの言う通りです奥様。ここは森の手前まで戻り明るくなるのを待ちませんか?」
セルマが助言してくれた。
しかし行くも地獄、戻るも地獄のような状態にならないとも限らない。しかし真っ暗闇の森のなかを進むことはできなかった。
「そうですね。追手がすぐにこちらにくるとは限りませんし、西にも東にも道はありますから、一旦様子を見るために森の前に戻りましょう。」
この判断は甘かったかもしれないが・・イオナがうながすと全員が賛成して森の入り口に戻った。馬を降りて皆で地べたに座り込む。
「このままでは凍えますし魔獣がくるかもしれません。火を焚きましょう。」
マリアが提案し皆で焚き木をひろってあつめた。マリアが火魔法を使い焚き木に火をつけた。火の光に照らされた顔はみな憔悴しきっていた。すぐにも追手がくるかもしれない・・夜の森のそばは危険だ・・その恐怖が皆を追い込んでいる。
しかし炎の暖かさで体が温まってきた。少し体が緩み話が出来るようになってきた。
俺は今の状況を打開できそうな提案があった。
「あの…母さん…ちょっといいですか?」
さてと…どう話したらいいものか…単刀直入に言っても意味を理解するのが難しいかもしれない。
「なんですか?」
「軍隊と戦うのは無理ですが、逃げるなら有効な手段があります。」
「………」
皆、何を言い始めたの?と心配そうな顔で俺をみる。いやいや!そんな顔で見ないで!!マリアだけが、あ!と言う顔をしていた。
「ラウル…今はとにかく、ただただ逃げるしかないのですよ?」
「はい。分かっています。」
「どういうことなのですか?」
「いままで、理解してもらえないと思って言ってなかったのですが…僕は魔法が使えます。」
「え?そうなのですか、でも…一度も…」
「そうなんです。母さん僕の使える魔法は普通じゃないんです。」
「攻撃魔法ということですか?」
「ある意味そうです。おそらくそれがこの状況を打開できると思うのです。まあ見ていてください、マリア協力お願いできますか?」
「はいわかりましたラウル様。」
「あなたも知っているのですか?マリア。」
「はい存じ上げております。」
マリアは俺にいいのか?という感じに目配せをしてきた。俺はうなずく。
「ラウル様の魔法は武器を出すものです。」
「武器?武具を出すような感じですか??」
「武具とは少し違います。ラウル様に見せていただければわかると思います。」
マリアから目配せをもらった俺は早速バックの中からP320を取り出した。
「母さん、これが武器です。」
「えっ?これは鈍器ですか?これでは・・・ネズミを潰すのが精いっぱいでは?」
「母さんがそういうのも無理はありません。まあ見ていてください。」
俺はそこから離れ離れたところに石をかさねて、上に薪をおいて離れた。日に照らされた薪をみんなで眺めた・・何が起こるのか全く想像ついていない様子だった。俺は皆のところに戻ってきた。
「あの薪を見ていてください。」
俺はP320を構えた。
パン!
薪は木片を飛び散らせながら後ろに飛んだ。
「「「!!!!!」」」
皆が驚いて言葉を失っていた。
「これが魔法ですか?」
イオナにはこれが魔法に見えているようだった。
「いえ正確には魔法ではありません。これは銃という武器の威力です。」
「銃?」
「はいそうです。」
「ラウルはこれが使えるの?」
「はい使えます。」
「ラウルにだけ与えられたものなの?」
「いいえ、マリアも使えます。」
「マリアも?」
イオナは少しパニックになっているようだった。何が起こっているのか分かっていない様子だ。そりゃそうだ・・いきなり近代兵器出されても意味が分かるわけがない。
「あの、マリア。射撃を見せてもらってもいいですか?」
「はい分かりました。」
マリアにP320とベレッタ92を渡した。
俺はさっき作った石の上にまた薪をおいた。そしてもう一か所石を積み上げその上にも薪をおいた。マリアは両手に銃をもち構えた。
パン!
銃声は1回だったが左右の手から弾が放たれていた。
二つの薪はさきほどと同じように木片をまき散らして後ろに飛んだ。
「すごいわ。」
「こんな武器は初めて見ました。」
「マリア、いつの間にこんなものを使えるようになったんだい。」
イオナ、ミーシャ、セルマがビックリしていった。他の2人のメイドもビックリしていたようだった。さきほどまでは憔悴しきった感じだったが、ほんの少し希望を見出したような顔をしていた。
「これは、誰でも使えるものです。命中させるためには訓練がいりますが、魔法が使える人なら命中させるのがたやすくなります。マリアは魔法のイメージを利用して命中させています。」
「なら、私にも撃てるという事なのかしら?」
「はいもちろんです。ただ・・注意があります。魔力を込めると破壊力が増しますが魔力が枯渇すると思います。すぐに気絶してしまうので慣れるまでは慎重に使う必要があります。」
「でも、二つしかないのでは足りないのではないでしょうか?」
そうだよね。そう思うと思ったよイオナ。でもこれが俺の魔法なんだよ。これなら魔物も退治できると思う。だからそんなに悲観的にならないでほしい。
「いえ、僕はその武器を出せるんです。」
「え?この武器を?」
「はい。これだけではなく違う武器も出せるんです。」
「違う武器ですか?」
イオナもメイドたちも目を白黒させて聞いていた。他の武器ってなに??という疑問の顔をして俺を見つめた。
「では・・やってみます。」
俺は手を前にだして魔法を使うように構えた。本当は必要ないんだけど、皆の目線を集める為に前に手を出しただけだったりする。
ドサッ!
目の前に現れたのは、M16アサルトライフルだった。やった!初めて出す事ができた!魔力も全く問題ないようだ!
「これが武器?・・あなたの魔法・・」
イオナとメイドたちがざわついた。
「はい、こういう武器を出す事が出来るんです。」
「こんな魔法を初めてみました。魔法学校でも見たことがありません。」
やはりそうかモーリス先生も召喚魔法は生贄が必要だとかいってたしな・・禁断の魔法かもしれないので相談はしなかった。
「それで・・僕のこの魔法であれば・・」
と話しかけた時、丘を下ってくる馬の蹄の音が聞こえた!しまった!やはり追手がきたのか!逃げなくては!と思って皆で慌てて馬に乗り込むため走った。説明に夢中で警戒を怠ってしまった!
「みな急いで!」
マリアは咄嗟にP320とベレッタ92を走ってくる馬の集団に向けた。
「おい!そんなところで止まっているな!逃げろ!」
と馬の先頭の男が叫んだ!馬は3頭いた。
「森の奥に進むんだ!敵だ!くるぞ!」
男たちは森の中へ消えて行った。俺たちは丘の上の方を見た、かなり遠いが丘の頂上付近に松明の光がポツリポツリと見えてきた。
ここまでは30分もしないうちに追いついてしまうだろう!
「母さん!」
「みな、馬に乗りこみなさい!森の中へ!」
全員で焚火から火のついた薪を拾い上げ、馬に乗りこんで森の中に走った。とにかく走り続けた!馬はまっすぐ走っていると思うが森の中は暗くあまり先が見えない。まきについた火の灯りだけが頼りだった。しかししばらく走ると前方で何かが動いていた。
近づくと先ほど走り去った男たちの声が聞こえ騒がしく立ち回っているような音がした。
どうしたんだ・・・?
男たちは馬上で剣を抜き何かと戦っているようだった。さらに・・すぐそばには馬車の残骸と死んだ馬がいた。人がそこら中に転がっているが、手足や頭が無いように見える。おそらく避難中に襲われた商隊の馬車かなにかだろう。
灯りで浮かび上がったそこにはゾッとするような光景があった。6メートル・・いや7メートル近い影がそこに見えた。一人の男が馬を走らせそこを離脱しようとした瞬間、男の頭は無くなった。何かが頭のところを通過して頭を飛ばしてしまったらしい。
「だめだ逃げられない!ひき返そう!」
「やつらが追ってきてるんだぞ!」
そんな躊躇をそれは見逃さなかった。一人の男がバグゥという音とともに吹き飛んで気に激突し動かなくなった。
「くそ!」
最後の男が剣を叩きつけたが、それはものともせずに男を上から叩きつけた。
ベギゥッ
という音とともに男は静かになった。
それは男に頭を近づけてなにかしていた。
バギィ ガリ ボリ ジャブゥ ガギ
それは・・男を食っていた。
すると・・メイドの一人が叫んでしまった。
「ヒィィィィ」
それはこちらを見つけ、ものすごいスピードで走り寄った。
馬の手綱を引き、全員が引き返そうとしたとき叫んだメイドの馬がつかまってしまった。馬の首とメイドの首が飛んだ・・
「きゃぁぁぁぁ」
手綱を握っていたミーシャが馬から落ちた。
そのとき、松明の光に照らされたそれの姿を見たセルマが叫んだ!
「レッドベアーだ!逃げなきゃやられるよ!」
声につられレッドベアーがバックハンドで爪をふるった・・セルマがドガッという音とともにぶっとび木に激突して動かなくなった。間一髪で爪が当たらなかったマリアが馬を飛び降り、振り返ってレッドベアーにP320とベレッタ92の引き金を引いた。
パンパンパンパンパン!
ギャガアァァ
と、レッドベアーが一瞬ひるんだすきに、マリアはミーシャのところまで駆け寄った。
「馬の上では弾が込めれません。母さん!俺を下ろしてください!」
イオナは慌てて俺をつれて馬を降りた・・興奮した馬は、一人のメイドをのせたまま走り去ってしまった。
「イオナ様っ!!」
メイドを乗せた馬は止まらなかった。
俺は地面に降りM16の弾を呼び出した。震える手で何とか弾を込め終わった時7メートルもあるレッドベアーはマリアにとミーシャに迫っていた。
俺は寝そべってレッドベアーに銃口を向けた!
「マリア!伏せて!」
パラララララララ!
M16自動小銃の乾いた音が響いた。
グギャアォオオオア
叫びながらそいつはこちらを振り向いた。そして俺とイオナの方に向かって走ってきた。マリアは後ろから2丁拳銃でレッドベアーを撃った!すると叫びながらまたマリアの方を振り向いた。俺はレッドベアーの頭を狙い撃った。
パララララ!
するとレッドベアーは頭の周りを蜂を振り払うようなしぐさをして、いきなり森の中に走り去っていった。
「・・・・・・」
「ラウル・・」
「しっ!」
「・・・・」
「どうやら逃げたようです。」
俺はイオナに告げるとすぐにマリアとミーシャの下に向かった。イオナも一緒について来た。
「マリア、ミーシャ大丈夫ですか?」
「「はい。」」
「他の2人は・・・」
イオナが駆け寄り、俺もM16をおいて駆け寄る。
・・・・
セルマは体をあり得ない方向に曲げて死んでいた。ダンプに弾かれたような状態だった。
「オェェェェ」
俺は吐いてしまった。
「こちらも・・ダメです・・」
もう一人も頭を飛ばされ体をぐちゃぐちゃにして死んでいた。
「そんな・・・」
マリアが絶句した。ミーシャはもう声すらあげられないようだった。
「とにかく、またあれが戻ってくるかもしれません。すぐに動きましょう。」
暗闇の中を先の方へ歩き出した。M16を拾った俺は肩に担いで後を追いかけた。
マリアは銃をおろしベレッタを俺に預けてきた。
「光が欲しいのでお願いします。」
マリアは左手をかざして火を灯し少しは前が見えた。しばらく歩いていると先ほど逃げた馬がゆっくり戻ってきた・・上にはメイドが乗っているが様子がおかしい・・。
・・・メイドは上半身が無くなっていた。
「ヒッ!」
ミーシャが声を出した。そして俺はまた吐いた。マリアが背中をさすってくれた。この世界の夜の森は魔獣の世界だ・・足を踏み入れた俺たちが悪かったんだ・・
少し落ち着いて馬からメイドの下半身をイオナとマリアで下ろした。二人はもう全員血だらけになっていた・・美しい顔は血まみれでそれは凄惨な光景だった。最後の1頭になった馬を引いてとにかく歩いた。もう意識が途切れそうだった・・イオナ、マリア、ミーシャもそんな状態でミーシャはフラフラしていた。
恐怖に耐えながら道沿いに歩き続けた。それからは魔獣が現れることは無かった。
しばらく歩き続けると道の向こうに月の光に照らされた道が見えた!
「月の灯りが見えます!森はもうすぐ抜けられるでしょう!」
イオナが全員を励ました。
あと数十メートルで森の出口だ。少しでも早く抜けたかった・・・こんな地獄からは一刻も早く抜け出さねば精神が持たなかった。
すると・・後ろの森の奥のほうから・・人の声と獣のような声が聞こえてきた。
「ここから先にも蹄の跡があるぞ!」
くそ!追手においつかれてしまった。みな必死に駆けだした!とにかく追いつかれたら殺されてしまう!とにかく必死だった。
しかし、疲れ切った女子供の足ではすぐに追いつかれてしまった。
「おい貴様ら!とまれ!」
声のする方を振り向くと、なんと・・そいつらは5メートルもあろうかというイノシシに乗っていた。
「あれはグレートボア・・」
ミーシャがつぶやいた。
なんと騎士がグレートボアにまたがっているのだ!うそだろ・・魔獣って人間に飼われる事なんてあるのかよ?どういう事なんだよ・・魔獣を操っているのか?こんなので軍隊を作って襲ってきたら人間の兵士なんてひとたまりもないじゃないか・・
ユークリット公国が滅びた理由が分かった気がした。
4人が森をやっとの思いで出たとき・・
バカでかい斧を持った大男が、グレートボアの勢いそのままに斧を振りまわしてきたのだった・・
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